「1票の格差」是正の再選挙で政党間1票格差が拡大する可能性も

3月 26th, 2013 Posted by MITSU_OHTA @ 5:57:04
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国会議員の皆さま

自由民主党幹事長・衆議院議員 石破茂様
自由民主党幹事長代行・衆議院議員 細田博之様
自民党選挙制度調査会長・衆議院議員 逢沢一郎
民主党幹事長・衆議院議員 細野豪志様
民主党政治改革推進本部長・衆議院議員 岡田克也様
日本維新の会国会議員団幹事長・衆議院議員 松野頼久様
日本維新の会選挙制度調査会会長・衆議院議員 園田博之様
公明党幹事長・衆議院議員 井上義久様
公明党政治改革本部本部長・衆議院議員 北側一雄様
みんなの党幹事長・衆議院議員 江田憲司様
日本共産党書記局長・参議院議員 市田忠義様
生活の党代表代行・参議院議員 森裕子様
社会民主党幹事長・参議院議員 又市征治様
みどりの風代表・参議院議員 谷岡郁子様
日本未来の党代表・衆議院議員 阿部知子様
新党改革代表・参議院議員 舛添要一様

「1票の格差」是正の再選挙で政党間1票格差が拡大する可能性も

2013年3月26日

いわゆる「1票の格差」(選挙区間1票格差)裁判で、広島高裁がついに2012衆院選の「広島1、2区の選挙」を無効とする判決を出しました。

しかし本来、格差はセットで発生するのだから、定数当たりの有権者数が多すぎる選挙区も少なすぎる選挙区もセットで違憲判決が出なければなりません。

また基準区を定数当たりの有権者数が最低の選挙区とする合理的根拠はそもそもありません。妥当な基準は、全有権者数を定数で割った平均でしょう。

区割り変更には旧訴訟対象選挙区以外の選挙区も巻き込むので、判決が想定していると思われる「旧訴訟対象選挙区だけの再選挙」というものはそもそも無理です。

違憲判決といっても、以上のように恣意性があります。

仮定としての例を挙げましょう。有権者数が多すぎる広島旧1、2区を新1、2、3区に分割し(定数1増)、有権者数が少なすぎる広島旧3、4区を新4区に統合し(定数1減)、昨年の選挙では広島旧1、2区で自民が、広島旧3、4区で民主が当選したとします。再選挙の結果は、自民3議席、民主1議席の確率が高くなります。ここで実は、旧1、2区と旧3、4区の組み合わせも恣意的です。

<すべての格差選挙区>で格差是正して再選挙を実施すれば、おそらく第3党くらいまでの間で2012衆院選と比べ議席の増減は相殺され、各党の議席獲得数に大きな変化は期待できません。

しかし、<一部の格差選挙区>だけ無効判決が出て、そこだけで再選挙を実施すると、政党間1票格差が拡大する可能性があるのです。

全国的な再選挙をしても自民・民主・維新の当選する選挙区を変えるだけ、一部の再選挙なら政党間1票格差を拡大する可能性がある――これが選挙区間1票格差の是正の意義ということになります。

むなしい定数是正をするまでもなく、小選挙区制を廃止すれば問題が解決します。

「選挙区間1票格差」2倍超が違憲であるなら、その他の格差はどうなのか。

生票を投じた有権者と死票を投じた有権者の間の1票格差(2012衆院選小選挙区では、56%の投票者の票は価値が2分の1どころかゼロ)や「政党間1票格差」(2012衆院選比例区で、議員1人を当選させるための票数は、社民党が自民党の4.87倍。自民党の細田博之衆議院議員が提案している衆院比例区選挙制度案を昨年の結果に基づいて試算すれば、社民党の2.20倍(対公明党)が最大)なども違憲となるはずです。

細田案が浮き彫りにする「政党間1票格差」(社民党支持者の1票の価値は、公明党支持者の1票の0.45票分)の違憲性
http://kaze.fm/wordpress/?p=449

議員まわりをすると、メディアが煽っているだけで、自分は定数削減に反対だ、と語る秘書の方もいます。定数削減を掲げている政党の議員の秘書の方です。

「国民負担と引き替えの国会議員定数削減」「有権者の権利を縛るネット選挙法案」で各党議員に要望
http://kaze.fm/wordpress/?p=445

国民主権と国際的な視線を意識せずに定数削減を進めれば、早晩、国民の信頼をさらに失うことになると考えます。

太田光征

細田案が浮き彫りにする「政党間1票格差」(社民党支持者の1票の価値は、公明党支持者の1票の0.45票分)の違憲性

3月 17th, 2013 Posted by MITSU_OHTA @ 20:56:05
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細田案が浮き彫りにする「政党間1票格差」(社民党支持者の1票の価値は、公明党支持者の1票の0.45票分)の違憲性

【目次】

(1) そもそも、定数を削減する必要性がない
(2) 何とか優遇枠(「中小政党枠」「現制度の比例区=政党優遇枠」)は違憲
(3) 比例区で「中小政党優遇枠」を設けても、自民に対する「超優遇」ぶりは改善されない
(4) 読売と産経が細田案につられ、「政党間1票格差」の問題を指摘
(5) なぜ全国票で議席配分数を決定しないのか

自民党の細田博之選挙制度改革問題統括本部長が中小政党に配慮するとして、通常の比例区の定数とは別に、「中小政党配慮枠」を設ける衆議院比例区選挙制度案を提案している。

細田議員事務所に案の詳細を何度も聞いたが、事情を分かる方と話せず、14日と15日の報道によれば、3月12日に書いた批評の前提が間違っていた。お詫びして、今回の記事に差し替えたい。

細田案の「中小政党配慮枠」は「少数政党切り捨て」「中規模政党優遇」で、2012衆院選より格差を拡大(3月12日)
http://kaze.fm/wordpress/?p=446

比例30減、中小に優遇枠60=自民が改革案了承−衆院選挙制度
http://www.jiji.com/jc/c?g=pol_30&k=2013031400061
<衆院選挙制度改革>野党、自民案を一斉批判
http://mainichi.jp/select/news/m20130315k0000m010109000c.html

細田案は、以下のようになる。

1)現行定数の180から30を削減して150とし、現行の11ブロックを8ブロックに再編する。
2)全党枠定数90と中小政党枠定数60を別々に人口比例(10年度国勢調査に基づく)で8ブロックに割り当てる。
3)各ブロックごとに全党を対象に1回のドント式配分を行い、全党枠の当該ブロック分を全党に、中小政党枠の当該ブロック分を得票率第2位以下に配分する。
4)当該ブロックで得票数の低い政党が得票数の高い政党の議席数を超えないよう配分する。


(1)そもそも、定数を削減する必要性がない

そもそも、3月1日に「平和への結集」をめざす市民の風が要望書で指摘したように、定数を削減する必要性がない。

「国民負担と引き替えの国会議員定数削減」「有権者の権利を縛るネット選挙法案」で各党議員に要望
http://kaze.fm/wordpress/?p=445

(2)何とか優遇枠(「中小政党枠」「現制度の比例区=政党優遇枠」)は違憲

さじ加減で、根拠なく60という中小政党枠を設け、選挙結果を誘導することは、投票意思の反映という選挙制度の本質と相容れない。

日本維新の会は中小政党枠について「違憲裁判を起こされる。話にならない」と反対し、民主党の岡田克也政治改革推進本部長も「憲法違反の可能性がある」と指摘している。

<衆院選挙制度改革>野党、自民案を一斉批判
http://mainichi.jp/select/news/m20130315k0000m010109000c.html
衆院選改革案:比例に中小政党枠60議席…自民了承
http://mainichi.jp/select/news/20130314k0000e010172000c.html

優遇枠を設けていることが違憲であると判断しているのなら、現在の小選挙区比例代表並立制で政党優遇枠に他ならない比例区を設けて無所属候補を差別していることも違憲になるはずである。選挙制度は無所属候補にも政党候補にも平等なものでなければならない。

比例代表制の要素をなくしたいわけではない。優遇枠としてではなく比例代表制を組み込むことは可能である。

中選挙区比例代表併用制を提案する
http://kaze.fm/wordpress/?p=164

(3)比例区で「中小政党優遇枠」を設けても、自民に対する「超優遇」ぶりは改善されない

細田案のシミュレーション結果を表3に示す。表1〜3の衆院選比例区のシミュレーションは、2012衆院選の結果( http://kaze.fm/wordpress/?p=435 )に基づいた。

確かに、自民党の議席占有率は2012衆院選、表1(全国1区の中小枠なしの細田案)、表2(中小枠なしの細田案)と比べて減少し、議席占有率が比例区得票率を下回るようになる。自民以外は維新を除いて、議席占有率が2012衆院選のときを上回る。

いくら読売や産経が中小政党に対する「優遇」ぶりを強調してみせても、2012衆院選で比例区得票率が27.62%、小選挙区得票率が43.01%しかなかった自民の全国議席占有率(比例区と小選挙区の合計)は2012衆院選で61.25%、細田案で60.00%だから、自民に対する「超優遇」ぶりはほとんど改善されない。

(4)読売と産経が細田案につられ、「政党間1票格差」の問題を指摘

読売と産経が細田案につられて、「政党間1票格差」を書いている。よくやってくれた。

中小政党配慮、「1票の価値」で問題視の声も
http://www.yomiuri.co.jp/politics/news/20130315-OYT1T00244.htm
「『1票の価値』の平等の観点から憲法上の問題があるとの指摘」
衆院選改革案「選挙シミュレーション」 自・維・民、比例は拮抗
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20130315-00000109-san-pol
産経新聞 3月15日
「同じ一票でも、第1党と第2党以下で投票価値が著しく異なることになり、投票価値の平等に反する制度だといえそうだ。」

一連の裁判では「選挙区間1票格差」(地域代表性格差)の問題が争われているが、1票価値の格差としては「政党間1票格差」の方が重大である。

1票の格差とは何か
http://kaze.fm/wordpress/?p=381

比例区における政党間1票格差の定義は、「1議席当たりの得票数」を各党ごとに求め、1番小さい政党の「1議席当たりの得票数」で割った値、となる。

政党間1票格差の最大は、2012衆院選で社民の4.87 倍(対自民)、細田案でも同党の2.20倍(対公明)となっている。一人一票実現国民会議の表現を使えば、社民党支持者の1票の価値は、公明党支持者の1票の0.45票分(細田案)しかない。

違憲の目安となる「選挙区間1票格差」は衆院で2倍とされる。現行の選挙制度でも細田案でも政党間1票格差が2倍を超えていることは、論理必然的に違憲である。

(5)なぜ全国票で議席配分数を決定しないのか

細田議員も比較大政党と中小政党の格差を縮減できると認めているからこそ、11ブロックを8ブロックにしている。表1に示すように、ブロック制を取りながらも政党への議席配分数を全国集計の票で決定すれば、政党間1票格差は1.23倍以下となる。

このような方式はドイツの小選挙区比例代表併用制などで採用されている。何も中小政党枠を設けて優遇する必要はない。なぜ細田議員はこの方式を採用しないのか。

中小政党に配慮するのでなく、全政党に配慮して、得票率と議席占有率を一致させる必要がある。同時に選挙制度は、政党と無所属候補にとっても平等でなければならない。

表1 細田案の検討:衆院選比例区シミュレーション(定数150の全国1区)

1票格差:「1議席当たりの得票数」を各党ごとに求め、1番小さい民主党の「1議席当たりの得票数」で割った値
議席配分表(衆院選24)

