食品安全委員会「放射性物質の食品健康影響評価に関する審議結果(案)」について
食品安全委員会ワーキンググループによる「放射性物質の食品健康影響評価に関する審議結果(案)」について意見を提出しました。字数制限の関係で大幅に削ってありますが。
食品安全委員会:放射性物質の食品健康影響評価の状況について
http://www.fsc.go.jp/sonota/emerg/radio_hyoka.html
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評価案はモデルに基づかないとしているものの、「低線量急性障害」、「内部被ばくと外部被ばくの影響の違い」がいずれもないという前提に立ち、ほぼ外部被ばくのデータだけで放射線の影響評価を行っています。
食物に含まれる放射性物質による内部被ばくの影響を評価したものにはなっていないのです。
● 7月26日食品安全委員会終了後の記者会見から:
http://www.foocom.net/secretariat/observer/4683/
「今年に摂った線量が、ただちにリスクを直線的にあげるのではない。累積線量がある程度以上になって発がん率が増加するという形をとる」
「内部被ばくと外部被ばくでは、生態に与える影響は同一ではないのではないかという議論もあった。しかしながら、広島・長崎のデータも含めてみていくと、必ずしもそうではないという結果が多い」(本当にそうか。であるなら内部被ばくで評価できるではないか)
● 評価案から:
「TDIに相当する摂取量のウランによる放射線量は、実効線量として約0.005 mSv/年に相当し(参考1参照)、十分低い線量であると考えられた。したがって、ウランの毒性は化学物質としての毒性がより鋭敏に出るものと考えられた」
以下、上記の重要論点について意見を述べます。
『死にいたる虚構―国家による低線量放射線の隠蔽―』(ジェイ・M・グールド、ベンジャミン・A・ゴルドマン著、肥田舜太郎、斎藤紀訳、2008年、PKO法『雑則』を広める会)は、原爆症認定集団訴訟で大阪高裁が低線量内部被ばくの影響を認めた際の科学的根拠にした文献の1つです。
この『死にいたる虚構』では、チェルノブイリ事故後、アメリカ各地でミルク中のヨウ素131濃度と全死亡率の増加率に相関関係が見られたことが示されています。線量反応関係は上に凸の形です。
ミルク中ヨウ素131の最高濃度はカリフォルニア州、ワシントン州の44pCi/l=1.6Bq/l(1ピコキュリー=0.037ベクレル)で、その他の核種を考慮してもかなりの低線量です。
ちなみにヨウ素131に関する米国の飲料水基準は0.111 Bq/lで、日本の暫定基準値は300 Bq/lと異常に高くなっています。
世界も驚く日本の基準値
http://happy-net.jp/uploader/kizyunti.pdf
またヒトと同様、食虫の小型の鳥についても、86年から87年にかけて、米国各地の減少率とミルク中ヨウ素131濃度に強い相関が見られたことが示されています。86年夏に雛鳥捕獲数が減少したのは、新芽や種を餌とする鳥のみで、(食物連鎖で放射性物質を濃縮していない)死んだ昆虫などを餌とするキツツキなどに影響がなかった。(同書第三章「沈黙の夏」)
低線量被ばくとその影響が現れる時期については、トンデルらの研究が参考になります。
原子力資料情報室通信 No.381 号 2006 年3 月
http://www.rri.kyoto-u.ac.jp/NSRG/seminar/No104/CNIC0602.pdf
チェルノブイリからの放射能汚染によりスウェーデンでガンが増えている?
京都大学原子炉実験所 今中哲二
原著論文:
M.Tondel et al. J Epidemiol Community Health 2004;58:1011-6.
M・トンデル 科学社会人間 No.95:3-7 2006 年1 月.
