消費税増税を強いる前に国会議員は身を切るべきだ?(2)

12月 8th, 2012 Posted by MITSU_OHTA @ 17:31:08
under メディア , 選挙制度 , 2012年衆議院選挙 1 Comment 

定数削減によって消費税増税などに反対する中小政党の議席(億円のレベル)を減らし、消費税増税などを主張する大政党の議席占有率を増加させるから、これらと引き替えに格差・貧困を拡大する消費税増税(兆円のレベル)の容認を、ついでに憲法改定、TPP参加、原発維持、米軍基地・オスプレイの沖縄への押し付けなどに取り組みやすくしてくれ――あきれてしまう!

7日付の東京新聞朝刊の記事「身を切る改革遠く 『違憲状態』の衆院選」について批評を書いた。

東京新聞:身を切る改革遠く 「違憲状態」の衆院選
http://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/news/CK2012120702000105.html
消費税増税を強いる前に国会議員は身を切るべきだ?
http://kaze.fm/wordpress/?p=422

続いて8日、同紙の筆洗でも同様の見解が示された。

東京新聞: <欲深き人の心と降る雪はつもるにつれて道を忘るる>なんて…
http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/hissen/CK2012120802000124.html
「何しろせっかく当選しても、裁判所から無効宣告のどんでん返しをくらうかもしれない。一票の格差を是正せぬまま解散したために、格差は最高裁が「違憲状態」とした前回の総選挙の時よりさらに広がっている」
「そもそも解散をめぐって民主、自民、公明は「来年の通常国会までに衆院議員定数の大幅削減を実現」と約束し合った。だが、国会をどう改革するのか、一票の格差をどう是正するか。具体的な方策を公約に示さぬ党が多く、論戦も聞こえてこない」

やはりどうも定数格差是正と定数削減をごっちゃにしているようだ。あるいは単に、定数削減では約束をしたが、1票格差の是正については公約を示していない、とだけ言っているのだろうか。だとしても舌足らず。定数削減は格差拡大に他ならず、1票格差の是正と相矛盾することを指摘するのが、メディアの役割だろう。

「消費税増税を強いる前に国会議員は身を切るべきだ?」で書いたように、選挙区間1票の格差2.43倍が問題なら、論理必然的に、生票・死票間1票格差をもたらす小選挙区制や、政党間1票格差4.98倍(2010参院選の結果を基に比例区定数が100に削減された場合の衆院比例区選挙シミュレーションをした場合の民主と社民の格差)の方が大問題だ。

国会議員に身を切らせたいのなら、世界一高い政党交付金を減額・廃止する方がよほどこたえる。国会議員定数の削減は「国会議員」一般ではなく、憲法改定、消費税増税、TPP参加、原発維持、米軍基地・オスプレイの沖縄への押し付けなどに反対する中小政党とそれらを支持する有権者の身を切ること、すなわちそうした世論・民意を切り捨てることだ。

消費税増税などを強いる大政党のみが身を切り、これまで身を肥やしてきた状況を改めることができるよう、小選挙区制中心から比例代表制中心の選挙制度へ改革することを主張するならまだ分かる(私は「中選挙区比例代表併用制」を提案している)。依然として身切り論はまやかしだが。

定数削減によって消費税増税などに反対する中小政党の議席(億円のレベル)を減らし、消費税増税などを主張する大政党の議席占有率を増加させるから、これらと引き替えに格差・貧困を拡大する消費税増税(兆円のレベル)の容認を、ついでに憲法改定、TPP参加、原発維持、米軍基地・オスプレイの沖縄への押し付けなどに取り組みやすくしてくれ――あきれてしまう!