自民 維新 民主 公明 みんな 共産 未来 社民 大地 幸福 改革 国民
議席数 43 31 25 18 13 9 8 3 0 0 0 0 150
得票率(%) 27.62 20.38 16.00 11.83 8.72 6.13 5.69 2.36 0.58 0.36 0.22 0.12
議席占有率(%) 28.67 20.67 16.67 12.00 8.67 6.00 5.33 2.00 0.00 0.00 0.00 0.00
1票格差 1.00 1.03 1.00 1.03 1.05 1.06 1.11 1.23


 
 

表2 細田案の検討:衆院選比例区のシミュレーション(定数150の8ブロック、中小枠なし

1票格差:「1議席当たりの得票数」を各党ごとに求め、1番小さい大地の「1議席当たりの得票数」で割った値
議席配分表(衆院選23)

自民 維新 民主 公明 みんな 共産 未来 社民 大地 幸福 改革 国民
議席数 46 33 25 18 12 8 7 0 1 0 0 0 150
得票率(%) 27.62 20.38 16.00 11.83 8.72 6.13 5.69 2.36 0.58 0.36 0.22 0.12
議席占有率(%) 30.67 22.00 16.67 12.00 8.00 5.33 4.67 0.00 0.67 0.00 0.00 0.00
1票格差 1.04 1.07 1.11 1.14 1.26 1.33 1.41 1.00


 
 

表3 細田案(3月14日)の検討:衆院選比例区のシミュレーション(全党枠定数90と中小政党枠定数60(計150)を別々に人口比例(10年度国勢調査に基づく)で8ブロックに割り当て、各ブロックごとに全党を対象に1回のドント式配分を行い、全党枠の当該ブロック分を全党に、中小政党枠の当該ブロック分を得票率第2位以下に配分。当該ブロックで得票数の高い政党が得票数の低い政党の議席数を超えないよう配分する)

1票格差:「1議席当たりの得票数」を各党ごとに求め、1番小さい公明の「1議席当たりの得票数」で割った値
議席配分表(衆院選25)

自民 維新 民主 公明 みんな 共産 未来 社民 大地 幸福 改革 国民
比例区議席数 33 32 29 22 14 10 7 2 1 0 0 0 150
比例区得票率(%) 27.62 20.38 16.00 11.83 8.72 6.13 5.69 2.36 0.58 0.36 0.22 0 100
比例区議席占有率(%) 22.00 21.33 19.33 14.67 9.33 6.67 4.67 1.33 0.67 0.00 0.00 0.00 100
比例区議席占有率(%、2012衆院選) 31.67 22.22 16.67 12.22 7.78 4.44 3.89 0.56 0.56 0.00 0.00 0.00 100
小選挙区議席数 237 14 27 9 4 0 2 1 0 0 - 1 295
全国議席数 270 46 56 31 18 10 9 3 1 0 0 1 445(残る5議席は無所属)
全国議席占有率(%、総定数450) 60.00 10.22 12.44 6.89 4.00 2.22 2.00 0.67 0.22 0.00 0.00 0.22
全国議席占有率(%、2012年衆院選) 61.25 11.25 11.88 6.46 3.75 1.67 1.88 0.42 0.21 0.00 0.00 0.21
比例区議席占有率(%)/得票率(%) 0.80 1.05 1.21 1.24 1.07 1.09 0.82 0.56 1.16 0.00 0.00
比例区1票格差 1.56 1.18 1.03 1.00 1.16 1.14 1.51 2.20 1.07
比例区1票格差(2012衆院選) 1.00 1.05 1.10 1.11 1.28 1.58 1.69 4.87 1.19

 
 
太田光征

細田案の「中小政党配慮枠」は「少数政党切り捨て」「中規模政党優遇」で、2012衆院選より格差を拡大

3月 12th, 2013 Posted by MITSU_OHTA @ 21:21:07
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細田案の詳細が分からず、間違った前提で本稿を書いてしまいました。正しい前提で下記記事を書き直しましたので、こちらを参照してください。

細田案が浮き彫りにする「政党間1票格差」(社民党支持者の1票の価値は、公明党支持者の1票の0.45票分)の違憲性
http://kaze.fm/wordpress/?p=449

[要旨]
自民党の細田博之衆議院議員が中小政党に配慮するとして比例区に「中小政党配慮枠」を設ける案を提案していますが、2012衆院選ではそもそも中規模政党(維新・民主・公明・みんな)の議席占有率と比例区得票率はほぼ一致していて、維新・民主・公明に至っては既に自民と同様、議席占有率が比例区得票率を上回っています。
「中小政党配慮枠」を設けることで、維新・民主・公明は議席占有率がさらに高くなる一方で、共産以下の少数政党は2012衆院選よりも、また同枠を設けない場合の細田案(現在よりも30少ない定数150、現在より3ブロック少ない8ブロック)よりも、議席占有率がさらに低くなります。
「中小政党配慮枠」は確かに高すぎる自民の議席占有率を低くしますが、少数政党の本来の取り分を中規模政党に持っていく仕掛けに過ぎません。現在の小選挙区比例代表並立制の本質がさらにひどくなるだけです。

自民党の細田博之選挙制度改革問題統括本部長が中小政党に配慮するとして、通常の比例区の定数とは別に、「中小政党配慮枠」を設ける衆議院選挙制度案を提案している。これを公明党は容認するという。

公明、比例配慮枠「50」要求…自民案容認へ
http://www.yomiuri.co.jp/election/shugiin/news/20130309-OYT1T00262.htm?from=ylist

現在の衆議院比例区選挙では、定数180を11ブロックに割り当てている。細田案は、11ブロックを8ブロックにし、定数180から30を削減して150とし、そのうちの30議席を中小政党(得票率2位以下の政党)だけに割り当てるというもの。

まず、3月1日の要望書で指摘したように、定数を削減する必要性がそもそもない。

「国民負担と引き替えの国会議員定数削減」「有権者の権利を縛るネット選挙法案」で各党議員に要望
http://kaze.fm/wordpress/?p=445

細田議員も比較大政党と中小政党の格差を縮減できると認めているからこそ、11ブロックを8ブロックにしている。表1に示すように、ブロック制は取りながらも政党への議席配分数を全国集計の票で決定すれば、死票は最小化する。このような方式はドイツの小選挙区比例代表併用制などで採用されている。なぜ自民党はこの方式を採用しないのか。

表1〜4の衆院選比例区のシミュレーションは、2012衆院選の結果( http://kaze.fm/wordpress/?p=435 )に基づいている。

細田議員の原案の検討の前に、「中小政党配慮枠」を設けず、定数150を8ブロックに割り当てただけの場合はどうなるかを見てみる(表2)。

表2に示すように、表1と比べ、みんなの党・共産党・旧日本未来の党・社民党の6議席が他党に移る(みんなの党を境に、比例区得票率と議席占有率の乖離が明瞭となり、少数政党側に不利となる)。1票格差(「1議席当たりの得票数」を各党ごとに求め、1番小さい「1議席当たりの得票数」で割った値)の最大は旧未来の1.41倍となる。

定数が削減されているとはいえ、ブロック数、従って死票が減少するため、2012衆院選と比べ、全体的に比例区得票率と議席占有率の乖離が縮小しているが、社民は議席を獲得できなくなる。

細田議員の原案ではどうなるか(表3-1)。「中小政党配慮枠」定数30も8ブロックに割り当てて、各ブロックごとに議席を配分した。近畿ブロックでは日本維新の会が第1党なので、近畿ブロックだけは自民党にも「中小政党配慮枠」から議席を配分したが、その他のブロックでは自民を除く各党のみに議席を配分した。

表3-1に示すように、自民の比例区得票率と議席占有率がほぼ一致するようになるが、表2(定数150、8ブロック/「中小政党配慮枠」なし)で既に議席占有率が比例区得票率を上回っていた維新・民主・公明の議席がさらに増え、2012衆院選の議席占有率を上回るようになる一方で、共産・旧未来・社民・大地は議席が減り、2012衆院選の議席占有率を下回ってしまう。

これでは少数政党に配分されるべき議席を中規模政党に移すだけだから、「中小政党配慮枠」は設けない方がいい。定数120も定数30もブロックに割り当てるには少な過ぎるため、現在のブロック式比例代表制の弊害を拡大しているに過ぎない。最大の1票格差は表2(定数150、8ブロック/「中小政党配慮枠」なし)からさらに拡大し、共産の2.28倍となる。

上記読売記事によれば、公明は細田案に基づく試算で自党比例区の獲得議席数を22議席としているので、表3-1の結果と一致している。従って、細田案では「中小政党配慮枠」も8ブロックに割り当てているものと思われる。ただ、念のため、表3-2で「中小政党配慮枠」を全国1区とした場合も計算してみた。

表3-2では、2012衆院選と比べ、少数政党の格差がごくわずか改善されるものの、中規模政党が優遇され、2012衆院選の議席占有率と比例区得票率の乖離が小さかった状態が破れていることが分かる。最大の(政党間)1票格差は社民の4.17倍と極めて高く、2012衆院選のときの同党の4.87倍とほとんど変わらない。

裁判では「選挙区間1票格差」(地域代表性格差)の問題が争われている。なぜか参院と衆院で違憲の目安となる格差に違いが見られ、衆院ではそれが2倍とされる。1票価値の格差としては政党間1票格差の方が重大であり、現行の選挙制度でも細田案でも政党間1票格差が2倍を優に超えていることは、論理必然的に違憲である。

公明は先に、「中小政党配慮枠」を原案の30から50〜60に増やすことを要求していた(上記読売記事)。

通常の8ブロックに定数90、「中小政党配慮枠」に定数60を割り当てると、表4に示した通り、比例区得票率で自民より劣る維新が自民よりも多くの議席を獲得するようになる一方で、共産以下の少数政党の議席は表3-1(定数120、8ブロック/定数30、「中小政党配慮枠」)よりさらに少なくなる。最大の1票格差はさらに拡大し、共産の3.16倍となる。

細田案の「中小政党配慮枠」は要するに、「中小政党配慮」になっていない。「少数政党切り捨て」「中規模政党優遇」であり、2012衆院選よりさらに格差を拡大する。

中小政党に配慮するのでなく、全政党に配慮して、比例区得票率と議席占有率を一致させる必要がある。同時に選挙制度は、政党と無所属候補にとっても平等でなければならない。


 
 

表1 細田案の検討:衆院選比例区シミュレーション(定数150の全国1区)

1票格差:「1議席当たりの得票数」を各党ごとに求め、民主党の「1議席当たりの得票数」で割った値
議席配分表(衆院選24)

自民 維新 民主 公明 みんな 共産 未来 社民 大地 幸福 改革 国民
議席数 43 31 25 18 13 9 8 3 0 0 0 0 150
得票率(%) 27.62 20.38 16.00 11.83 8.72 6.13 5.69 2.36 0.58 0.36 0.22 0.12
議席占有率(%) 28.67 20.67 16.67 12.00 8.67 6.00 5.33 2.00 0.00 0.00 0.00 0.00
1票格差 1.00 1.03 1.00 1.03 1.05 1.06 1.11 1.23


 
 

表2 細田案の検討:衆院選比例区のシミュレーション(定数150の8ブロック、中小枠なし

1票格差:「1議席当たりの得票数」を各党ごとに求め、大地の「1議席当たりの得票数」で割った値
議席配分表(衆院選23)

自民 維新 民主 公明 みんな 共産 未来 社民 大地 幸福 改革 国民
議席数 46 33 25 18 12 8 7 0 1 0 0 0 150
得票率(%) 27.62 20.38 16.00 11.83 8.72 6.13 5.69 2.36 0.58 0.36 0.22 0.12
議席占有率(%) 30.67 22.00 16.67 12.00 8.00 5.33 4.67 0.00 0.67 0.00 0.00 0.00
1票格差 1.04 1.07 1.11 1.14 1.26 1.33 1.41 1.00


 
 

