食品安全委員会「放射性物質の食品健康影響評価に関する審議結果(案)」について

8月 27th, 2011 Posted by MITSU_OHTA @ 17:55:39
under 一般 [15] Comments 

食品安全委員会ワーキンググループによる「放射性物質の食品健康影響評価に関する審議結果(案)」について意見を提出しました。字数制限の関係で大幅に削ってありますが。

食品安全委員会:放射性物質の食品健康影響評価の状況について
http://www.fsc.go.jp/sonota/emerg/radio_hyoka.html

評価案はモデルに基づかないとしているものの、「低線量急性障害」、「内部被ばくと外部被ばくの影響の違い」がいずれもないという前提に立ち、ほぼ外部被ばくのデータだけで放射線の影響評価を行っています。

食物に含まれる放射性物質による内部被ばくの影響を評価したものにはなっていないのです。

● 7月26日食品安全委員会終了後の記者会見から:
http://www.foocom.net/secretariat/observer/4683/
「今年に摂った線量が、ただちにリスクを直線的にあげるのではない。累積線量がある程度以上になって発がん率が増加するという形をとる」
「内部被ばくと外部被ばくでは、生態に与える影響は同一ではないのではないかという議論もあった。しかしながら、広島・長崎のデータも含めてみていくと、必ずしもそうではないという結果が多い」(本当にそうか。であるなら内部被ばくで評価できるではないか)
● 評価案から:
「TDIに相当する摂取量のウランによる放射線量は、実効線量として約0.005 mSv/年に相当し(参考1参照)、十分低い線量であると考えられた。したがって、ウランの毒性は化学物質としての毒性がより鋭敏に出るものと考えられた」

以下、上記の重要論点について意見を述べます。

『死にいたる虚構―国家による低線量放射線の隠蔽―』(ジェイ・M・グールド、ベンジャミン・A・ゴルドマン著、肥田舜太郎、斎藤紀訳、2008年、PKO法『雑則』を広める会)は、原爆症認定集団訴訟で大阪高裁が低線量内部被ばくの影響を認めた際の科学的根拠にした文献の1つです。

この『死にいたる虚構』では、チェルノブイリ事故後、アメリカ各地でミルク中のヨウ素131濃度と全死亡率の増加率に相関関係が見られたことが示されています。線量反応関係は上に凸の形です。

ミルク中ヨウ素131の最高濃度はカリフォルニア州、ワシントン州の44pCi/l=1.6Bq/l(1ピコキュリー=0.037ベクレル)で、その他の核種を考慮してもかなりの低線量です。

ちなみにヨウ素131に関する米国の飲料水基準は0.111 Bq/lで、日本の暫定基準値は300 Bq/lと異常に高くなっています。

世界も驚く日本の基準値
http://happy-net.jp/uploader/kizyunti.pdf

またヒトと同様、食虫の小型の鳥についても、86年から87年にかけて、米国各地の減少率とミルク中ヨウ素131濃度に強い相関が見られたことが示されています。86年夏に雛鳥捕獲数が減少したのは、新芽や種を餌とする鳥のみで、(食物連鎖で放射性物質を濃縮していない)死んだ昆虫などを餌とするキツツキなどに影響がなかった。(同書第三章「沈黙の夏」)

低線量被ばくとその影響が現れる時期については、トンデルらの研究が参考になります。

原子力資料情報室通信 No.381 号 2006 年3 月
http://www.rri.kyoto-u.ac.jp/NSRG/seminar/No104/CNIC0602.pdf
チェルノブイリからの放射能汚染によりスウェーデンでガンが増えている?
京都大学原子炉実験所 今中哲二
原著論文:
M.Tondel et al. J Epidemiol Community Health 2004;58:1011-6.
M・トンデル 科学社会人間 No.95:3-7 2006 年1 月.