3.11後に誰の意識にも上るようになった脱原発は、脱差別=民主主義の深化に他ならない。主権格差を拡大する議員定数削減のように、差別を押し付ける約束など公約になりようがない。

なぜメディアは民主主義の土俵でものを書くことができないのか。「2012年衆議院選挙アンケート」のような視点で、選挙関連記事を書いていただきたいものだ。

平和への結集ブログ » 2012年衆議院選挙アンケート
http://kaze.fm/wordpress/?p=406

太田光征(松戸市在住)

エジプトの小選挙区比例代表並立制は違憲!

6月 15th, 2012 Posted by MITSU_OHTA @ 21:13:42
under メディア , 選挙制度 , 福島原発事故 No Comments 

日本の国会では6月15日、原発廃炉も決めていない段階で、「原発内の専門的知見が必要な判断」を行う権限を政治家から奪い、廃炉40年を覆す意図を明確にした原子力規制委員会法=原発温存委員会法が衆院を通過した。

一方、エジプトでは、「軍部によるクーデター」だと非難する声もあるが、日本と同じ小選挙区比例代表並立制は無所属が比例区に立候補できず機会の平等に反して違憲だとする憲法裁判所の判決で、民主主義的健全性を示している。

日本のメディアは、例によって重要法案にそっぽを向けて捕物帳や芸能ネタ、今回はオウム某の逮捕をクローズアップし、エジプト憲法裁判所の判決も「混乱」という見方しか提供できない。

6.15再稼働抗議「危険な原発やめてくれ!」官邸前で怒り爆発!
http://www.youtube.com/watch?v=iepmVN2YKww

テレビは今回、原子力規制委員会法の審議を中継すべきだったし、活字媒体も「エジプト憲法裁判所による小選挙区比例代表並立制の違憲判決は、日本における1票格差是正と選挙制度の論議に影響を与えそうだ」くらい書くべきだろう。

1票格差の是正といって、民主党支持者ないし自民党支持者としての有権者が選出する議員の選挙区が、鳥取や島根から神奈川や千葉に変わるだけの選挙区間1票格差の是正に、何の意味があるか。格差・差別の本体を放っておいて。国会の論議がまずおかしいが、それを追求しないメディアもおかしい。

それにしても、脱原発政党・社民党の重野安正幹事長が、小選挙区比例代表連用制を条件に無所属に対する差別を拡大する「0増5減」を認めるとは。原発、沖縄米軍基地、小選挙区比例代表並立制…すべての根っこにあるのが差別で、これらの突破口が脱差別だというのに。でなければ脱原発などは単なる一政策課題の選択問題に矮小化され、政治潮流の変革につながらない。

社民は「0増5減」を認めるべきでない
http://unitingforpeace.seesaa.net/article/258503915.html

日本より人口の少ないエジプトの人民議会の定数は508であるのに対し、日本の衆議院の定数は480しかない。日本では国会の定数削減でなく、エジプトのように格差・差別をなくす選挙制度改正が必要なのである。
 
 
太田光征
 
 
時事ドットコム:原子力規制委法案、衆院通過=今国会で成立の見込み
http://www.jiji.com/jc/c?g=eco_30&k=2012061500047
「原発内の専門的知見が必要な判断は規制委が行い、首相は覆せない。」

「廃炉40年」に見直し規定…民自公が修正合意
http://www.yomiuri.co.jp/politics/news/20120613-OYT1T00905.htm

エジプト議会 再選挙の可能性 NHKニュース
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20120615/k10015842511000.html
「去年11月からことし1月にかけて行われたエジプトの議会選挙を巡っては、無所属の候補者が小選挙区でしか立候補できないのに対し、政党に所属する候補者は比例代表と小選挙区の両方に立候補でき、不公平だという申し立てがありました。」
「これについて、エジプトの憲法裁判所は14日、機会の平等に反し、違憲だという判断を下しました。」
「議会が解散される可能性が出てきたことに、議会を権力基盤としてきたムスリム同胞団が激しく反発することは必至で、投票が迫った大統領選挙の行方にも影響を与えそうです。」