表3-1 細田案の検討:衆院選比例区のシミュレーション(定数120の通常8ブロック+定数30の中小枠8ブロック)

1票格差:「1議席当たりの得票数」を各党ごとに求め、公明の「1議席当たりの得票数」で割った値
議席配分表(衆院選18)

自民 維新 民主 公明 みんな 共産 未来 社民 大地 幸福 改革 国民
議席数 41 35 29 22 13 5 5 0 0 0 0 0 150
得票率(%) 27.62 20.38 16.00 11.83 8.72 6.13 5.69 2.36 0.58 0.36 0.22 0.12
議席占有率(%) 27.33 23.33 19.33 14.67 8.67 3.33 3.33 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00
1票格差 1.25 1.08 1.03 1.00 1.25 2.28 2.12


 
 

表3-2 細田案の検討:衆院選比例区のシミュレーション(定数120の通常8ブロック+定数30の中小枠全国1区)

1票格差:「1議席当たりの得票数」を各党ごとに求め、維新の「1議席当たりの得票数」で割った値
議席配分表(衆院選18)

自民 維新 民主 公明 みんな 共産 未来 社民 大地 幸福 改革 国民
議席数 38 36 27 20 14 7 7 1 0 0 0 0 150
得票率(%) 27.62 20.38 16.00 11.83 8.72 6.13 5.69 2.36 0.58 0.36 0.22 0.12
議席占有率(%) 25.33 24.00 18.00 13.33 9.33 4.67 4.67 0.67 0.00 0.00 0.00 0.00
1票格差 1.28 1.00 1.05 1.04 1.10 1.55 1.44 4.17


 
 

表4 細田案の検討:衆院選比例区のシミュレーション(定数90の通常8ブロック+定数60の中小枠8ブロック)

1票格差:「1議席当たりの得票数」を各党ごとに求め、民主の「1議席当たりの得票数」で割った値
議席配分表(衆院選20、21)

自民 維新 民主 公明 みんな 共産 未来 社民 大地 幸福 改革 国民
議席数 36 37 33 23 13 4 4 0 0 0 0 0 150
得票率(%) 27.62 20.38 16.00 11.83 8.72 6.13 5.69 2.36 0.58 0.36 0.22 0.12
議席占有率(%) 24.00 24.67 22.00 15.33 8.67 2.67 2.67 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00
1票格差 1.58 1.14 1.00 1.06 1.38 3.16 2.93

太田光征

「国民負担と引き替えの国会議員定数削減」「有権者の権利を縛るネット選挙法案」で各党議員に要望

3月 2nd, 2013 Posted by MITSU_OHTA @ 13:10:59
under 選挙制度 [3] Comments 

3月1日、「平和への結集」をめざす市民の風として各党主要議員の事務所に要望書を渡し、一部を除き秘書の方に趣旨を説明してきました。

公明党幹事長・衆議院議員 井上義久様
みんなの党代表・衆議院議員 渡辺喜美様
自由民主党幹事長代行(選挙制度担当)・衆議院議員 細田博之様
新党大地参議院議員 横峯良郎様
みどりの風代表・参議院議員 谷岡郁子様
新党改革代表・参議院議員 舛添要一様
日本共産党委員長・衆議院議員 志位和夫様
国民新党政務調査会長・衆議院議員 野間 健様
民主党幹事長・衆議院議員 細野豪志様
日本未来の党代表・衆議院議員 阿部知子様
日本維新の会副幹事長・衆議院議員 松野頼久様
社会民主党政策審議会
生活の党代表・衆議院議員 小沢一郎様
生活の党代表代行・参議院議員 森裕子様

要望書
2013年3月1日

消費税増税と議員定数削減をセットにするのはやめよ

民主党の公約違反である消費税増税(自民党・民主党・公明党による密室談合で決定)を実施するにあたって、自民党・民主党・公明党などは国民に負担をかけるからには自ら「身を切る<姿勢>」を示すべきだとして、消費税増税と、議員定数の削減、議員歳費(政党助成金含む)減額をセットにして国民に訴えています。

<議員定数削減は、言動と矛盾し、その理由が示されていない>

各党は政治を官僚主導から政治家主導に転換すべきと公言しています。それなのになぜ議員定数を削減するのでしょうか。

今の議員たちは仕事をしていない、仕事をしない議員が多いから議員の首切り合理化をしたい、というようにも聞こえます。

官僚主導から政治家主導にするなら、議員がもっと必要でしょう。もし仕事をしていない議員が多いなら、政党別に議員の実態を明らかにした上で、仕事のできる議員を有権者に選んでもらう努力を行うべきであって、議員数全体を減らすのは筋違いというものです。

なぜ政策遂行と引き替えに「身を切る<姿勢>」を示す必要があるのか、なぜ国民負担と「身を切る<姿勢>」が釣り合うのか、政府・各党が国民に求めている負担が数多い中で、なぜ消費税増税の負担だけを取り上げて「身を切る<姿勢>」を示す必要があるのか、なぜ定数削減が「身を切る<姿勢>」を示すことになるのか、各党は理由を明らかにしていません。

<議員定数を削減すべきでない理由>

1.官僚主導から政治家主導の政治を実現し、国民の多様な意思を国会にできるだけ的確に反映させるためには、しかるべき議員定数が必要であり、日本の議員定数は国際比較すると大幅に少ないことから、定数削減の必要はまったくありません。

2.適切な議員定数については、少数政党でもすべての国会委員会に掛け持ちせず委員を配属させることができるようにするのが公平性にかなっていることから(この条件を満たすにはドイツ下院並みの500人台が必要)、最低でも現在の定数が必要です。

3.定数削減は、比例区の定数削減であれば中小政党とその支持者に対する差別(現在の比例区定数でも比較大政党に有利)、選挙区の定数削減であれば無所属候補とその支持者に対する差別(無所属の当選枠は選挙区だけに限定され、政党より不利)を拡大します。
 東日本大震災や福島原発事故からの復旧・復興にどの政党・国会議員も尽力されていることと思いますが、平等な国民主権平等な投票価値を尊重することから、人を真に思いやる政治を実現し、福島原発事故につながる政治を改めることができるのではないですか。

4.ムダをなくして予算を節約すべきとの議論は、議会制民主主義における議員の果たすべき役割を軽視するものです。
 ムダな政策、ムダな予算があります。定数削減によって国会にますます民意が反映しなくなれば、真の巨大なムダを根絶できません

5.国民負担と引き替えに「政治家は自ら身を切るべき」との議論がありますが、これは世界的にも類例のない虚偽です。身を切られるのは、代表を選ぶ権利を縮減されてしまう一般国民の方です。
 負担増を求めて身を切るべきだと主張している比較大政党が身を切ることがなく、負担増に反対している中小政党と有権者が身を切られるというのは、あべこべです。この構図は幾つもの政策で見られます。
 政策遂行に必要な条件はただひとつ、その政策を支持する民意ではありませんか。政党・政治家には、政策に対する民意の支持を得るための仕事にこそ、身を切るほどの努力が求められているはずです。

6.以上のように消費税を上げるために、自分たちも「身を切りますから」と国民に理解を求める方法は、常識的認識の欠如であり、国会の権威の軽さと国民主権の軽視を世界に向けてアピールすることになり、その弊害は甚大です。

有権者の権利を縛る公職選挙法から決別を

インターネット選挙「解禁」法案が議論されています。ネット選挙が実現すること自体は好ましいものの、同法案は重大な問題を含んでいます。

インターネットのない時代に制定された公職選挙法でインターネットが想定されていないことは明らかであり、同法でネット選挙運動が禁止されていると断言することはできません。

従って、ネット選挙を「解禁」するのではなく、同法でネット選挙が禁止されていると解釈すべきでない旨の修正にとどめるべきでしょう。これは国民主権を尊重した考え方と言えます。

自民党と公明党のネット選挙「解禁」法案では、政党や候補者以外がメールを利用した選挙運動を禁じており、有権者の権利を制限するという、国民主権を軽視した従来の考え方から抜け切っていません。

また、現在の公職選挙法でも、個別訪問以外の手法なら、落選運動は禁止されていませんが、自民・公明のネット選挙「解禁」法案では、匿名でのネット選挙運動とネット落選運動を禁止しています。これは憲法で保障された表現の自由を侵害し、現公職選挙法から著しく後退するもので、有権者としては容認できません。

高すぎる供託金の規定を含め、有権者の権利を縛る一切の条項を公職選挙法から削除してください。有権者の権利を認めないで有権者のための政治ができるわけがありません。

以上、ご見解をいただければ幸いです。

「平和への結集」をめざす市民の風
〒271-0076 千葉県松戸市岩瀬46-2 さつき荘201号
Tel/fax:047-360-1470
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2012衆院選――結果分析

1月 1st, 2013 Posted by MITSU_OHTA @ 23:08:42
under メディア , 選挙制度 , 2012年衆議院選挙 1 Comment 
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(1) 選挙の体を成していない2012衆院選――小選挙区の死票率56%、自民の比例区得票率28%、主権を毀損し民意と乖離

(2) 主権を毀損し民意と乖離した選挙を鋭く批判しないメディア

(3) メディアによる争点隠し――「イデオロギー」のレッテル貼りで外交・軍事・改憲・教育を生活・経済・景気から切り離す

(4) メディアによる次期参院選の予測と誘導――自民対野党の構図で護憲政党を国会から放逐へ

(5) 生活の党は安倍政権にくみする改憲、集団的自衛権、米軍普天間飛行場、小選挙区制・定数削減などについて態度を明らかにすべき

(6) メディアは小選挙区制の矛盾を指摘しても(定数3の寡占的)中選挙区制止まり、比例代表制には否定的

(7) 選挙区間1票格差(地域代表性格差)だけでなく生票・死票間1票格差や政党間1票格差に目を向けるべき――「0.2票」より「0票」(小選挙区の56%)の方が深刻

(8) 2012衆院選の最大1票格差――小選挙区が日本未来の党の13.83倍、比例区が社民党の4.87倍

(9) 2012衆院選――小選挙区がなく全国1区の比例代表制だったら自民はたったの132議席

(10) 2012衆院選――比例区で未来の票を共産・社民に統合すると3議席増える

(11) 2012衆院選――比例区で共産・未来・社民の票を統合すると10議席増える

(12) 次期参院選比例区のシミュレーション(定数削減なし、改選定数48)――護憲政党の獲得議席はわずか4議席

(13) 次期参院選比例区のシミュレーション(定数削減あり、改選定数28)――護憲政党の獲得議席はわずか2議席、最大1票格差は「定数削減なし」より拡大

(14) 次期参院選比例区のシミュレーション(定数削減なし、改選定数48)――共産・未来・社民の票を統合しても1議席しか増えない(統一名簿の必要性?)

(15) 次期参院選比例区のシミュレーション(定数削減あり、改選定数28)――共産・未来・社民の票を統合しても1議席しか増えない(統一名簿の必要性?)

