選挙制度とは何か

10月 16th, 2008 Posted by MITSU_OHTA @ 21:19:21
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 選挙制度は政治に大きな影響を及ぼすという事情があるので、選挙制度と絡めた政治論が少なくありません。選挙制度でもって政治腐敗をなくそう、という発想などもその1つです。

[参照]
小選挙区制度のDNAの学術上でのルーツを見つける 1
http://masami-kodama.jugem.jp/?day=20081005

 選挙制度というのは、議会に国民の「代表」を送り込むための制度であって、政治の中身を規定するための制度ではありません。主権者の主権を土台に考えれば、主権を具体的に保障するのが選挙制度です。主権を制限したり、主権の発動を特定方向に誘導したりする機能を選挙制度に内蔵させるべきではありません。主権を主権として無条件かつ完全に発動させる機能のみを選挙制度は備えるべきです。

 憲法に従っても、「全国民の代表性」をどうとらえるかが、選挙制度を構築する上での唯一の論点といっていいでしょう。政権のあり方などを先に決め、それに適合するよう、議会のあり方を選挙制度でもって規定・誘導するとすれば、それは間違った考え方でしょう。

[参照]

選挙制度は政党制や政権交代を規定するためにあるのではない
http://kaze.fm/wordpress/?p=215#10

 二大政党制を誘導し、単独過半数政権を実現するというのが、小選挙区制論者の表向きの主な動機になっている。しかしそもそも選挙は、国民の代表を選ぶのが第一義。憲法第43条には、「両議院は、全国民を代表する選挙された議員でこれを組織する」とある。多数派のみが全国民を代表するとはいえない。

 民意の正確な反映(得票率と議席獲得率の一致)を重視するのが、代表性に関する憲法解釈の傾向。詳しくは渡辺良二『近代憲法における主権と平等』(法律文化社、1988年)を参照。

 
 
 多数代表制ともいわれる小選挙区制で選出された「代表」のみからなる議会には、「全国民の代表」は不在です。多数派であっても、一部主権者の代表しか存在しません。「全国民の代表」とは主権者1人ひとりの代表といえます。国民主権を最高原理とすれば、当然の理念です。したがって、死票の出ない選挙制度が理想といえます。
 
 
太田光征
http://otasa.net/

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大選挙区制(中選挙区制)の問題点 〜連記投票制の落とし穴〜
http://kaze.fm/wordpress/?p=232

大選挙区制(中選挙区制)の問題点 〜連記投票制の落とし穴〜

9月 18th, 2008 Posted by MITSU_OHTA @ 15:08:11
under 選挙制度 [5] Comments 

 複数の候補者を選ぶ大選挙区制(中選挙区制)では、複数の議席を選ぶのだから、定数分の票を投じる連記投票制(有権者1人複数票)が、一見合理的なように思われます。実は日本でも、1946年の1回だけ、連記投票制を組み合わせた大選挙区制で選挙が行われました。ところが、連記投票制の大選挙区制(中選挙区制)は、小選挙区制と同様に大量の死票を生み出すことがあります。

 では単記投票制(有権者1人1票)の大選挙区制(中選挙区制)はどうかというと、最も好まれた候補者を落選させるコンドルセのパラドックスを発生させます。

 以下、大選挙区制(中選挙区制)の問題点を解説しておきます。(印刷用ファイル

共同声明「国会議員の定数削減に抗議する」賛同募集中
 
 
【目次】

(1) 単記投票制の大選挙区制(中選挙区制)では最も好まれた候補者を落選させるコンドルセのパラドックスが発生する
(2) 
連記投票制の大選挙区制(中選挙区制)は小選挙区制のように大量の死票を生み出す
(3) 
連記投票制の大選挙区制(中選挙区制)は小政党に有利か

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【参考文献】

西平重喜『比例代表制』(中公新書、1981年)
 
 

(1) 単記投票制の大選挙区制(中選挙区制)では最も好まれた候補者を落選させるコンドルセのパラドックスが発生する

 具体例で考えてみましょう。定数が2で、A、B、Cの3候補が立候補し、投票者数は約30万人、A、B、Cの得票率はほとんど変わらないとします。つまり、それぞれ約10万票を得たとします。ただ、少しだけ得票数に開きがあり、単記投票制の場合の得票順位がA、B、Cだったとします。したがって単記投票制の場合の当選者はAとBの2人です。

 投票の「中身」をもっと詳しく見ていきます。Aが一番好きだとする有権者の中では、BよりCが好きだという有権者が100%、Bが一番好きだとする有権者の中でも、AよりCが好きだという有権者が100%、Cが一番好きだとする有権者の中でも、AよりBが好きだという有権者が100%であったとします。

 すると、もしも連記投票制で2票を投じることができる場合、第1希望と第2希望でAに投じる有権者は約10万人、第1希望と第2希望でBに投じる有権者は約20万人、第1希望と第2希望でCに投じる有権者は約30万人いると考えられます。したがって連記投票制なら、C、Bの順に当選し、単記投票制でトップ当選したAは落選します。

 このように、大選挙区制(中選挙区制)の場合、単記投票制では民意を反映しない場合があります。小選挙区制で有名なコンドルセのパラドックスと同じ原理です。では、大選挙区制(中選挙区制)に連記投票制を採り入れればいいかというと、次のような問題点があります。
 
 

(2) 連記投票制の大選挙区制(中選挙区制)は小選挙区制のように大量の死票を生み出す

 具体例で考えます。定数が10で有権者1人10票を投じ、与党Aから10候補が立ち、野党Bからも10候補が立ったとします。与党支持の有権者はすべて与党の10候補に投票し、野党支持の有権者もすべて野党の10候補に投票したとします。さて、野党支持の投票者数が、与党支持の投票者数より1だけ多いとします。すると連記投票制の場合、野党の10候補はすべて与党の10候補より1だけ得票数が多いことになります。結果は、10議席すべてを野党Bが独占します。

 もしも上記のケースで比例代表制が採用されていれば、与党Aと野党Bはほぼ5議席ずつを分け合うことになるでしょう。

 このように、大選挙区制(中選挙区制)に連記投票制を組み合わせると、著しく民意からかけ離れた選挙結果を生じることがあります。小選挙区制と同様、大量の死票を生み出します。

 英国で過去に実例があります。「イギリスのノルウィッチ選挙区は、一九四五年まで二議席で、二名連記投票制だった。…このような二議席の選挙区がイギリスには一九四五年まで一一区あったが、この最後の選挙では、一一区とも全部一党によって独占され、一議席ずつ分けあったところはない」(西平重喜『比例代表制』、中公新書、p24、1981年)。

 「フランスの小さな町村は、日本の大字ていどの規模のものが多いが、そこでの町村議会は、連記投票制に近い方式で、議会全体を一つのグループにゆだねようとしている」(同上書、p25)。

 単記投票制であれば比例代表制に近くなる大選挙区制(中選挙区制)が、連記投票制を組み合わせることで、大量の死票を生み出す小選挙区制のような制度に変質する。かといって単記投票制の大選挙区制(中選挙区制)では、原理的に民意を反映しない。大選挙区制(中選挙区制)の本質的矛盾です。
 
 

(3) 連記投票制の大選挙区制(中選挙区制)は小政党に有利か

 連記投票制であれば、1人の候補者に票を集中させることで、小政党の候補者でも当選させることができるのではないか、とも考えられます。簡単なシミュレーションを行ってみましょう。

 定数が3で有権者1人3票制とし、大政党Aが候補者2人を立て、支持率50%、大政党Bも候補者2人を立て、支持率40%、小政党Cが候補者1人を立て、支持率10%とする。大政党Aを支持する有権者はすべて大政党Aの候補者2人に投票し、大政党Bを支持する有権者はすべて大政党Bの候補者2人に投票し、小政党Cを支持する有権者はすべて小政党Cの候補者1人に投票したとする。

 上記のケースでは、大政党Aの候補者2人の平均得票率は75%(50% × 3 ÷ 2)、大政党Bの候補者2人の平均得票率は60%(40% × 3 ÷ 2)、小政党Cの候補者1人の得票率は30%(10% × 3)となる。したがって選挙結果は、大政党Aに2議席、大政党Bに1議席という公算が大きい。

 もしも上記のケースで、大政党Aの支持率は50%のまま、大政党Bの支持率を30%、小政党Cの支持率を20%に変えれば、大政党Bは議席を得られず、小政党Cが3議席目を獲得できる可能性が高くなる。確かに小政党に有利といえるが、民意を反映した選挙結果ではなくなります。

 さらに最初のケースで、大政党Aの候補者を3人に変えてみます。すると、大政党Aの候補者と大政党Bの候補者の平均得票率が逆転し、大政党Bに2議席、大政党Aに1議席という可能性が大きくなります。大政党Aによる「票割り」(候補者調整と票の割り当て)の失敗例です。

 以上のように、連記投票制の大選挙区制(中選挙区制)は、とても民意を反映した選挙結果をもたらすとはいえません。小政党に有利なケースが生まれたとしても、例えば定数3なら、比較第3党までしか議席は獲得できないでしょう。
 
 
太田光征
http://otasa.net/

比例区定数が100に削減された場合の衆院選比例区シミュレーション

9月 3rd, 2008 Posted by MITSU_OHTA @ 18:34:12
under 選挙制度 [5930] Comments 

 

自民と民主は議席獲得率が増加し
小数野党は議席獲得率が減少する

 民主党は衆院選比例区の定数を80削減して100にしようとしています。比例区定数が100になった場合、各党の獲得議席はどうなるのか。2007参院選比例区のデータを使ってシミュレーションを行いました。

