憲法9条を高く掲げた「国際協力」の道を探求しよう
私たちは自衛隊のISAF参加に反対します
「平和への結集」をめざす市民の風
いま改めて自衛隊のISAF参加は「合憲」か「違憲」かが問題になっていますが、「市民の風」は、自衛隊の《武力をともなう》ISAF参加は集団的自衛権の行使にあたり、違憲であると考えます。一方、政府の集団的自衛権に関する考え方は「固有の権利としては持っているが、憲法第9条の制約により、集団的自衛権の行使は違憲である」というものです。政府見解でさえ、自衛隊の《武力をともなう》ISAF参加は集団的自衛権の行使にあたり、違憲であることは明白といわなければなりません。
そこで問題になるのが民主党・小沢代表の「ISAF参加合憲」発言です。小沢氏は『世界』11月号の論文で「国連の活動に積極的に参加することは、たとえそれが結果的に武力の行使を含むものであっても、何ら憲法に抵触しない」と、自衛隊の海外派兵そのものを違憲と考える私たちの立場から見て最低限の憲法解釈ですらない、すなわち違憲の政府見解をさらに超える自衛隊の「武力の行使を含む」海外派兵容認論を展開しているからです(民主党の正式な党見解である『憲法提言』でも同様のことが述べられています)。民主党・小沢代表のこうした考え方は誤っていると私たちは考えます。以下、小沢氏の論理に特有な現状認識の瑕疵、論理の飛躍を3点にわたって指摘してみます。
第1。国連は、安保理常任理事国である5大国中心主義で運営され、安保理決議は妥協の産物です。まれに5大国の利害が一致した場合は、どのような武力行使決議でも国際社会の名で採択できますし、利害が一致しなければ、どの大国にも都合よく解釈できる玉虫色決議となり、国連を重視したくとも、決議内容が一義的に確定できない場合がほとんどなので、原理原則論的な国連重視主義は、そもそも成り立たちません。米英などのイラク侵攻も、安保理決議1441の恣意的な解釈によって正当化されました。小沢氏の「ISAF参加合憲」発言にはそうした国連・安保理の恣意性に関する認識が欠けています。
第2。「ISAF参加合憲」をいう小沢氏の依拠する第2の前提は、「国連の権力主導による戦争は、『国権の発動』にあたらない」というものです。しかし、仮に自衛隊の指揮権を国連に移譲するとしても、その移譲を決定するのは、主権者である国民から間接的に選ばれた時の政府であるはずです。そして、この政府の行為は明らかに「国権の発動」というべきものです。小沢氏の論理は詭弁というほかありません。
第3。小沢氏及び民主党は、インド洋での海上自衛隊の給油活動は「国連の枠組みでの行動」ではないから違憲だといいます。では、ISAFの活動への武力行使を含む参加は「国連の枠組みでの行動」といえるのでしょうか? ISAFの活動は国連軍の活動ではありません。ISAFの活動は、第1で述べた大国間の意図に左右されやすい安保理の恣意的な決議で認められた活動にすぎないのです。そのような活動を「国連の枠組みでの行動」とみなすことは難しいでしょう。ここでも小沢氏及び民主党の論理は破綻しています。
もちろん、私たちは、「国際貢献」や「国際協力」は世界の平和と安寧のために重要で、大切な課題であると考えています。しかし、その「国際協力」と「国際貢献」は、他国の憲法にも、国連憲章などにも見られない先駆的な憲法9条を持つ国としてふさわしいものでなければならないだろうと考えています。軍事力に頼らない「国際協力」の方法はいくらでもあるはずです。国際社会に向かって、堂々と9条を掲げた「国際協力」の道を探求することこそが私たちが採るべき道ではないでしょうか。私たち「平和への結集をめざす市民の風」は、“どんなことがあっても自衛隊の海外派兵には反対”という旗幟を鮮明にした「国際貢献」を探求することこそが平和憲法の国の「国際貢献」にふさわしいものだと考えます。
*上記アピールは「『平和への結集』をめざす市民の風」としての決定稿(A4版)です。詳細は下記原案をご参照ください。
【原案】
自衛隊のISAF参加は合憲か? 〜「市民の風」はこう考えます(たたき台)
*この小文は「市民の風」内外の議論のための「たたき台」として書かれています。
ご意見をお寄せください。
平和への結集をめざす市民の風運営委員
東本 高志
自衛隊のISAF参加は合憲でしょうか? それとも違憲でしょうか?
