湯浅誠「反貧困 これは『彼ら』の問題ではない」
12月 6th, 2008 Posted by MITSU_OHTA @ 22:12:33under 一般 [1542] Comments
活憲政治セミナー第2回「湯浅誠さんと考える格差・貧困問題」の報告です。ブログなどで宣伝していただいた方、ありがとうございました。
正規労働者と非正規労働者の労働条件は分断した関係にはなく、一方の劣悪化が他方の劣悪化を招く。この構図には気付きにくい。貧困が「『彼ら』の問題ではない」というのはそういう意味です。
宇都宮健児さんのお話を聞く機会が以前にあったのですが、ヨーロッパでは街頭で社会保障の宣伝パンフレットを配っているということです。ところが日本では、自衛隊が電車の中吊り広告で自衛隊員を募集していると湯浅さんから聞いて驚いた。
2006年2月に京都で母親を自らの手で殺めるなどした事件の背景には貧困があった(湯浅誠『反貧困』岩波新書参照)。刑務所が足りないからと民間資本を導入した刑務所の増設や厳罰化で、あるいは「裁判員制度」の導入でこうした事件がなくなるわけではない。社会問題を見つめる共通視点に<反貧困>を据えるべきです。
憲法25条(国の社会保障義務)の執行と貧困をなくす政治を求め、国と政党を突き上げていきましょう。
以下は、講演と質疑応答の発言要旨です。(印刷用ファイル)
講師:湯浅 誠さん(NPO法人自立生活サポートセンターもやい事務局長/反貧困ネットワーク事務局長)
主催:「平和への結集」をめざす市民の風
日時:2008年12月1日
会場:東京都港区立港勤労福祉会館
http://video.google.com/videoplay?docid=-3926011305873517662
大企業経営者の責任を「自分の子や孫に、人の命を大切にしなさいと言えますか」と痛烈に問うている湯浅さんのNHK「視点・論点『派遣切り』」(2008年12月23日)のビデオを採録しておきます。
http://jp.youtube.com/watch?v=4b2loVd-WMk
1. 講演 湯浅誠「反貧困 これは『彼ら』の問題ではない」
アメリカ発の世界同時不況で「派遣切り」
年越し電話相談会
正社員を切っていったら、ワーキングプア自身の足元を掘り崩していた
貧困層が示す問題は、今後進む社会の姿を示す
3段構えのセーフティーネットから落ちる貧困層
家族が抱えられない貧困層は「NOといえない労働者」となって帰ってくる
貧困問題はブーメランである
正規と非正規――均等待遇のほかに、支出を減らす取り組みを
きわめて弱い日本の社会保障
労働市場の質を保障する社会保障の役割
ちょうちん型からひょうたん型へ――所得階層型の変化
貧困層の拡大と中間層の縮小はセット
世の中が地盤沈下するほど魅力的になる自衛隊
戦争・憲法9条・貧困
垣根を越えてつながるということ
社会運動の復権
2. 質疑応答
1. 講演 湯浅誠「反貧困 これは『彼ら』の問題ではない」
アメリカ発の世界同時不況で「派遣切り」
この十数年で正規雇用者が約500万人減り、非正規雇用者が約600万人増えている。まさにこの時のために非正規への切り替えが行われてきた。11月28日に厚生労働省が公表した予測では、来年3月までに3万人超の非正規雇用者が切られる。この数値は、厚生労働省がハローワークを通じて企業に問い合わせた結果で、少なく見積もられていると思われる。つまり、よく分からない。
派遣ユニオンが29日と30日に「派遣切りホットライン」を開設し、480件の電話を受けた。派遣ユニオンの関根秀一郎氏は、最終的に10万人が切られると予測している。
派遣労働者の少なくない人は会社の寮に入っているので、職を失うことは文字通り路頭に迷うことになる。神奈川の厚木で日産のドライブシャフト生産の仕事をしていた31歳の男性が11月18日、相談に来た。11月29日で仕事がないので、20日に寮を出て行くように言われたという。帰る家もなく、所持金は10万円で、住む所がない。80人中、切られたのが9割で、残ったのが8人だそうだ。