 議席比例配分の計算方法として現行のドント式を前提にすると、現行定数規模のブロック式が小政党に不利であることなども解説しておきます。(印刷用ファイル

共同声明「国会議員の定数削減に抗議する」賛同募集中
 
 

【関連投稿】
小選挙区制の廃止へ向けて
http://kaze.fm/wordpress/?p=215
中選挙区比例代表併用制を提案する
http://kaze.fm/wordpress/?p=164
小選挙区比例代表併用制の問題点
http://kaze.fm/wordpress/?p=220
大選挙区制(中選挙区制)の問題点 〜連記投票制の落とし穴〜
http://kaze.fm/wordpress/?p=232

【参考文献】
西平重喜『比例代表制』(中公新書、1981年)

【目次】

1 比例区定数が100に削減された場合の衆院選比例区シミュレーション(2007参院選比例区データ使用、現ブロック構成で2005年国勢調査に基づき定数配分)
2 議席比例配分の計算方法と票数集計単位の比較〜ドント式と定数の少ない現行ブロック式の組み合わせは小党に不利〜
3 議席比例配分の計算方法
   ヘアー式と最大剰余法
   ドループ式とハーゲンバッハ・ビショフ式
   ドント式
   サント・ラゲ(サン・ラグ)式
   イタリア2段式
 
 

1 比例区定数が100に削減された場合の衆院選比例区シミュレーション(2007参院選比例区データ使用、現ブロック構成で2005年国勢調査に基づき定数配分)

 11ある各ブロックへの定数は、2005年国勢調査の県別人口に比例して配分し直しました。定数配分の方法は最大剰余法です。各ブロックにつき、その人口比率に総定数180を掛け、その積の整数部分をまず当該ブロックに配分します。積はほぼ例外なく小数なので、配分し切れない残余定数が発生します。これらの残余定数は、積の小数点以下が大きいブロックから順に1つずつ配分していきます。

 以上は2008年9月2日、総務省に電話で確認した方法ですが、本法の正式名称のようなものはあるかとの質問には、ない、とのことでした。ただ本法は、ヘアー式の最大剰余法と同一であるため、最大剰余法と呼んでおきます。ちなみに、こうした具体的な計算方法は、公職選挙法には記載されていません。

 議席配分の方法はドント式(第3節で説明)です。シミュレーション結果を表1Aに示します。
 
 

表1A 衆院選比例区シミュレーション

2007参院選比例区データ使用、2005年国勢調査に基づき定数配分




















北海道 1 3 0 0 0 0 0 0 0 0 0 4
東北 3 4 1 0 0 0 0 0 0 0 0 8
北関東 4 5 1 1 0 0 0 0 0 0 0 11
南関東 4 6 1 1 0 0 0 0 0 0 0 12
東京 3 5 1 1 0 0 0 0 0 0 0 10
北陸信越 3 3 0 0 0 0 0 0 0 0 0 6
東海 4 6 1 1 0 0 0 0 0 0 0 12
近畿 4 7 3 2 0 0 0 0 0 0 0 16
中国 2 3 1 0 0 0 0 0 0 0 0 6
四国 1 2 0 0 0 0 0 0 0 0 0 3
九州 4 5 2 0 1 0 0 0 0 0 0 12
33 49 11 6 1 0 0 0 0 0 0 100
全国一括式 29 41 13 7 4 2 3 0 0 0 1 100
得票率 28.1 39.5 13.2 7.5 4.5 2.2 3.0 0.3 0.5 0.3 1.1 -



















北海道 2 5 1 0 0 0 0 0 0 0 0 8
東北 5 7 1 0 0 0 0 0 0 0 0 13
北関東 6 9 3 1 1 0 0 0 0 0 0 20
南関東 7 10 3 1 1 0 0 0 0 0 0 22
東京 5 8 2 2 0 0 1 0 0 0 0 18
北陸信越 4 6 1 0 0 0 0 0 0 0 0 11
東海 6 11 3 1 0 0 0 0 0 0 0 21
近畿 7 12 5 3 1 0 1 0 0 0 0 29
中国 4 5 2 0 0 0 0 0 0 0 0 11
四国 2 3 1 0 0 0 0 0 0 0 0 6
九州 7 9 3 1 1 0 0 0 0 0 0 21
55 85 25 9 4 0 2 0 0 0 0 180
議席獲得率 30.6 47.2 13.9 5.0 2.2 0 1.1 0 0 0 0 -
全国一括式 52 73 24 13 8 3 5 0 0 0 2 180
得票率x定数 50.5 71.1 23.7 13.5 8.1 3.9 5.4 0.5 0.8 0.5 2.1 -

 
 
 まず、ドント式を前提にすると、現行定数規模のブロック式比例代表制は、少政党に不利である点が改めて明瞭に示されています。大政党が得票率を超える議席を獲得しているのに対して、小政党は得票率未満の議席しか獲得できていません。

 定数(比例配分する議席数)が少ないほど、大政党に有利であるのが比例代表制の特徴で、比例代表制本来の制度思想から逸脱してしまいます。

 具体的に見てみましょう。表1Aから各党の最終的な獲得議席数を抜き出しておきます。
 

衆院選比例区予測――定数100(現ブロック構成で2005年国勢調査に基づき定数配分)

ブロック定数: 北海道4 東北8 北関東11 南関東12 東京10 北陸信越6 東海12 近畿16 中国6 四国3 九州12
ブロック式: 自民33 民主49 公明11 共産6 社民1
全国一括式: 自民29 民主41 公明13 共産7 社民4 国民2 日本3 女性1

 
 定数100の場合、全国一括式であれば、民主党を除く野党の獲得議席数は全体で17議席です。ところが、ブロック式であれば、民主党を除く野党は、全体でも7議席しか獲得できず、一桁政党に勢力を落とします。全国一括式であれば議席を獲得できる国民新党と新党日本は、ブロック式の場合、議席数ゼロです。逆に自民と民主は両党合わせると、ブロック式では、全国一括式に比べ12議席も多い82議席を獲得します。

 民主党は2004年に、衆院選比例区定数を80削減し100とするとともに、中国・四国ブロックを統合する公職選挙法改正案を提出しました。そこで、両ブロックを統合した場合を予測してみました。統合ブロックの定数は両旧ブロックの合計9議席と同じになり、議席配分も、統合ブロックで自民が1議席増え、民主が1議席減るほかは、変わりません。

 次に、総定数は180のまま、2005年国勢調査に基づき新たに定数配分し直した場合も予測しました(表1A)。現在の定数配分と比べると、東京ブロックで1議席増え、東北ブロックで1議席減る、1増1減になっています。表1Aから最終結果を抜き出しておきます。
 

衆院選比例区予測――定数180(現ブロック構成で2005年国勢調査に基づき定数配分)

ブロック定数: 北海道8 東北13 北関東20 南関東22 東京18 北陸信越11 東海21近畿29 中国11 四国6 九州21
ブロック式: 自民55 民主85 公明25 共産9 社民4 国民0 日本2
全国一括式: 自民52 民主73 公明24 共産13 社民8 国民3 日本5 女性2

 
 定数180(新定数配分)の場合も、民主党を除く野党は全国一括式であれば全体で31議席獲得できるのに対して、ブロック式であれば、16議席も少ない15議席しか獲得できません。自民と民主はこのケースでも、ブロック式では、全国一括式より15議席も多い140議席を獲得できます。

 比例区定数が180から100に削減された場合、主要政党とその組み合わせの比例区における議席獲得率がブロック式でどのように変化するかを、表1Bにまとめました。個別政党の議席獲得率は表1Aに記載してあります。定数が100の場合、総議席獲得数(ブロック式の「計」)が議席獲得率になります。

 自民と民主は、定数が180から100に削減されるに伴い、両党合わせると、4.2ポイント議席獲得率が上昇します。その一方で、公明は2.9ポイント減少し、共産、社民、国民新党、新党日本も、合わせて1.3ポイント減少します。

 小選挙区の定数はそのままで、比例区定数だけ削減された場合、小政党の小選挙区と比例区合わせた議席獲得率が減少することは明らかです。ところが、比例区だけに限定してみても、比例区定数削減は、小政党に不利であることが分かります。
 
 

表1B  衆院選比例区(現行ブロック式)シミュレーション:議席獲得率(%)の変化

2007参院選比例区データ使用、2005年国勢調査に基づき定数配分

自民 民主 自民+民主 公明 共産+社民+国新+日本
得票率 28.1 39.5 67.6 13.2 17.1
議席獲得率
(定数180)
30.6 47.2 77.8 13.9 8.3
議席獲得率
(定数100)
33.0 49.0 82.0 11.0 7.0

 
 
 同じデータで現行制度のまま衆院選比例区を予測すると、「定数180(現ブロック構成で2005年国勢調査に基づき定数配分)」と比べ、ブロック式で、共産が東北で1増して10議席、新党日本が東京で1減して1議席のほかは、変わりません。
 

衆院選比例区予測――定数180(現行制度)

ブロック定数: 北海道8 東北14 北関東20 南関東22 東京17 北陸信越11 東海21近畿29 中国11 四国6 九州21
ブロック式: 自民55 民主85 公明25 共産10 社民4 国民0 日本1
全国一括式: 自民52 民主73 公明24 共産13 社民8 国民3 日本5 女性2

 
 このように、ドント式かつ定数の少ないブロック式の現行比例代表制は、小選挙区制と同じで、大政党の議席を偽装的に増幅します。その結果、与党の延命を手助けする、言い換えれば政権交代を阻害することがあります。野党が比例区で支持率・得票率で与党に勝っても、議席数で負ける場合もあるのです。

