二大政党制をあきらめない?

10月 20th, 2012 Posted by MITSU_OHTA @ 21:06:58
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朝日新聞が10月19日付のインタビュー「二大政党制をあきらめない」で、豊永郁子氏の見解を紹介している。

朝日新聞デジタル:豊永郁子さんに聞く二大政党制(全文を読むには会員登録が必要)
http://www.asahi.com/news/intro/TKY201210180752.html

豊永氏は冒頭、インタビュアーから「政権交代の成果に心底がっかりしている人が多いと思います」とふられ、「中東の春」などのように血を流さずに政権交代を成し遂げた日本の例を「実はすごいこと」と評価し、政権交代のプロセスを比較するが、日本における成果については言及していない。

「そうは言っても、政権交代のメリットがあまり実感できません」と迫られると、旧政権との比較で「大震災や原発事故での自らの失策や迷走について、驚くほど正直」だった点をメリット(?)として挙げる。原子力ムラのトップが委員長に収まった原子力規制委員会の例などをみても、私としては納得できない認識だが。

さらに豊永氏は「93年に政権交代が起こってからは、民主主義に起こりがちな問題は指摘されても、民主主義であること自体は問われなくなった。政治体制という大きな枠組みから見れば、日本は90年代までとは別の国になった」とみている。一般的な民主主義ニーズからして何らかの進化があるのは当然といえる。論点としてはその要因が特定の政党制とか選挙制度にあるかどうかにある。

「長い目で見れば、日本の政治は着実に進化している、と」と確認を迫られ、「そう思います。今の民主党に政権を担う力量はない。それでも政権交代があったことは良かったし、二大政党制的な政権交代のシステムを早期に確立するのが次の課題です」と述べている。いきなり「二大政党制的な政権交代のシステム」の必要性が主張されるが、その理由が見当たらない。

中選挙区制や多党制については、「望ましい政党制をつくるために政界再編をしたり選挙制度をさらにいじったり、という議論にはもう飽き飽きです。安定した多党制は自然に『二大勢力間の競争』という形をとる。二大政党制と多党制の間に本質的な違いはありません」というのが豊永氏の考えだ。

望ましい政党制をつくるための選挙制度論議に反対するという点に私も同意するが、それは議論に飽き飽きしたからではなく、選挙制度は主権者の平等な主権を保障するためにあるのであって、何らかの政治的構想を実現する手段ではないからである。平等な主権を保障するための選挙制度論議が今こそ必要である。

私は、参議院議長も経験したことのある某政治家の事務所に選挙制度改正で話をしたいと申し入れても、市民とは話をしない、とあからさまに言われた。これが現在の二大政党の実態である。民主的な選挙制度を創出するための国民的熟議など一度も行われていない。私は飽き飽きするどころか、議論のないことに辟易している。

「安定した多党制は自然に『二大勢力間の競争』という形をとる。二大政党制と多党制の間に本質的な違いはありません」――こんな歴史的事実があるのだろうか。それなら豊永氏にとって多党制でもよさそうなものだが、「今さら多党制を持ち出すのは周回遅れ」と言う。

さらに豊永氏は「二大政党制的な政治システムにも、法律を補うインフォーマルなルールが必要」として、消費税増税に関する民自公3党合意の成立後に、3党合意を批判している首相問責決議案に自民が賛成した点を、「合意の試みはインフォーマルなルールを作るチャンスでしたが、政治家たちは、その可能性を見事につぶしてしまった」と批判する。

豊永氏が批判しているのは、民意に反する民自公合意というインフォーマル談合ではなく、インフォーマルルール構築の機会を逃した点だ。倒錯している。

そして豊永氏は、二大政党制的モデルに理論的基盤を与えたのがシュンペーターで、彼が「民意」を根底から疑っていることを紹介している。豊永氏も同じ見解なのだろうか。

豊永氏によれば、シュンペーターにとって「政策に関する共通意思など存在せず、個人の合理的な判断も国レベルの政策にまではおよばない。でも、人々には政策は分からなくても人を見る目はある。選挙の主な目的は政策ではなく、政権を担う政治家を選ばせること」なのだそうだ。