東京新聞:エジプト国会 選挙やり直しの可能性 憲法裁判所が違憲判断
http://www.tokyo-np.co.jp/article/world/news/CK2012061502000102.html
「大統領選の決選投票を十六〜十七日に控え、民政移管の工程に混乱が生じることになる。」

エジプト憲法裁、議会選を一部無効と判断
http://www.nikkei.com/article/DGXNASGM1405X_U2A610C1000000/
「再選挙を実施すれば同国の内政は一層混乱しそうだ。」

エジプト憲法裁、議会に「無効」判断 選挙違反を指摘
http://www.afpbb.com/article/politics/2884208/9117473?ctm_campaign=txt_topics
「国内の活動家や政治家らは、憲法裁判所の判断を軍部による「クーデター」だと非難している。」

NHKは選挙制度・定数削減、原発事故・再稼働の問題で公平・中立・多様な情報の提供を

5月 7th, 2012 Posted by MITSU_OHTA @ 21:23:18
under メディア , 選挙制度 , 福島原発事故 No Comments 

NHK御中

いつも優れた番組の制作ありがとうございます。本日は選挙制度・原発事故に関連した貴局の番組・報道について意見を述べます。

貴局は2012年4月30日に「双方向解説 そこが知りたい!『どうなる消費税・一体改革の行方は』」を放映されました。

NHK双方向解説が「議員定数削減」に反対する意見を報道せず
http://alcyone-sapporo.blogspot.jp/2012/04/nhk_30.html

上記ブログでも明らかにされているように、私も知るある方が国会議員の定数削減に反対する意見を出したものの、賛成意見のみが番組で紹介されました。このような番組運営は公平・中立・多様性を要請する放送法に反しています。

安達宜正解説委員による解説も、少数政党に不利に働く不公平な説明と言えます。

ここに注目! 「通常国会あす召集・焦点は」 | おはよう日本 「ここに注目!」 | 解説委員室ブログ:NHK(2012年01月23日)
http://www.nhk.or.jp/kaisetsu-blog/300/107162.html

「具体化するかどうかはこれからですが、いまの小選挙区比例代表並立制から、連用制に改めることです。簡単に言いますと、比例の選出方法を改めて、小選挙区で得た議席の少ない政党に優先的に議席を配分するという制度です。」

この説明は小選挙区比例代表連用制の本質を誤解させかねません。小選挙区比例代表連用制は、比例区の得票数を基に、議席配分を全体として比例代表制による結果に近づけるようにしたものです。考え方が小選挙区比例代表並立制とは完全に違うもので、少数政党だけを優遇することが狙いではありません。

大政党は小選挙区における議席占有率が得票率を上回る場合が多く、小選挙区では大政党に「優先的」に議席が配分されるので、小選挙区比例代表連用制の比例区では小選挙区で得た議席を比例区で得たものと見なし、大政党に対する過剰な議席配分を修正します。

そのため、小選挙区比例代表連用制における比例区の議席配分では、例えば小選挙区で100議席を獲得した大政党Aは101、102、103…で得票数を割っていき、小選挙区で議席数0の少数政党Bは1、2、3…で得票数を割っていくという修正ドント式を採用するのです(A党が101議席を獲得するとして1議席当たりに要する得票数と、B党が1議席を獲得するとして1議席当たりに要する得票数を比較し、1議席当たりに要する得票数の大きい方の政党に議席を配分する。比例区定数の議席が配分されるまでこうした計算を続ける)。

しかし、小選挙区比例代表連用制でも大政党に有利であることに変わりはありません。

小選挙区比例代表連用制
http://kaze.fm/wordpress/?p=346

次に、太田真嗣解説委員による解説を取り上げます。

時論公論「どうする一票の格差・選挙制度」 | 時論公論 | 解説委員室ブログ:NHK(2011年10月25日)
http://www.nhk.or.jp/kaisetsu-blog/100/99270.html

