吉岡 滋子
教育基本法改悪案が強行採決によって成立させられてしまいましたが、この間の経過を振り返るなかで思ったことを記しておきます。
まず、どうして「成立」という結果になったのか?相手が安倍政権という道理の通らない極右勢力であるため、強引に強行されてしまったということはだれしもが認めるところでしょう。だからといって「しかたがなかった」で済ませてしまっては、迫り来る改憲勢力との対決において、また同じように彼らの攻勢に対して有効な手を打てないまま、ずるずると押し切られてしまうということにもなりかねません。
ここは多少つらくとも、「どうして『成立』という結果に至ったのか?」を自らにひきつけて考えておいた方が良いと思います。以下、雑駁ではありますが、敗北の要因と思われる点をあげてみました。まず第一に残念ながら取り組みが遅かったと思います。「全国連絡会」は確か3、4年前から超党派で全国集会を成功させ、組織の違いを超えて共に闘うことをよびかけていました。私たちも地元柏で千葉学校合同という小さな組合ですが、4年前の2002年の11月には柏駅頭で、教育基本法について「改悪の動きを止めよう」と訴える駅頭宣伝を行いました。翌々年の2004年には、地元のほかの教職員組合や教科書問題の団体にも「駅頭宣伝を共にやろう」と声をかけましたが、積極的な返事はなく単独での行動をせざるを得ませんでした。共同の行動は今年の6月ごろにようやく実現しましたが、遅かったという感想はぬぐえません。さらに付け足せば、2000年か2001年ごろには広島のグループの方から「教基法改悪反対」の署名集めの情報をもらい、周りの教員関係者に話をしてみましたが、教基法そのものが自分たちの切実な問題(例えば休憩時間もほとんど取れない超過勤務の問題など)や目の前の深刻な教育の諸問題には直接関係ないというように写ってしまい、具体的な取り組みにまでは至りませんでした。
私個人は「こんなんで大丈夫なのか?もうすぐ改悪の動きが始まろうとしているというのに」と不安を覚えたのは確かですが、大きなうねりを起こす力は私にはありませんでした。まず当事者自身が改悪の本質を見抜いて起ち上がらない事には、事は始まらないだろうと思います。教基本法は現場では無視をされ、使われてこなかったという不幸な歴史があり、学校関係者は教員・子供・保護者それぞれがその恩恵をそもそも受けていないという背景があります。だから、「教育」というとあまりいい思い出を持っていないおおかたの市民にとっては、目の前で起きる犯罪と基本法を結び付けられて「変えよう」とと言われると「変えればいいんじゃないの?」という感想・意見がでてしまうのでしょう。話は逆なのですが、長年の間たなざらしにされていたために、大切に扱おうという人々が大きな力を持てなかったというところかもしれません。
その前提として教基法を守ることをスローガンにしていた日教組が連合結成後に分裂をし、11年前には文部省と和解していることも大きな要因に挙げられます。これらの不利な条件を考えるとむしろよく闘ったということになるのかもしれません。この反対運動で、共同の闘いが少しでも組めたことは財産だと思います。
ただし、中央では最後まで合流はできなかったというべきでしょう。全国連絡会は組織の違いを超えて結集を呼びかけていましたが、分かれている各勢力が一斉に国会を取り囲むという行動は実現できませんでした。もし数万人の規模で国会を取り囲み、座り込むという行動が実現していればまた情勢は変わっていたかもしれません。
6月に柏で憲法の講演会をした時、講演者の渡辺治は「60年安保の時のように社共共闘ができれば改憲阻止の展望はある」と言っていました。この講演会は多くの聴衆の心をつかみ、講演後の著書販売コーナーでは著者の本を奪い合うようにして買っていく参加者の姿が印象的でした。この提案は当然の話ですが、残念ながらこの時期に及んでも党派の利害なのか、一致した行動提起はなされませんでした。自分たちの利害をいっている場合ではないということに、本当に早く気づいてほしいと切実に思います。
マスコミはいくつかの例外を除いて、犯罪的な役割を果たしたといってもよいのではないでしょうか?
この事実は歴史に刻まれるべきでしょう。
さて、今後に向けての話になりますが、改憲させないための取り組みにはなにが必要か?を考えなくてはいけません。
ここから引き出せる教訓としては、憲法「改正」が一般大衆の生活から遠い話だと思われないように、いかに身近な生活に直結していることなのかを説得力のある話し方でどれだけ広められるかということではないでしょうか?
