野党分裂選挙と不毛な対立を民主的に終わらせるには

5月 31st, 2009 Posted by MITSU_OHTA @ 21:46:46
under 選挙共同の結集軸としての選挙制度改正 [20] Comments 

 首長選挙を含む全ての1人区選挙で採用されている単純小選挙区制は、最も好まれた候補者の選出さえ保障しない虚構の制度です。単純なコンドルセのパラドックスというカラクリに由来するものですが、政治史上長いこと無視されてきました。

 2009年千葉県知事選挙の例で説明しましょう。森田氏の得票率は45%でした。森田氏以外に投票した残る55%の人全てが、森田氏よりも吉田氏を好んだと仮定します。吉田氏より森田氏を好きだとする投票者は、したがって、全体の45%しかいないことになります。この場合、森田氏の当選は明らかにひっくり返ります。

 このように、森田氏がウソをつかなかったとしても、当選が正当であったか疑問です。現行の単純小選挙区制は、過半数を超える得票率を獲得する候補者が現れない限り、真の選好順位を測定できないのです。

 私たちは、選挙でも何でもない小選挙区選挙に延々と付き合わされてきました。選挙制度の改正はまったなし、最優先の政治課題です。

 議会選挙は、主権者1人ひとりの代理人を選ぶ機会であるべきだから、小選挙区制を議会選挙に適用することも不合理です。全野党は、議会選挙における小選挙区制の廃止と、首長選挙における単純小選挙区制の改正を統一政策に掲げるべきです。そして野党連合で総選挙に勝利し、選挙制度を改正しなければなりません。

 選挙制度を改革する責任は全野党にあります。選挙制度改革への結集が必要です。一番単純なモデルは、「選挙制度改革内閣」でしょう。選挙制度改革のみを総選挙で問い、選挙制度を改正したら即解散し、総選挙を行うものです。

 選挙制度改革への結集という潮流が、野党分裂選挙と不毛な対立を終わらせることにもつながるでしょう。民主党が正当に小選挙区制の廃止を公約すれば、共産党や社民党が選挙方針を変える可能性があるからです。

 民主党の議会勢力は、民意を反映したものではなく、小選挙区制により水増しされたものです。民主党は小選挙区で「無条件に勝って当然だ」「議席数を水増しして当然だ」という民意は存在しないか、あっても合理性に欠きます。

 民主党候補を小選挙区で「やむを得ず勝たせる」のは、自公に勝つためであって、民意に反して民主党の議席数を水増しさせるためではありません。野党支持者の民意は、政権交代を果たすと同時に、民主党が不当に獲得した議席を小数政党に返還することにあるのです。この2つの要請は、選挙区すみ分け投票で実現します。またこれが政権交代の最も確実な方法であり、野党連合を形成することで小選挙区制廃止への道筋をつけることにもなるでしょう。

 共産党や社民党は小選挙区で「無条件に候補者を立てるべきではない」とする見解は、小選挙区制の偽装性と民主党の議席水増しを容認し、野党支持者の民意を矮小化するものです。差別がここに存在します。

 共産党などに小選挙区で候補者を立てるなという要求を突きつけるのであれば、民主党にも、小選挙区制の廃止を公約せよとか、小数政党に正当な議席数を保証するために比例区枠を小数政党に移譲せよ、などと要求すべきでしょう。それが野党支持者の民意に適うことです。

 民主党にも分裂選挙を回避する責任があります。共産党などに対する圧力一辺倒は、民主党を免責し、選挙制度改革の必要性を覆い隠す働きをします。民主党に対して選挙制度改革への結集を要求することで、野党支持者の民意を反映した全野党選挙共同への展望が開かれるでしょう。
 
 
太田光征
http://otasa.net/

[参考]

選挙制度改正運動としての選挙区すみ分け投票の勧め
http://kaze.fm/wordpress/?p=268
2009千葉県知事選――森田氏「偽装勝利」の可能性を残す単純小選挙区制のカラクリ
http://kaze.fm/wordpress/?p=265
小選挙区制の廃止へ向けて
http://kaze.fm/wordpress/?p=215

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世襲制限の立法化は壊憲クーデター

5月 26th, 2009 Posted by MITSU_OHTA @ 0:20:31
under 一般 [5] Comments 

1. 政治改革詐欺としての世襲制限論議
2. 世襲制限論議から選挙制度改悪第二幕へ
3. 世襲制限の立法化は壊憲クーデター
4. 政治論議で主権を切り崩す罠にはまらないために――「政治改革」ではなく、「主権保障」を

