シリア情勢をめぐる報道についての要望書
9月 4th, 2013 Posted by MITSU_OHTA @ 11:27:23under メディア , シリア No Comments
9月3日、シリア情勢をめぐる報道について、「平和への結集」をめざす市民の風として朝日新聞と毎日新聞に要望に伺いました。以下は毎日新聞あての要望書です。
毎日新聞外信部御中
シリア情勢をめぐる報道について面会で要望をさせていただきたいので、ご検討をよろしくお願いします。
米国によるシリア軍事介入の「開戦日時」(2日付毎日一面トップ「シリア攻撃 9日以降」)を何の躊躇・批判もなくメディアが「報道」する神経はいかがなものでしょうか。米国議会が9日以降に米大統領の提案を審議すると報じれば済むはずです。米国の軍事介入を当然と認識しているのではありませんか。
朝日新聞と毎日新聞は奇しくも米国によるシリア攻撃に関して「その時日本は」という文句を含む見出しの記事を書いています。米国の軍事介入を当然の前提として、単に米政府の開戦プロセスをひたすら解説し、「その時」の日本の対応を日本政府になり代わって解説するというもので、攻撃を受けるシリア国民がまったく不在です。「その前に日本」が何をなすべきかについて読者に判断の材料を与える内容になっていません。
「(仏軍は)単独でアサド政権の化学兵器の使用能力を弱められない」(朝日9月2日付)、「限定攻撃 効果疑問も」(毎日9月2日付)などの記事も、西側によるシリアへの軍事介入が当然で、アサド政権の化学兵器のみが問題であると認識し、限定攻撃では不十分であると米国に指南しているかのようです。
シリアにおける8月21日の「化学兵器攻撃」疑惑について、AP通信などに記事を書いてきたベテラン中東記者のデイル・ガヴラク氏が、ダマスカス郊外ゴウタ地区の住民や、反政府軍兵士とその家族などに数多くインタビューしたところ、反政府軍兵士が化学兵器と知らずに誤爆させたとの証言を引き出しています。
「シリア化学兵器攻撃」は反政府軍による誤爆で、化学兵器はサウジが提供――中東専門記者が現地住民にインタビュー
http://unitingforpeace.seesaa.net/article/373646407.html
CNNは2012年12月9日付の記事「米国が貯蔵化学兵器の確保でシリア反乱軍の訓練を支援」で、米国と欧州の同盟国がヨルダンとトルコで軍事請負会社を使って、シリアにおける貯蔵化学兵器の確保方法について、シリア反乱軍を訓練していると伝えています。
Sources: U.S. helping underwrite Syrian rebel training on securing chemical weapons – CNN Security Clearance - CNN.com Blogs
http://security.blogs.cnn.com/2012/12/09/sources-defense-contractors-training-syrian-rebels-in-chemical-weapons/
アサド政権だけが化学兵器攻撃の責任を持つわけでないことを示す報道があるにもかかわらず、日本のメディアは一切伝えません。メディアは少なくとも、米国による軍事介入の前に、ガヴラク氏が引き出した証言が真実であるのかどうか、検証する責務が生じたといえます。(国連調査団の目的が化学兵器攻撃の実行者を特定することでないことはご存知でしょう。)
メディアは米国によるシリアへの軍事介入が「限定的」でアサド政権の転覆が目的ではなく、政権による化学兵器使用能力を削ぐことが目的であるとする米国の発表をそのまま伝えています。
しかし、8月29日付ガーディアンによれば、シリアのジハード集団(Ahrar Alsham Islamic Brigade)は当然にも、西側による空爆をアサド軍に対する攻撃に利用すると語っています。
Syrian rebels plan wave of attacks during western strikes | World news | The Guardian
http://www.theguardian.com/world/2013/aug/29/syrian-jihadi-fighters-attacks
西側による軍事介入は明らかに政府軍の空軍能力を狙ったものであり、それが限定的であれ何であれ、効果は持続し、反政府軍を持続的に利するものです。
表立った軍事介入が限定的であれ何であれ、西側による反政府軍への軍事支援は持続的に行われていますが、日本のメディアはこの点にほとんど触れません。
日本のメディアがよく引用するニューヨーク・タイムズほかが数多くこの種の記事を書いていますが、日本のメディアは引用しないのです。海外での調査体制に問題があるとしても、海外メディアを引用することはできるはずです。
「CIAの支援によりシリア反政府軍への武器空輸が拡大」
Arms Airlift to Syrian Rebels Expands, With C.I.A. Aid - NYTimes.com
http://www.nytimes.com/2013/03/25/world/middleeast/arms-airlift-to-syrian-rebels-expands-with-cia-aid.html?pagewanted=all&_r=1&
「米国および欧州がザグレブ経由でのシリア反乱軍に対する武器の大規模空輸に関与」
US and Europe in ‘major airlift of arms to Syrian rebels through Zagreb’ - Telegraph
http://www.telegraph.co.uk/news/worldnews/middleeast/syria/9918785/US-and-Europe-in-major-airlift-of-arms-to-Syrian-rebels-through-Zagreb.html