 小選挙区制をそのままにし、比例区定数を削減する、民主党の現在の選挙制度案は、政権交代を促すという観点からは矛盾しています。民意の縮図となる議会構成を実現する選挙制度なら、政権交代も無理なく実現可能です。
 
 

2 議席比例配分の計算方法と票数集計単位の比較〜ドント式と定数の少ない現行ブロック式の組み合わせは小党に不利〜

 「ドント式は小党に不利」とか、「ブロック式は小党に不利」という言い方をよく見かけますが、これらは正確ではありません。西平重喜『比例代表制』(中公新書、1981年)から、議席比例配分の計算方法と票数集計単位を比較した表を転載しておきます。
 
 

表2 議席比例配分の計算方法と票数集計単位の比較

出典:西平重喜『比例代表制』(中公新書、1981年)から表現を一部改変
























得票率、四捨五入 257 79 72 44 36 4 8 11 511
ヘアー、最大剰余式 257 80 72 44 36 4 7 11 511
ドント式 259 80 72 44 36 3 6 11 511
サント・ラゲ式 257 80 72 44 36 4 7 11 511
イタリア2段式 269 75 72 43 33 3 5 11 511


ドント式 305 73 63 33 24 1 1 15 511
サント・ラゲ式 258 81 77 40 36 2 6 11 511













得票率、四捨五入 248 100 47 51 36 16 4 11 511
ドント式 250 100 47 51 34 15 3 11 511
サント・ラゲ式 252 102 48 54 35 16 4 10 511
イタリア2段式 258 101 48 50 33 16 3 2 511


ドント式 280 104 38 44 26 13 2 4 511
サント・ラゲ式 243 99 49 47 37 17 3 16 511
中選挙区制(実際) 284 107 33 29 32 12 3 11 511

 
 
 この表2から分かるように、比例区定数が十分多い場合、議席比例配分の計算方法に関係なく、各党の獲得議席数はほとんど同じです。議席比例配分の計算方法としてドント式を前提にすると、県単位のように定数(比例配分する議席数)が少なくなる票数集計単位を採用した場合、小党に不利となります。

 サント・ラゲ(サン・ラグ)式のように、全国一括でも県単位でもあまり獲得議席数に変化がない議席比例配分の計算方法もあります。ただしサント・ラゲ式は、後述のように、理論的な方法ではありません。

 県単位を前提にすると、サント・ラゲ式はドント式より小党に有利ですが、県単位サント・ラゲ式が中小政党にとって全国一括式の得票率式やサント・ラゲ式より不利になる場合があることに注意しなければなりません。

 このように、比例代表制で議席配分数に影響を与える因子には、議席比例配分の計算方法と票数集計単位(定数=比例配分する議席数の規模)があるので、両者を同時に考慮する必要があります。同書は次のように定式化しています。
 

全国得票率式
   ‖
全国ドント式 ≠ イタリア2段式 ≠ 県単位ドント式 ≒ 中選挙区制
   ‖                   ↓異なる↑
全国サント・ラゲ式     ≒     県サント・ラゲ式

 

3 議席比例配分の計算方法

 比例代表制には欠かせないのが、得票数に基づいて議席を配分するための計算方式です。定数に小数の得票率を掛けただけではほぼ小数しか生じないので、何らかの確定的な手続きを定めておかなければなりません。以下、いくつかの方法を説明します。

ヘアー式と最大剰余法

 総投票数を議員定数で割った商は、議員1人を当選させるに要する平均得票数と見なすことができます。この平均得票数をヘアーの当選基数と呼びます(少数点以下は一応切り上げておく)。各党の議席数は、各党の総得票数をヘアーの基数で割った商――得票率に議員定数を掛けた積の整数部分ともいえる――とする方法が考えられ、これをヘアー式といいます。

 ヘアー式で定数全部を配分できるとは限りません。その際は、ヘアーの基数で得票数を割ったときの剰余の大きい順に、残った議席を1つずつ割り当てることにします。これを、最大剰余法といいます。

 ところがこの最大剰余法には、「アラバマのパラドックス」が存在します。1881年、アメリカでは、州議員の定数を人口に基づいてヘアー式の最大剰余法で各州に割り当てる作業が行われました。総議席を300前後に変更しようとしたのですが、アラバマ州の定数は、総議席を299にすると8議席なのに、総議席を300にすると、7議席になってしまったのです。

ドループ式とハーゲンバッハ・ビショフ式

 議員1人を当選させるための十分条件となる得票数を考えてみます。定数が1なら、投票数の2分の1を1票でも超えた得票数の候補は、1人しか存在しません。定数が2なら、投票数の3分の1を1票でも超えれば確実に当選できます。

 このように、総投票数を定数+1で割った商より1票でも大きい票数を獲得できれば当確です。この商(票数)をドループの当選基数と呼びます。商が小数であれば、小数点以下を切り上げ、割り切れれば、1を加える必要があります。

 各党の議席数は、それぞれの得票数をドループの基数で割ったときの商とします。このドループ式でも議席すべてを配分できるとは限りません。残余議席は次の方法で配分します。

 例えば、表3で示す事例のように、ドループ式で定数6のところ、自民に1議席、民主に2議席がまず配分できたとする。3議席が配分できずに残っています。そこで、自民が2議席以上獲得した場合の平均得票数を考えてみる。民主についても、3議席以上獲得した場合の平均得票数を算出する。その他の党についても、ドループ式で配分された議席数を超えて配分された場合の平均得票数を計算する。この平均得票数の大きい順に、残った議席を1つずつ配分していきます。同じ党が複数の残余議席を独占するパターンもあります。この方式は、1議席当たりの重み(票数)を重視するもので、ハーゲンバッハ・ビショフ式と呼びます。

 このハーゲンバッハ・ビショフ式の配分結果は、次に説明するドント式と常に同じになります。
 
 

表3  ドループ式とハーゲンバッハ・ビショフ式

2007参院選比例区四国のデータ使用、定数6の場合
1,932,065÷(5+1)=322,010.8 → ドループ基数D=322,011

得票数
v
ドループ式
q=v÷D
ハーゲンバッハ・ビショフ式 議席数
v÷(q+1) v÷(q+2)
自民 588,147 1+余り v÷2=294,073
[1]
v÷3=196,049 2
民主 728,465 2+余り v÷3=242,821
[3]
v÷4=182,116 3
公明 291,065 0+余り v÷1=291,065
[2]
- 1
共産 131,119 0+余り v÷1=131,119 - 0
社民 74,507 0+余り - - 0
国新 36,598 0+余り - - 0
日本 40,324 0+余り - - 0
新風 4,262 0+余り - - 0
9条 16,069 0+余り - - 0
共生 4,187 0+余り - - 0
女性 17,322 0+余り - - 0
1,932,065 3+余り - - 6

 
 


ドント式

 この方式は、1議席当たりの重み(票数)を重視するハーゲンバッハ・ビショフ式と同じ考え方に基づくもので、そのため最大平均法とも呼ばれます。ハーゲンバッハ・ビショフ式が、ドループ式で大方の議席を配分した後の、残余議席に対する処理手続きであるのに対して、ドント式は、全議席を最初から重み付けしながら配分していきます。

 具体的には、表4の事例のように、各党の得票数を整数(1、2、3…)で順次割っていき、その商をリストしておく。このドント商は、それぞれの整数の議席を配分された場合の平均得票数なので、1議席の重み付けという意味合いを持ちます。そうして、ドント商が1番目に大きい政党に1議席目を配分し、ドント商が2番目に大きい政党――1議席目を配分された政党と同じこともある――に2議席目を…というように、順次議席を配分していきます。
 
 

表4  ドント式

2007参院選比例区四国のデータ使用、定数6の場合

自民 民主 公明 共産 社民 国新 日本
v÷1 588,147
[2]
728,465
[1]
291,065
[5]
131,119 74,507 36,598 40,324
v÷2 294,073
[4]
361,332
[3]
145,532 - - - -
v÷3 196,049 262,821
[6]
- - - - -
議席数 2 3 1 0 0 0 0

 
 


サント・ラゲ(サン・ラグ)式

 表2でも示されるように、定数が少ない選挙区での比例代表制は小党に不利なので、救済策が考えられました。サント・ラゲは、ドント式で各党の得票数を整数で割っていったところを、整数ではなく、奇数(1、3、5…)で割る方法を提案したのです。そのためサント・ラゲ式は奇数式とも呼ばれます。

 ただサント・ラゲ式は、「ドント式のような理論的な意味はなく、ただドント式のイミテーションとして、奇数で割り、小党に議席がゆきやすいようにしたのである」(同書、p95)。偶数の隙間を作り、そこに小党が割り込みやすくするわけです。

 ところがこれでは小党に有利すぎるというので、1の代わりに1.5で最初に割る案が考えられました。しかしスカンジナビア(デンマーク、ノルウェー、スウェーデン)では、やはり小党に厳しすぎるからと、妥協案として、1.5ではなく、1.4で最初に割る変形サント・ラゲ式が採用されています。


イタリア2段式

 (選挙区定数が少ない場合に)小党に不利な比例代表制の特性を改善しようという考え方は、イタリアの2段式にも見られます。イタリアの選挙方法をすべて記述すると長くなるので、比例配分の手続きに関する部分だけ、解説しておきます。