トンデルらはチェルノブイリ後のスウェーデンにおいて、セシウム137汚染により2年から10 年後という比較的短期間にがん発生率が有意に増加したことを示しています。
今中は大まかな見積もりとして、100kBq/m2 のセシウム137汚染を初めの2年間で10〜20mSvとし、トンデルらが見出した過剰相対リスクを1Sv当り5〜10としました。広島・長崎原爆生存者の場合、過剰相対リスクは1Sv当り約0.5 なので、スウェーデンの場合はその10〜20倍と極めて高い。やはりトンデルも、低レベル被ばくで効果が大きくなるモデルを考えています。
評価案ではPrestonらによる原爆被爆者の死亡率調査第13報の結果を「固形がんによる死亡のERR(過剰相対リスク)は被ばく線量0〜125 mGyの範囲の線量に対して線量直線性があるようにみえた(被ばく線量0〜100 mSvでは有意な相関が認められなかった)」と紹介し、生涯累積線量100mSvの根拠にしています。
http://www.rerf.or.jp/library/scidata/lssrepor/rr24-02.htm
原爆被爆者の死亡率調査 第13報 固形がんおよびがん以外の疾患による死亡率:1950−1997年(要約のみ)
Preston DL, 清水由紀子, Pierce DA, 陶山昭彦, 馬淵清彦
Radiat Res 160(4):381-407, 2003
しかし実際には、ERRは 0〜4.0Svで1Sv当たり0.47(対照と比べリスクが47%増加、p<0.001)、0〜0.2Svで0.76(p<0.003)、0〜0.125Svで0.74(p<0.025)と、線量が低下するほどERRが上昇しており、有意性はp=0.15と消失するものの、0〜0.05Svで0.93とさらに上昇しています。
原爆被爆者についても、低線量域において上に凸の線量反応関係(ペトカウ効果)を示しているのです。
広島・長崎の被爆者生涯調査
http://www.nuketext.org/kenkoueikyou.html
評価案では、白血病についても高線量外部被ばくによる原爆被爆者のデータを紹介しています。
しかし、入市被爆者の間に見られる白血病罹患率の上昇は、低線量内部被ばくの影響を含むと見なすべきで、これらのデータこそ評価案に盛り込むべきです。
原爆症認定訴訟名古屋地方裁判所判決(平成19年1月31日)
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070309095813.pdf
a 広瀬文男「原爆被爆者における白血病」(甲全12号証)
「非被爆者(全国平均)の白血病発生率は10万人当たり2.33人であるが,広島における爆発3日以内の入市者(8月6日ないし8月9日に入市)におけるその発生割合は9.69人,同4日から7日までの入市者(8月10日から8月13日に入市)における同発生割合は4.04人であった。」
47回原子爆弾後障害研究会
http://shoruisouko.xsrv.jp/kntk/4_ss2_kamada.pdf
日時:2006年6月4日
11.8月6日入市被爆者白血病の発生増加について
鎌田七男ほか
評価案ではインド・ケララ州の高自然放射線地域で発がんリスクの上昇が見られなかったとするNairらの研究も紹介しています。
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/19066487
Health Phys. 2009 Jan;96(1):55-66.
Background radiation and cancer incidence in Kerala, India-Karanagappally cohort study.
Nair RR, Rajan B, Akiba S, Jayalekshmi P, Nair MK, Gangadharan P, Koga T, Morishima H, Nakamura S, Sugahara T.
しかし、評価案中でも「地上γ線被ばくによるがんリスクの超過は認められなかった」とし、原著でも内部被ばくを考慮していないと記述している(Google検索: http://p.tl/etAO )ように、この研究結果を内部被ばくの評価に用いることはできません。
評価案では、生涯累積線量100mSvが閾値ではなく、「低線量の放射線による健康影響を疫学調査で検証し得ていない可能性を否定することもできず」としており、この100mSvは言語明瞭意味不明です。
生涯累積線量という概念そのものも問題です。小児がんのように人生の早い段階で死をもたらすケースで一律の生涯累積線量という概念は役立ちません。低線量内部被ばくの影響が最も早く現れる症状は何なのか、その時の線量はどのくらいか、を究明しなければ、(食品中の)放射性物質の影響を評価したことにはなりません。
100mSvを前提にしても、これを人生のステージごとにどう割り振るのか。丸投げされることになる厚労省も困るでしょう。
評価ワーキンググループが「入手し得た文献」の中にはバズビーらのものも含まれますが、「参考のサポート」扱いです。イラクやアフガニスタンなどにおける劣化ウランの影響も含め、低線量急性障害や低線量内部被ばくの影響に関する研究事例を虚心坦懐に一から再検討されることをお願いいたします。
太田光征
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