シュンペーター(〜1950年)の時代と比べ、現在ははるかに民主主義コミュニケーションが容易になっている。しかし、政府は3.11後、原子力エネルギー政策をめぐって、論点から放射線による健康影響などを除外して、パブリックコメント募集や熟議世論調査を形ばかり行って、それに基づいて(?)「革新的エネルギー・環境戦略」を決定し、最終的に同戦略を不断に見直す、つまり反故にする閣議決定を次期政権への贈り物として残した。

民意がないのでもなく、個人が国政について合理的な判断ができないのでもなく、権力が民意を無視するという、フォーマルな民主主義ルールの未確立が続いているだけだ。インフォーマルルールどころではない。

私は、民主党が3.11後に早くも、通常国会で衆議院比例区定数の80削減を実現すると改めて公言し、原発を押し付けてきた差別に加え、脱原発少数政党に投じる1票の価値をさらに減じるという――「選挙区間1票の格差」との違いの重みを考えてもらいたい――さらなる差別を原発事故被害者に押し付けようとしている政治状況を真っ先に問題視するが、豊永氏は日本の民主主義状況を象徴する3.11後の政治過程をどのように評価しているのだろう。

米軍基地の沖縄への押し付け差別と合わせ、「差別の解消が第一」に照らして政治を反省する過程が、3.11後に一斉に開始されるべきだったのである。

『サッチャリズムの世紀――作用の政治学へ』(創文社、1998年)、『新保守主義の作用――中曽根・ブレア・ブッシュと政治の変容』(勁草書房、2008年)を著している豊永氏が、悠長に「(二大政党制を)見限るのは早過ぎる。まだまだ幸せになる努力が足りない」と主張する「政治展望」は、現実の政治被害者にとってあまりありがたい言葉ではない

朝日新聞は脱原発寄り人物の主張をシリーズ記事などで盛んに紹介するが、こうした主張を大元で葬り去る二大政党制と小選挙区制に本質的な批判を加えようとはしない。豊永氏も最後に、放射能汚染の実態について押し黙る風潮、被災地における「絆」の強調などに対して懸念を表明しているが、二大政党制に固執し、朝日と相似する。

豊永氏にしても朝日にしても、二大政党制という悠長な展望ばかりでなく、現実の政治被害者にとっての民主主義という視点で語ってほしい。
 
 
太田光征

【参考】

日本のテレビ局はなぜ反原発の動きを報じ損ねたのか?(金平茂紀)
http://www.asahi.com/digital/mediareport/TKY201209070270.html

脱原発選挙の論点

8月 22nd, 2012 Posted by MITSU_OHTA @ 1:24:41
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(1)福島原発事故の震源

過疎地であれば原発を建ててもよいとする差別政治――規制組織による過酷事故対策の不在は矮小化(過疎地への立地が事故対策)。沖縄に米軍基地を押し付けてきた差別と通底。自民は旧新憲法草案で95条を削除。95条とは、国会による自治体差別立法を抑止するため、自治体を対象とする法案の成立条件として、当該自治体における住民投票を義務付けたもの。差別政治が政治潮流。

(2)3.11後の現状

差別政治の責任追及は不問(自民は頭を高くして民主を批判)
原発事故 → 脱原発=単なる一政策課題の転換に矮小化

(3)3.11後の視座

脱原発=脱差別・民主主義の政治思潮・目標設定 → 政党間の本質的差異の顕在化

「福島原発事故の被害者が心から脱原発少数政党に投じる1票の価値を現在よりさらに減じてしまう比例区定数の削減」が、3.11後の通常国会で早々に改めて民主党から宣言。主権者の基幹的な権利を切り崩し、2重の差別を押し付けようとしながら、「被災者の救援」。一体、被災者・国民はこうした政治から何を恩恵として得られるか。

「脱原発=脱差別・民主主義」政治潮流をめぐる最大の土俵 → 選挙制度改革(政党も市民運動も不戦敗)

膨大な数の主権者に対して1票の価値をまったく認めない差別制度としての小選挙区制

小選挙区制・定数削減に反対 →「脱原発を包括する脱差別・民主主義」「脱原発派議員の最大化」

(4)脱原発選挙アンケート――脱原発だけの質問でよいか?