1週間前にはキャノンの宇都宮工場で働いていた45歳の女性からメールが来た。噂では自分の部署では年末まで仕事がありそうだが、その先について会社は何も言わず、精神的に追い詰められているという。宇都宮工場は、偽装請負が告発されたところで、告発した労働者はその後直接雇用された。うち一人は雇い止めに遭い、非自発的失業だが、会社が離職票を出してくれないので失業保険をもらえず、苦しい闘いを強いられている。
年越し電話相談会
12月24日には「年越し電話相談会」を開く。そして25、26日に駆け込みで生活保護の申請を行う。年末年始のように世間がのんびりしている時期は、仕事がないので、不安定労働者にとってはつらい時期だ。冬であるから、初めて野宿する人は大変だ。しかも役所が閉まっているので、駆け込む先がない。不幸なことに、今年は26日が仕事納めで、来年の仕事始めは5日と、年末年始の期間が長い。
去年も東京で行い、3回線で85件の相談を受けた。今年は全国で5、60回線を引き、1,000件の電話受付を予想している。掛けてくるのは10倍はいるだろうが、つながらず、放置されることになってしまう。
正社員を切っていったら、ワーキングプア自身の足元を掘り崩していた
不景気の時に非正規労働者を雇用の調整弁に使うのは今に始まったことではない。70年代に鎌田慧さんが『自動車絶望工場』を書く以前からだ。かつて非正規労働者は、地元に帰れば生活基盤がある出稼ぎ労働者であるとか、親と一緒に住んでいるフリーターであるとか、夫に十分な収入のある主婦パートであり、雇用を切られても大丈夫だと言われていた。他方、正規雇用者は、家族を養う必要があり、非正規とは立場が異なり、それなりの仕事もしているということで、非正規切りに目をつぶってきた。
ところが最近、非正規労働者の中にはワーキングプア、つまり切られれば生活できなくなる人が相当数いることが明らかになってきた。切られえれば食えなくなるのは正規と同じであり、いま、かつてと同じ非正規切りをやるのかということが問題となる。経営サイドはそのために非正規を増やしてきたので、同じことをする。正社員が同じことをするかどうかがポイントだ。
90年代、フリーターはライフスタイルであり、最近の若者は分からん、本人の問題であると片付けられてきた。野宿者についても同様。しかし今はワーキングプアより正社員が攻撃されている。正社員や公務員が既得権益の上にあぐらをかいているから、ワーキングプア問題が解消しないのではないかと、「規制改革会議」などが強調している。本音は組合つぶしだ。
派遣切りや食えない実態がこれから炙り出されてくると、正社員は何をやっているのだ、ということになる。春闘の時に何を要求するかが問題になってしまう。食えない側の人からは正社員に対して批判が起こり、そうした主張をする人に支持が集まるようになる。結果、「規制改革会議」などが勢いづく。
今でも正社員、公務員には非正規が相当数入ってきており、かなり切崩されている。さらに正規の足元を切崩していっても、ワーキングプアは浮かばれない。分配はワーキングプアに回らない。正規の低職化(労働条件低下)が非正規の待遇低下をもたらすという構図が広がってきている。成果主義が導入され、ホワイトカラーエグゼンプションが導入されかかり、正社員の低職化が進んできた。正社員を切っていったら、ワーキングプア自身の足元を掘り崩していた――これがこの10年の一番の反省点だ。
ただこれが一般に広まっていない。派遣切りがこれだけ広がる中、例えば自動車総連が記者会見を行ったか。見たことがない。派遣切りに反対するために正社員中心の労組がストライキを打ったというニュースも聞かない。そうすると正社員に対する圧力が強まる。これは貧困問題が正しく捉えられていない結果であると思う。