トンデルらはチェルノブイリ後のスウェーデンにおいて、セシウム137汚染により2年から10 年後という比較的短期間にがん発生率が有意に増加したことを示しています。

今中は大まかな見積もりとして、100kBq/m2 のセシウム137汚染を初めの2年間で10〜20mSvとし、トンデルらが見出した過剰相対リスクを1Sv当り5〜10としました。広島・長崎原爆生存者の場合、過剰相対リスクは1Sv当り約0.5 なので、スウェーデンの場合はその10〜20倍と極めて高い。やはりトンデルも、低レベル被ばくで効果が大きくなるモデルを考えています。

評価案ではPrestonらによる原爆被爆者の死亡率調査第13報の結果を「固形がんによる死亡のERR(過剰相対リスク)は被ばく線量0〜125 mGyの範囲の線量に対して線量直線性があるようにみえた(被ばく線量0〜100 mSvでは有意な相関が認められなかった)」と紹介し、生涯累積線量100mSvの根拠にしています。

http://www.rerf.or.jp/library/scidata/lssrepor/rr24-02.htm
原爆被爆者の死亡率調査 第13報 固形がんおよびがん以外の疾患による死亡率:1950−1997年(要約のみ)
Preston DL, 清水由紀子, Pierce DA, 陶山昭彦, 馬淵清彦
Radiat Res 160(4):381-407, 2003

しかし実際には、ERRは 0〜4.0Svで1Sv当たり0.47(対照と比べリスクが47%増加、p<0.001)、0〜0.2Svで0.76(p<0.003)、0〜0.125Svで0.74(p<0.025)と、線量が低下するほどERRが上昇しており、有意性はp=0.15と消失するものの、0〜0.05Svで0.93とさらに上昇しています。

原爆被爆者についても、低線量域において上に凸の線量反応関係(ペトカウ効果)を示しているのです。

広島・長崎の被爆者生涯調査
http://www.nuketext.org/kenkoueikyou.html

評価案では、白血病についても高線量外部被ばくによる原爆被爆者のデータを紹介しています。

しかし、入市被爆者の間に見られる白血病罹患率の上昇は、低線量内部被ばくの影響を含むと見なすべきで、これらのデータこそ評価案に盛り込むべきです。

原爆症認定訴訟名古屋地方裁判所判決(平成19年1月31日)
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070309095813.pdf
a 広瀬文男「原爆被爆者における白血病」(甲全12号証)
「非被爆者(全国平均)の白血病発生率は10万人当たり2.33人であるが,広島における爆発3日以内の入市者(8月6日ないし8月9日に入市)におけるその発生割合は9.69人,同4日から7日までの入市者(8月10日から8月13日に入市)における同発生割合は4.04人であった。」

47回原子爆弾後障害研究会
http://shoruisouko.xsrv.jp/kntk/4_ss2_kamada.pdf
日時:2006年6月4日
11.8月6日入市被爆者白血病の発生増加について
鎌田七男ほか

評価案ではインド・ケララ州の高自然放射線地域で発がんリスクの上昇が見られなかったとするNairらの研究も紹介しています。

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/19066487
Health Phys. 2009 Jan;96(1):55-66.
Background radiation and cancer incidence in Kerala, India-Karanagappally cohort study.
Nair RR, Rajan B, Akiba S, Jayalekshmi P, Nair MK, Gangadharan P, Koga T, Morishima H, Nakamura S, Sugahara T.

しかし、評価案中でも「地上γ線被ばくによるがんリスクの超過は認められなかった」とし、原著でも内部被ばくを考慮していないと記述している(Google検索: http://p.tl/etAO )ように、この研究結果を内部被ばくの評価に用いることはできません。

評価案では、生涯累積線量100mSvが閾値ではなく、「低線量の放射線による健康影響を疫学調査で検証し得ていない可能性を否定することもできず」としており、この100mSvは言語明瞭意味不明です。

生涯累積線量という概念そのものも問題です。小児がんのように人生の早い段階で死をもたらすケースで一律の生涯累積線量という概念は役立ちません。低線量内部被ばくの影響が最も早く現れる症状は何なのか、その時の線量はどのくらいか、を究明しなければ、(食品中の)放射性物質の影響を評価したことにはなりません。

100mSvを前提にしても、これを人生のステージごとにどう割り振るのか。丸投げされることになる厚労省も困るでしょう。

評価ワーキンググループが「入手し得た文献」の中にはバズビーらのものも含まれますが、「参考のサポート」扱いです。イラクやアフガニスタンなどにおける劣化ウランの影響も含め、低線量急性障害や低線量内部被ばくの影響に関する研究事例を虚心坦懐に一から再検討されることをお願いいたします。