(16) 次期衆院選比例区のシミュレーション(定数が75削減されて105になった場合)――社民は議席をなくし、共産の1票格差は1.58倍から3.88倍に拡大

(17) 選挙区間1票格差(地域代表性格差)が政党間1票格差に有利に働く例――自民は中国地方で支持率が高く、同地域は人口当たりの議員数が多いので、選挙区間1票格差は自民に有利


(1) 選挙の体を成していない2012衆院選――小選挙区の死票率56%、自民の比例区得票率28%、主権を毀損し民意と乖離

2012年衆議院選挙(第46回総選挙)は、自民党・公明党が予算関連法案を人質に衆議院解散を求めて実現したもので、最初から異常だった。

小選挙区での死票は56%、約3730万票(時事、12月17日)にも上った。過半数という膨大な数の主権者の主権が認められていないのだから、選挙の体を成していない。

投票時刻の繰り上げが行われた投票所は全投票所の約30%に当たる1万6000カ所に上った(NHK、12月15日)。投票時間の繰り上げを知らずに投票機会を逃した有権者が多いのではないか。これではボッタクリだ。

自民党の比例区得票率27.62%は2009年に民主党に大敗した時の26.73%とほとんど変わっていない。東京新聞が伝えているように、得票数を投票者数ではなく有権者数で割った絶対得票率でみると、自民党は小選挙区で24・67%、比例区で15・99%に過ぎない。

自民党が支持を回復したわけではない。民主党が今度の選挙で有権者から見放され、その票が多くの党に分散したことで、自民党が小選挙区で漁夫の利を得ただけだ。見かけ上の「圧勝」であり、偽装勝利と言っていい。

「自民の政策を支持」はわずか7%しかない(朝日新聞、12月18日)。国民世論は、脱原発が78%、憲法9条改正反対が52%、集団的自衛権を行使できるよう現行の憲法解釈を変更することに反対が37%(賛成は28%)、憲法改正の条件を緩めることに反対が43%(賛成は41%)、消費税増税に反対が52%(賛成は41%)、公共事業費の増額に反対が53%(賛成は37%)、米軍普天間飛行場の沖縄辺野古への移設に反対が60%以上などとなっているが、選挙結果は真逆となってしまった。「当選議員の3分の1が核武装に前向き」…ふざけるな!

朝日新聞デジタル:世論調査―質問と回答〈12月26、27日実施〉
http://www.asahi.com/politics/update/1227/TKY201212270894.html
本社世論調査:9条改正「反対」52%− 毎日jp(毎日新聞)
http://mainichi.jp/select/news/20121228k0000m010108000c.html
朝日新聞デジタル:総選挙どう見た
http://www.asahi.com/area/kyoto/articles/MTW1212252700004.html
「辺野古反対」県内9割 全国6割「県外・国外」 - 琉球新報 - 沖縄の新聞、地域のニュース
http://ryukyushimpo.jp/news/storyid-190959-storytopic-1.html
毎日新聞による2012衆院選の分析:当選議員の3分の1が核武装に前向き
http://senkyo.mainichi.jp/news/20121218ddm010010186000c3.html

沖縄では自民公認候補4人が普天間飛行場の県外移設を訴えて戦い、比例当選者を含め全員が当選した。福島で脱原発を掲げていた自民候補も同様だった。これらの議員が党中央の方針に逆らうことはほぼ無理だろうし、そうしたところで何の力もない。

選挙結果と民意は明らかに著しくかけ離れている。何のための選挙か分からない。

一時期、憲法審査会が始動しないことを国民主権の軽視だと批判するおためごかしの議論があった。まったく逆だ。民意とは真逆の議員構成の国会で改憲発議をするなど、国民主権を最高度に侵害する。このような国会で改憲発議をして「自主憲法」を制定しようとすることを恥ずかしく思わないのか。

メディアはこの間、自民・民主・「第3極」ばかりを取り上げ、脱原発では一番確かな共産・社民を無視してきた。選挙前から明らかだったが、少なくとも比例区で脱原発票を共産・社民に統一していれば、確かな脱原発派議員の数は最大化できた。メディアは<護憲政党を排除することで脱原発派議員と護憲派議員の最小化>に貢献しただろう。毎日新聞は12月18日、漫画家に「反対ガンバロー」などと共産・社民の党首・委員長に語らせる絵を描かせ、護憲政党に対するネガティブキャンペーンを続けていくと宣言している。

メディアはまた、自民・公明による「野田首相は嘘つきキャンペーン」に乗って衆院解散・総選挙の実現を後押ししたが、「できるだけ早い時期の脱原発」を公約に掲げた公明党が自民党と「可能な限り原発依存度を減らす」(原発を1基だけ減らすのでもいい)ことで合意し、公約を反故にしても、何ら批判しない。ここでもあからさまな差別がある。

2012年12月30日は新宿で今年最後の訴えをしてきた。来年の通常国会は、小選挙区制の廃止を含む選挙制度改正から始めるべきだ、と。

そもそも、投票所に足を運ぶ段階で投票権が実質的に剥奪されている方々もいる。

福島第一原発収束作業員の方からの投稿
http://ameblo.jp/hiko1956/entry-11439216028.html

主権者の主権を保障しないで政治も何もない。

(2) 主権を毀損し民意と乖離した選挙を鋭く批判しないメディア

今回の選挙結果の本質を分かりやすく目立つ形で報道した全国一般紙がない中で、東京新聞の2012年12月18日付の1面と3面の記事は優れていた。

1面トップ大見出し
東京新聞:小選挙区24% 比例代表15% 自民 民意薄い圧勝
http://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/news/CK2012121802000130.html
3面トップ大見出し
自民 比例219万票も減  乱立棚ぼた これでも勝てた
小選挙区制 多大な貢献
http://www.tokyo-np.co.jp/article/kakushin/list/CK2012121802000139.html

本格的な選挙結果分析が掲載された12月18日、他紙は選挙結果をどのように伝えただろうか。

産経新聞は1面の見出し「小選挙区制の“魔力”」で比較大政党の間で議席獲得数が大きく揺れることを強調しているが、自民党の比例区での得票率がわずか28%であることを伝えていない。同党が「他党の追随を許さない」勝利を収めたと同紙は評価するが、民意をまったく無視している。

朝日新聞は1面で「『1強8弱』化の危機〈政権再交代〉」として小選挙区制に触れているが、同制度によって平等な主権が侵害されていることを心配しているわけではなく、二大政党制や多党制など政党政治に対する影響に言及しているだけだ。自民党の比例区得票率については、天声人語で小さく紹介している程度に過ぎない。

日経は7面で自民党の比例区得票率が惨敗の前回並みであることを伝えているが、扱いは大きくない。

毎日新聞は2面で「自公325 比例は前回並み」と見出しに掲げているが、大きくはない。16面で「民意の『揺れ幅』大きく」との見出しを掲げ、あたかも民意が自民党を支持する方向に変化したかのような印象を与えかねない書き方をする一方で、より小さな見出しで「自民 比例票伸びず」と伝えている。どの見出しにも自民の比例区得票率が28%であったことが含まれていない。

読売新聞は19面で自民・民主の2000年選挙以来の比例区得票率をグラフで示しているが、わざわざグラフの軸を斜め(右肩上がり)にしているから、2009年からほぼ横ばいであることが読み取りにくい。しかも2005年の自民「圧勝」時との比較を強調しているだけで、惨敗した2009年と変わらないことが一目で分かりにくい。

同紙「衆院選座談会」では、東工大准教授の谷口尚子氏が得票率と議席率の乖離を指摘し、比例代表併用制などに言及している一方で、経済同友会代表幹事の長谷川閑史氏は「民自公の3党合意という新しい(政策決定)モデルができたわけだし、維新の会や民主党は自公政権に対して是々非々で臨む姿勢なのだから、次期衆院選までは現行制度でよいのではないか。新しい政策決定モデルが定着すれば、今までのような(選挙のたびの民意の)振れが徐々に修正される可能性がある。選挙制度改革は短絡的にやるべきではない。特に(法案再可決が可能な)『3分の2』の議席を活用してやることは避けるべきだ。」と述べている。

この長谷川氏は選挙区間1票格差を批判している人物だ。なのに、どうして小選挙区制による生票・死票間1票格差を問題にしないのだろう。民自公など特定の一部政党による恣意的な政策決定モデルがあるから選挙制度改革を急ぐ必要がない、という認識は考えられない。選挙制度とは平等な主権を保障する制度なのであり、恣意的な政策決定モデルなどに左右されることなく主権者の側にあるのである。

(3) メディアによる争点隠し――「イデオロギー」のレッテル貼りで外交・軍事・改憲・教育を生活・経済・景気から切り離す

メディアは一貫して外交・軍事・改憲・教育などに「イデオロギー」のレッテルを貼って、あたかも私たちの生活・経済・景気に関係ないかのように争点からずらしてきた感がある。当選議員3分の1が核武装に前向きともなれば、税支出の観点からしても、私たちの生活に影響しないわけにはいかない。

自民党政府は民主党政権が「仕分け」で縮減していた道徳副教材「心のノート」の配布を復活させるという。福島原発事故の責任を取ってもいない連中が税金を使って道徳を説く。

自民党はもちろん自衛隊装備の増強を公約している。タダではない。生活保護費から1000億円は削減するが、米軍思いやり予算1881億円は削減しない。

石原慎太郎前都知事による尖閣諸島の購入計画を発端に中国で暴動が起こり、日本企業が膨大な損失を被ったが、メディアはこの問題も取り上げない。

(4) メディアによる次期参院選の予測と誘導――自民対野党の構図で護憲政党を国会から放逐へ

時事通信の試算によれば、来夏の参院選(総議席242議席のうち121議席が改選)では、自民党が31ある1人区すべてを制覇するなどして62議席を獲得し、非改選を含めると自民・公明両党の合計は過半数の127議席を超えるという。

参院選で「ねじれ解消」=自民62、民主17―衆院選得票で試算
http://www.jiji.com/jc/zc?k=201212/2012122300059

読売も試算で同様の結果を出している。読売は野党が選挙協力した場合も予想していて、維新とみんなが選挙協力すると、定数2で民主を破って6議席を上積みするものの、自民の獲得議席に大きな影響はないという。

数字の上で興味深いのは、共産を除く野党が1人区で候補を一本化すれば野党が1人区で25勝し、自民の議席は37議席に減る。その結果、自公は非改選議席を合わせても過半数に満たない。

もちろん、改憲派野党が選挙協力して自民の議席を減らしても改憲派の数は減らない。護憲派もそれなりにいる民主党の前原誠二氏などは、それを狙っているだろう。脱原発を中途半端に掲げながら自民に勝つという大義を掲げ、維新・みんな・生活の党(旧日本未来の党)などと協力することで、共産・社民などの護憲政党から「護憲+脱原発票」を引きはがし、護憲派議員の放逐を図ると思われる。

メディアもおためごかしに、自民に勝つために野党は一丸となるべきだと、憲法を争点から外した虚構の構図を煽っていくだろう。

自公は再議決に必要な3分の2の議席を衆議院で確保したから、今度の参院選で脱原発派議員が大勝して参議院の過半数を制しても、残念ながら一般法の成立で脱原発派議員の力が発揮される保証はない。従って、来夏の参院選では改憲発議の阻止が最大の目標になると思う。

参院で改憲発議を阻止するためには242議席の3分の1となる80議席以上を確保しなければならない。国会に確かな護憲派議員は数えるほどしかいないから(当選した公明党衆院議員の中にも改憲発議要件を緩和する改憲に賛成の議員は19%いる = 2012年12月18日付読売)、今度の参院選のハードルは非常に高い。

参院選まであと7カ月しかない。護憲派有権者1人1人が自分の周囲で確実に味方を増やしていく活動がもう欠かせないと思う。人数など具体的な目標を立てて、実践していきたいと思う。

(5) 生活の党は安倍政権にくみする改憲、集団的自衛権、米軍普天間飛行場、小選挙区制・定数削減などについて態度を明らかにすべき

日本未来の党は亀井静香氏と阿部知子氏が抜けて生活の党になった。護憲派の阿部氏を共同代表にする案が小沢一郎氏派から否定されたが、これは一面で生活の党議員の改憲に対する姿勢を示しているのではないかと思う。