12月15日にNHKで「セーフティーネットクライシス」が放映される。今アメリカ自動車産業はガタガタだ。番組の説明を聞いたところでは、自動車工場労働者が、80年代のレーガノミックス時代から非正規が増やされるのを黙って見てきた、自分たちに関係がないと思ってきた、だがこういう事態になって深く反省している、とコメントをしているという。非正規が拡大すると正規が浮かんできて、高待遇が批判され、足を引っ張られ、正規が沈んでいく――その時に慌てても遅い、ということになる。
貧困層が示す問題は、今後進む社会の姿を示す
こうした事態は様々なところで起きている。例えば妊婦たらい回し死亡事件。医療崩壊が言われて久しい。医療費を切り詰め、診療報酬を引き下げ、医療費の公的負担を無くし、患者の自己負担を上げていけば、病院経営が成立しなくなることはずいぶん前から指摘されていた。
しかしこれが社会全体としては受け止められてこなかった。その結果まず、貧困層が医療を受けられなくなる。ところが妊婦たらい回し死亡事件で、貧困層だけの問題ではなくなった。
貧困層が示す問題は、今後進む社会の姿を示している。単に貧乏人が増えた、ガッツのないやつが増えた、というのは正しくない捉え方で、対応を取り違え、問題が進行してしまう。
貧困問題は「あの可哀想な人たちを何とかしてあげましょう」というだけの問題ではない。今度行う電話相談会などは必要だが、そうした取り組みをしなければ貧困問題に取り組んだことにならない、ということではない。
3段構えのセーフティーネットから落ちる貧困層
日本の代表的なセーフティーネットは、雇用、社会保障、公的扶助という3段構えになっている。3段目の先には誰一人行かせない、と謳っているのが憲法25条(国の社会保障義務)。しかし最後の3段目の下に、600万〜850万人が生きていると言われる。これは複数の学者の推計値だ。公的資料が欲しいが、政府は頑として調査しないので正確な数値は分からない。
3段目から落ちた人のほとんどは家族が支えている。介護・福祉現場で働く正社員の3割の年収は238万未満であるとの調査結果が、約2週間前に出た。しかも正社員の4割が経済的に自立できないという。2006年のOECD調査で、日本の相対的貧困率がアメリカに次いで高い、と発表されたが、そこで採用された「相対的貧困」の定義が238万円未満である。その倍の476万円が日本の所得の中央値だからだ。
3段目から落ちた人を家族が支えているから問題がない、というわけではない。40歳になるフリーター第一世代の親は労働市場を引退している。親自身が自分の老後に不安を抱えている。いつまでも子供を抱えていられず、家族内の軋轢が高まってくる。極限に達すると、事件が起こってしまう。事件しか注目されない。なぜ家族の軋轢が高まったのかに目が届かず、貧困問題が置き去りにされる。
家族が抱えるということは、私的なセーフティーネットが公的なセーフティーネットの肩代わりをしていることだから、無理がある。無理が高じると、老老介護虐待、児童虐待などの事件が起こるが、貧困の問題にまで目が届かない。
家族が抱えられない貧困層は「NOといえない労働者」となって帰ってくる
労働市場と公的セーフティーネットもだめ、家族も抱えられない「可哀想な人たちを何とかしてあげましょう」では済まない。生きようとすれば労働市場に戻ってこざるを得ない。今日明日の食にも事欠く人はどんな低賃金、労働条件でも働くという人になって戻ってくる。「NOといえない労働者」だ。日給5千円を受け入れる労働者の出現で、なぜ日給1万円を支払う必要があるのか、となってしまう。こうして労働条件が劣悪化していく。
貧困問題はブーメランである
貧困は労働市場が壊れてきた結果として広がっている一方で、貧困の広がりは労働市場を壊す原因にもなっている。この循環関係を見ないと、自分たちの労働条件がきつくなる。ところが、労働条件の劣悪化は低賃金で働く者がいるからだ、とすり替えられ、正社員と非正規がいがみ合う妙な構図になってしまう。
正規と非正規――均等待遇のほかに、支出を減らす取り組みを