太田光征
http://otasa.net/

「脱原発:政治の激動期と私たちの課題」集会

8月 21st, 2011 Posted by MITSU_OHTA @ 23:23:28
under 一般 1 Comment 

「脱原発:政治の激動期と私たちの課題」集会

・開催日時:9月23日(金曜・祭日)午後1時30分から
・会場:文京区民センター2A(地下鉄春日駅、後楽園駅下車)     
地図 http://www.b-academy.jp/faculty/c04_01_j.html?area=mainColumn
・参加費:700円
・集会内容

  :特別報告 脱原発で区長選を闘って 吉田万三 元足立区長 
   :選挙制度改悪と96条改憲   坂本 修 自由法曹団元団長
   :農民としての訴え   三浦草平 農民連青年部/南 相馬市在住
   :沖縄基地問題・日米安保の現状 糸数慶子 参議院議員 交渉中
・実行委員会構成団体 
  小選挙区制廃止をめざす連絡会
  政治の変革をめざす市民連帯
  脱原発の国民投票をめざす会
  平和に生きる権利の確立をめざす懇談会
  「平和への結集」をめざす市民の風
・賛同団体 
  命・地球・平和・産業協会  小池晃さんを応援する市民勝手連Q
  日本針路研究所  
・連絡先:脱原発の国民投票をめざす会
   〒112-0012 東京都文京区大塚5-6-15-401 
   保田・河内法律事務所内
   電話03-5978-3784

原発審査指針の見直しは完了しておらず、泊原発の再稼働は認められない

8月 12th, 2011 Posted by MITSU_OHTA @ 19:33:19
under 一般 1 Comment 

北海道知事 高橋はるみ 様
北海道庁・原子力安全対策課 御中
北海道電力社長 佐藤佳孝 様
北海道泊村村長 牧野浩臣 様
北海道共和町町長 山本栄三 様
北海道岩内町町長 上岡雄司 様
北海道神恵内村村長 高橋昌幸 様
内閣総理大臣 菅直人 様
経済産業大臣 海江田万里 様
原発事故担当相 細野豪志 様
原子力安全委員会委員長 班目春樹 様

原子力安全委員会の原子力安全基準・指針専門部会で、第2回安全設計審査指針等検討小委員会が8月3日に開催されました。

2011.08.09 安全設計審査指針等検討小委員会 第2回会合 速記録
http://www.nsc.go.jp/senmon/soki/anzen_sekkei/anzen_sekkei_so02.pdf

同小委では、今回の福島原発事故において、電源関係だけでも、地震の影響が遮断器の故障、ケーブルの損傷、電線の基礎の土砂崩れ、送電線の鉄塔の倒壊に及んだことが認められています。

また「直流電源の設置位置や構成、容量等が事故の進展とどのように関わったのか、現時点では十分必ずしも明らかになっておりません」と認めているように、安全設計審査指針の見直しに必要な事故分析が完了していないことは明らかです。

同小委ではまた、福島原発事故の分析とは別に、外部電源系統の一般的な機能喪失確率評価の結果(2006年)を原子力安全基盤機構の飯島氏が説明しています。しかし、例えば鉄塔については地盤側の損傷を考慮せず、鉄塔の座屈のみを評価対象にしており、不十分なシミュレーションになっています。

同じく原子力安全基盤機構の西尾氏が津波に関する確率的安全評価(PSA)手法(2007年)を説明しているものの、ここでも地震の影響を考慮していません。

この日の同小委では、焦点である安全設計審査指針の27「電源喪失に対する設計上の考慮」で全交流動力電源喪失事故が「短時間」しか考慮されていない点について、これを改めるという合意に至っていません。