 選挙区は中選挙区から大選挙区まであり、各党は選挙区ごとに候補者リストを提出します。

 第1段階として、有権者はこのリストに投票し、選挙区ごとに変形ドループ式――有効投票数を「選挙区定数+2」で割った値を当選基数とする――で各党に議席を配分します。この段階でほぼ例外なく配分し切れない残余議席と剰余票(死票、ドループ割り算の余りに相当)が発生します。

 そこで第2段階として、各選挙区の残余議席を全国で一括集計し、また各党ごとに各選挙区の剰余票を合算し、これらにヘアー式の最大剰余法を適用して、残余議席を配分します。
 
 

太田光征
http://otasa.net/

ヨーロッパの地方自治と選挙――前犬山市長・石田芳弘さん講演会の報告

8月 7th, 2008 Posted by MITSU_OHTA @ 10:02:08
under 選挙制度 , 地方自治 [16] Comments 

 みどり千葉が8月3日に開催した表記講演会に参加してきました。スウェーデンでは地方議会選挙も比例代表制で行われ、行政ポストは議員が務め、獲得票に基づき各党に比例配分される…。民意を反映した議会が行政を動かす仕組みができあがっています。強大な権限を持つ首長に振り回される日本とは大違い。以下は、石田氏の発言を中心とした要旨です。

太田光征
小選挙区制の廃止へ向けて
 
 
part1/4 ヨーロッパの地方自治と選挙――前犬山市長・石田芳弘さん講演会
http://video.google.com/videoplay?docid=4210186355297366978

part2/4 ヨーロッパの地方自治と選挙――前犬山市長・石田芳弘さん講演会
http://video.google.com/videoplay?docid=-2726490905803344266
part3/4 ヨーロッパの地方自治と選挙――前犬山市長・石田芳弘さん講演会
http://video.google.com/videoplay?docid=-8138714283202332396
part4/4 ヨーロッパの地方自治と選挙――前犬山市長・石田芳弘さん講演会
http://video.google.com/videoplay?docid=1663332788789973269
 
 
 市町村議会議員は主食・ご飯、国会議員はおかず、県議会議員は香辛料。県政=香辛料はいくら食べても太らないが、国政を近づけ、市政にリアリティを持たせる上で重要だ。

 1995年に衆参で地方分権に関する決議が行われ、5年後の2000年に地方分権一括法が成立した。自分も地方分権の推進に努めてきたつもりだ。

 犬山市政時代、全国共通テストを実施しないなど、教育行政に力を入れてきた。教育は結果ではなく、プロセスが大事。結果の出ないことについて議論していくプロセスが知性を鍛える。

 民主主義は、烏合の衆としての社会を権力を行使して方向付ける、コンセンサスを得るプロセスだが、このプロセスが大事。

 真にデモクラシーに近い選挙制度に改正すべき。地方議会改革なくして民主主義の深化(進化)はない。地方分権といいながら、地方議員は国政選挙の時の集票マシンになっている。

 なぜ議員がそうなっているかといえば、議員が行政に関わっていないから。憲法は、議員を有権者の代表と規定している。行政の執行に関与しなければ、民主主義とはいえない。

 憲法は、首長と議員を有権者が選ぶとする二元代表制を規定しているが、議員が行政を執行できないとは明示していない。

 東京財団の研究員として、今年の2月にスウェーデンに行き、地方議会を詳しく視察してきたが、目からウロコだった。議会選挙は比例代表制で行われる。行政ポストも、獲得票に基づき、各党に比例配分される。部長職は議員である。住民代表が直接、行政を動かせる。

 男女共同参画にも関心がある。比例代表制で名簿を男女交互にすれば、自動的に実現する。議会は世の中の縮図になるべきだ。個人でお金を使って選挙するのは難しい。あるスウェーデンの議員は、個人で選挙をしてみたいと語ったという。

 日本では、議員と行政の兼職が法律で禁止されているが、地方議員が声を上げれば、改正は難しいことではないだろう。

 地方自律の標準装備として、徹底した情報公開条例、NPO支援条例を作った。

 ほとんどボランティアで成果を上げるNPOが育ってきたことで、高額な歳費をもらいながらほとんど成果を上げない議会に対する批判が明確になりつつある。2年前くらいから、地方議員の中に、改革の必要性に気付きはじめる者が出てきた。国政よりも地方改革のほうが大事だし、早いし、リアリティーがある。改革モデルをここ千葉に期待したいし、愛知でも作るつもりだ。

 国政は一元制(議院内閣制)だが、この一元制には、議会選挙の時に各党が首相と政策を提示し、首相を有権者が選べる機能が内蔵されているはず。地方も一元制にすべき。二元代表制の弊害は、田中康夫・長野県政時代に現れていた。首長と議会が住民代表性を巡って争っていたが、どちらにも理があった。

 スウェーデンでは15歳の子供が政党活動をやっていた。日本で18歳に選挙権を与えるのは当然だ。政治教育は偏向的であると考える教育者の認識はおかしい。

 スウェーデンで議会選挙をやると、まず議長を決める。この議長が、市長や部長を決める。行政ポストは、各党にその票数に応じて比例配分する。

[報告者注:「執行委員会(市長職)は、市議会議員の中から選任される。各党の市議会議員の数に比例して、分配される。すなわち与党のみで市長職を独占することはない。」(伊藤和良『スウェーデンの分権社会』)]

質問者:自分はサラリーマン兼職議員だが、これを促進するための制度的保障を。
吉川議員:サラリーマン議員は、現在でも公民権の行使としてできるはず。

吉川議員:地方政党・議員は、国政政党に比べ規制を受けている。コスタリカのサンホセ市議会では、50人の署名で地方政党が認められる。無所属候補であっても、一定数の署名などで政治団体を認め、それへの投票などを認めるべき。そのように地方自治法を変えるべきだ。

 北欧4国で、地方議員は原則ボランティア。議会のある日だけ費用弁償、日当制。行政側に回った議員にはきっちっとした給料を払っている。アメリカも自治体によってばらつきがあるが、原則、地方議員はボランティア。

 市長時代、市長の任期や議員定数、歳費などを規定する自治基本条例の制定――法律に縛られず可能――を目指したが、議員が乗ってこなかった。

 一般に、条例制定では法廷で争う覚悟も必要。日本では、政府と与党が一体なので、行政側の内閣法制局の見解に沿った法案しか上程されない。先に成立した法律と矛盾する新法案はほとんど上程されない。欧米では、新しい法律が古い法律より優先されるという原則がある。問題が起これば、法廷で決着をつけるのが当たり前になっている。

 全国共通テストは、政令でも省令でもなく、霞ヶ関の行政指導である。だから犬山市は拒否した。法律以外の閣議決定、政省令には従わず、条例を優先させる実績を作っていくべきだ。

吉川議員:議員定数や歳費の問題は、まず議員の仕事を明確に定めてから決着をつけるべきだろう。日本の地方議員はいわば何でも屋であり、夜まで葬式回りなどをしている。欧米などでは議会に市民参画の機会を保障し、議員の仕事は議決に特化している感がある。夜間議会もある。

 教育委員会や選挙管理委員会などは行政委員会である。住民が直接行政に関与できる制度。戦前にはないので、政治思想上の「戦前戦後断絶論」の根拠とされる。ところが、教育委員は名誉職で、事務局に丸投げ。事務局の1人のポストに権限が集中しているので、大分のような汚職が起こる。

 市町村の学校の開設者は市町村長だが、教員の任命権は県の教育委員会が握っている。ところが、教員の任命(権)に先立って、市町村の教育委員会には県教育委員会に対する「内申権」があり、人事の要望をすることができる。この制度を利用して、犬山市は縦横無尽に市の望む人事を実現した。

 ふじさき議員(海外における地方公務員の採用について):オーストリアのメルボルンでは、職種ごとに公募している。その後、自動的に昇給や昇格は行われない。年齢や性別による差別はない。選考基準がはっきりしており、選考委員会も市民から信頼されているという。ドイツでは、公務員が地方議員になれる。

 合併して困っている町は多い。道州制が中央集権化に利用されないよう、注意が必要だ。

質問者:選挙制度改革を実際にどう進めるか。民主党は自治体でシティーマネージャー制を主張しているが、議会選挙制度改革は言っていない。まず議会を民意を反映するものにしないと、シティーマネージャー制は意味がないと思う。(国政では)やはり小選挙区制支持なのだと思う。(地方議会で比例代表制を導入するなら)小選挙区制の支持という考え方を撤回してもらうようにならなければならないのでは?