生活の党の当選した衆議院議員は、毎日新聞の「ボートマッチ」によれば、憲法改正、集団的自衛権の行使を禁じた政府の憲法解釈の変更、米軍普天間飛行場の国外ではなく国内への移設、国会議員定数の削減に賛成する議員が多い。

http://mainichi.jp/votematch/

集団的自衛権の行使や米軍普天間飛行場の国内移設は「対米従属」そのものだと思うが、生活の党は対米従属を主張するのだろうか。また同党は安倍政権の改憲にくみするのか。これだけ弊害の明らかとなった小選挙区制を廃止する気はないのか。世界に恥をさらして民意を切り縮める定数削減を進めるのか。来る参院選に向けてはっきりしてもらわなければ困る。

脱原発と、米軍の戦争に加担する集団的自衛権の行使および普天間基地の容認は、まったく相いれない。日本に住む者が原発事故で死ぬのは認めないが、他国で他人を殺すことは構わないという差別思想は、脱原発と無縁だ。

主権者の平等な主権を認めようとしない国会議員は全国民を代表しているとは言えず、そのような国会議員が打ち出す政策は信用できない。脱原発・反TPP・反消費増税などの個別政策を語る前に、まず脱差別を公約していただきたいものだ。

(6) メディアは小選挙区制の矛盾を指摘しても(定数3の寡占的)中選挙区制止まり、比例代表制には否定的

メディアもさすがに小選挙区制の矛盾に目をつぶることができなくなった。しかし相変わらず、主権者の平等な主権を保障するためではなく、これこれの政治を実現するため、という動機で選挙制度を語っている。読売の社説が典型だ。

衆院小選挙区制 得票と議席の差が開き過ぎる(読売新聞、12月24日)
http://www.yomiuri.co.jp/editorial/news/20121223-OYT1T00933.htm

「民意を集約することで安定した政権ができやすい」など、相変わらず小選挙区制についての誤解から抜けていない。小選挙区制については下記ブログ記事を参照されたい。

小選挙区制の廃止へ向けて
http://kaze.fm/wordpress/?p=215

メディアによる小選挙区制見直し論の限界と狙いは、読売社説の次の段落に象徴されていると思われる。

「菅前首相のように、小選挙区で敗れたのに、重複立候補した比例選で復活当選する仕組みが今なお続くのも納得しがたい。」
「与野党からは、こうした問題点を踏まえ、中選挙区制の復活を求める声も出ている。それも排除すべきではないだろう。」

比例代表制に対して否定的な印象を与えている。中選挙区制といっても定数3など、自民・民主・維新などしか当選できない寡占的制度に持っていきたいのだろう。

比例代表制の本質は、当選議員1人当たりの得票数(当選基数と呼ぶ)を同じくする究極の1人1票の選挙制度にある。

究極の1人1票の選挙制度は単純だ。当選に要する票をあらかじめ決めておき、複数段階の投票を設定するなどして、「過剰な生票」や死票を生かす仕組みを組み込めばよい。1つの政党の支持者グループは、当選基数よりも多くの票を獲得した候補から当選基数に満たない候補に票を移譲するし、死票を集約して生票にする。その結果は、比例代表制と同じになる。つまり、比例代表制は、当選議員の得票数を同じくするというプロセスを簡略化したものに他ならない。

小選挙区ではなく、広い選挙区を採用するだけでも、各候補の得票数は当選基数に近づく。広い選挙区が比例代表制の前提であり、小選挙区を前提にした候補の選好度は投票者の比例代表制的民意ではない。読売社説の感覚は間違っている。

私自身は中選挙区比例代表併用制を提案している。

中選挙区比例代表併用制を提案する
http://kaze.fm/wordpress/?p=164

(7) 選挙区間1票格差(地域代表性格差)だけでなく生票・死票間1票格差や政党間1票格差に目を向けるべき――「0.2票」より「0票」(小選挙区の56%)の方が深刻

一人一票実現国民会議は1票格差を放置したまま実施された今回の選挙を違憲状態選挙だとして全国の高裁・高裁支部に提訴した。訴状では「憲法は人口比例の選挙を求めており、国民の意思が等しく国会に反映されなければ国民主権とは言えない」(毎日新聞、12月18日)と訴えている。

同会議で活躍されている升永英俊弁護士の考え方がIWJの岩上安身氏によるインタビューでよく分かる。

升永英俊弁護士 インタビュー, Recorded on 2012/12/21
http://www.ustream.tv/recorded/27903148#utm_campaign=t.co&utm_source=27903148&utm_medium=social

冒頭、自民党が比例区で全有権者の15パーセントからしか支持されていないことを岩上氏から伝えられ、民意と議席数の乖離はおかしいと認識された升永氏だが、選挙制度本体は1票格差の問題ではないから、60年かかって改正してもいい、と発言している。

また升永氏は「都民の私は0.2票しか持っていない」と語られる。しかし、千葉何区の有権者が等しく高知何区の有権者の何分の1の価値の票しか持っていない、という表現と同様に正しくない。千葉の当該選挙区で生票を投じた有権者は、高知の当該選挙区で死票を投じた有権者より、1票の価値が高い(ある)のは、当然である。

1票が価値を持つかどうかは、議員1人当たりの有権者数に依存するのではなく、どの政党を支持するかでほぼ決まってしまう。

(小選挙区の)選挙区間1票の格差を是正したところで、地方で選出されていた二大政党の候補が、都市部から選出されるようになるに過ぎない。少数政党の支持者のいる小選挙区の選挙区間1票格差が改善されても同支持者にとっての1票価値は生まれず、大政党の支持者のいる小選挙区の選挙区間1票格差が他の選挙区と比べて改善されても、競合する他の大政党の支持者の1票格差も同時に改善されるので、1票価値が自分の選挙区内でも、他の選挙区と比べても、高まるということはない。

議員1人当たりの有権者数ばかりを問題にしても、1票格差は解消しない。純粋な1票格差の問題は選挙区間1票格差よりむしろ生票・死票間1票格差あるいは政党間1票格差にこそある。ただし、選挙区間1票格差が政党間1票格差を生み出す場合もある。

「民主主義は多数派支配」と語る升永氏。小選挙区の死票率56%は選挙結果が多数派支配ですらないことを示している。「0.2票」より「0票」の方が深刻だ。升永氏はじめ一人一票実現国民会議の皆さまには、小選挙区制による生票・死票間1票格差にも目を向けていただきたいと思う。

[参考]
1票の格差とは何か
http://kaze.fm/wordpress/?p=381

(8) 2012衆院選の最大1票格差――小選挙区が日本未来の党の13.83倍、比例区が社民党の4.87倍

シミュレーションや1票格差などの計算のプロセスは下記「議席配分表」に記載している。

議席配分表
http://otasa.net/documents/2012_gisekihaibun.xls

2012衆院選の結果は、表1 2012年衆議院選挙の結果にまとめた。

1票の価値を比較する場合、選挙区間1票格差だけを考えればいいというわけにはいかない。生票・死票間1票格差あるいは政党間1票格差も考える必要があり、むしろこちらの方が重大だ。

政党間1票格差を<「1議席当たりの得票数」を各党ごとに求め、自民党の「1議席当たりの得票数」で割った値>と定義する。だから1議席も取れない政党については、この定義での政党間1票格差を計算できないが、政党間1票格差が最大の党よりも死票率が高い政党が存在する。

今回、小選挙区は日本未来の党の13.83倍、比例区は社民党の4.87倍が最大の政党間1票格差となる(表1 2012年衆議院選挙の結果)。

比例区でなぜ4.87倍もの1票格差が生じるかといえば、現在の小選挙区比例代表並立制の比例区が全国1区ではなく11のブロックに分かれ、各ブロックの定数が少ないために議席配分の結果が比較大政党に有利となっていることに原因がある。

比例区をブロック制でなく全国1区にすると、表2 比例区がブロック制でなく全国1区だったらのように得票率と議席占有率がほぼ一致するようになる。従って1票格差もほとんどなくなる。

(9) 2012衆院選――小選挙区がなく全国1区の比例代表制だったら自民はたったの132議席

比例区得票率がわずか27.62%の自民党は、実際の結果において比例区と小選挙区を合わせて294議席(議席占有率61.25%)を獲得したが、小選挙区がなく全国1区の比例代表制だったら、たったの132議席(議席占有率27.50%)しか獲得できなかったことになる(表3 小選挙区がなく全国1区の比例代表制だったら)。

(10) 2012衆院選――比例区で未来の票を共産・社民に統合すると3議席増える

今回は脱原発票が分散してしまった。比例区で未来の票を共産・社民に統合したらどうなるだろうか。未来の比例区票を各ブロックごとに共産・社民に按分配分してみた。

すると、共産8、未来7、社民1の計16議席から、共産17、社民2の計19議席へと3議席増える(表4 2012衆院選比例区で未来の票を共産・社民に統合したらどうなるか)。

(11) 2012衆院選――比例区で共産・未来・社民の票を統合すると10議席増える

では、比例区で共産・未来・社民の票を統合したらどうなるか。共産・未来・社民の各党が単独の場合の計16議席と比べ、10議席増の26議席となる(表5 2012衆院選比例区で共産・未来・社民の票を統合したらどうなるか)。

(12) 次期参院選比例区のシミュレーション(定数削減なし、改選定数48)――護憲政党の獲得議席はわずか4議席

次期参院選のシミュレーションは比例区・選挙区とも時事などが実施している。独自に比例区について計算してみると、獲得議席は共産3、未来2、社民1となる(表6 次期参院選比例区のシミュレーション(定数削減なし))。護憲政党の議席はわずか4議席しかない。

比例区における最大の1票格差は未来の1.44倍となる。参議院の比例区は衆議院とは違い、ブロック制ではなく全国1区なので、このように格差はあまり大きくない。

(13) 次期参院選比例区のシミュレーション(定数削減あり、改選定数28)――護憲政党の獲得議席はわずか2議席、最大1票格差は「定数削減なし」より拡大

民主党の方針のように、参院比例区の定数を40削減(改選定数28)したらどうなるか。獲得議席は共産2、未来1、社民0となり、護憲政党はわずか2議席しか獲得できない(表7 次期参院選比例区のシミュレーション([定数40]=[改選数20]削減))。

比例区における最大の1票格差は未来の1.85倍となり、定数削減しない場合の1.44倍より格差が拡大する。従って、格差を拡大するような定数削減=選挙制度改定は行うべきでない。

(14) 次期参院選比例区のシミュレーション(定数削減なし、改選定数48)――共産・未来・社民の票を統合しても1議席しか増えない(統一名簿の必要性?)

参院は衆院と違って比例区は全国1区で死票が少ないが、一応、脱原発政党の票を統合することで議席が増えるかどうか計算してみる。

まず、未来の票を共産・社民に統合した場合(表8 次期参院選比例区のシミュレーション(定数削減なし、未来の票を共産・社民に統合))。共産・未来・社民の各党が単独の場合の計6議席と比べ、1議席増の7議席となる。

次に、共産・未来・社民の票を統合した場合(表9 次期参院選比例区のシミュレーション(定数削減なし、共産・未来・社民を統合))。この場合も獲得議席は7議席となる。

(15) 次期参院選比例区のシミュレーション(定数削減あり、改選定数28)――共産・未来・社民の票を統合しても1議席しか増えない(統一名簿の必要性?)