平和の課題は実は労働現場の苛酷な状況、高齢者の苦しい生活、子供たちや若者たちの苦しい状況とつながっているということをどうやって説明できるのか?例えば子供たちの問題、教育の問題は、改悪された教育基本法によって子供たちの状況や学校教育がどんな風に悪くなるのかを説明していくことが必要でしょう。 また、憲法から受けた恩恵についても訴えていく必要があるでしょう。まず、ともかくも戦後、戦争に巻き込まれず平和だったことと、男女平等になったことの二つはすぐ思い浮かびます。後者はあまりクローズアップされていませんが、現在の女性にとっては憲法24条「男女平等」の規定は大きなプレゼントです。この点はもっと宣伝した方が良いでしょう。
さらに付け加えれば「共同の行動をどれだけ作り出せるか?」も大切になります。影響力の大きい党派や、動員力のある市民団体などにおかれましては、早く「自分が一番」というような意識を払拭していただき、どうやったら運動が大きく拡大できるか?という立場にたっていただきたいと切に願います。
これは選挙についてもいえることです。
来年は参議院選挙があります。基本法の改悪案が、私達の必死の運動及び「慎重に審議せよ」という多数の世論を無視して、強引に可決されてしまったのも、国会内の多数派を自民・公明がにぎっているからだという当たり前の事実が明らかになりました。これが明白になった以上、来年の参議院選挙はゆるがせにすることはできません。
改憲阻止をまじめに考えるならば、来年の参議院選挙が大きな節目になることは誰にでも分かるはずです。そのときに共産・社民にできるだけ多く入ってもらうことと、安倍政権を交代させることを同時にやらねばならないと思います。なぜならば、今の安倍政権が続くことを許してしまえば、改憲の速度はスピードを速め、阻止する手立てを講じる前にやられてしまう可能性が大きいと思うからです。
今の野党共闘(国会の最後で問責決議案の提出をめぐって不信が芽生えたといわれていますが)を崩さず選挙でも共同の取り組みを是非やってもらい、共倒れ・相討ちということをしなくても済むようにしてもらいたいですね。結果としてできるだけ多くの野党議員に議席を占めてもらい、(共産・社民に増やしてもらいたいものです)安倍政権を退陣に追い込みたいと思いませんか?
そう簡単にできるわけがないという声が聞こえてくるようですが、はじめからあきらめていたらとんでもない状況がさらに続くのです。社民党の保坂展人議員が確か次のようなことを言っていました。(「金曜日」)「あきらめたい人は亡命でもしてください。やつらはもっと酷いことをしようと考えているから」と。確かに残業代ゼロにするホワイトカラー・エグゼンプションの導入、派遣社員の固定化や、労働組合の団体交渉権を、従業員の中で組合員数が一定比率以上の組合にのみ与えるという法制度の改悪の数々を見ているだけでもぞーっとしてくるではありませんか?やりたい放題になっているのですから、本気になって止めにいかなければ、どうなるか分かったものではありません。
安倍政権を退陣させることができれば、教育基本法についても見直し・やり直しの可能性が出てくると思います。私が参加している「『平和への結集』のための市民の風」は、来年の参議院選挙について、各野党に共同で取り組もう・共同候補を出そうというよびかけをしています。是非、お読みいただき私達の運動に賛同し、ご参加下さい。多くの市民の協力なくして前に進むことはできません。ぜひお願いいたします。
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on 金曜日, 12月 22nd, 2006 at 22:29:45 and is filed under 一般.
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12月 27th, 2006 at 18:11:32
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1月 14th, 2007 at 16:14:08
吉岡さんも子どもに責任ある大人として行動してきてくださったのですね。教育基本法は改悪されてしまったけれど、その理念をどこまでも守っていくことがいよいよ大事に
なってきました。昨日野田正彰さんの話にもありましたが、個人の「自由」のない社会は壊れていくのみ、と私も思います。子どもが分裂した人格にならぬよう、大人同士がしっかりスクラムを組んでより頑張って行かざるを得ないと思っています。
1月 14th, 2007 at 16:38:47
教育基本法の理念をあくまでも守っていく、それしかないと思っています。
2月 1st, 2007 at 23:25:49
教育基本法は変えてはいけない!!!!…
教育基本法の「改正」については、様々なところで様々な人がもっと慎重に議論すべき・「改正」案は間違っているという声をあげています。 もちろん世の中には賛成してる人もいます (more…)
2月 20th, 2007 at 12:48:49
TBありがとうございます。
風のMLで拝見して、「これはたいへんなことだ!」」といても立ってもいられず、
転載させていただきました。
私自身は、二階氏が「与党単独採決も辞せず」と言った時に、自民と公明の議院運営委員長に電話して「こんな重要法案を審議する前から単独採決を決めるのは、民主主義に反するのではないか」と言っておきましたが・・・。
与党がこれだけ大量議席を持っていて、内閣があの通りタカ派だと、もう何が起こるか心配でたまりません。
1月 13th, 2020 at 5:02:41
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1月 13th, 2020 at 7:30:29
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