民主党・小沢代表の「ISAF(注1)参加合憲」発言(『世界』11月号)(注2)以来、自衛隊のISAF参加は「合憲」か「違憲」かの問題があらためてクローズアップされています。
私たちは、この問題を考えるに際して重要なポイントは2つあると思います。ひとつは、そもそも自衛隊の海外派兵は合憲か否かという問題。もうひとつは、自衛隊のISAF参加は憲法で禁止されている集団的自衛権の行使にあたらないのかという問題です。
政府見解も「武力をともなう自衛隊の海外派兵は違憲」
はじめに自衛隊の海外派兵(ここでは武力をともなう場合に限定します)は違憲かどうかを見てみます。自衛隊の海外派兵を違憲とする考え方には、大きく分けて、
?自衛隊そのものを違憲とする立場から、当然、自衛隊の海外派兵も違憲とするもの
?自衛隊の存在は認める(合憲とする)が、自衛隊の海外派兵は違憲とするもの
?武力をともなわない自衛隊の海外派兵は認める(合憲とする)が、武力をともなう自衛隊の海外派兵は違憲とするもの(現政府見解)
の3つがありますが、ここでは、自衛隊の海外派兵という行為が蓋然的に担わざるをえない問題の本質を明らかにするために?の立場から見て自衛隊のISAF参加は合憲かどうかを見てみます。
私たちは自衛隊の海外派兵そのものに反対ですが、1992年の「国際平和協力法(PKO協力法)」(自衛隊の海外派兵を法律的に可能にした)制定時の海部内閣の国会答弁でも「自衛隊の武力をともなう海外派兵は違憲」というものでした。
海部俊樹内閣総理大臣答弁(参院PKO特別委員会 1992年4月28日):
「PKOへの参加の場合、我が国が武力行使をするとの評価を受けることはないので、憲法の禁ずる海外派兵にはあたらない」
福田康夫内閣総理大臣答弁(衆院予算委員会 2007年10月11日):
「(ISAFへの参加は海外での武力行使を禁じた)憲法で規定する問題につながってくる可能性があると懸念している」
自衛隊の《武力をともなう》ISAF参加は、これまでの政府(内閣法制局)見解(???のうちもっとも保守的な見解)に照らしてみても違憲であることは明白です。
政府見解も「憲法第9条の下における集団的自衛権の行使は違憲」
集団的自衛権に関する政府(内閣法制局)の考え方は「固有の権利としては持っているが、憲法9条の制約により、集団的自衛権の行使は違憲である」というものです。政府見解でさえ自衛隊の《武力をともなう》ISAF参加は集団的自衛権の行使にあたり、違憲であることは明白であるといわなければなりません。
小泉純一郎内閣政府答弁書(内閣衆質151第58号 2001年5月8日):
「憲法第九条の下において許容されている自衛権の行使は、我が国を防衛するため必要最小限度の範囲にとどまるべきものであると解しており、集団的自衛権を行使することは、その範囲を超えるものであって、憲法上許されないと考えてきている」
安倍首相、集団的自衛権行使の研究を指示(朝日新聞 2007年5月18日):
「集団的自衛権の研究を掲げる安倍首相の私的諮問機関「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」(座長・柳井俊二前駐米大使)の初会合が18日、首相官邸で開かれた。首相は、米国向け弾道ミサイルの迎撃など四つの事例を挙げて「新たな時代状況を踏まえた、新たな安全保障政策の構築」の検討を指示。集団的自衛権行使の禁止など政府の憲法9条解釈も含めて、安全保障に関する法的な制約を見直すことを諮問した」
上記の安倍首相(当時)の集団的自衛権の見直し指示は、集団的自衛権に関する現在(2007年5月時点)の政府解釈も「憲法第9条の下における集団的自衛権の行使は違憲」としている反対証明になるでしょう。
自衛隊の《武力をともなう》ISAF参加は集団的自衛権の行使にあたり、いまの政府(内閣法制局)見解によっても違憲であることは明白です。
民主党・小沢代表の「ISAF参加合憲」発言について
そこで問題になるのが民主党・小沢代表の「ISAF参加合憲」発言です。小沢氏は『世界』11月号の論文で「国連の活動に積極的に参加することは、たとえそれが結果的に武力の行使を含むものであっても、何ら憲法に抵触しない」と、自衛隊の海外派兵そのものを違憲と考える私たちの立場から見て最低限の憲法解釈ですらない、すなわち違憲の政府見解をさらに超える自衛隊の「武力の行使を含む」海外派兵容認論を展開しているからです(民主党の正式な党見解である『憲法提言』でも同様のことが述べられています(注4))。
民主党・小沢代表のこうした考え方は誤っていると私たちは考えます。以下、小沢氏の論理に特有な現状認識の瑕疵、論理の飛躍を3点にわたって指摘してみます。