では、参院の定数が削減された場合に、共産・未来・社民の票を統合する効果はあるだろうか(表10 次期参院選比例区のシミュレーション([定数40]=[改選数20]削減、共産・未来・社民を統合))。獲得議席は4議席で、各党単独の場合(表7)の3議席から1議席しか増えない。

以上から、参院比例区では統一名簿などをつくって各党の票を統合しても議席増の効果はないことを確認できる。ただし、統一名簿によって得票数増をもたらす効果はあるかもしれない。

(16) 次期衆院選比例区のシミュレーション(定数が75削減されて105になった場合)――社民は議席をなくし、共産の1票格差は1.58倍から3.88倍に拡大

これだけ小選挙区制の反民主主義性が明らかになっても、各党はまだ小選挙区制の廃止はおろか、小選挙区制の特性を強める比例区定数の削減方針を撤回していない(小選挙区なら定数を削減してよいわけではない)。民主主義後進国としてさらに恥をかきたいのだろうか。国連などで例の身切り論をぶってみてくれないか。

[参考]
各国議会の定数について:
上脇博之 ある憲法研究者の情報発信の場 : 小選挙区選挙は廃止しかない(その4:完全比例代表制がベストだ)
http://blog.livedoor.jp/nihonkokukenpou/archives/51704249.html
国会議員の身切り論について:
消費税増税を強いる前に国会議員は身を切るべきだ?
http://kaze.fm/wordpress/?p=422
消費税増税を強いる前に国会議員は身を切るべきだ?(2)
http://kaze.fm/wordpress/?p=425

民主党の方針通り、衆院比例区の定数が180から75削減されて105になったら、各党の獲得議席数と1票格差はどうなるだろうか。表11 次期衆院選比例区のシミュレーション(定数が75削減されて105になった場合)に示した。

社民は現行定数でかろうじて1議席を獲得していたが、定数削減で議席をなくし、上記定義の1票格差は計算できなくなる。そして、共産の1票格差は1.58倍から3.88倍に拡大する。ブロック制のため、定数削減でも、共産より全国得票率の低い未来が共産より獲得議席が多く、1票格差も小さくなるという現象も起きる。

選挙区間1票格差(地域代表性格差)2倍が違憲であるなら、真の1票格差である政党間1票格差3.88倍や生票・死票間1票格差(小選挙区の死票率56% = 2人に1人以上は主権がない)は論理必然的に違憲である。定数を削減しなくとも社民の1票格差は既に4.87倍であり、これ以上の定数削減は考えられず、逆に定数を増やすしか選択肢はない。

(17) 選挙区間1票格差(地域代表性格差)が政党間1票格差に有利に働く例――自民は中国地方で支持率が高く、同地域は人口当たりの議員数が多いので、選挙区間1票格差は自民に有利

表12 2012衆院選における政党・比例区ブロック別得票率(%、各党の地域別支持率の比較)を見ていただきたい。自民と共産の得票率(支持率)は東京ブロックと中国ブロックで好対照をなしている。

自民は中国ブロックで支持率が高いが、東京ブロックでは支持率が低い。対して共産は逆の関係を示している。従って、選挙区間1票格差は自民に有利だ。

選挙区間1票格差を解消すべき理由としては、地域代表性格差より、政党支持率が地域によって違うことで政党間1票格差が発生してしまうことの方が重要である。

表1 2012年衆議院選挙の結果
1票格差:「1議席当たりの得票数」を各党ごとに求め、自民党の「1議席当たりの得票数」で割った値
( )内は2009年衆院選の結果
議席配分表
得票数 得票率(%) 議席数 議席占有率(%) 1票格差
小選挙区 自民 25,643,309 43.01(38.68) 237 79.00(21.33) 1.00
維新 6,942,353 11.64(-) 14 4.67(-) 4.58
民主 13,598,773 22.81(47.73) 27 9.00(73.67) 4.65
公明 885,881 1.49(1.11) 9 3.00(0.00) 0.91
みんな 2,807,244 4.71(0.87) 4 1.33(0.67) 6.49
共産 4,700,289 7.88(4.22) 0 0.00(0.00) -
未来 2,992,365 5.02(-) 2 0.67(-) 13.83
社民 451,762 0.76(1.95) 1 0.33(1.00) 4.18
大地 315,604 0.53(-) 0 0.00(-) -
幸福 102,634 0.17(1.53) 0 0.00(0.00) -
改革 - - - - -
国民 117,185 0.20(1.04) 1 0.33(1.00) 1.08
無所属 1,006,468 1.69(2.81) 5 1.67(2.00) 1.86
59,626,567 100 300 100 -
比例区 自民 16,624,457 27.62(26.73) 57 31.67(30.56) 1.00
維新 12,262,228 20.38(-) 40 22.22(-) 1.05
民主 9,628,653 16.00(42.41) 30 16.67(48.33) 1.10
公明 7,116,474 11.83(11.45) 22 12.22(11.67) 1.11
みんな 5,245,586 8.72(4.27) 14 7.78(1.67) 1.28
共産 3,689,159 6.13(7.03) 8 4.44(5.00) 1.58
未来 3,423,915 5.69(-) 7 3.89(-) 1.69
社民 1,420,790 2.36(4.27) 1 0.56(2.22) 4.87
大地 346,848 0.58(0.62) 1 0.56(0.56) 1.19
幸福 216,150 0.36(0.66) 0 0.00 -
改革 134,781 0.22(0.08) 0 0.00(0.00) -
国民 70,847 0.12(1.73) 0 0.00(0.00) -
60,179,888 100 180 100 -
小選挙区+比例区 自民 - - 294 61.25 -
維新 - - 54 11.25 -
民主 - - 57 11.88 -
公明 - - 31 6.46 -
みんな - - 18 3.75 -
共産 - - 8 1.67 -
未来 - - 9 1.88 -
社民 - - 2 0.42 -
大地 - - 1 0.21 -
幸福 - - 0 0.00 -
改革 - - 0 0.00 -
国民 - - 1 0.21 -
無所属 - - 5 1.04 -
- - 480 100 -


 
 

表2 比例区がブロック制でなく全国1区だったら

1票格差:「1議席当たりの得票数」を各党ごとに求め、自民党の「1議席当たりの得票数」で割った値
議席配分表
自民 維新 民主 公明 みんな 共産 未来 社民 大地 幸福 改革 国民
議席数 51 37 29 21 16 11 10 4 1 0 0 0 180
得票率 27.62 20.38 16.00 11.83 8.72 6.13 5.69 2.36 0.58 0.36 0.22 0.12
議席占有率 28.33 20.56 16.11 11.67 8.89 6.11 5.56 2.22 0.56 0.00 0.00 0.00
1票格差 1.00 1.02 1.02 1.04 1.01 1.03 1.05 1.09 1.06


 
 

表3 小選挙区がなく全国1区の比例代表制だったら

総定数:480(5議席を無所属候補が獲得、残り475議席を政党に配分)
1票格差:「1議席当たりの得票数」を各党ごとに求め、自民党の「1議席当たりの得票数」で割った値
議席配分表
自民 維新 民主 公明 みんな 共産 未来 社民 大地 幸福 改革 国民
議席数 132 98 77 56 41 29 27 11 2 1 1 0 475
得票率 27.62 20.38 16.00 11.83 8.72 6.13 5.69 2.36 0.58 0.36 0.22 0.12
議席占有率 27.50 20.42 16.04 11.67 8.54 6.04 5.63 2.29 0.42 0.21 0.21 0.00
1票格差 1.00 0.99 0.99 1.01 1.02 1.01 1.01 1.03 1.38 1.72 1.07


 
 

表4 2012衆院選比例区で未来の票を共産・社民に統合したらどうなるか(未来の比例区票を各ブロックごとに共産・社民に按分配分)

比例区定数:180
1票格差:「1議席当たりの得票数」を各党ごとに求め、自民党の「1議席当たりの得票数」で割った値
議席配分表
自民 維新 民主 公明 みんな 共産 社民 大地 幸福 改革 国民
議席数 54 39 30 23 14 17 2 1 0 0 0 180
得票率 27.62 20.38 16.00 11.83 8.72 10.24 3.94 0.58 0.36 0.22 0.12 100
議席占有率 30.00 21.67 16.67 12.78 7.78 9.44 1.11 0.56 0.00 0.00 0.00 100
1票格差 1.00 1.02 1.04 1.01 1.22 1.18 3.85 1.13


 
 

表5 2012衆院選比例区で共産・未来・社民の票を統合したらどうなるか

比例区定数:180
1票格差:「1議席当たりの得票数」を各党ごとに求め、自民党の「1議席当たりの得票数」で割った値
議席配分表
自民 維新 民主 公明 みんな 共産・未来・社民 大地 幸福 改革 国民
議席数 52 36 30 21 14 26 1 0 0 0 180
得票率 27.62 20.38 16.00 11.83 8.72 14.18 0.58 0.36 0.22 0.12 100.00
議席占有率 28.89 20.00 16.67 11.67 7.78 14.44 0.56 0.00 0.00 0.00 100.00
1票格差 1.00 1.07 1.00 1.06 1.17 1.03 1.08


 
 

表6 次期参院選比例区のシミュレーション(定数削減なし)

改選定数:48
1票格差:「1議席当たりの得票数」を各党ごとに求め、自民党の「1議席当たりの得票数」で割った値
議席配分表
自民 維新 民主 公明 みんな 共産 未来 社民 大地 幸福 改革 国民
議席数 14 10 8 6 4 3 2 1 0 0 0 0 48
得票率 27.62 20.38 16.00 11.83 8.72 6.13 5.69 2.36 0.58 0.36 0.22 0.12
議席占有率 29.17 20.83 16.67 12.50 8.33 6.25 4.17 2.08 0.00 0.00 0.00 0.00
1票格差 1.00 1.03 1.01 1.00 1.10 1.04 1.44 1.20


 
 

表7 次期参院選比例区のシミュレーション([定数40]=[改選数20]削減)

改選定数:28
1票格差:「1議席当たりの得票数」を各党ごとに求め、自民党の「1議席当たりの得票数」で割った値
議席配分表
自民 維新 民主 公明 みんな 共産 未来 社民 大地 幸福 改革 国民
議席数 9 6 5 3 2 2 1 0 0 0 0 0 28
得票率 27.62 20.38 16.00 11.83 8.72 6.13 5.69 2.36 0.58 0.36 0.22 0.12
議席占有率 32.14 21.43 17.86 10.71 7.14 7.14 3.57 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00
1票格差 1.00 1.11 1.04 1.28 1.42 1.00 1.85


 
 

表8 次期参院選比例区のシミュレーション(定数削減なし、未来の票を共産・社民に統合)

改選定数:48
1票格差:「1議席当たりの得票数」を各党ごとに求め、自民党の「1議席当たりの得票数」で割った値
議席配分表
自民 維新 民主 公明 みんな 共産 社民 大地 幸福 改革 国民
議席数 14 10 8 5 4 5 2 0 0 0 0 48
得票率 27.62 20.38 16.00 11.83 8.72 10.24 3.94 0.58 0.36 0.22 0.12
議席占有率 29.17 20.83 16.67 10.42 8.33 10.42 4.17 0.00 0.00 0.00 0.00
1票格差 1.00 1.03 1.01 1.20 1.10 1.04 1.00


 
 

表9 次期参院選比例区のシミュレーション(定数削減なし、共産・未来・社民を統合)
改選定数:48
1票格差:「1議席当たりの得票数」を各党ごとに求め、自民党の「1議席当たりの得票数」で割った値
議席配分表
自民 維新 民主 公明 みんな 共産・未来・社民 大地 幸福 改革 国民
議席数 14 10 8 5 4 7 0 0 0 0 48
得票率 27.62 20.38 16.00 11.83 8.72 14.18 0.58 0.36 0.22 0.12
議席占有率 29.17 20.83 16.67 10.42 8.33 14.58 0.00 0.00 0.00 0.00
1票格差 1.00 1.03 1.01 1.20 1.10 1.03


 
 

表10 次期参院選比例区のシミュレーション([定数40]=[改選数20]削減、共産・未来・社民を統合)
改選定数:28
1票格差:「1議席当たりの得票数」を各党ごとに求め、自民党の「1議席当たりの得票数」で割った値
議席配分表
自民 維新 民主 公明 みんな 共産・未来・社民 大地 幸福 改革 国民
議席数 8 6 5 3 2 4 0 0 0 0 28
得票率 27.62 20.38 16.00 11.83 8.72 14.18 0.58 0.36 0.22 0.12
議席占有率 28.57 21.43 17.86 10.71 7.14 14.29 0.00 0.00 0.00 0.00
1票格差 1.00 0.98 0.93 1.14 1.26 1.03