「言うまでもなく、憲法が要請する『投票価値の平等』は、民主主義の基本にかかわるもので、最高裁の判決を踏まえ、一日も早く、格差を解消することは政治の務めです。しかし、政治への信頼が問われている今、定数削減の問題や、選挙制度そのものをめぐる議論も避けて通れないのは明らかです。」

前半部分は正しいと思いますが、小選挙区制による選挙区間1票の格差を問題とするなら、小選挙区制において生票と死票を投じる主権者の間で生じる格差をどう評価するのか、格差解消の優先度はどちらが高いのかについても、解説していただきたいものです。小選挙区Aの主権者1万人が議員1人を当選させることができる一方で、小選挙区Bの主権者1万人すべての票が死票になるような事態をもたらすのが小選挙区制であり、こちらの格差の方がはるかに問題です。

また、政治に対する信頼と定数削減の関連を当然視する見解は納得できません。公共放送による解説であれば、放送法で規定されているように、多様な論点の提示が求められます。政治的多数派の主張や国民多数の見解だけを紹介すればよいというわけにはいきません。

現在の定数削減論は大政党が主導し、少数政党を国会から排除する方向のものであり、国会活動のほとんどに責任を持つ大政党が身を切ることなく生き残り、少数政党が排除されることで政治に対する信頼性が回復されるとする論は成り立ちません。また、定数が削減されても新人議員の立候補者数を削減すればよいだけなので、国民に信頼されていないとされる現役議員の身を切ること、それによって政治に対する信頼を回復するなどということも、ほとんどあり得ません。

福島原発事故に関する番組でもまったく同様の問題があります。

2011年10月22日に「“食の安全”をどう取り戻すか」と題する市民討論会がNHKスペシャルとして実施されました。広瀬隆『第二のフクシマ、日本滅亡』(朝日選書、211ページ)によれば、「その後、私の知人たちが、ベクレル表示に要する費用は東京電力が負担するべきだ、という意見を視聴者として送っていたことも分かった。それをNHKは一切紹介しなかったのである。」

ちなみに、西日本新聞の社説なども、同様に不公平なものになっています。

衆院選挙制度 定数削減は国民の要請だ  西日本新聞2012年1月19日: 社説
http://www.nishinippon.co.jp/nnp/item/282775
「公明党や社民党が少数政党に議席配分が有利な比例代表の連用制や併用制を主張し、みんなの党や共産党が全議席比例代表選挙の導入を求めているのも、議席を失いたくないからだ。」

西日本新聞よ、貴紙は民主のメディア支部かね 1 バランスを欠く選挙制度(議席削減)の社説 | 児玉昌己 研究室
http://masami-kodama.jugem.jp/?eid=3053
「民主は比例制に換えれば、即座に100名以上の議席を失う。同様に、それが怖いからだ、とどうして社説氏は書かないのかね。」

もちろん、「定数削減は国民の要請だ」などと単純に断じることはできません。米軍基地の沖縄への押し付け、原発の地方への押し付けを多くの国民が要請したとしても認められないのと同様に、主権者の主権を不平等に切り崩すような選挙制度改定・定数削減は、単純な多数決で決定することができないからです。

現在、日本の原発は全基が停止しています。原発再稼働を考えるにあたっての最大の論点は(低線量)被ばくによる健康被害であると思いますが、原発の再稼働をめぐる攻防では電力の需給関係が重要な論点の1つになっています。

原発が停止した場合の電力需給がどうなるのかについて、メディアはもっぱら電力会社や政府が発表した見解をそのまま報道するだけです。この問題について貴局には、原発再稼働に反対する立場の方々の見解も交えて、独自の検証番組を制作・放映していただくようにお願いしたいと思います。

選挙制度・定数削減の問題であれ、原発事故・再稼働の問題であれ、貴局を含むメディアは民主的な決定に資するよう、公平・中立・多様な情報の提供に努めていただきたいと思います。

太田光征
http://otasa.net/