よく分かる「定数配分の格差」(「1票の格差」)

2013年参議院選挙の定数配分の格差を「違憲状態」とする最高裁判決が下りました。私も春に2013年参議院選挙の無効請求訴訟(定数配分の格差とは異なる争点、下掲参照)で最高裁に上告しましたが、まったく音沙汰なし。どうするつもりでしょうか。

「定数配分の格差」(マスメディア用語で「1票の格差」)について、改めて具体例で説明したいと思います。期せずして長くなってしまいましたが、A4で1ページ分程度の(1)だけでもお読みください。

(1) 小選挙区制では(1区50万人、2区150万人)でも(1区100万人、2区100万人)でも、投票価値に格差はない

衆議院小選挙区の場合を考えます。各選挙区を有権者100万人となるように区割りすれば、「定数配分の格差」が生じないと仮定します。

東京1区が有権者50万人、東京2区が有権者150万人である場合、世間では「定数配分の格差」(「1票の格差」)があるといいます。区割りを変更して、2区の50万人を1区に編入するなどの措置が必要です。

簡単のため、両選挙区とも自民党支持率が90%で、両選挙区とも自民候補が勝つとします。

旧1区の自民支持有権者Aさんの票は死票ではなく生票になります。旧2区の50万人を旧1区に編入して生まれた新1区でも、Aさんの票は生票になります。

定数配分の格差のある旧区割りでも、定数配分の格差がない新区割りでも、生票を投じる自民支持有権者の数・構成と、死票を投じる非自民支持有権者の数・構成は、両区全体でまったく同じです。生票または死票を投じる選挙区が変わるだけで、誰の票が生票または死票になるかという票の効力は、区割りや定数配分の格差、すなわち選挙区の有権者数の多寡にまったく関係なく確定します。

小選挙区制というのは、選挙区内における候補者・有権者の相対的な力関係だけを測定するものです。小選挙区における1票の価値とは、この測定に参画して第1位得票率と第2位得票率の比を決定するという権利です。比を決定する権利は、<等しく候補者1人>の当選をめぐって同等の権利として行使され、有権者数の多寡によって当選者数に違いが生じるわけでもなく、格差は生じません。

(1区50万人、2区150万人)の組み合わせでも、(1区100万人、2区100万人)の組み合わせでも、正しく候補者2人の枠内で、比を決定する権利は<等しく候補者1人>の当選をめぐって同等に行使され、1票の価値は変わりません。50万人の選挙区の有権者は150万人の選挙区の有権者と比べて何らかの得をしているわけではなく、選挙区の違いによって生票を投ずるか死票を投ずるかに違いが生じても、それは確率的現象であって、有権者数の多寡が原因ではありません。

(2) 定数配分の格差は地域代表性の格差をもたらすが、最高裁は地域代表性の重要性を否定

小選挙区制で生じるとすれば、地域代表性の格差です。そして国政選挙における地域代表性の格差は、ある程度ひろい地域の間で比べなければ意味がありません。

区議会議員選挙ならともかく、国政選挙における地域代表性の違いを無視できる東京旧1区、旧2区の全体では、正しく2議席が配分されているので、東京の他の地域や都外の選挙区と比べての地域代表性の格差の問題もありません。

もっと分かりやすい例を挙げれば、あらゆる地域で東京旧1区や旧2区のように有権者50万人、有権者150万人の小選挙区が隣り合っていると仮定しましょう。有権者50万人の選挙区グループ全体と比べ、有権者150万人の選挙区グループ全体は、有権者数が3倍なのに同数の議席しか選出できずに不公平である、といえるでしょうか。答えは(1)で述べた通りです。

この例は、西日本と東日本の有権者数が同じとして、西日本で議席の3分の1、東日本で議席の3分の2を選出するというように、明らかに大きな地域代表性の格差がある例とは違い、1議席当たりの有権者数のばらつきが全国で平均化されていて、地域代表性の格差が存在するとはいえません。

東京旧1区と旧2区で違いがあるとすれば、立候補者にとって選挙運動の対象となる有権者数が違うという程度です。旧1区は選挙運動費用が旧2区と比べて掛からない、というメリットが立候補者にはあるかもしれません。これは候補者どうしの格差といえます。

同様に、例えば鳥取1区と東京1区の有権者数を比べても本質的な意味はありません。そうではなく、鳥取全体の2選挙区と東京全体の25選挙区を比べて有権者数当たりの議席数に違いがあるかどうかという、地域代表性の格差が問題となります。例えば鳥取1区が50万人で、鳥取2区が150万人ではなく200万人であれば、鳥取全体ではむしろ有権者数当たりの議席数が少なくなるのであって、鳥取1区だけを取り上げて東京1区などと比べて得をしていると評価することは間違っています。

しかしこの地域代表性にしても、鳥取(を含む中国地方)から東京(を含む関東)に1議席程度を移せば解決する程度の格差しかないので、現在でもさほど重要ではないのです。

そして地域代表性そのものについても、最高裁がその重要性を否定しています。

「しかし,この選挙制度によって選出される議員は,いずれの地域の選挙区から選出されたかを問わず,全国民を代表して国政に関与することが要請されているのであり,相対的に人口の少ない地域に対する配慮はそのような活動の中で全国的な視野から法律の制定等に当たって考慮されるべき事柄であって,地域性に係る問題のために,殊更にある地域(都道府県)の選挙人と他の地域(都道府県)の選挙人との間に投票価値の不平等を生じさせるだけの合理性があるとはいい難い。」(平成22年(行ツ)第129号選挙無効請求事件平成23年03月23日最高裁判所大法廷判決・集民第236号249頁)