英国が過去2年間にわたってシリアに化学兵器の原料となるフッ化ナトリウムを輸出してきたことも問題にされなければなりません。(英国議会報告書、2013年7月18日付フィガロ)
Londres vend des armes à la Syrie
http://www.lefigaro.fr/international/2013/07/18/01003-20130718ARTFIG00482-londres-vend-des-armes-a-la-syrie.php
また、シリアの首都ダマスカス近郊ジョバルでサリンが使用されたとフランスが公式に認めた6月4日の前に、なぜフランスが抗サリン薬を自由シリア軍が支配する対トルコ国境のバブアルハワに輸送したのかも、追求されてしかるべきでしょう。(2013年6月24日付フィガロ)
Un camion de médicaments français contre le gaz sarin
http://www.lefigaro.fr/international/2013/06/24/01003-20130624ARTFIG00573-un-camion-de-medicaments-francais-contre-le-gaz-sarin.php
さらに、8月28日付フィガロ・ブログが、西側外交筋の話として、米国当局者が国連に対して化学兵器調査団の活動を延長しない方がよい、と伝えたと書いています。この問題もメディアは追求すべきです。
Syrie: les Américains ont demandé à l’ONU de ne pas poursuivre sa mission − De Bagdad à Jérusalem : L’Orient indiscret
http://blog.lefigaro.fr/malbrunot/2013/08/syrie-les-americains-ont-deman.html
8月29日付ガーディアンは、予定よりも早い国連武器調査団の出国は、米国のサダム・フセイン体制に対する空爆が差し迫っているという西側諜報当局の情報を受けて、10年以上前にイラクから同様に急いで出国したことを想起させる、と書いています。まさにその通りです。
UN orders its inspectors out of Syria in anticipation of strikes | World news | The Guardian
http://www.theguardian.com/world/2013/aug/29/un-inspectors-syria-strikes
8月27日付ガーディアン記事「シリアに対する攻撃は戦争と殺戮を拡大するだけだろう」で、Seumas Milne氏は明確に軍事介入に反対しています。このような論調が29日の英国議会による軍事介入否決につながったと考えます。日本のメディアに求められるのもまさにこれです。
An attack on Syria will only spread the war and killing | Seumas Milne | Comment is free | The Guardian
http://www.theguardian.com/commentisfree/2013/aug/27/attack-syria-chemical-weapon-escalate-backlash
Milne氏は、シリア人権監視団が8月21日の「化学兵器攻撃」による死亡者数を322人とした一方で、エジプト(軍事政権)が2日間で1295人以上を殺害したことを取り上げ、ケリー米国務長官はエジプト軍が民主主義を回復しているとして、オバマは米国が肩入れしないと言明したことを指摘しています。
米国による軍事介入が恣意的であることを指摘する論調が、日本のメディアではあまり見られません。
加えてMilne氏は、英国政府による開戦プロセスを解説するのではなく、反政府軍が神経ガスのサリンを使用したことが具体的に強く疑われると国連人権理事会調査官のカルラ・デル・ポンテ氏が指摘し(8月以前の攻撃について)、その後すぐにトルコの保安当局がシリアへ向かっていたアルカイダ系アル・ヌスラからサリンを押収したこと、反政府軍がシリア北東部からイラク国境にかけて数多くのクルド人に対して民族浄化を働いていることを指摘し、読者に判断材料を与えています。
シリア民衆の独裁体制に対する蜂起が宗派間・地域代理戦争に変質してしまっているというMilne氏の基本的な認識さえ、日本のメディアでは押さえられていないようです。
「人道に対する犯罪」を罰しないままにしておく訳にはいかないという米国の理屈は成り立ちません。Milne氏も記事の中で取り上げている劣化ウラン弾や白リン弾、枯れ葉剤を使用してきた米国が人道介入を語る資格がないのは明白です。
サダム時代の方がマシだったと一部が語る現在のイラク。この10年間にイラクで殺された外国部隊の兵士(約4800人)とほぼ同じ人数の市民が毎年、命を奪われています。このような事態を招く「人道介入」などあり得るわけがありませんが、このような指摘も日本のメディアではほとんど見られません。
シリア情勢をめぐる報道では、海外のメディアと日本のメディアで明らかに落差があり、日本のメディアは本来の使命を果たしているとは思えません。日本政府をして軍事介入への「支持表明」に向かわせる世論作りに貢献しているように見えてしまいます。
日米政権の意向だけを伝えるのでなく、調査報道にさらに力を割かれ、読者がシリア情勢を理解することでシリアに対する軍事介入の是非を判断できる材料を提供していただきたいと思います。
「平和への結集」をめざす市民の風
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