日本の正規労働者の賃金は年齢とともに増える年功序列型で、非正規の賃金は30歳くらいで頭打ちになるフラット型だ。ヨーロッパでも非正規はフラット型だが、日本の非正規のように、結婚もできないし子供も産めない、というわけではない。
何が違うのか。日本の支出カーブも年功型だ。子供ができれば支出が増えるから、賃金カーブも40、50で山型を示さなければならない。正社員からすれば、確かに非正規より多く賃金をもらっているが、子供の養育費などがかかり、余ってしょうがない、というわけではないだろう。正社員でも年収400万から800万の範囲で、300万未満が増えている。正社員が既得権益でもらい過ぎだ、というのはどうも怪しい。
年功型とフラット型賃金カーブの間を取ればいいかというと、支出カーブが今のままでは、どちらも暮らせない。労働市場の中での均等待遇のほかに、支出を減らす取り組みをしないと、バランスがとれないだろう。
ところが実際は、賃金カーブの山が沈み、支出カーブの山が高くなり、生活が苦しくなっている。給料は下がりながら、医療費の自己負担が上がるなど、家計支出が増えているのだ。国民生活基礎調査によると、生活が苦しいと答えている人が56.2%と過去最高である。
支出を高支出型から中・低支出型に変えていくことをかませないと、正規の年功型賃金と非正規のフラット型賃金を比較しても埒が明かないだろう。この点では、正規と非正規の利害は一致している。
きわめて弱い日本の社会保障
ところが労働者の社会保障はきわめて弱い。日本の社会保障費のGDP比は17.7%で、仏独の半分以下、2.5分の1くらいしかない。しかも日本の社会保障費のほとんどは医療と年金で、残りの1.9%に雇用保険や職業訓練などすべての労働保障費が入ってくる。医療・年金以外で比較すると、仏独の8分の1しかない。
労働市場の質を保障する社会保障の役割
すべて賃金で稼がねばならず、会社から放り出されたら終りになるから、中間層を含め「NOと言えない労働者」になってしまう。
フランスでは2005年、25歳までの若者を非正規で2年間自由に解雇できる代わりに雇用を促す制度「CP」が導入されかかった。ところが若者と労働組合の大反対で2006年に潰れてしまった。その時の「自分たちの労働力は安売りしない」というスローガンが印象に残っている。
日本ではフランスのように労働市場の外で暮らしていける余地が極めて少ないから、そんなことを日本で言えば、自分が食えなくなる。
CP反対運動で労組が参加したのは、それを許せば蟻の一穴になり、自分たちの雇用も失われていく、と判断したからだ。日本で若者が「自分たちの労働力は安売りしない」と言えば総袋叩きに遭う。仕事はえり好みしなければいくらでもあるから働け、と言っているうちに、自分たちの墓穴を掘っていくことになる。
労働者の社会保障は、労働市場の質を保つためにある。それがあれば非人間的な労働条件にNOと言える。しかし例えば雇用保険や失業保険をもらえない場合、提示された労働条件を拒否できず、NOと言えない労働者にならざるを得ない。こうして労働市場が壊れていく。労働市場の中と外を同じ問題として位置づける必要がある。
ちょうちん型からひょうたん型へ――所得階層型の変化
かつての日本は中間層がぶ厚く、上下の格差が小さいちょうちん型社会だと言われた。しかし現在、「風船」が横から潰された形、縦長楕円型になっている。貧困ライン以下が増加し、中間層が細ってきた。課税所得400万から800万は減少し、300万以下が増えているのが実態。縦長楕円型は同時に、富裕層が増えてくるということ。純金融資産1億円以上の富裕層は150万人いる。生活保護受給者は157万人だから、ちょうど同じくらい。
このまま行くと「風船が破裂する」。その手前は「ひょうたん型」。中間層が薄く、上下極端に2極化されたアメリカ型だ。
貧困層の拡大と中間層の縮小はセット
ひょうたん型への移行は、貧困層の拡大と中間層の縮小がセットになっているということだ。その結果、職場がきつくなり、学校や病院などいろいろな現場から排除されやすくなる。