(3) 定数配分の格差は、政党間1票格差という投票価値の格差を拡大する

定数配分の格差で問題となるのは、中国地方のように自民など特定政党の支持率が高いところに有権者数当たりの議席が多く配分されることで、政党間1票格差という投票価値の格差が拡大するという点です。つまり、自民が効率よく議席を獲得し、自民の生票率が高まり、非自民の死票率が高まるという問題です。

2012年衆院選の場合、政党間1票格差を「1議席当たりの得票数」を各党ごとに求め、自民党の「1議席当たりの得票数」で割った値と定義すれば、政党間1票格差の最大は未来の党の13.83倍となります。議席を得られない政党の政党間1票格差はこれより深刻だといえます。

2012衆院選――結果分析
http://kaze.fm/wordpress/?p=435#2012election_table1

世間で言われている何倍の格差とか、1人「0.x票」という表現は、都道府県などの1つの地域(小選挙区よりも大きい)と1つの地域を比べたものではなく、1つの小選挙区(地域代表性の単位としては狭いだろう)と1つの小選挙区の間で有権者数を比べたもので、地域代表性の格差や投票価値の格差を表すわけではありません。

1人「0.2票」の小選挙区だから定数を5倍にすべきだ、1人「2.0票」の小選挙区だから選挙区を2分割すべきだ、という結論は直ちには得られません。1人「1.8票」の小選挙区と1人「0.2票」の小選挙区が近くにあれば、地域代表性の格差の問題も発生しません。

ただ、実際には、小選挙区という狭い単位でも選挙区ごとに政党支持率などに違いがあったりするので(確率的なものだが)、特定政党に有利になるような恣意的な区割りを防止するためにも、議員1人当たりの有権者数を揃えなければならないことは当然です(区割り選挙を前提とするなら)。

(4) 定数是正裁判の意義

以上のように書くと、一連の定数是正裁判は意味がないのか、と思われるかもしれませんが、そうではありません。

平成23年(行ツ)第64号選挙無効請求事件平成24年10月17日最高裁判所大法廷判決・集民第241号91頁(7ページ)は「憲法は,選挙権の内容の平等,換言すれば,議員の選出における各選挙人の投票の有する影響力の平等,すなわち投票価値の平等を要求していると解される」とし、法の下の平等を「選挙権」「投票の有する影響力」「投票価値」という概念に適用することを通じて、投票価値の格差の一類型としての定数配分の格差について憲法判断しているのであって、投票価値の格差が定数配分の格差だけだとしていない点に意義があります。

以上のような意味を持つ「定数配分の格差」が違憲であるならば、「0.x票」よりも価値のない死票を出して投票価値の格差をもたらす小選挙区制は明らかに違憲です。

(5) 複数定数区における定数配分の格差

以上は小選挙区での説明ですが、複数定数区では事情が違ってきます。2013年参院選無効請求訴訟の訴状11ページから引用しておきます。

「最後に中選挙区制を含む大選挙区制では、議員1人当たりの有権者数が少なくなる、あるいは選挙区内の定数が増えれば、従来の議論の枠組みによる不適切な表現としての選挙区間での「1票の価値」が高まるだけでなく、より多くの投票者の票が生票となる確率が高まると同時に、より少ない票数で生票になる確率が高くなるので、本質的にも選挙区間での投票価値が高まる(議員1人当たりの投票者数が少なくなる)。」

(6) 参院選では、定数配分の格差の是正によって投票価値の格差(死票率の格差)がさらに拡大する

そして定数の異なる選挙区が混在する参院選において、定数配分の格差の是正によって投票価値の格差(死票率の格差)がさらに拡大することは、2013年参院選無効請求訴訟の上告理由書で説明しています。17ページから引用しておきます。

「[6] 参議院選挙区の場合は、地方ほど1選挙区当たりの定数が少なく死票率が高く、都市部ほど同定数が多く死票率が低いので(第6の「4 憲法要請「国民の厳粛な信託」から導かれる定量的な選挙制度条件を検討せずに憲法判断をする原判決」参照)、「定数配分の格差」を是正するために地方から都市部へ議席を移して、地方の1選挙区当たりの定数を減らし、都市部の1選挙区当たりの定数を増やすと、地域代表性はさほど変わらないが、両地域の間における死票率の格差という投票価値の格差はさらに拡大する。」

2013年参議院選挙の無効請求訴訟

[1] 訴状:投票価値論を展開。訴状ファイルには目次がありません。目次は下記ブログ記事本文で確認してください。
第23回参議院選挙無効請求訴訟を提起
http://kaze.fm/wordpress/?p=478 
http://otasa.net/documents/2013_Upper_House_Election_Complaint.pdf
[2] 準備書面:供託金制度についての国会論議を詳しく振り返っている。
第23回参議院選挙無効請求訴訟の準備書面(2013年11月6日付)――戦後直後から最近までの国会審議を振り返る
http://kaze.fm/wordpress/?p=512
http://otasa.net/documents/brief_20131106.pdf
[3] 上告理由書:準備書面とかなり重複しているが、投票価値論について新たな説明を加えている。供託金制度についての主張は、上告理由書のまとめで手っ取り早く理解できる。
2013年参院選無効請求訴訟で上告――定数配分の格差の是正で投票価値の格差(死票率の格差)はさらに拡大する
http://kaze.fm/wordpress/?p=527
http://otasa.net/documents/2013Election_Appeal_to_the_Supreme_Court.pdf

太田光征

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