個別政策レベル(脱原発)の質問 → 議員は主権者の手をすり抜けてしまうので、脱差別・民主主義の土俵に引きずり込む

現状、原発即廃止などいないから、厳密な「再稼働反対」議員はいない → 種々の質問で脱原発度をグレード分け

・原子力基本法の目的「原子力の推進」「安全保障に資すること」
・山下俊一体制、「学会許可なしの健康影響調査をするな」文科省・厚生労働省通達
・再稼働を縛る方向での規制委員会設置法の改正
・第2期国会事故調で国会議員の責任
・脱原発の足を引っ張るISDS条項付きのTPP

太田光征

エジプトの小選挙区比例代表並立制は違憲!

6月 15th, 2012 Posted by MITSU_OHTA @ 21:13:42
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日本の国会では6月15日、原発廃炉も決めていない段階で、「原発内の専門的知見が必要な判断」を行う権限を政治家から奪い、廃炉40年を覆す意図を明確にした原子力規制委員会法=原発温存委員会法が衆院を通過した。

一方、エジプトでは、「軍部によるクーデター」だと非難する声もあるが、日本と同じ小選挙区比例代表並立制は無所属が比例区に立候補できず機会の平等に反して違憲だとする憲法裁判所の判決で、民主主義的健全性を示している。

日本のメディアは、例によって重要法案にそっぽを向けて捕物帳や芸能ネタ、今回はオウム某の逮捕をクローズアップし、エジプト憲法裁判所の判決も「混乱」という見方しか提供できない。

6.15再稼働抗議「危険な原発やめてくれ!」官邸前で怒り爆発!
http://www.youtube.com/watch?v=iepmVN2YKww

テレビは今回、原子力規制委員会法の審議を中継すべきだったし、活字媒体も「エジプト憲法裁判所による小選挙区比例代表並立制の違憲判決は、日本における1票格差是正と選挙制度の論議に影響を与えそうだ」くらい書くべきだろう。

1票格差の是正といって、民主党支持者ないし自民党支持者としての有権者が選出する議員の選挙区が、鳥取や島根から神奈川や千葉に変わるだけの選挙区間1票格差の是正に、何の意味があるか。格差・差別の本体を放っておいて。国会の論議がまずおかしいが、それを追求しないメディアもおかしい。

それにしても、脱原発政党・社民党の重野安正幹事長が、小選挙区比例代表連用制を条件に無所属に対する差別を拡大する「0増5減」を認めるとは。原発、沖縄米軍基地、小選挙区比例代表並立制…すべての根っこにあるのが差別で、これらの突破口が脱差別だというのに。でなければ脱原発などは単なる一政策課題の選択問題に矮小化され、政治潮流の変革につながらない。

社民は「0増5減」を認めるべきでない
http://unitingforpeace.seesaa.net/article/258503915.html

日本より人口の少ないエジプトの人民議会の定数は508であるのに対し、日本の衆議院の定数は480しかない。日本では国会の定数削減でなく、エジプトのように格差・差別をなくす選挙制度改正が必要なのである。
 
 
太田光征
 
 
時事ドットコム:原子力規制委法案、衆院通過=今国会で成立の見込み
http://www.jiji.com/jc/c?g=eco_30&k=2012061500047
「原発内の専門的知見が必要な判断は規制委が行い、首相は覆せない。」

「廃炉40年」に見直し規定…民自公が修正合意
http://www.yomiuri.co.jp/politics/news/20120613-OYT1T00905.htm

エジプト議会 再選挙の可能性 NHKニュース
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20120615/k10015842511000.html
「去年11月からことし1月にかけて行われたエジプトの議会選挙を巡っては、無所属の候補者が小選挙区でしか立候補できないのに対し、政党に所属する候補者は比例代表と小選挙区の両方に立候補でき、不公平だという申し立てがありました。」
「これについて、エジプトの憲法裁判所は14日、機会の平等に反し、違憲だという判断を下しました。」
「議会が解散される可能性が出てきたことに、議会を権力基盤としてきたムスリム同胞団が激しく反発することは必至で、投票が迫った大統領選挙の行方にも影響を与えそうです。」

東京新聞:エジプト国会 選挙やり直しの可能性 憲法裁判所が違憲判断
http://www.tokyo-np.co.jp/article/world/news/CK2012061502000102.html
「大統領選の決選投票を十六〜十七日に控え、民政移管の工程に混乱が生じることになる。」

エジプト憲法裁、議会選を一部無効と判断
http://www.nikkei.com/article/DGXNASGM1405X_U2A610C1000000/
「再選挙を実施すれば同国の内政は一層混乱しそうだ。」