政治改革詐欺としての世襲制限論議

 国政選挙での世襲を制限する議論が盛んですが、世襲制限については早くも抜け穴が考えられています。世襲候補を無所属で立候補させ、党県連が応援し、当選後に追加公認するという手です。実際、小泉純一郎氏の世襲選挙区でその可能性が指摘されています。

 「別の候補を立てなければ票は割れない。選挙に多少不利でも無所属で出馬し、当選後に追加公認される可能性が十分にある。しかも次男は自民党神奈川11区の支部長にとどまり、政党支部で企業・団体献金は受けられる。党執行部は刺客を送る考えはなく、県連が事実上支援することも黙認する方針だ。」(5月22日付け朝日新聞)

 千葉県知事選で森田健作氏が完全無所属を装い、自民県議多数の応援で当選し、当選後に自民党べったりであることを公然と認めたのとソックリです。

 世襲の制限といっても、その中身は、新人の世襲候補について、「同一選挙区から連続して立候補する場合は公認しない」(自民)「同一選挙区から連続して立候補するのを認めない」(民主)というもの。隣の選挙区からの立候補や、麻生首相のように間を空けた選挙での立候補を制限するものではないのです。メディア時代の今日、それで世襲制限というのは無理でしょう。

 
世襲制限論議から選挙制度改悪第二幕へ

 民主党の世襲議員は全体の約1割とのこと。それほど多いとはいえないでしょう。世襲制限というのは、要するに、非世襲の自民党議員を選びたい、という要望に応えるものです。またぞろ自民党改革のための政治改革論議が持ち上がっているのです。

 いわゆる政治改革論議が小選挙区比例代表並立制の導入にすり替えられた90年代初頭を思い出します。金権腐敗をなくすなどと理屈をつけて、主権者の主権を侵害する小選挙区比例代表並立制が導入されてしまいました。

 選挙制度は、政治改革なかんずく自民党改革の道具ではありません。小選挙区制は、西松建設や熊谷組などが設立した偽装政治団体による企業献金を防げませんでしたが、自民の延命には見事に成功しました。主権者の主権を具体的に保障するための選挙制度が、政治改革詐欺の犠牲になってしまったのです。

 世襲制限が、議員定数(比例区定数)の削減とセットで語られていることに注意しなければなりません。国会議員はけしからんという世論が世襲制限論議で高じることで、比例区定数の削減をスムーズに進めやすくなります。

 自民と民主による見せ掛けの政治改革競争が、自民のさらなる延命に貢献する比例区定数の削減に収斂する。主権者の主権を侵害する選挙制度改悪の第二幕です。

 民主党は「行革」の一環として、議員自ら身を削るということで、マニフェストに衆院比例区定数の削減を盛り込もうとしています。自民党の菅義偉選対副委員長も「自民党が体質を変える覚悟として、自らの身を削ることを国民に約束することが必要だ」(5月24日 時事通信)として、議員定数の削減を主張しています。

 しかし比例区定数の削減は、決して自民と民主の身を削ることになりません。小数政党の身をさらに削ることで――主権者の主権を切り崩して――自民と民主の立場を安泰にする仕掛けなのです。

[参考]
比例区定数が100に削減された場合の衆院選比例区シミュレーション
http://kaze.fm/wordpress/?p=229

 自民と民主が自分の身を削りたいなら、小選挙区制を廃止して、民意を反映する選挙制度に改正すればよいのです。

 
世襲制限の立法化は壊憲クーデター

 世襲制限は、政党の内規で規制するだけなら私も歓迎しますが、これを立法でということになると、困ったものです。憲法で保障された職業選択の自由を明らかに侵しますから。

 民主党新代表の鳩山由紀夫氏も、必ずしも世襲制限の立法化を否定していません。「公平公正というもの、こういう観点から私どもは例えば法案を作るべきではないか、ということでございまして、従って国民のみなさんに望ましい政治風土を作っていくために公平公正な立場に立てるような、そんな選挙のプロセスを作り上げていきたい。という思いで世襲議論をしているところであります」(5月16日付け産経新聞)

 もしかしたら、ここで言う「法案」が、政治資金管理団体の相続を禁止する法案のみを指すのかもしれません。それでも、世襲制限に当たって立法化を排除するとの明確な方針は、自民・民主のいずれからも出されていません。