福島原発事故の詳細な分析を待たなくとも、指針27の「短時間」は修正されてしかるべきです。

一方、同部会の第2回地震・津波関連指針等検討小委員会も8月3日に開催されています。それによると、主として耐震設計審査指針の見直し検討を進める同小委は「速やかに改定等が必要とされる事項については、その都度、原子力安全基準・指針専門部会に報告する」とあるものの、「平成24年3月を目途に、まずその時点までの論点等を整理し報告する」と、かなりのんびりした見直しスケジュールを組んでいます。

2011.08.05 第2回地震・津波関連指針等検討小委員会 速記録
http://www.nsc.go.jp/senmon/shidai/jishin/jishin2/jishin-si02.htm

以上のように、福島原発事故の教訓を受けて各種指針を見直し、それらに照らして審査を行うべきはずですが、それはとても無理な状況にあります。

加えて、泊原発の場合も大地震に見舞われる可能性が指摘されています。

1993年に北海道南西沖地震が発生しましたが、その震源域の北側に約50キロ」メートルにわたって地震の空白域があることが、産業技術総合研究所の潜水船調査で分かりました。

また、東洋大学の渡辺満久教授らも、泊原発の西約15キロメートルの海底に60~70キロメートルの活断層があることを発見しています。(以上、広瀬隆『原発震災の真実』より)

そもそも、原発の本質は過酷事故だけではなく、通常稼働による低線量内部被ばくを強制する点にあり、その被害は甚大です。原発は過酷事故を起こさなければ認めてよいというものではないのです。

放射性廃棄物を安全に100万年にもわたって管理できる見通しはまったく立ちません。「見通しのない脱原発」などという認識はまったくの的外れです。脱原発は危険を最小化するための唯一の選択肢であり、責任ある立場の人は脱原発を表明しなければなりません。

泊原発の営業運転再開は認めないよう、なさらないよう、お願いいたします。

太田光征
http://otasa.net/

[参考文献]

『死にいたる虚構―国家による低線量放射線の隠蔽―』(ジェイ・M・グールド、ベンジャミン・A・ゴルドマン著、肥田舜太郎、斎藤紀訳、2008年、PKO法『雑則』を広める会)
『低線量内部被曝の脅威―原子炉周辺の健康破壊と疫学的立証の記録』(ジェイ・マーティン・グールド著、肥田舜太郎、齋藤紀、戸田清、竹野内真理訳、2011年、緑風出版)
『人間と環境への低レベル放射能の脅威―福島原発放射能汚染を考えるために』 (ラルフ・グロイブ、アーネスト・スターングラス著、肥田舜太郎、竹野内真理訳、2011年、あけび書房)

西岡由香さんの福島訪問記

8月 4th, 2011 Posted by MITSU_OHTA @ 0:43:09
under 一般 No Comments 

西岡由香さんの福島訪問記を転載します。

太田光征

こんにちは、長崎の西岡です。

(いくつかのMLへの重複お許しください)