例えば新幹線車両の清掃業務。運転本数は増えているが、料金を上げることはできないので、労働強化になる。てきぱきできない人は、同僚からいじめに遭い、失業保険の出ない自発的失業に追い込まれるのではないか。外では、働けるのに働かない、甘えるんじゃない、などと言われ、はじかれる。こうして貧困が生み出される。NOと言えない労働者となって帰ってくる。
世の中が地盤沈下するほど魅力的になる自衛隊
自衛隊は優良就職先になっている。電車の中吊り広告で自衛隊が募集をしているのには驚いた。北海道、仙台、東京で見かけた。自衛隊は今が書き入れ時とみて、全国的に宣伝攻勢に出ている。「もやい」に相談に来た食い詰めた若者に自衛隊を宣伝してほしいと、「もやい」にもアプローチがあった。
自衛隊には警察と消防というライバルがいる。警察と消防を引き合いに出しながら話が進んだ。警察と消防は高卒でなければならないが、自衛隊は中卒でも大丈夫だ、と話が始まる。試験は簡単で落ちない、自分の名前を書ければよい、と。大事なことは五体満足なことだ。とにかくウェルカムだ。試験と入隊のブランク期間も、自衛隊OBの警備会社が雇うので問題ない、と自衛隊は説明する。
18歳から25歳までが応募できるのは、陸上自衛隊2年、海上・航空自衛隊3年のコース。陸上自衛隊2年間の賃金は531万円で、退職金が60万円。海上・航空自衛隊3年間の賃金は1,147万円で退職金が90万円。つまり年収300万、400万。食いっぱぐれた中卒者、二十歳そこそこでこれだけの高待遇はない。世の中が地盤沈下するほど自衛隊の魅力が高まるのだ。
戦争・憲法9条・貧困
野宿者にも自衛隊経験者は多いが、こういう問題は9条との関係で表立っては語られてこなかった。戦争と貧困はアジア、アフリカでは常にセットで語られる。非常に有意義だった今年の9条世界会議でも、戦争と貧困や9条(戦争放棄)と25条(国の社会保障義務)の分科会はなかった。
日本は堤未香さんがルポしたアメリカ社会に近づきつつあり、9条と25条をセットで考える必要がある。貧困問題は貧困当事者だけの問題ではなく、当事者が望まなくとも、(戦争へ向かう)圧力、操作に使われる。
垣根を越えてつながるということ
政治家が貧困の解決を建前としては否定できないところに私たちの攻めどころがあるだろう。貧困の実態を突き付けられると、誰もほっとけとは言えなくなる。後期高齢者医療制度に賛成する政治家はいるが、医療費を払えない、と高齢者の家計簿を見せ付けられれば、何とかします、と言わざるを得ない。貧困実態をどれだけ届けられるかが運動側の力量だ。
貧困問題はいろんな分野に共通する課題だ。多重債務、児童虐待、犯罪の背景に貧困がある。見えないだけだ。様々な問題を形にしてつなげて見せることが大事。だから反貧困ネットワークは様々な分野の人が参加している。
反貧困全国キャラバンが47都道府県を回ってきた。連合系と全労連系が一緒に反貧困ネットワークの地方版といえるものを4つか5つ立ち上げている。準備段階のものは14ぐらいある。今日(2008年12月1日)はちょうど「反貧困ネットワーク埼玉」の立ち上げ式をやっている。
一朝一夕にはいかないだろうが、そうした取り組みを地道にやっていくことが重要だろう。平和のための野党連合と反貧困運動もクロスさせながらやっていければいいなと思う。
そういう動きはいろいろ出てきている。自治労が2009年3月に反貧困フェスタをやりたいと言ってきた。反貧困ネットワークが2008年3月に同名で開催している。官製ワーキングプアがテーマだという。公務員は勝ち組、既得権益を得ていると言われるが、公務員もとんでもないことになっている――これを訴えたいが自治労だけでは無理だから、自治労連の人にも全労協系の人にも呼びかけて、社会運動として反貧困フェスタをやるので協力を、という。今その方法を探しているところだ。
社会運動の復権
一つにまとめる必要はないが、そうしたあちこちで起こっていることをいかに社会的に見せるか。これは「社会運動の復権」といえるだろう。政党系列を越えた広い社会的枠組みを作り、社会全体に呼びかけていくことだ。