 若い時に江崎真澄氏の秘書をしていた。ライバルは同じ自民の海部俊樹氏だった。中選挙区制では、同じ党の相手だから、人物攻撃になった。だから中選挙区制には反対だ。小選挙区制になって政権交代可能な基盤ができたと思う。今度の衆院選は、政権交代という形でガバナンスを見直すことになるだろう。

 市長になって、補助金行政を通じた一党独裁の弊害を思い知った。各省ごとに補助金メニューが懇切丁寧に用意されている。国からは補助金として半分が来る。県はその4分の1を分担する。事業主体の市町村は4分の1の自己負担で済む。補助金事業をやれば大きな仕事ができるので積極的に探してくるが、夕張はじめこの罠に嵌ってきた。その結果、1,000兆円の借金大国、思考停止の自治体。これが政官の癒着で、絶たなければならない。その手っ取り早い手段が政権交代。現在のガバナンスは政務次官が決めたことを閣議決定する官僚内閣だ。
 
 
【選挙制度・議会のあり方に関するその他のビデオ】

◇ 2008年5月17日

開かれた議会をめざす会公開シンポジウム第1部
講演 小林弘和氏(専修大学法学部教授)
「議員報酬と地方議員・地方議会のあり方」

http://video.google.com/videoplay?docid=388972551692741535

開かれた議会をめざす会公開シンポジウム第2部
パネルディスカッション
≪地方議員はプロか?ボランティアか?≫
矢祭町・日当制を通して考える!「地方議員・議会のあり方」

パネリスト:
 大沢 ゆたか(東京都・立川市議)
      ・・TBSテレビに出演し「日当制反対」の論戦を展開。
 菊池 清文 (福島県・矢祭町議)
      ・・全国初の「議員報酬日当制」の条例提案者。
 福嶋 浩彦 (前・我孫子市長)
      ・・・地方自治の改革派。市長経験者の立場で参加。
 吉川 ひろし(千葉県議・当会代表)
      ・・広域的な県議として欧米の議会も踏まえ論戦に参加。

part1/4
http://video.google.com/videoplay?docid=-6312324366559455592
part2/4
http://video.google.com/videoplay?docid=4587645763372787749
part3/4
http://video.google.com/videoplay?docid=-2623018604748038656
part4/4
http://video.google.com/videoplay?docid=9108890217813194700
 
 
◇ 2008年4月20日

小選挙区制廃止をめざす集会
主催:同実行委員会

part1/3 基調講演 阪上順夫氏(日本選挙学会初代理事、元東京学芸大学教授、著書『小選挙区制が日本をもっと悪くする』(ごま書房、1994年))
http://video.google.com/videoplay?docid=5750227827910007890

「二大政党制を前提にして、小選挙区制では政権交代が行われやすい」という主旨の発言(41:20頃)には要注意。小選挙区制の下では、与野党の間で支持率、得票率の逆転が起こったとしても、完全な二党制でない多党制の場合、多数派偽装の効果によって政権交代は阻害されることがある。小選挙区制の問題点については、下記を参照してください。

小選挙区制の廃止へ向けて
http://kaze.fm/wordpress/?p=215

part2/3 来賓挨拶
http://video.google.com/videoplay?docid=6292643480026831193
part3/3 質疑・討議
http://video.google.com/videoplay?docid=4614468848928177610
 
 
◇ 2007年11月23日

日本と諸外国ではこんなにも選挙制度・行政システムが違うのか!「目からウロコ」のお話
田口房雄氏(http://fusao.jp/
主催:開かれた議会をめざす会

http://video.google.com/videoplay?docid=1264963566758987935

小選挙区比例代表併用制の問題点

7月 2nd, 2008 Posted by MITSU_OHTA @ 16:08:53
under 選挙制度 [1286] Comments 

 ドイツ下院の小選挙区比例代表<併用>制は、小選挙区制に反対する人の中でもかなり人気があります。確かに日本の現行制度である小選挙区比例代表<並立>制に比べれば、はるかに民意を反映できる選挙制度といえます。

 しかし、ドイツの小選挙区比例代表併用制でも、無所属候補に不利な比例代表制の性格はそのままであるし、いわゆる「超過議席」(下で説明)を認めるために、小選挙区制の弊害を排除しきれていません。

 下記文献を参考に、ドイツ型の小選挙区比例代表併用制の問題点を指摘しておきます。(印刷用ファイル

共同声明「国会議員の定数削減に抗議する」賛同募集中
 
 
改訂:2009年11月22日

[参考文献]
渡辺洋三・森英樹・広渡清吾『政治改革への提言』(岩波ブックレットNO.291、1993年)
[関連記事]
小選挙区制の廃止へ向けて
http://kaze.fm/wordpress/?p=215
中選挙区比例代表併用制を提案する
http://kaze.fm/wordpress/?p=164
 
 
【目次】
 
 
(1) ドイツの小選挙区比例代表併用制とは?
(2) ドイツ型の小選挙区比例代表併用制は政党の優先枠を設定する(無所属候補に不利)
(3) ドイツでは個人を選びうる制度として小選挙区制を併用した
(4) 超過議席を認めるドイツ型の小選挙区比例代表併用制では小選挙区制の弊害を排除できない
(5) ドイツ型の小選挙区比例代表併用制でも小選挙区では大政党への投票を誘導する
 
 

(1) ドイツの小選挙区比例代表併用制とは?

 ドイツ下院の小選挙区比例代表併用制は、大雑把にいえば、小選挙区制が組み込まれた比例代表制といえる。(仮)総定数は598で、その半数の299が小選挙区に割り当てられている。下図参照。

 有権者は1人2票をもち、1票(第1投票)を小選挙区で候補者に、もう1票(第2投票)を政党が用意する候補者名簿に投ずる。政党名簿投票に基づき、(仮)総定数の598議席が比例配分されるが、小選挙区での当選者に優先配分される。小選挙区に割り当てられた議席が比例配分の対象にならない衆院の小選挙区比例代表<並立>制とは、この点が大きく異なる。小選挙区選挙での当選は、政党名簿投票の結果に関係なく、確定する。

 例えば、A党の比例配分による議席割り当て数が30議席であるとする。小選挙区での当選者数が15人であれば、この15が30に繰り入れられ、A党の最終的な獲得議席数は30となる。この場合、政党名簿からの当選者は15人。一方、小選挙区での当選者数が35人であれば、最終的な獲得議席数は35となる。この場合、政党名簿からの当選者数はゼロ。

 後者の例のように、小選挙区での当選者数が比例配分された議席割り当て数より大きい場合でも、その差が「超過議席」として認められる。だからドイツ型の小選挙区比例代表併用制は、厳密な比例代表制とはいえない。

 

3つの選挙制度における選挙区と定数の関係

 

(2) ドイツ型の小選挙区比例代表併用制は政党の優先枠を設定する
(無所属候補に不利)

 一般に比例代表制で無所属候補が当選することは難しい。ドイツ型の小選挙区比例代表併用制では、総定数から小選挙区の定数を差し引いた議席数が、ほぼ政党の独占枠になっている。この特性は、日本の小選挙区比例代表並立制と変わらない。無所属候補に不利な制度といえる。

 

(3) ドイツでは個人を選びうる制度として小選挙区制を併用した

 小選挙区比例代表併用制の問題点というわけではないが、小選挙区制の特性を知る上で重要だと思うので、ドイツでの事例を紹介しておきたい。

 日本では、小選挙区制の特性を政策本位・政党中心の選挙戦をもたらすものとされたが、ドイツでは、比例代表制では人物本位に選べないという批判に応えて、「個人を選びうる比例代表制」として、比例代表制に小選挙区制が併用されたという経緯がある。

 CDU/CSUの小選挙区候補は、地域利害の代表を最も重視し、党の基本政策と異なる政策を掲げることも稀ではない。候補者の決定も、党中央の関与は小さいという(自由法曹団統一ドイツ選挙調査団『選挙制度と民主主義―統一ドイツ選挙調査報告』、1991年)。

 

(4) 超過議席を認めるドイツ型の小選挙区比例代表併用制では
小選挙区制の弊害を排除できない

 超過議席の発生例としては、2009総選挙でCDU/CSUが24の超過議席を獲得した選挙が挙げられる。CDU/CSUは得票率が33.8%(前回比1.4%減)であるにもかかわらず、239議席(13増)を獲得し、議席獲得率は38.4%だった。

[参照]
ドイツの「政権交代」 —— 二大政党の退潮 2009年10月5日(水島朝穂、今週の「直言」)
http://www.asaho.com/jpn/bkno/2009/1005.html

 しかし超過議席数がその程度に収まるとは限らない。極端な例を考えてみる。3つの政党のみが候補者を立て、小選挙区すべてと政党名簿投票で、各党の得票率がほぼ同じ約3分の1とする。

 各党の比例配分による議席割り当て数は(仮)総定数598の約3分の1だから、約199となる。政党Aが、他党よりも得票率がわずかに優勢で、小選挙区の299議席すべてを独占したとする。この場合、(A党による)超過議席は約100にも上る。

 このように、小選挙区比例代表併用制であっても、超過議席を認めれば、得票率と議席獲得率の乖離を許すことになる。

 

(5) ドイツ型の小選挙区比例代表併用制でも
小選挙区では大政党への投票を誘導する

 政党名簿投票で大政党のCDU/CSU、SPDに投票した有権者の95%までは、小選挙区でも同じ政党の候補者に投票する。ところが、政党名簿投票でFDPや緑の党に投票した有権者の40〜50%は、小選挙区で大政党の候補者に投票するという統計結果が出ている。

 超過議席を認める制度ゆえの投票行動なのかどうかは分からないが、ドイツ型の小選挙区比例代表併用制でも、小選挙区では大政党に有利になっている。

 
 
太田光征
http://otasa.net/

小選挙区制の廃止へ向けて

5月 26th, 2008 Posted by MITSU_OHTA @ 17:19:14
under 選挙制度 [14161] Comments 

 小選挙区制の致命的な問題点、「神話」は、すでに1993年の時点で故石川真澄氏などが明らかにしていたが、1994年、小選挙区比例代表並立制が導入されてしまった。

 どの選挙制度にも一長一短がある、とよくお茶を濁される。しかし、少なくとも単記投票制の単純小選挙区制に関しては、選挙制度を名乗ることはできないのではないか。なにしろ、得票第一党が議会第一党になることすら保証しないのだから。

 来るべき選挙制度改革の再論議に備えて、小選挙区制の問題点をまとめてみました。(印刷用ファイル

共同声明「国会議員の定数削減に抗議する」賛同募集中
 
 
[参考文献]
石川真澄『選挙制度』(岩波ブックレットNO.172、1990年)
石川真澄『小選挙区制と政治改革』(岩波ブックレットNO.319、1993年)

