定数配分の格差(1票の格差)の理解のために

【要旨】

現在の小選挙区制のように単純な相対多数代表制(得票率30%などでも得票率第1位なら当選)の場合、1票の価値は選挙区と選挙区の間ではなく、選挙区内の力関係で決まり、定数配分の格差の是正でも有権者1人が当選に影響を与えることができる候補者数は1人なので、定数配分の格差を是正しても、投票価値に変化はあまりない。
投票価値に違いが生ずるのは、地域によって政党支持率などに違いがあり(中国地方で自民が強いなど)、そのような地域に定数が偏って配分されるような場合に限られる。
そうでない場合、定数配分の格差は、単に地域選出の議員が人口ないし有権者数当たりで多いか少ないかという地域属性の問題であって、有権者一般の1票の価値の属性とは言えない。
比例区ブロックの場合、定数配分の格差があれば、これこそ当選者数に影響を与える1票の価値の格差といえる。

【参考】
選挙権関連の格差は「定数配分の格差」だけではありません〜「0増5減」は無所属候補に対する差別を拡大する〜
http://kaze.fm/wordpress/?p=468

まず、原告の山口邦明弁護士グループが正しく主張しているように、「1票の格差訴訟」ではなく「定数是正訴訟」と呼ぶべきだ。

「1票の格差」訴訟の意義
http://kaze.fm/wordpress/?p=451
2013/03/26 「一票の格差」訴訟 東京高裁「違憲」判決 記者会見
http://iwj.co.jp/wj/open/archives/70047

また、2012年の最高裁判決も、法の下の平等を「選挙権」「投票の有する影響力」「投票価値」に適用しているのであって、投票価値の格差が定数配分の格差だけだと判断しているわけではない。

平成23年(行ツ)第64号 選挙無効請求事件
平成24年10月17日 大法廷判決
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20121017181207.pdf
「憲法は,選挙権の内容の平等,換言すれば,議員の選出における各選挙人の投票の有する影響力の平等,すなわち投票価値の平等を要求していると解される」(7ページ)

以下、現在の小選挙区制のように単純な相対多数代表制(得票率30%などでも得票率第1位なら当選)の場合の話。

自民党支持の有権者9人と民主党支持の有権者1人の1人区Aと、自民党支持の有権者90人と民主党支持の有権者10人の1人区Bがあるとする。メディア用語で言うところの「1票の格差」(定数配分の格差)は選挙区Bがひどく、選挙区Bの有権者の「1票の価値」は選挙区Aの有権者のそれより小さいとされる。

そうだろうか。選挙区Aでは、自民支持者と民主支持者の1票の影響力は、(9分の1)対(1分の1)、選挙区Bでは、(90分の1)対(10分の1)=(9分の1)対(1分の1)で、選挙区Aと何ら変わらない。

候補者を当選させる1票の影響力は、選挙区と選挙区の間の候補者当たりの有権者数で決まるものではなく、1つの選挙区の中で、どの候補を支持する票かで決定される。

日本全体で見れば、自民党の支持率がトップだから、選挙区の有権者数が多いほど、自民に有利であることは確率的に明らかである。

一般的に、選挙区当たりの有権者数が少ない方が、自民候補より非自民候補の当選確率が高まるだろう。

例えば、2013年参院選沖縄選挙区で糸数慶子氏が当選したが、もしも沖縄選挙区が鹿児島選挙区などと合区されていれば、自民候補が当選していた確率が極めて高い。

だから、定数配分の格差の是正は、投票価値の実質的な格差をまったく是正しないとも言えない。

ただ、31しかない参院小選挙区とは違って衆院小選挙区のように300も選挙区がある場合、2倍程度+の定数配分の格差を是正したところで、各党の当選確率が変化するかどうか、分からない。

選挙区の違いによって政党支持率などに違いがあることを前提に、「定数配分の格差」(選挙区の間で候補者当たりの有権者が異なること)は実質的な格差をもたらし得る。自民が強い中国地方で候補者当たりの有権者数が少ない、従って定数が多いことが問題となる。

選挙区の違いによって政党支持率などに違いがない場合、選挙区の間で「定数配分の格差」があっても、「1票の価値の格差」が生じるわけではない。

選挙区の違いによって政党支持率などが著しく異ならない限り、定数配分の格差は、単なる地域代表性の格差(ある地域の有権者数当たりの議員数と別の地域の有権者数当たりの議員数の格差)に他ならない。

中国地方や四国地方から1人区の議席1人分を東京や千葉に持ってきても、東京や千葉の有権者が等しく1票の影響力が高まったといって、喜べるわけでもない。1議席当たりの有権者数が少なくなるので、全国レベルで優位にある自民の落選確率が少しは高まる可能性があるが。

1人区で1人の有権者が1票で影響力を行使できるのは、候補者1人の当選だけだ。定数配分の格差が是正されても、それは変わらない。単に都市部選出の議員が増えるだけであって、それは1票の価値が高まったことが原因ではなく、単に議席の割り当てが増えたからに他ならない。

1人区における定数配分の格差は、有権者の1票が持つ属性ではなく、その選挙区が含まれる地域の属性であると言った方がいい。

定数配分の格差が意味を持つのは、1人区ではなく、複数定数区や比例区ブロックの場合。格差の是正で死票率や党派の議席占有率の変化につながる確率が高まる。

一票の格差は比例代表制で解消するしかない
http://kaze.fm/wordpress/?p=142

例えば、2007参院選。有権者数からいって千葉選挙区が定数3なら大阪選挙区は定数4であるべきだった。が、定数3であるために、千葉選挙区で得票数477,402票の加賀谷健候補が当選し、大阪選挙区で次点4位の宮本岳志候補が得票数585,620票で落選した。

今回の参院選の大阪選挙区で共産党の辰巳孝太郎候補が4位で当選したのも、まさに定数配分の格差是正のおかげといえる。

1票の格差とは何か
http://kaze.fm/wordpress/?p=381#disparity2

衆院の11ある比例区ブロックで、有権者当たりの定数が異なれば、「議員1人を当選させるに要する票数」が異なるから、この場合こそ正しく定数配分の格差が1票の価値の格差になる。

太田光征

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