今年一番の成果は、状況の悪化を共に認識できたことだと思う。これまでそういう自覚がなかった。この認識をうまく形にすることができれば、「折り返し地点」を作れるのではないか。
来年も引き続きその準備段階になるだろう。この同時不況下、大きな折り返し地点が来るとは思えない。しかし政策転換が必要なのだという声をどれだけ挙げていけるかで、本当の折り返し地点を作れるかどうかが問われている。我々も頑張りたいが、皆さんとも連携してやっていきたい。
2. 質疑応答
Q 高齢者福祉施設で働いていた。現場の人は目の前のお年寄りが大事で、制度問題などになかなか目が向かない。現場と社会運動をなんとかつなげることはできないものか。
A 「もやい」などでもそういう問題を抱えている。必ずしも活動趣旨に賛同して来る人が社会的に訴えたいというわけではない。旬報社から首都圏青年ユニオンの河添誠さんと『生きづらさの臨海』を書いた。その中でも指摘しているが、労働運動の活動家は社会的に発信するためにやっている意識が強く、社会保障に関わる人たちは、個別ケアに意識が強い。両方をどう混ぜ込めるかが課題だ。「もやい」に来る学生は、寄り添うセンスがあり、相談者の置かれた状況をすっと分かる。他方で、昔の学生運動の活動家と違い、社会構造の話に入っていないし、大学でもそうした話をする再生産システムがなくなっている。他方、年かさの労働運動をやっている人は社会構造にはバッチリ入っているが、寄り添うセンスはからっきし、という感じの人がいる。
労働運動と社会保障を一緒にやる学校ができないものか。両方のセンスを持った活動家を育てられないか。「もやい」では役割分担でやっている。自分はあちこちに出かけるが、現場を守る人がいる。乖離しないことだ。両者の活動を尊重する。個別ケアと社会運動の活動家がいがみ合わないようにしなければならない。
Q 憲法発布後の平和運動で落としてきたものがある。あまりにもすばらしいのではしゃいできた結果、一般の法律と、公務員に遵守させる憲法の違いを明確に分けてこなかった。憲法を守りましょう、と曖昧な言葉を使ってきた。憲法99条(公務員の憲法遵守義務)が大事だ。憲法改正を言うなら、議員バッジを外してから。「折り返し地点」は99条に注目させることだ。(意見)
Q 野宿者になったらどこに行けばいいのか。警察に? 「自分たちの労働力は安売りしない」と言ったら、移民に仕事を取られる?日本で教育にお金をかけなくなっているようだが、管理は小数の日本人、生産は中国人に、ということだからか?
A 生活保護は区役所などの中にある各福祉事務所で申請するが、若い人は申請方法を勉強しておくのがいい。『生活保護申請マニュアル』を書いているので参考にしてほしい。
「自分たちの労働力は安売りしない」と言えば、経営者はそうするだろう。(キャピタル)フライト論という、逃げちゃうよ、という脅しがある。大企業の法人税を上げたり、金持ち増税したりすると日本から逃げていく、と脅す。実際に逃げられる企業は少ないが。中国に逃げ、中国の人件費が上がればバングラディシュに逃げる、というようなグローバリゼーションが進んでいる。逃げていくからしょうがないでしょと(労働条件に関する)脅しを飲み込むのであれば、貧困で死ぬ人が出てもしょうがない、となる。貧困で死ぬ人が出てもしょうがなくないのであれば、脅しを飲み込むこともしょうがない、とはいえない。 最終的には国際的に連携して、そのような企業は追い詰めることだ。簡単ではないが。
教育費が伸びていない。OECD28ヶ国中、公的支出に占める教育費の割合で日本は最低だ。選別をしたいのだろう。学区制を廃止して裕福で優秀な生徒が集まる学校と貧乏でそうでない生徒が集まる学校にランク化する。そして優秀な生徒はさらに優秀にして日本を引っ張ってもらう、そうでない生徒には「実直な精神だけを養っておいてもらえばいい」(三浦朱門)ということだろう。
Q 地方での貧困は、都市部の貧困とどう違うのか?