[関連投稿]
中選挙区比例代表併用制を提案する
http://kaze.fm/wordpress/?p=164
小選挙区比例代表併用制の問題点
http://kaze.fm/wordpress/?p=220
大選挙区制(中選挙区制)の問題点 〜連記投票制の落とし穴〜
http://kaze.fm/wordpress/?p=232
比例区定数が100に削減された場合の衆院選比例区シミュレーション
http://kaze.fm/wordpress/?p=229

【追記:6月27日】 「小選挙区制ではなぜ得票率と議席獲得率が一致しないか?」を新たに追加し、その他の項目を微修正しました。
【追記:7月14日】 「小選挙区制の過半数偽装効果と三乗法則」を追加しました。
 
 
【目次】
 
 
(1) 汚職・腐敗議員は小選挙区制でないと排除できないか?
(2) 小選挙区制でしか金権選挙はなくせないか?
(3) 小選挙区制は政権交代の可能性を高めるか?
(4) 小選挙区制ではなぜ得票率と議席獲得率が一致しないか?
(5) 小選挙区制は多数派を偽装する
(6) 小選挙区制の過半数偽装効果と三乗法則
(7) 小選挙区制の下では得票多数派が議会多数派になるとは限らない
(8) コンドルセのパラドックス
(9) オーストラリア下院の小選挙区制(優先順位付連記投票制)でもコンドルセのパラドックスは解消されない
(10) 選挙制度は政党制や政権交代を規定するためにあるのではない
(11) 小選挙区制が政権交代を促す保証はない
(12) 「小選挙区制→二大政党制→単独過半数政権」という神話の解体――G・サルトーリの実証研究
(13) 単独過半数政権の安定性神話――L・C・ドッドの実証研究
(14) 選挙区制と政党制に厳密な相関関係はない――「小選挙区制→二大政党制→単独過半数政権」の日本における反証例
 
 

(1) 汚職・腐敗議員は小選挙区制でないと排除できないか?

 中選挙区制では問題候補を落選させることができず、小選挙区制ならそれが可能だと主張されたが、そうともいえない。選挙区が小さいほど、地盤選挙、後援会選挙が機能するので、問題候補の当選をむしろ保証しかねない。

 また小選挙区制では政策幅が切り縮められ(2005年の“郵政民営化国民投票選挙”など)、同時に有権者は候補者の当選可能性を考慮しなければならない。こうして有権者の選択肢は限定されるので、問題候補に対立する(当選可能な)候補が政策的に良識的な候補とも限らない。

 比例代表制(政党の得票率と議席獲得率がほぼ一致)でも、拘束式名簿(政党が用意する当選順位つきの候補者名簿)に問題候補が上位に登録されることは難しいし、非拘束式名簿(当選順位なしで、得票数順で当選)なら、政策と候補者の多様な選択肢を確保しつつ、有権者は問題候補を排除できる。

 

(2) 小選挙区制でしか金権選挙はなくせないか?

 中選挙区制では同じ政党の候補どうしが争うため、有権者に対するサービス合戦を招き、そのために多額の選挙資金を必要とし、不適切な資金の獲得に手を染めやすい、という主張もあった。これも、中選挙区制から小選挙区比例代表並立制に変える際に使われた理屈の1つ。

 金権選挙には様々な形態がある。有権者に不適切なサービスを提供するケースばかりではない。選挙資金の多寡が当選を大きく左右する限り、金権選挙はどの選挙制度でも根絶しがたい。むしろ有権者の選択幅を狭める小選挙区制でこそ、金権選挙が高度に機能する。

 いい例が米国。民主・共和両党はいずれも軍需企業などから多額の政治献金を受けて選挙戦を勝ち抜き、二大政党以外の政党を排除し、異常な軍事政策を固定化する壮大な金権選挙を合法的に続けている。

 小選挙区制は金権選挙を排除できないが、政策と政党の多様性を排除する。

 

(3) 小選挙区制は政権交代の可能性を高めるか?

 小選挙区比例代表並立制の導入に使われた理屈はまだある。1989年の参院選1人区で自民が惨敗したことから、小選挙区制が政権交代の可能性を高めるとされた。

 しかしこれは俗論。1人区以外の2〜4人区、比例区でも自民は過半数割れを起こしていたので、そのような主張に根拠はない。

 2007年の参院選も同様。1人区では自民が6勝23敗とやはり惨敗した。しかし同時に、比例区と3人区、5人区でも与党は野党に負けている。比例区では野党27に対して与党21議席。3人区と5人区では野党12に対して与党8議席。2人区はその特性から民主12、自民11、無所属1議席と、ほぼ自民と民主が独占的に痛み分け。

 小選挙区制は、与野党支持率の差異を、偽装的な議席数の差に増幅するに過ぎない。与野党支持率の逆転によって与野党の議席数が逆転する際、議席数の開きを他の選挙制度より過剰に演出しているだけ。

 小選挙区制が与野党支持率の逆転をもたらすわけではなく、またそのようなことが許されてよいはずもない。

 多党制下にあっては、政権交代を可能にするどころか、阻害するのが小選挙区制。小選挙区制は、支持率・得票率で絶対的には多数といえない政党が政権に居座り続けることを許す。下記例を参照。

 

(4) 小選挙区制ではなぜ得票率と議席獲得率が一致しないか?

 例えば、与党A候補の得票率が35%、野党B候補の得票率が33%、野党C候補の得票率が32%とする。定数1の小選挙区では、与党A候補が得票率35%で100%の議席を獲得することになる。このようにして小選挙区制では大量の死票が発生してしまう。

 

(5) 小選挙区制は多数派を偽装する

 英国では1945年から1992年の間、第一党が得票率50%を超えたことはないが、保守・労働党のいずれかが議席獲得率50%に達しなかったことは、1974年2月の1回のみ。

 例えば、サッチャー首相率いる保守党が83年、60%を超える議席を獲得した地すべり的勝利を収めたときでさえ、得票率は42.4%に過ぎなかった。

 日本での多数派偽装は2005年の郵政選挙で際立った。小選挙区でみると、与党は過半数に満たない得票率49%で、76%もの議席を獲得した。 

 日本の第8次選挙制度審議会の答申は、小選挙区制の特性として、「政権の選択について国民の意思が明確な形で示される」点をあげた。しかしこれは捻じ曲げで、小選挙区制は、「政権の選択について国民の意思を巧妙な形で偽装する」のが実際。

 

(6) 小選挙区制の過半数偽装効果と三乗法則

 小選挙区制については、得票率と議席数の関係に関して、「三乗法則」といわれる経験則が指摘されている。例外が実際にはある。

 「小選挙区制で、全国的な二大政党が争うと、両党の議席は、両党の得票率の三乗に比例する」「このような三乗法則は、イギリスの統計学者によって、両党の各選挙区における得票率が、ある数学的性質を充たす場合は、成立することが証明された」(西平重喜『比例代表制』、 中公新書、1981年)。

 二大政党AとBがあって、Aの全体得票率が50%未満であっても、Aが過半数の選挙区でトップ当選すれば、議席の過半数を獲得できる。

 このように、小選挙区制の「多数派偽装」効果は、第一義的に、全体得票率が50%未満でも、各選挙区での得票率が相対的にトップの候補だけを当選させることに起因する「過半数偽装」効果といえる。これが小選挙区制の致命的効果であって、三乗法則は、「全国的な二大政党」が争った場合の、議席の過半数を超える部分に関する定量的な表現に過ぎない。

 三乗法則の有無に関わらず、小選挙区制であっても、政党が議席の過半数を制するには、過半数の選挙区で得票率がトップになる必要がある。

 善良な政党連合と悪辣な政党連合があり、前者の支持率・得票率が後者のそれよりも低いとする。この場合、悪辣政党連合が候補者を一本化せず、分裂選挙をすることで、統一候補を立てた善良政党連合が過半数を獲得できる場合がある。これを、「全国的な二大政党」の存在を前提とする三乗法則の効果に起因すると考えるのは、間違い。そうではなく、単に、上述の過半数偽装効果による。

 小選挙区制が過半数偽装効果でもって善良政党連合に有利になることはあるが、分裂選挙は善良政党連合にも起こり得るので、小選挙区制が善良な選挙制度であるとはいえない。

 

(7) 小選挙区制の下では得票多数派が議会多数派になるとは限らない

 小選挙区制は、一応、多数代表制というべき選挙制度に分類されるが、得票第一党を議会第一党にする保証はない。これも過去に英国での実例がある。1951年、得票率は労働党が48.78%、保守党が47.97%と、労働党が上回っていたが、議席獲得率は、保守党が51.4%、労働党が47.2%と逆転し、保守党が戦後初めて政権を奪回することとなった。

 

(8) コンドルセのパラドックス

 小選挙区制が「有権者から最も好まれた候補者を選出」する制度とは必ずしもいえない。例えば、A、B、Cの3候補が立候補した場合、(第一選好の)「得票順」がA > B > Cとなっても、「選好順」はC > B > Aとなる場合がある。

 一見不思議だが、「第一選好票」の単純多数で当選を決定する単記投票制ゆえのパラドックス。中選挙区制でも同じようなパラドックスが発生する。

 上記の極端な例で説明する。A、B、Cの得票率はほとんど変わらないとする。つまり、それぞれ約3分の1の票を得たとする。さらに、Aが一番好きだとする有権者の中では、BよりCが好きだという有権者が100%。Bが一番好きだとする有権者の中でも、AよりCが好きだという有権者が100%。Cが一番好きだとする有権者の中でも、AよりBが好きだという有権者が100%であったとする。