第1。国連は、安保理常任理事国である5大国中心主義で運営され、安保理決議は妥協の産物です。まれに、5大国の利害が一致した場合は、どのような武力行使決議でも国際社会の名で採択できますし、利害が一致しなければ、どの大国にも都合よく解釈できる玉虫色決議となり、国連を重視したくとも、決議内容が一義的に確定できない場合がほとんどなので、原理原則論的な国連重視主義は、そもそも成り立たちません。米英などのイラク侵攻も、安保理決議1441の恣意的な解釈(注5)によって正当化されました。小沢氏の「ISAF参加合憲」発言にはそうした国連・安保理の恣意性に関する認識が欠けています。
第2。「ISAF参加合憲」をいう小沢氏の依拠する第2の前提は、「国連の権力主導による戦争は、『国権の発動』にあたらない」というものです(注6)。しかし、仮に自衛隊の指揮権を国連に移譲するとしても、その移譲を決定するのは、主権者である国民から間接的に選ばれた時の政府であるはずです。そして、この政府の行為は明らかに「国権の発動」というべきものです。小沢氏の論理は詭弁というほかありません。
第3。小沢氏及び民主党は、インド洋での海上自衛隊の給油活動は「国連の枠組みでの行動」ではないから違憲だといいます。では、ISAFの活動への武力行使を含む参加は「国連の枠組みでの行動」といえるのでしょうか? ISAFの活動は国連軍の活動ではありません。ISAFの活動は、第1で述べた大国間の意図に左右されやすい安保理の恣意的な決議で認められた活動にすぎないのです。ISAFの活動は国連憲章違反という事実に変わりはありません。そのような活動を「国連の枠組みでの行動」とみなすことは難しいでしょう。ここでも小沢氏及び民主党の論理は破綻しています。
憲法9条を高く掲げた「国際協力」の道を探求しよう
もちろん、私たちは、「国際貢献」や「国際協力」は世界の平和と安寧のために重要で、大切な課題であると考えています。しかし、その「国際協力」と「国際貢献」は、他国の憲法にも、国連憲章などにも見られない先駆的な憲法9条を持つ国としてふさわしいものでなければならないだろうと考えています。軍事力に頼らない「国際協力」の方法はいくらでもあるはずです。国際社会に向かって、堂々と9条を掲げた「国際協力」の道を探求することこそが私たちが採るべき道ではないでしょうか。私たち「平和への結集をめざす市民の風」は、“どんなことがあっても自衛隊の海外派兵には反対”という旗幟を鮮明にした「国際貢献」を探求することこそが平和憲法の国の「国際貢献」にふさわしいものだと考えます。
【注】
1: ISAFとは、アフガニスタンの治安維持を通じアフガニスタン政府を支援する目的で、2001年12月5日のボン合意に基づく国連安保理決議1386号により設立された国際治安支援部隊(International Security Assistance Force) - 国際平和活動のひとつです。当初は有志国の集まりからなる多国籍軍により構成されていましたが、現在は北大西洋条約機構(NATO)が統括しています。ISAFの作戦本部はアフガニスタンのカブールにあり、司令本部はオランダのNATOブロンソン連合統合軍司令部に置かれています。いずれも、欧州連合軍最高司令官(Supreme Allied Commander Europe: SACEUR)の指揮下にあります。
2: 「私が政権を取って外交・安保政策を決定する立場になれば、ISAFへの参加を実現したい」(『世界』11月号 p151‐152)「国連の平和活動は、たとえそれが武力の行使を含むものであっても、日本国憲法に抵触しない」(同 p151)
3: 深瀬忠一「現代国際法上の自衛権についての一考察−日本国憲法における自衛権の解釈のために」北大法学論集38(5−6上)
4: 民主党『憲法提言』(05年10月31日)「?.より確かな安全保障の枠組みを形成するために」「2.わが国の安全保障に係る憲法上の4原則・2条件」「(1)わが国の安全保障活動に関する4原則」「?国連の集団安全保障活動を明確に位置づける」
http://www.cc.matsuyama-u.ac.jp/~tamura/minnsyukennpouteigenn.htm#s05
5:安保理決議1441は全会一致で採択されましたが、5常任理事国のうち米英を除く3ヶ国、すなわちフランス、ロシア、中国は、同決議は「自動的開戦」を認めるものではないことを明確に主張しました。が、アメリカ、イギリスは同決議1441の文言を恣意的に解釈し、米英のイラク侵攻を正当化しました。
6: 「言うまでもなく、日本国憲法第九条は国権の発動たる武力の行使を禁じています」(『世界』11月号p149)「国連の平和活動は、たとえそれが武力の行使を含むものであっても、日本国憲法に抵触しない」(同 p151)という小沢氏の発言から類推できます。