 例えば旧教育基本法の改悪という壊憲はけしからんが、世襲制限の立法化という壊憲は容認できる、というようなダブルスタンダードはいけません。世襲制限の立法化は、自公民による一連の立法壊憲と何ら変わらないではないですか。

 主権者が自ら憲法機能の空洞化に加担することは自殺行為です。これは、労働条件に関して、正規雇用者と非正規雇用者が、いわゆる「下向きの平準化」「底辺に向かう競争」を競い合う様に似ています。相手方の労働条件の切り下げが自分にも跳ね返ってくるという構造は、気付きにくいものです。世襲議員を駆逐したつもりが、主権の拠り所である憲法をズタズタにしていた、では笑うに笑えません。

 
政治論議で主権を切り崩す罠にはまらないために――「政治改革」ではなく、「主権保障」を

 主権者と護憲政党である共産・社民などは、壊憲クーデターである世襲制限の立法化に反対し、あくまでも政党内規で対応するべきだ、という論に組みするべきです。

 さらに、世襲制限論議を選挙制度改悪ではなく、選挙制度改正の足がかりにする。小選挙区制では、同一政党から1人の候補者が立つのが普通なので、支持政党の候補者を重視する主権者は、世襲候補が立てば選ばざるを得ません。同一選挙区で同一政党から複数の候補者を立てられるようにすればよいのです。そうした選挙制度の1つとして、中選挙区比例代表併用制を提唱しています。

[参考]
中選挙区比例代表併用制を提案する
http://kaze.fm/wordpress/?p=164

 世襲候補を排除する決め手は、世襲候補を擁立しない第三極を確保することです。自民党改革はウンザリ。その点でも、自民と民主に不当に有利な小選挙区制を廃止する必要があります。

 政治家を懲らしめようとするから、世襲制限という発想になり、壊憲と選挙制度改悪の形で、主権者が自ら墓穴を掘ってしまいかねない。そうではなく、目を自らに向ける。選挙制度改正により、主権者の主権を正当に保障することで、主権者が主体的に世襲候補を排除できるようにすればよいのです。

2009年5月25日

太田光征
http://otasa.net/

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選挙制度改正運動としての選挙区すみ分け投票の勧め

5月 8th, 2009 Posted by MITSU_OHTA @ 23:23:55
under 選挙制度 , 選挙制度修正投票 [5] Comments 

 

政権交代の需要に依拠した選挙区すみ分け投票が野党連合を促し、
小選挙区制の廃止と平和共同候補の擁立、
第3極の形成に道筋をつける
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 1人区でどう平和共同候補を実現したらよいのか。平和共同候補と民主党候補が対立してよいのか。平和共同候補が、野党の分裂選挙と敗北を助長することがあってはいけません。平和共同候補は必ず勝てる候補でなければならず、全野党統一候補が理想です。

 第3極候補ないし平和共同候補を民主党候補と対立させてでも、第3極の形成や、9条派3分の1突破を図ろうとするアプローチは、将来見通しが立ちません[参考1]。何十年かかるのか、何世紀かかるのか分からない。

 小選挙区選挙を利用して第3極議員を増やすには、時間がかかります。したがってその前に、民主党の単独主義を牽制する全野党連合を早急に確立しなければなりません。全野党連合が形成されれば、全野党統一候補の擁立も可能になります。

 小選挙区制の米英などで第3極が台頭する兆しは見られません。小選挙区制の廃止が第3極形成の現実的な条件ではないのか。小選挙区制の廃止も、野党連合の枠組みが作られることで道筋がつけられます。少数政党を抹殺する仕掛けであり、かつ政権交代を阻害することがある小選挙区制――2005郵政選挙の小選挙区で、与党は49%の得票率で76%もの議席を獲得――は、野党連合の理念に反するからです。

 最も好まれた候補の選出すら保障しない小選挙区制は、選挙制度ではありません[参考2]。 主権を侵害する小選挙区制の廃止は、主権者にとっても最重要の政治課題です。小選挙区制の土俵に素直に乗ってはいけません。個別選挙における投票に矮小化しない、選挙制度改正などを目指す運動としての投票戦略を組み立て、実践する必要があります。民主党単独政権を回避する野党連合と、そこを足がかりとした小選挙区制の廃止、平和共同候補=全野党統一候補の擁立を目指す運動として、小選挙区選挙を利用するべきです。