 
 

表11 次期衆院選比例区のシミュレーション(定数が75削減されて105になった場合)
定数:105
1票格差:「1議席当たりの得票数」を各党ごとに求め、自民党の「1議席当たりの得票数」で割った値
議席配分表
自民 維新 民主 公明 みんな 共産 未来 社民 大地 幸福 改革 国民
議席数 35 24 19 11 8 2 5 0 1 0 0 0 105
得票率 27.62 20.38 16.00 11.83 8.72 6.13 5.69 2.36 0.58 0.36 0.22 0.12 100
議席占有率 33.33 22.86 18.10 10.48 7.62 1.90 4.76 0.00 0.95 0.00 0.00 0.00 100
1票格差 1.00 1.08 1.07 1.36 1.38 3.88 1.44 - 0.73


 
 

表12 2012衆院選における政党・比例区ブロック別得票率(%、各党の地域別支持率の比較)
議席配分表
自民 維新 民主 公明 みんな 共産 未来 社民 大地 幸福 改革 国民
北海道 26.44 12.75 18.23 11.04 5.94 6.99 3.13 1.85 13.25 0.40 0.00 0.00
東北 28.55 16.71 18.57 9.18 7.06 5.92 9.02 3.70 0.00 0.34 0.96 0.00
北関東 28.14 18.09 15.11 12.68 12.18 5.68 5.99 1.83 0.00 0.31 0.00 0.00
南関東 26.43 18.89 17.31 10.61 12.45 5.86 6.25 1.93 0.00 0.27 0.00 0.00
東京 24.87 19.86 15.42 10.14 11.67 7.41 6.86 2.09 0.00 0.25 1.43 0.00
北陸信越 31.69 19.29 18.60 8.38 7.51 5.73 4.86 3.50 0.00 0.43 0.00 0.00
東海 27.56 19.02 18.53 10.93 9.03 5.43 7.16 1.91 0.00 0.42 0.00 0.00
近畿 23.86 30.76 12.03 12.66 6.52 7.52 4.94 1.36 0.00 0.34 0.00 0.00
中国 34.53 17.75 16.28 14.08 5.98 4.98 4.03 1.96 0.00 0.41 0.00 0.00
四国 30.66 21.32 16.05 14.97 5.03 5.78 3.45 2.31 0.00 0.44 0.00 0.00
九州 29.91 18.17 14.89 15.64 6.37 5.06 3.91 4.51 0.00 0.48 0.00 1.06

太田光征

消費税増税を強いる前に国会議員は身を切るべきだ?(2)

12月 8th, 2012 Posted by MITSU_OHTA @ 17:31:08
under メディア , 選挙制度 , 2012年衆議院選挙 1 Comment 

定数削減によって消費税増税などに反対する中小政党の議席(億円のレベル)を減らし、消費税増税などを主張する大政党の議席占有率を増加させるから、これらと引き替えに格差・貧困を拡大する消費税増税(兆円のレベル)の容認を、ついでに憲法改定、TPP参加、原発維持、米軍基地・オスプレイの沖縄への押し付けなどに取り組みやすくしてくれ――あきれてしまう!

7日付の東京新聞朝刊の記事「身を切る改革遠く 『違憲状態』の衆院選」について批評を書いた。

東京新聞:身を切る改革遠く 「違憲状態」の衆院選
http://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/news/CK2012120702000105.html
消費税増税を強いる前に国会議員は身を切るべきだ?
http://kaze.fm/wordpress/?p=422

続いて8日、同紙の筆洗でも同様の見解が示された。

東京新聞: <欲深き人の心と降る雪はつもるにつれて道を忘るる>なんて…
http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/hissen/CK2012120802000124.html
「何しろせっかく当選しても、裁判所から無効宣告のどんでん返しをくらうかもしれない。一票の格差を是正せぬまま解散したために、格差は最高裁が「違憲状態」とした前回の総選挙の時よりさらに広がっている」
「そもそも解散をめぐって民主、自民、公明は「来年の通常国会までに衆院議員定数の大幅削減を実現」と約束し合った。だが、国会をどう改革するのか、一票の格差をどう是正するか。具体的な方策を公約に示さぬ党が多く、論戦も聞こえてこない」

やはりどうも定数格差是正と定数削減をごっちゃにしているようだ。あるいは単に、定数削減では約束をしたが、1票格差の是正については公約を示していない、とだけ言っているのだろうか。だとしても舌足らず。定数削減は格差拡大に他ならず、1票格差の是正と相矛盾することを指摘するのが、メディアの役割だろう。

「消費税増税を強いる前に国会議員は身を切るべきだ?」で書いたように、選挙区間1票の格差2.43倍が問題なら、論理必然的に、生票・死票間1票格差をもたらす小選挙区制や、政党間1票格差4.98倍(2010参院選の結果を基に比例区定数が100に削減された場合の衆院比例区選挙シミュレーションをした場合の民主と社民の格差)の方が大問題だ。

国会議員に身を切らせたいのなら、世界一高い政党交付金を減額・廃止する方がよほどこたえる。国会議員定数の削減は「国会議員」一般ではなく、憲法改定、消費税増税、TPP参加、原発維持、米軍基地・オスプレイの沖縄への押し付けなどに反対する中小政党とそれらを支持する有権者の身を切ること、すなわちそうした世論・民意を切り捨てることだ。

消費税増税などを強いる大政党のみが身を切り、これまで身を肥やしてきた状況を改めることができるよう、小選挙区制中心から比例代表制中心の選挙制度へ改革することを主張するならまだ分かる(私は「中選挙区比例代表併用制」を提案している)。依然として身切り論はまやかしだが。

定数削減によって消費税増税などに反対する中小政党の議席(億円のレベル)を減らし、消費税増税などを主張する大政党の議席占有率を増加させるから、これらと引き替えに格差・貧困を拡大する消費税増税(兆円のレベル)の容認を、ついでに憲法改定、TPP参加、原発維持、米軍基地・オスプレイの沖縄への押し付けなどに取り組みやすくしてくれ――あきれてしまう!

3.11後に誰の意識にも上るようになった脱原発は、脱差別=民主主義の深化に他ならない。主権格差を拡大する議員定数削減のように、差別を押し付ける約束など公約になりようがない。

なぜメディアは民主主義の土俵でものを書くことができないのか。「2012年衆議院選挙アンケート」のような視点で、選挙関連記事を書いていただきたいものだ。

平和への結集ブログ » 2012年衆議院選挙アンケート
http://kaze.fm/wordpress/?p=406

太田光征(松戸市在住)

1票の格差とは何か

10月 22nd, 2012 Posted by MITSU_OHTA @ 2:48:53
under 選挙制度 , 定数配分の格差(1票の格差) No Comments 

(1) 2010年参院選の定数配分について最高裁が違憲状態の判決――裁判官の裁量を越える個別意見「議員定数削減の流れの中で…」/選挙制度の目的を逸脱した個別意見「選挙制度の仕組みの基本となる理念や政策的目的…」
(2) 「1人1票」は「選挙区間1票格差」を解消しても実現しない(「一票の実質的価値」の差異は、「選挙区間1票格差」より「生票・死票間1票格差」にある)――小選挙区間の1票格差は<投票者>の<1票の実質的価値>の差異というより、<都道府県>などに配分される議席数の格差、すなわち<地域代表性>の格差である
(3) 1票格差を解消するには、議員1人の当選に要する票数をあらかじめ設定すればよい
(4) 選挙制度による格差が憲法審査会に持ち込まれた――民意とずれのある国会で改憲発議をしても恥ずかしくないのか
(5) 格差をさらに拡大する定数削減――身切り論=定数削減神話「消費税増税に反対の民意を国会から追い出すので消費税増税を了解してくれ」
 
 

(1) 2010年参院選の定数配分について最高裁が違憲状態の判決――裁判官の裁量を越える個別意見「議員定数削減の流れの中で…」/選挙制度の目的を逸脱した個別意見「選挙制度の仕組みの基本となる理念や政策的目的…」

今回が初めてではないが、衆議院に続いて参議院の選挙でも定数配分について最高裁から違憲状態の判決が出た。違憲状態だとか冷温停止状態だとか、日本では曖昧な言葉が多いが、ともかく原告の長い努力の末、1票格差に関心が集まり出した。

平成23年(行ツ)第64号 選挙無効請求事件
平成24年10月17日 大法廷判決
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20121017181207.pdf
「1票の格差」訴訟 上告審判決の要旨  :日本経済新聞
http://www.nikkei.com/article/DGXNASDG1704J_X11C12A0CR8000/?nbm=DGXNASDG1703R_X11C12A0MM8000

ただ、道のりはまだまだ長いという感がある。判決はあくまで「選挙区間1票格差」に言及したものであって、死票と生票の間の格差を是正するように求めたわけではない。

選挙区間1票格差が憲法で規定された投票価値の平等性に反するというなら、論理必然的にそれより重大な死票・生票間格差の是正こそが真っ先に求められ、それを通じて選挙区間1票格差を是正するのが自然であるが、判決の重みを盛んに主張するメディアは、格差の本丸にほとんど目を向けない。

定数判決―参院のあり方論ずる時
http://digital.asahi.com/20121018/pages/shasetsu.html
【主張】「違憲状態」判決 衆参とも急ぎ格差是正を
http://sankei.jp.msn.com/affairs/news/121018/trl12101803130001-n1.htm
社説:参院選「違憲状態」 抜本改革を突きつけた− 毎日jp(毎日新聞)
http://mainichi.jp/opinion/news/20121018k0000m070132000c.html
参院1票の格差 抜本改革へ最高裁の強い警告 : 社説・コラム : YOMIURI ONLINE(読売新聞)
http://www.yomiuri.co.jp/editorial/news/20121017-OYT1T01507.htm?from=ylist
東京新聞:一票の格差 平等の実現に早く動け:社説・コラム(TOKYO Web)
http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2012101802000113.html

メディアは自ら選挙制度改正案を提案することで、国会議員の「怠慢」を正すという選択肢もあるはずだが、最近では民主党が格差是正で足を引っ張っている、と主張するところもある。

社説:1票の格差放置 怠慢にもほどがある (毎日新聞、2012年06月03日)
http://mainichi.jp/opinion/news/20120603k0000m070088000c.html
「『1票の格差』是正と定数の大幅削減、選挙制度見直しの3点を同時決着させるのは各党の思惑が絡んで不可能に近い。それはこれまでの協議で明らかなはずだ。それを承知で持ち出すのはなぜか。」
質問なるほドリ:選挙制度改革、なぜもめるの?=回答・野口武則(毎日新聞、2012年08月17日)
http://mainichi.jp/opinion/news/20120817ddm003070099000c.html
「Q 今回のように抜本改革や定数削減までやろうとしたら、もめるだけだよね。」

それでいて、公明党の井上義久幹事長が違憲状態で選挙を行ってもやむを得ないという主旨の発言をしても、批判することはない。

衆院選挙制度改革:0増5減先行 民主・公明が柔軟姿勢 (毎日新聞、2012年10月15日)
http://mainichi.jp/select/news/20121015k0000e010112000c.html
「井上氏は『国の現状を考えると、衆院解散を優先してしかるべきだ。やむを得ない』と述べ、次期衆院選を最高裁が指摘する違憲状態で実施することもやむを得ないとの考えを示した。」

