国による自治体差別を抑止する憲法95条(地方自治特別法の制定における住民投票の義務付け)を無視して「大阪都法案」の成立に導いた橋下維新は「中央集権打破」「地方分権」の旗手か〜自民党は95条の骨抜きを狙っている〜

日本維新の会の橋下徹大阪市長は「中央集権打破」のスローガンで、地方のために国と対決するかのようなポーズを取っている。時事通信なども今度の衆議院選挙では「地方分権などが争点になる」と伝えており、メディアは日本維新の会の政策を「地方分権」だと宣伝していくのだろう。

が、橋下氏は、米軍辺野古基地やオスプレイの沖縄に対する押し付けを容認して単なる国の代理人となり、地方自治をまったく尊重していないのが実態だ。

橋下氏は地方交付税制度の廃止を「中央集権打破」の手段とする考えだ。税の再配分は国ではなく地方が担うとする。しかし、それは税再配分の覇権が国から大阪や東京のように税収入が大きな大都市部に代わるということに過ぎない。それが狙いではないか。併せて日本維新の会が主張している道州制を導入すれば、自治体内での中央集権化が進む。全国町村長大会が11月21日の特別決議で指摘した通りである。

道州制導入に反対決議=全国町村会
http://www.jiji.com/jc/zc?k=201211/2012112100612

(道州制について)「地方分権の名を借りた新たな集権体制」「改めて導入に反対する」

橋下氏が地方自治を真に尊重していないだろうことは、地方自治特別法を国会が制定する際に自治体差別をさせないために住民投票の実施を義務付けた憲法95条の自民党改憲案に対して何の批判もせず、必ずしも同条についてではないが、改憲で自民と提携するとしていることからもうかがえる。

現行憲法第九十五条 「一の地方公共団体のみに適用される特別法は、法律の定めるところにより、その地方公共団体の住民の投票においてその過半数の同意を得なければ、国会は、これを制定することができない。」

憲法95条は駐留軍用地特別措置法(米軍用地特措法)の裁判でも論点となったもので、条文を普通に読めば国や国会による自治体差別を抑止するためにあると解釈できる。

米軍用地特措法は1999年7月8日に再改悪され、政府が問答無用で土地を米軍用地に強制収容できるようになったが、同法案はふざけたことに475本もの改定案から成る「地方分権一括法案」に潜り込まされて成立した。「地方分権」といえば地方自治のためになるとは限らない事実が歴史的に存在する。

米軍用地特措法の再改悪を阻止するために(井上澄夫、1999年4月23日)
http://www.jca.apc.org/HHK/Tokusoho/Inoue990423.html

95条と米軍用地特措法に関連した資料としては他にも以下がある。

米軍用地特措法 改悪・再改悪 関連資料
http://www.jca.apc.org/HHK/Tokusoho/Tokusoho.html

「改正」特措法違憲訴訟 判決
http://www.jca.apc.org/HHK/lawsuit/011130judgment.html

代理署名拒否訴訟
http://www.jca.apc.org/~runner/oki_sosyo/index.html
代理署名訴訟 最高裁判決
http://www.jca.apc.org/~runner/oki_sosyo/Dhanketu.html

第7回 地方自治特別法の意味–95条 (水島朝穂−憲法から時代をよむ)
http://www.quon.asia/yomimono/business/column/mizushima/273.php
98/12/12 佐藤ゼミ合宿「沖縄問題」
http://web.kyoto-inet.or.jp/people/gichi/law/seminar.htm

ところが、地方自治特別法(駐留軍用地特別措置法は実質的に沖縄など特定の自治体にしか適用されないが、地方自治特別法になっていない)の「通説」としての定義は、以下のようになっている。

地方自治特別法(甲斐素直氏・憲法統治機構論第25回)
http://www5a.biglobe.ne.jp/~kaisunao/ls-toti/25homerule.htm
「特定の地方公共団体の組織・権能・運営に関する基本的事項について、一般の地方公共団体と異なった取扱をする法律」

地方自治特別法の制定手続について - 国立国会図書館
http://www.ndl.go.jp/jp/data/publication/refer/200910_705/070503.pdf
「一の地方公共団体のみに適用される特別法」の政府解釈は、「特定の地方公共団体の組織、運営又は権能について他の地方公共団体とは異なる定めをする法律」となっている。

これでは、米軍基地を沖縄に押し付ける場合、あるいはこれから放射性廃棄物の最終処分場を押し付ける場合のように、「国の事務、事業を定めるなど国の活動を規制する法律(たとえば北海道開発法)」は地方自治特別法に該当しないことになってしまう(甲斐素直氏サイト)。

自民党の「新憲法草案」(2005年)では憲法95条をバッサリ削除していたが、批判を受けたためか、今年4月27日に公表した「日本国憲法改正草案」では、同条を修正する形で97条を設けている。

自由民主党「日本国憲法改正草案」
http://www.jimin.jp/policy/pamphlet/pdf/kenpou_qa.pdf
「第九十七条 特定の地方自治体の組織、運営若しくは権能について他の地方自治体と異なる定めをし、又は特定の地方自治体の住民にのみ義務を課し、権利を制限する特別法は、法律の定めるところにより、その地方自治体の住民の投票において有効投票の過半数の同意を得なければ、制定することができない。」

しかし、これが95条を骨抜きにしている。97条は国と国会による自治体差別を抑止する95条の生命をなきものにする「通説」を採用しているのである。

政令指定都市とそれに隣接する市町村が適用対象となる通称大阪都法「大都市地域における地方公共団体の設置等に関する特例法」もまさに地方自治特別法に当たるのではないか。

実際、大阪維新の会自身が「新たに『大阪都』を設ける場合、法律的には?地方自治法を改正、?地方自治特別法を制定」する手続きが必要と考えていた。

マニフェスト - 大阪維新の会
http://oneosaka.jp/pdf/manifest.pdf

しかし、大阪都法案では住民投票など行われていない。当時の維新人気を武器に有無を言わせず憲法95条を無視して同法を成立させたわけだ。

橋下氏が地方自治を尊重していないのも当然といえる。これは大阪都法案に賛成したその他の政党にもいえることだ。

太田光征

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