 「選挙区すみ分け投票」※は、主権者が主導してこの野党連合を促すものです。共産・社民など小数政党を支持する主権者が、小選挙区で民主党候補に投票する見返り、バーターとして、民主党支持者に比例区では小数政党に投票してもらうことを狙っています。自民・民主・公明の議席を減らして、小数政党の議席を増やし、その結果各党がそれぞれの得票率にほぼ見合った議席数を獲得できるようにする投票パターン(選挙制度修正投票)に他なりません。まだ比例区が残っている点が米英とは異なり、ここに突破口があります。

 選挙区すみ分け投票は、政策か政権交代かの二者択一を迫るものではなく、政権交代の需要に依拠して、共産・社民など第3極の議席を増やし、小選挙区制廃止などの政策実現を図る運動なのです。

 沖縄でなぜ糸数慶子氏のような全野党平和共同候補が実現しているのか。平和世論の強度や、社会大衆党という地域政党が野党の接着剤として機能していること、市民による政党への働きかけだけでなく、当地でどの党もひとり抜きん出ていないことが、大きな要因として考えられます。

 「本土」においても、野党勢力バランスの「沖縄化」が必要でしょう。選挙区すみ分け投票は、この「沖縄化」に近づけるアクションともいえます。主権者が野党の勢力バランスを民意に即したものに変え、全野党の共依存関係をつくることで、全野党に選挙共同路線を取ってもらうのです。

 こうして全野党選挙共同の枠組みが作られることで初めて、1人区での勝てる平和共同候補の擁立にも道筋がつきます。政権交代のための全野党選挙共同の意義が認識されることで、少数政党抹殺政策であり、政権交代を阻害することがある小選挙区制の廃止機運も高まるというものです。小選挙区制をなくしたい小数政党からすれば、逆の関係も成り立ちます。

 共産・社民など小数政党の支持者としては、選挙にならない小選挙区選挙で死票を投じるのか、それとも野党連合を足がかりに小選挙区制の廃止などを目指す運動としての投票を行うのかが問われます。次期総選挙で野党連合が勝利すれば、小選挙区制の廃止を可能にする土台が作られます。共産・社民と両党支持者には、まずはたった1回の選挙を我慢し、選挙区すみ分け投票を推し進めていただきたいものです。

 一方、民主党支持者など政権交代を望む主権者は、小選挙区で勝利の見込みのある野党候補に票を集中させるには、どのような投票パターンが有効なのかを問う必要があるでしょう。

 共産党は小選挙区で候補者を降ろすべきだ、という意見は選挙の度ごとに聞かれますが、これが落とし穴です。それは一部の主権者の民意には違いありませんが、得票率で測った民意は、共産・社民の議席を増やせ、民主の議席を減らせ、というものです。この正当な民意を重視し、公平を期した要求を政党に突きつけるとすれば、共産・社民はほとんどの小選挙区で候補者擁立を見送ってくれ、その代わり民主は比例区で候補者の擁立数を大幅に減らし、議席を共産・社民に譲るべきだ、ということになるでしょう。

※ 選挙制度改正運動としての選挙区すみ分け投票:

 比例区・複数定数区では少数野党などに投票する代わりに、1人区(地方自治体の首長選挙を含む)では「勝てる野党候補」に票を集中させること。死票を投じることが常の少数野党の支持者と、1人区で死票を生票として欲しい民主党などの支持者双方にメリットを与える投票パターン。

 全体の議席異動からみると、1人区の議席を自公から民主などに移転させる代わりに、民主が比例区・複数定数区で獲得していた議席を少数政党に移譲し、各党の議席獲得率を得票率に近づける「選挙制度修正投票」といえます。

 異なる野党の支持者どうしで実際に「バーター契約」(選挙区すみ分けバーター投票)を結び、それを世間に公表するのがよい。こうした選挙区すみ分け投票の意思表示アクションは、選挙前から行います。

 本来であれば、各党が主体的に選挙区すみ分け投票の協定を結ぶのが理想です。次期総選挙に向けては、青森選挙区の一部で、民主党と社民党がこの投票で合意しています。

2009年5月8日

太田光征
http://otasa.net/

[参考1] 自民と民主が改憲発議要件を緩和する改憲に成功すれば、国会議員3分の1で9条改憲発議を阻止することはできない。
[参考2] 「小選挙区制の廃止へ向けて」
      http://kaze.fm/wordpress/?p=215