おととい、昨日と福島に行ってきました。

黙示録の断面に触れたような・・様々な思いが私の中に

渦巻いています。

舌足らずですが報告記、ごらんいただけたら嬉しいです。

7月31日、雨。福島駅前で開かれた原水禁大会は、全国から

集まった人波1800人で埋まりました。駅前広場の空間線量は、

安全とされる0.1マイクロシーベルトの10倍の1マイクロシー

ベルト/時間。誰かが「歴史上初めて、放射線管理区域内での

集会だ」って。

地元の方々が次々にマイクを握って訴えました。

「福島県民200万人のうち20万人が県内避難をし、根なし草に

なってしまった。逃げ回るうちに心身ともに疲れ、病み、

福島全体が疲れている。屋外活動を禁止されている子どもは

10万人。去年は福島に530校の修学旅行があったが今年は30校。

福島は夏競馬があり、競馬場の表土を入れ替えることになったが、

学校や保育園は未着手。私たちは競馬馬よりひどいのか。

放射能を恐ろしいと感じるのは、その人の感性と想像力と知識に

よって感じ方が全く違う。そのことで人々の間に格差が生まれ

ている。事故以来、病人は3倍多く亡くなっているし、希望を

失った酪農家や農家の自殺など、数字に表れない犠牲がある。

飼育していた豚はとも食いをしながら餓死していった。

数字に表れている死はほんの一点にすぎない。子どもに「将来の

夢」の作文を書かせても書けなくなった。放射能は夢や希望までも

奪い去ってしまった。原発ほど、世代間不公平を作り出すものはない。

「この時期なら見えるはずの水田が見えないんです。

いつもなら青々とした田んぼが水をたたえているのに、40km四方、

去年刈り取った稲株がそのまま白く腐っている。沈黙の春です。

日本人がはるか昔から途切れず続けてきた農作の糸が切れてしまった。

祖先に対して償いきれない」

福島市内のホテルに宿泊し、翌日、希望者80名で南相馬市と
飯舘村に向かいました。

月曜日の朝というのに学生の姿も、出勤する人々の姿もほとんど

見かけません。時々見える人はほとんどがマスクなし。福島駅前から90分

ほどで南相馬市役所に到着し、すぐに桜井市長のお話が始まりました。

「市長になって2年目ですが、南相馬市がこんなに有名になろうとは。

毎日、背筋が凍る思いで過ごしています。71000人の市民のうち3万人

が町を離れた。小中学生は6千人だったが今は2300人。受験生を持つ

親は来年募集があるのか、まだ決まっていない。一番苦しんでいる

のは一般市民。この国は学校現場で放射能の勉強をさせない方向で

きたのではないのか。国からは「10km圏外は防災計画を持っては

ならない」と言われてきた。母親たちは「1ミリシーベルトでも

帰れない」と言う。福島市でも夏休み中2千人が転校する。

3月11日後、南相馬は電気も電話も通じない陸の孤島となり、国から

原発事故の連絡がきたのは3月17日、東電からは3月22日。日本の

メディアは放射線が怖いからかすべて去っていき、かわりに外国の

メディアがどんどん入ってきた。南相馬市は原爆が落ちたような

恐怖心の中に皆が置かれている。市長として3月15日、独断で住民

避難をさせた。その中には未だに戻れない住民もいて「避難させら

れたんだから補償しろ」という住民もいる。原発からの距離で、

国の補償額は線引きされていて、住民同士に補償格差が生まれている。

邪推かもしれないが、住民をズタズタにする戦術かもしれない。多く

の住民がいま闇の中にいる。彼らの気持ちにそい、現場から発信して

いかなければ。世界史的な災害だからこそ、世界史的な復興を

とげることが大切」

市長のお話は20分。すぐ次の用事へと発って行かれましたが、会場

からは「各都市が“非核都市宣言”のように“脱原発都市宣言”を

しては」という意見も出されました。

そして飯舘村へ。

家の中に洗濯物を干している一軒以外は、ほとんどカーテンが閉められた

主のいない家が連なっていました。

突然断ち切られた時間のはざまに、村全体がぽっかり浮いている

ようでした。

空間線量4.24マイクロシーベルト。

地面に線量計を置くといきなり上がり始めて26.8マイクロシーベルト。

雨どいの下 112マイクロシーベルト。

顔を覆いたかった。私たちは、限りない恩寵を人に与えてくれていた

自然に対してなんてことをしてしまったんだろう。

「花をさわるな」と言われて育つ子どもたちや、自然から切り離さ

れたヒトはもはやヒトではない何者かに変容していくんじゃない

だろうか。

たった数分いただけでも怖かった。放射能は、「得体の知れない

恐怖そのもの」でした。人々が恐怖と疲弊のあまり警鐘に耳をふさぎ、

「安心安全」に頼ろうとしても、それを頭ごなしに責めることは、

もう私にはできない。

飯舘村。

原爆の焦土が終末的空間なら、ここはいったいどこなのだろう。

人の寿命と放射線の寿命。この世の時間と、この世ではない時間の

かさなり。石牟礼道子さんは水俣を「苦海浄土」と呼んだけれど、

ここは「陸の苦海浄土」だ。

人がいなくなった村に、白や赤い花々が風に揺れていました。

長崎へ帰る飛行機のイヤホンから、バッハの「G線上のアリア」が

流れてきました。バッハは300年後の人々に聖水のような旋律を

届けてくれた。私も、未来の人々に一滴の聖水を届けるような

作品が描けるだろうか。

答えを探す旅はこれからです。

西岡由香