 この場合、BよりCが好きだという有権者が約3分の2、AよりBが好きだという有権者も約3分の2いる。したがって、「選好順」はC > B > Aとなる。

 

(9) オーストラリア下院の小選挙区制(優先順位付連記投票制)でも
コンドルセのパラドックスは解消されない

 オーストラリア下院の選挙制度は完全小選挙区制だが、優先順位付連記投票制を取り入れている。有権者は候補者すべてに順位をつける。第一選好票で過半数を獲得した候補がいなければ、最下位候補を落選させ、その最下位候補に投票した有権者の第二選好票を上位候補に配分する。過半数を得る候補が現れるまで、同様の操作を繰り返す。

 この制度では、第一選好票のみを考慮して最下位候補をまず機械的に落選させる。したがって、オーストラリア下院の小選挙区制でも、選好順位の民意は反映されない。

[参考]
オーストラリア下院の選挙制度は優れているか?
http://unitingforpeace.seesaa.net/article/89557778.html

 

(10) 選挙制度は政党制や政権交代を規定するためにあるのではない

 二大政党制を誘導し、単独過半数政権を実現するというのが、小選挙区制論者の表向きの主な動機になっている。しかしそもそも選挙は、国民の代表を選ぶのが第一義。憲法第43条には、「両議院は、全国民を代表する選挙された議員でこれを組織する」とある。多数派のみが全国民を代表するとはいえない。

 民意の正確な反映(得票率と議席獲得率の一致)を重視するのが、代表性に関する憲法解釈の傾向。詳しくは渡辺良二『近代憲法における主権と平等』(法律文化社、1988年)を参照。

 

(11) 小選挙区制が政権交代を促す保証はない

 米国下院も小選挙区制だが、1932年以来60年間にわたり、2期4年間を除き、民主党が第一党の地位を占めていた。

 英国の北アイルランドでも、ユニオニスト党の一党優位の状態が1993年の時点で50年間も続いていた。

 

(12) 「小選挙区制→二大政党制→単独過半数政権」という神話の解体
――G・サルトーリの実証研究

 小選挙区制が二大政党制を誘導する傾向にあることは確かだが、民意を強制的に完全な二党に集約することは難しい。また二大政党制の下で単独過半数政権が生まれるとも限らない。

 G・サルトーリは『現代政党学』(岡沢憲芙・川野秀之訳、早大出版部、1980年)で、「小選挙区制→二大政党制→単独過半数政権」という神話を英国の実例で解体している。

 英国は1885年に小選挙区制に切り替わった。「先ず1885〜1910年期。この期の大政党は保守党と自由党であった。総選挙は8回あったが、そのうち6回は真の単独政権を生まなかった」「戦間期(1918〜35年)、労働党が第二党になった。しかし自由党はレリヴァントな第三党として生き残った。この期の特徴は不安定と連合政権であった。それ故、イギリスが二党制の古典的なルールに従って行動したのは第二次世界大戦以後だけということになる」。

 

(13) 単独過半数政権の安定性神話――L・C・ドッドの実証研究

 ドッドの『連合政権考証』(岡沢憲芙訳、政治広報センター、1977年)によれば、単独過半数政権のみが安定政権をもたらすという説は、L・ローウェルの『ヨーロッパ大陸の政府と政党』(1896年)で広まり、デュヴェルジュらが無批判に受け入れてきた。

 ドッドは、欧州と大洋州の17カ国について、第二次世界大戦前約20年間と戦後約30年間の内閣の寿命を調べた。

 平均値では、「二大政党下の政府は平均五五ヵ月続いたが、多党制下の内閣の平均寿命は二六ヵ月であった」。しかし基準を変えると違ってくる。「五〇ヶ月以上かそれ以上も続いたすべての内閣のうち、約六〇%(四〇ヶ月以上続いた内閣の八〇%)は多党制議会から生まれた内閣であった」。

 

(14) 選挙区制と政党制に厳密な相関関係はない――「小選挙区制→二大政党制→単独過半数政権」の日本における反証例

 日本の場合はどうか。1890年の第1回衆議院総選挙から1898年の第6回総選挙までは、小選挙区制(1人区214、2人区43の総定数300)で行われた。2つの大きな政党が形成される傾向は認められたが、複数の小党が並存し、どの党も単独過半数を獲得したことがなかった。

 1902年の第7回総選挙から17年の第13回総選挙までは、1人区(46)から13人区まである大選挙区制(総定数369)で行われた。この期間は、二大政党と30人以下の中小党2〜4という構成であった。

 第14回(1920年)と第15回(1924年)の総選挙は、1919年に原敬内閣によって復活させられた小選挙区制(1人区295、2人区68、3人区11、総定数464)で行われた。第14回は、立憲政友会が278議席、憲政会が110議席(政友会の半数未満)、その他となり、第15回は憲政会152、政友本党111、立憲政友会102、その他となった。つまり典型的な二大政党は形成されていない。

 1925年に中選挙区制となった。それ以来1942年の翼賛選挙まで6回行われた総選挙のうち、第16〜18回(1928、30、32年)は立憲政友会、立憲民政党のほぼ完全な二大政党の構成になった(その他の党の当選者は6人以下)。第19回(36年)、第20回(37年)は社会大衆党が37議席を獲得して、政友党・民政党とのいわば2・5党制になる。

 このように、選挙制度史を眺めてみれば、小選挙区制が典型的な二大政党を形成し、単独過半数政権を誕生させるという法則性は、成立しない。

 
 
太田光征
http://otasa.net/

中選挙区比例代表併用制を提案する(後半部分)

11月 14th, 2007 Posted by MITSU_OHTA @ 14:02:00
under 選挙制度 [2] Comments 

 トラックバックの送信などをすると、中選挙区比例代表併用制を提案するの後半部分が切れて保存されてしまうことがあるので、【解説】以降を転載しておきます。

【解説】

(1) 二種類の一票の格差を解消する

 区割り選挙を独立して行う結果生じる一票の格差には、二種類あります。一つは、選挙区ごとに定数当たりの有権者数あるいは投票者数が異なることで生じる格差です。選挙区別の有権者間格差といえます。一票の格差という場合、どういうわけか、普通はこちらのみを指します。具体例についてはこちらを参照してください。

  一票の格差は比例代表制で解消するしかない
  http://kaze.fm/wordpress/?p=142

 もう一つは、政党の得票率と議席獲得率に乖離が生じる格差です。野党が票数の上では与党に勝っても、議席数で負けるなどの事態が発生します。政党別の有権者間格差と呼べます。

 政党所属の国会議員が国会の採決でどう振る舞うかは、選挙時の得票数の多寡ではなく、党が決めた方針に大きく左右されます。国会政治がこうした政党政治である現実を考慮すれば、政党別の有権者間格差は非常に不合理といえます。

 これらの格差を生じさせない選挙制度が必要です。また、政党候補と無所属候補の間の格差についても、留意しなければなりません。

(2) なぜ中選挙区制と比例代表制の<並立>制ではなく<併用>制か

 区割り選挙を独立して行えば、二種類の一票の格差は避けられません。政党候補に限れば、これらの格差をなくす最も合理的な制度は、全国一区の比例代表制でしょう。しかし比例代表制を採用する場合は、政党と無所属の間の公平性を確保しなければなりません。

 比例代表制では、政党が複数の候補者を立てて一人を当選させるパターンが可能ですが、無所属にはそれができません。定数が大きすぎる選挙区選挙では逆に、一部の政党候補者に票の集中現象が起きることで、無所属に有利となる場合があり得ます。

 したがって、比例代表制とともに、適切な規模の区割り選挙を併用するのが合理的です。そこで、無所属でも当選可能な中選挙区に区割りして、総定数をすべて中選挙区に割り振り、すべての候補者に中選挙区制と比例代表制を適用します。こうして政党と無所属が同じ総定数をめぐって競う制度が、最も公平であるといえます。

 日本の現在の制度は選挙区比例代表<並立>制です。この制度は、総定数を二つに分けて、それぞれに選挙区制と比例代表制という異なる制度を適用しているにすぎません。これに対して、ドイツの下院などが採用している小選挙区比例代表<併用>制は、比例代表制の中に小選挙区制を組み込んだもので、小選挙区の候補者に対して、小選挙区制と比例代表制を同時に適用します。比例代表制で政党への議席配分数を決定し、小選挙区の当選者を優先的に当選させる制度です。

 中選挙区比例代表併用制は、ドイツの制度における小選挙区を中選挙区に置き換えただけの制度ではありません。選挙区と比例区の関係が逆転している点で、両制度は大きく異なります。

 中選挙区比例代表併用制では、総定数をすべて中選挙区に割り振り、政党候補と無所属候補が同じ総定数をめぐって争います。選挙区における無所属の当選者数に応じて、主に政党に対する比例区の議席割り当て数が変動します。そのため、選挙区にも比例区にも、従来の意味での定数は存在しません。選挙区の定数は、実際上、無所属の当選上限枠を意味します。

 これに対して、ドイツの制度では、比例区定数が総定数であり、比例区定数の中に小選挙区定数の全部または一部が組み込まれています。実際は比例区定数が598で、半数の299が小選挙区定数になっています。小選挙区の当選者が比例区での議席配分数を上回る場合は、「超過議席」として認められます。このため、総当選者数が総定数を上回ることがあります。