A 都会の貧困の背景には地方の貧困がある。最低賃金に貼りついた仕事しかない地方で、派遣企業の宣伝を知って、都会に出て、放り出され、ネットカフェに流れ着く。地方の貧困は深刻で、だから自衛隊に入ってしまう。構造的には都会の貧困問題と同じだろう。
Q 大学で貧困のことを学んでいるが、友人に話してもピンとこない感じだ。国際問題、海外の貧困問題には関心があるが、国内の貧困問題には関心がないようだ。
A 関心の広げ方だが、大学で貧困を勉強していること自体、広がっているということに見える。話のきっかけを工夫してもらいたい。
Q 母子家庭・父子家庭の貧困の現状は。小泉政権で児童扶養手当が削減された。
児童扶養手当が5年で半額になるということになり、「しんぐるまざーずふぉーらむ」の方などがロビーイングして、年収130万未満であれば減額しないことになった。児童扶養手当は家賃に回していて、児童扶養手当の削減でホームレス化を心配していた。
母子家庭の母親は低賃金だから元祖ワーキングプアで、児童扶養手当がもらえたとしても、貧困は解消されない。
Q 高齢ホームレスにお弁当をあげたりしている。そういう場合、もやいに相談したほうがいいのか。自宅に泊める覚悟もあるが、どうしたらいいか。国会議員への働きかけでできることは?
A まずは生活保護の説明をして、本人に意思確認をしてほしい。95年から2002年にかけて渋谷で夜回りの活動をしてきたが、何年かけてもコミュニケーションできない方がいる。誤解して嫌だと考えている人もいるので、その理由を聞いてほしい。
シェルターなどに一晩、二晩泊まってもらうことが本人にとってよいことかどうか。寝泊りや食事の付き合いが固定していると、空けることで他のホームレスに取られてしまうことがある。本人と相談しながら進める必要がある。
地元選出議員や地方議員にまずは働きかけたらどうか。思ったより反応がよいことがある。
Q 医療に携わっている。岐阜から来た。30年前から人を減らしてきた。麻酔科では派遣が医者を送り込んでいる。麻酔医も自身で会社を作っている。深刻な現場になっている。大学の組合にいたが、話に乗ってこなかった。「労働学校」の展望は?
A 労組にはあまねく呼びかけができてはいない。我々の力量の問題だ。反貧困ネットワークは社会保障分野から発足している。労働問題を前面に出していないので、労組は引いている面があった。ただ徐々に近づきつつあると思う。
「労働学校」については、はっきりしたビジョンは持っていない。ご協力いただきたい。
Q 政府による労働者派遣法改正案が成立する見込みは?
A 今国会では成立しない可能性が大。次の通常国会までにどういう流れを作り上げられるかだ。派遣ユニオンがホットラインを開設したが、12月初旬には労働弁護団もやり、反貧困ネットワークも24日に電話相談会をするというように波状をかけていく。登録型派遣についても今回の改正案はおざなりなので、突き上げてく。
Q 現行経済はねずみ講だと思う。経済から貧困は解消できず、「反経済」の概念が必要ではないか。見えざる敵は経済のことでは?
A あるものとないものを融通するのが経済だから、経済はなくせないのではないか。(質問者:やり取りと駆け引きの面があり、駆け引きが狂信的になっている。経済を全否定するわけではないが。)新自由主義の傾向を規制して押し留めるという点ではその通りだと思う。
Q 様々な分野の方が反貧困ネットワークに参加しているが、宗教家が入っていないようだが?
A 確かにいないが、身近に声をかけられる人がいなかった。紹介していただきたい。反貧困ネットワークには色んな人がない。医師もいないし、教員もいない。選別しているわけではなく、出会いがあっても、入るまでになっていないからだ。反貧困を盛り立てていきたい人はウェルカムだ。
太田光征
http://otasa.net/
トラックバック URI : http://kaze.fm/wordpress/wp-trackback.php?p=248