今回の最高裁判決は「都道府県を単位として各選挙区の定数を設定する現行の方式をしかるべき形で改めるなど、現行選挙制度の仕組み自体の見直し」という表現で、選挙制度の仕組みの見直しを求めてはいるが、区割りを問題にする程度で、選挙制度の本質的な改正を想定しているようには思えない。

それどころか、最高裁判決では、いとも安易に「総定数を増やす方法をとるのにも制約」があると意見表明し、個別意見では、金築誠志裁判官が「議員定数削減の流れの中で、選挙区選出議員の総数を増加させることは考え難く」と述べ、あたかも定数削減が既定路線のようにとらえている。この見解表明は裁判官の裁量を越えている。定数削減が1票格差と本質的に関連していることを認識していないらしいことも深刻である。

竹内行夫裁判官にいたっては、「参院議員選挙制度の仕組みを検討するに当たっては、参院のあり方にふさわしい選挙制度の仕組みの基本となる理念や政策的目的などを国民に速やかに提示し、具体的な検討を行うことが強く望まれる。」とし、相変わらず選挙制度を「政策的目的」で規定しようとする発想を判決意見の中で表明するという不見識ぶりである。

選挙制度は主権者の平等な主権を保障するための制度であって、政権交代しやすくするとか、二大政党制に誘導するとかの政治的目的で歪めてはならない。
 
 

(2) 「1人1票」は「選挙区間1票格差」を解消しても実現しない(「一票の実質的価値」の差異は、「選挙区間1票格差」より「生票・死票間1票格差」にある)――小選挙区間の1票格差は<投票者>の<1票の実質的価値>の差異というより、<都道府県>などに配分される議席数の格差、すなわち<地域代表性>の格差である

日経は1票格差について「有権者が多い選挙区ほど1票の価値は小さくなり、逆に少ないほど価値は大きくなる」と解説するが、この命題は限定条件の下でしか成立しない。

「1票の格差」何が問題? 有権者の平等損なう 選挙制度、国会に裁量権 :日本経済新聞
http://www.nikkei.com/article/DGKDASDC17008_X11C12A0EA1000/
Q 「1票の格差」とはどのような問題か。
A 選出される議員1人当たりの有権者数が選挙区によって異なることから、有権者の1票の重みに不平等が生じることを指す。有権者が多い選挙区ほど1票の価値は小さくなり、逆に少ないほど価値は大きくなる。

2つの小選挙区で有権者数がまったく同じであったとしても、一方の選挙区で当選得票数が10万票、別の選挙区で落選得票数が20万票のような場合があり得る。この場合、1票価値が同じであるということはない。「選挙区間1票格差」がなくとも、「1票の実質的価値」に差異は生じ得る。

「ある選挙区Aの1票価値が別の選挙区Bの0.2倍である」などの命題は、選挙区Aの有権者すべてに当てはまるものでなく、限定条件下で、死票ではなく生票を投じた投票者グループにしか当てはまらない。

【「一票の格差」違憲状態】堂々巡り浮かぬ原告 「基準示された」評価も(産経、2012年10月17日)
http://www.sankeibiz.jp/compliance/news/121017/cpb1210172155011-n1.htm
「伊藤真弁護士は地域格差が記載された日本地図を指し示し『あなたは半人前、あなたは0.2人前と言われ、腹が立たない人がいますか?』」

選挙区Aの<有権者>すべての1票価値が選挙区Bの<有権者>すべての1票価値と比べ等しく0.2倍なのではなく、投票率が両選挙区で同じ場合に、あくまで生票を投じた<投票者>を両選挙区で比べ、選挙区Aの<投票者>は選挙区Bの<投票者>と比べ、議員1人を当選させるのに5倍の票を必要とするということを意味し、死票を投じた有権者に1票価値などまったくなく、0.2倍などの比較は意味を成さないのである。

選挙区間1票格差はあくまで、投票率が両選挙区で同じ場合に、生票を投じた<投票者>グループの間で、議員1人当たりの投票者数を比較した比率としてしか意味を持たない。

東京弁護士会の会長声明にある「一票の実質的価値」の差異は、裁判の対象となった「選挙区間1票格差」そのものより、「生票・死票間1票格差」にこそある。

1票の較差をめぐる最高裁大法廷判決に関する会長声明(2012年10月17日)
http://www.toben.or.jp/message/seimei/
「選挙権は、民主主義の根幹を構成する重要な権利である。一票の実質的価値に明らかな差異が生じることを許容するならば、有権者の意思を公平かつ合理的に立法府に反映させるための平等選挙制度の機能は著しく阻害されることになる。」

「1票の実質的価値」を小選挙区と複数定数区で詳しく考えてみる。

1人区だけの小選挙区制では、「選挙区間1票格差」を是正(区割り変更)しても各選挙区で定数に増減はない。小選挙区制における1票の価値は、どの政党を支持する票かということと、その選挙区における政党支持率を主要な条件として、生か死かのどちらかに決定されてしまう。他選挙区と比べて議員1人当たりの有権者数が多いから1票の実質的価値が小さくなる、ということではない。

中選挙区制・大選挙区制では、議員1人当たりの有権者数が少なくなる、あるいは定数が増えれば、名目的に「選挙区間1票価値」が高まるだけでなく、より多くの投票者の票が生票となる確率が高まると同時に、より少ない票数で生票になる確率が高くなるので、実質的にも「選挙区間1票価値」が高まる。

有権者数100万人(20万人 x 5)に定数5の中選挙区aと、有権者数20万人に定数1の小選挙区bでは、「選挙区間1票価値」は同じとされる。有権者数10万人に定数1の小選挙区cは、前2者より「選挙区間1票価値」は高いとされる。

しかし、少数政党の候補は小選挙区で当選しにくいから、少数政党の支持者にとって、小選挙区cの高い「1票価値」は実際的価値が低く、「1票価値」の低い中選挙区aの方がありがたい。小選挙区と複数定数区の間で選挙区間1票格差を比較しても「実質的価値」を比較することはできない。

現在の1票格差論が問題にしているのは、必ずしも<投票者>の<1票の実質的価値>の差異ではなく、小選挙区の場合は<都道府県>など(小選挙区より大きい範囲)に配分される議席数の格差、すなわち<地域代表性>の格差に他ならない。もっとも、小選挙区制で当選した議員は多数を代表するとは限らないので(コンドルセのパラドックス)、その地域を代表する保証はない。

コンドルセのパラドックス
http://kaze.fm/wordpress/?p=215#8

例えば、島根県や神奈川県の間で「選挙区間1票格差」がある場合は地域代表性の格差があると言えるが、各県内の小選挙区の間だけで「選挙区間1票格差」があっても、両県の間に「1票格差」がない場合、「地域」の定義を都道府県とすれば、地域代表性の格差はないことになる。

「1票価値」が島根1区で1.5、島根2区で0.5、神奈川1区で1.5、神奈川2区で0.5だとする。島根1区の「1票価値」は神奈川2区のそれよりが3倍高いとされるが、両県の1区、2区全体でみれば、議席配分数は両県でまったくのお相子となる。「1票価値」が3倍だからといって、議員を3倍選出できるわけではない。どの選挙区も1人を選出する。

小選挙区制では民主や自民などの大政党しか当選しないから、「選挙区間1票格差」の是正は大政党支持者にとってしか意味がなく、大政党の議席をある都道府県から別の都道府県に移動させるくらいにしかならない。

<有権者>には「1票価値」がゼロの死票を投票する<投票者>も含まれるから、議員1人当たりの有権者数で「1票格差」を比較することがそもそも間違い。議員1人当たりの<投票者>数を比較しなければ、「1票の実質的価値」を比較することはできない。

小選挙区制は、1つの選挙区で30%が生票に、残り70%が死票になるというような格差を認めるものである。こうした致命的な生票・死票間1票格差を放置して、選挙区間1票格差ないし地域代表性格差だけを是正すればよいというものではない。
 
 

(3) 1票格差を解消するには、議員1人の当選に要する票数をあらかじめ設定すればよい

1票格差を解消するには、議員1人の当選に要する票数をあらかじめ設定し、死票を生票に生かす仕組みを作ればよい。また政党候補と無所属候補の間の格差も解消する必要がある。

電子投票システムなどを使って何日もかければそれは実現するが、そんな手間をかけていられないというなら、近似的な制度を作るしかない。

中選挙区比例代表併用制を提案する
http://kaze.fm/wordpress/?p=164
 
 

(4) 選挙制度による格差が憲法審査会に持ち込まれた――民意とずれのある国会で改憲発議をしても恥ずかしくないのか

衆参で既に憲法審査会の委員と会長が選出されている。委員は各会派の議席占有率に応じて配分されるので、小選挙区制を中心とする選挙制度の歪みがしっかり審査会にも受け継がれているのである。

衆院でみると、各党における憲法審査会の委員占有率と2009衆院選の比例区得票率はそれぞれ、民主で64%、42.4%、自民で24%、26.7%、公明で4%、11.5%、共産で2%、7.0%などとなっており、民意とのずれが大きい。

「選挙区間1票格差」の是正は主張されても、改憲過程における格差の重大性はあまり深刻に語られない。日本維新の会などは「維新八策」で「1票格差」の是正策も新選挙制度案もまったく提案していない。民意とずれのある国会で改憲発議をしても恥ずかしくないのだろうか。
 
 

(5) 格差をさらに拡大する定数削減――身切り論=定数削減神話「消費税増税に反対の民意を国会から追い出すので消費税増税を了解してくれ」

原発安全神話は崩れても定数削減神話は健在だ。神話というより信じているふりだと思うが。国会議員は機会あるごとに国会議員定数の削減に努める考えを述べている。

消費税増税という負担を国民にお願いする前に、国会議員自らが身を切り、血を流してみせる必要があるのだという。辺野古新基地やオスプレイという負担を沖縄に押し付ける前に国会議員が身を切るべきだ、血を流すべきだ、などとは主張しないが。

民主党が主張しているように衆院の比例区定数を80削減すれば、1票格差はさらに拡大する。

2010参院選の結果を基に、比例区定数を80削減した場合の衆院比例区選挙をシミュレーションすると、社民党議員1人の当選に要する票数は、民主党議員1人の当選に要する票数の4.98倍となる。「選挙区間1票格差」論で問題にしている2倍どころではない。比例区定数を削減しても民主党は身を切ることはできないが、身を肥やすことならできる。

2010参院選――結果分析
1. 定数が100に削減された場合の衆院比例区選挙シミュレーション
http://kaze.fm/wordpress/?p=309#2010e1

民主党などの身切り論は、消費税増税、辺野古新基地建設、オスプレイ配備、原発維持などを主張していない他党を国会から追い出し、真逆の政策を支持している有権者の意見を切り捨てるから、それらの政策に了解願います、というものである。一体どういう論理と心理と礼節なのか。

消費税増税などを主張する政党のみが身を切るべきだ、あるいはキャバクラ代(自民党の安倍晋三総裁が支部長を務める自民党山口県第4選挙区支部)、温泉代、ヘアーメーク代などを政治資金で支払っている政党に対する政党助成金を減額すべきだ、いうならまだ理解できる。

国民負担と引き換えに国会議員が身を切るのであれば、国会議員の身は3・11後に一片も残っていないのではないか。福島原発事故の被害者は身を切り、血を流した。原発を維持しようという政党・議員こそ身を切るべきである。

日々、現役議員の引退が伝えられている。民主党などは新人議員の立候補者数を減らせば現役議員の椅子が減ることはないのだから、民主党が主張する程度の議員定数を削減したところで、そもそも身を切る、血を流すことなどできない。

2010参院選――結果分析
4. 定数削減でも身の切りようがない
http://kaze.fm/wordpress/?p=309#2010e4

国会議員が本当に身を切りたいのなら、選挙制度改革を主権者主導の枠組みに委ねたらどうか。
 
 
太田光征