 比例区選挙は無所属に不利なので、ドイツの制度における比例区は、政党優先枠の性格が強いといえます。日本の並立制における比例区は、完全な政党独占枠になっています。ところが中選挙区比例代表併用制では、政党優先枠が存在しません。

 同併用制では、同じ総定数をめぐって政党候補と無所属候補が中選挙区で競い合います。したがって原理的には、無所属が全議席を独占することも可能です。政党と無所属に議席配分をめぐる公平な土俵を設定しているわけです。

 小選挙区制では、第二位以下がすべて切り捨てられるので、特に無所属については民意を反映する制度とはいえません。中選挙区以上にすることで、低順位の無所属も当選可能となります。

 全国一区の比例区を設けることで原則的な平等性を、総定数を中選挙区に割り振ることで実際的な公平性を担保するのが、中選挙区比例代表併用制といえます。

(3) 中選挙区選挙の位置づけ

 無所属候補は比例区での当選が困難なので、選挙区で当選しただけでも当選を確定させます。ただし、選挙区で無所属が落選しても、比例区で当選することが原理的にはあり得るので、無所属も比例区で立候補することにしています。政党候補も選挙区で無所属と戦いますが、選挙区における政党候補の得票実績は、候補者個人の当落に直接的には関係しません。

 全政党に対する議席割り当て数は、総定数から無所属の総当選者数を差し引いた数としています。無所属の総当選者数には、比例区での当選者数も原理的には含まれますが、わずかであると思われます。

 したがって、中選挙区比例代表併用制における選挙区選挙は、無所属の選出と、全政党への議席割り当て数を概略決定するための選挙と位置づけられます。

 無所属で当選後、政党に鞍がえするケースが頻出すれば、比例代表制ではなくなります。そのような鞍がえは認めないことが必要でしょう。

(4) 選挙区定数と総定数は開票後に確定する――無所属候補に関する格差を防止するための措置

 政党候補に関しては、比例代表制を採用することで二種類の格差が解消されます。しかし、中選挙区に区割りしているため、無所属候補については、選挙区別の有権者間格差が生じ得ます。そこで、選挙区の開票前の定数は、その選挙区の有権者数に比例した仮定数とし、本定数は開票後に確定させます。

 具体的には、投票者数当たりの仮定数が一番多い選挙区を基準に、仮定数の少ない選挙区の定数を、投票者数に比例して増やします。これに伴い、総定数が確定します。

 (2)で指摘したように、選挙区の定数は、実際上、無所属の当選上限枠を意味します。

(5) 比例区選挙の方法

 政党候補と無所属候補はすべて全国一区の比例区にも立候補します。政党の候補者名簿は非拘束式です。各政党または無所属候補への議席配分数は、各政党または無所属候補が比例区で獲得した票の合計を基に、ヘア・ニーマイヤー式などで決定します。政党内当選順位は、各候補の比例区得票数が多い順とします。地域代表の性格を強めたいのであれば、全国一区ではなく、ブロック制にするのがよいでしょう。

(6) 比例区選挙における政党内当選順位の決定方法

 選挙区の政党候補は、無所属候補と競う必要があり、選挙区選挙の運動を軽視できません。全国一区の比例区選挙のために、他選挙区での運動に比重を割けないという意味です。

 比例区得票数を政党内当選順位の決定に利用する場合、候補者にとって選挙区別の格差が生じ得ます。各候補の比例区得票数は、選挙区の投票者数に影響を受けると考えられ、投票者数は選挙区によって異なるからです。また、全国一区の比例区にだけ立候補できる政党候補を認めても、比例区得票数の点で、選挙区候補との間に不平等が生じる可能性があります。

 そこで、政党候補は選挙区のみから立候補し、選挙運動も選挙区内に限定すべきという考え方ができます。この場合、比例区選挙では政党名で投票し、政党内当選順位は、選挙区での得票実績に基づいて決定することになります。

 ところが、現在の並立制で全国一区の比例区から立候補する候補でも、実際は選挙運動地盤が限定されています。したがって、選挙区から立候補する政党候補に関しても、全国一区の比例区得票数を基準に政党内当選順位を決定することは、不合理とはいえないでしょう。この場合、有権者は全国の政党候補者の中から選択できるので、選択権が拡大するというメリットが生じます。

 以上の理由から、中選挙区比例代表併用制における政党内当選順位の決定は、比例区得票数に基づくことにしています。

 以下は、参考までに、政党候補の当選順位を選挙区の得票実績で決定する方法です。

 選挙区での得票実績としては、得票率が考えられます。しかし、候補者が乱立した場合など、第一位候補でも当選できないことが起こり得ます。また、例えば、A選挙区で第一位候補の得票率が40%、第二位候補の得票率が30%、B選挙区で第一位候補の得票率が50%、第二位候補の得票率が30%とします。同じ得票率30%でも、A選挙区の第二位候補は、第一位候補との差がB選挙区の場合より小さく、得票実績が高いと評価するのが妥当です。

 したがって、単純な得票率に基づく当選順位の決定は不適切と考えられます。政党候補の得票実績としては、第二位以下の候補の場合、第一位候補を基準にした得票数の比を採用するのが妥当でしょう。第一位候補については、第二位候補を基準にした比を用います。

(7) 政党・無所属別の格差

 政党候補については、政策的統一性が認められるため、比例代表制で各党に議席配分する方法が合理的です。政党候補に関する格差は、この方式で解消されます。しかし、政党候補に投票した有権者と無所属候補に投票した有権者の間でも、一票の格差が生じ得ます。無所属候補の死票が政党候補に比べて多い場合、何らかの手当てを考慮しなくてよいのか、という問題があるからです。

 無所属全体を仮想党派とみなして、議席数を政党と同様に比例配分することも形式的には考えられます。しかし、無所属については政策上の一致点でくくることが困難なため、合理性を欠きます。

 例えば、無所属を与党系と野党系に分けて考えます。与党系については、個々の得票実績は高いが総得票数は少なく、野党系については、個々の得票実績は低いが総得票数が多いとします。このような場合、比例配分することで、むしろ政策上の民意が損なわれる結果になるでしょう。

 このように、無所属全体を一つの党派とみなして比例代表制を適用することには、無理があります。そこで代替措置として、無所属に投じられた死票を、政策の近い政党に譲ることが考えられます。(逆に政党から票を減らすという発想もできます。)

 実際、有権者は同じ総定数の枠内で選挙区票と比例区票を持ち、かつ比例区で第二希望の投票もできることから、それが可能になっています。選挙区または比例区の第一希望で無所属に投じた票が死票になったとします。この場合、比例区での第一希望または第二希望の投票先が、死票の委譲先になり得ます。現在の並立制では、選挙区の定数と比例区の定数が分離しているため、比例区の投票に死票委譲の意味合いはありません。選挙区の死票は死票のままです。

 過去3回の参院選を振り返ってみます。2007年参院選では、実質的な民主・社民統一型の無所属候補が各地で当選しました。その結果、選挙区では、政党全体においても、無所属全体においても、それぞれ得票率と議席獲得率がほぼ一致しています。ところが、2001年、2004年参院選の場合、無所属は得票率よりも低い議席獲得率を記録しています。下記は得票数/基数でみた結果です。
 
 

2007年参院選(選挙区)――政党・無所属別一票の格差
  得票数 得票数/基数 * 当選者数
政党 54,252,460 66.73 66
無所属 5,095,168 6.26 7

2004年参院選(選挙区)――政党・無所属別一票の格差
  得票数 得票数/基数 * 当選者数
政党 50,412,346 65.5 68
無所属 5,696,505 7.4 5

2001年参院選(選挙区)――政党・無所属別一票の格差
  得票数 得票数/基数 * 当選者数
政党 48,679,572 65.3 70
無所属 5,658,911 7.6 3

* 基数:(政党全体と無所属全体の総得票数)/ 定数(73)
 
 
 現在の小選挙区主体から中選挙区に変更し、無所属がより多く当選できるようにすることで、無所属の得票率と議席獲得率の乖離は縮小すると予想されます。

 中選挙区比例代表併用制では、その基本的構成で、政党・無所属別の格差がかなり解消されるものと期待できます。

(8) 無所属候補を政党と見なすだけの比例代表制は比例代表制とはいえない――無所属候補に対する余剰票の処理

 (7)では無所属候補に対する死票を考えましたが、逆のケースも問題になります。例えば、野党系の無所属候補Aが、野党系候補数人分の得票数を1人で稼いで当選した結果、与党の(仮)当選者数を増やしてしまったケースなどです。

 もしも単純中選挙区制や単純大選挙区制、単純比例代表制の場合、「野党系無所属党A」は、このケースでもたった1人しか当選者を出せません。これは、与党に不当に有利であるといえるでしょう。

 中選挙区比例代表併用制であればどうか。選挙区選挙または比例区第1希望投票で無所属候補Aに投じた有権者が、比例区第2希望投票で政党(野党)に投票したとします。

 無所属候補Aが獲得した、本人の当選に寄与しない余剰票を、比例区第2希望投票先の政党に(比例)配分します。無所属候補に投じられた余剰票を政党に委譲する形で比例代表制に組み込むわけです。

 このように、無所属候補を政党と見なしても、候補者が1人であることに変わりはなく、無所属候補に単純比例代表制を適用しても、比例代表制が期する民意の反映は実現できません。また解説(7)で指摘したように、比例区における無所属候補の死票を生かす措置も必要です。

 無所属候補に比例代表制を適用する場合、中選挙区制と併用しなくとも、比例区第2希望投票などが最低限必要でしょう。

 
 
太田光征
http://otasa.net/