エジプト憲法裁、議会に「無効」判断 選挙違反を指摘
http://www.afpbb.com/article/politics/2884208/9117473?ctm_campaign=txt_topics
「国内の活動家や政治家らは、憲法裁判所の判断を軍部による「クーデター」だと非難している。」

NHKは選挙制度・定数削減、原発事故・再稼働の問題で公平・中立・多様な情報の提供を

5月 7th, 2012 Posted by MITSU_OHTA @ 21:23:18
under メディア , 選挙制度 , 福島原発事故 No Comments 

NHK御中

いつも優れた番組の制作ありがとうございます。本日は選挙制度・原発事故に関連した貴局の番組・報道について意見を述べます。

貴局は2012年4月30日に「双方向解説 そこが知りたい!『どうなる消費税・一体改革の行方は』」を放映されました。

NHK双方向解説が「議員定数削減」に反対する意見を報道せず
http://alcyone-sapporo.blogspot.jp/2012/04/nhk_30.html

上記ブログでも明らかにされているように、私も知るある方が国会議員の定数削減に反対する意見を出したものの、賛成意見のみが番組で紹介されました。このような番組運営は公平・中立・多様性を要請する放送法に反しています。

安達宜正解説委員による解説も、少数政党に不利に働く不公平な説明と言えます。

ここに注目! 「通常国会あす召集・焦点は」 | おはよう日本 「ここに注目!」 | 解説委員室ブログ:NHK(2012年01月23日)
http://www.nhk.or.jp/kaisetsu-blog/300/107162.html

「具体化するかどうかはこれからですが、いまの小選挙区比例代表並立制から、連用制に改めることです。簡単に言いますと、比例の選出方法を改めて、小選挙区で得た議席の少ない政党に優先的に議席を配分するという制度です。」

この説明は小選挙区比例代表連用制の本質を誤解させかねません。小選挙区比例代表連用制は、比例区の得票数を基に、議席配分を全体として比例代表制による結果に近づけるようにしたものです。考え方が小選挙区比例代表並立制とは完全に違うもので、少数政党だけを優遇することが狙いではありません。

大政党は小選挙区における議席占有率が得票率を上回る場合が多く、小選挙区では大政党に「優先的」に議席が配分されるので、小選挙区比例代表連用制の比例区では小選挙区で得た議席を比例区で得たものと見なし、大政党に対する過剰な議席配分を修正します。

そのため、小選挙区比例代表連用制における比例区の議席配分では、例えば小選挙区で100議席を獲得した大政党Aは101、102、103…で得票数を割っていき、小選挙区で議席数0の少数政党Bは1、2、3…で得票数を割っていくという修正ドント式を採用するのです(A党が101議席を獲得するとして1議席当たりに要する得票数と、B党が1議席を獲得するとして1議席当たりに要する得票数を比較し、1議席当たりに要する得票数の大きい方の政党に議席を配分する。比例区定数の議席が配分されるまでこうした計算を続ける)。

しかし、小選挙区比例代表連用制でも大政党に有利であることに変わりはありません。

小選挙区比例代表連用制
http://kaze.fm/wordpress/?p=346

次に、太田真嗣解説委員による解説を取り上げます。

時論公論「どうする一票の格差・選挙制度」 | 時論公論 | 解説委員室ブログ:NHK(2011年10月25日)
http://www.nhk.or.jp/kaisetsu-blog/100/99270.html

「言うまでもなく、憲法が要請する『投票価値の平等』は、民主主義の基本にかかわるもので、最高裁の判決を踏まえ、一日も早く、格差を解消することは政治の務めです。しかし、政治への信頼が問われている今、定数削減の問題や、選挙制度そのものをめぐる議論も避けて通れないのは明らかです。」

前半部分は正しいと思いますが、小選挙区制による選挙区間1票の格差を問題とするなら、小選挙区制において生票と死票を投じる主権者の間で生じる格差をどう評価するのか、格差解消の優先度はどちらが高いのかについても、解説していただきたいものです。小選挙区Aの主権者1万人が議員1人を当選させることができる一方で、小選挙区Bの主権者1万人すべての票が死票になるような事態をもたらすのが小選挙区制であり、こちらの格差の方がはるかに問題です。

また、政治に対する信頼と定数削減の関連を当然視する見解は納得できません。公共放送による解説であれば、放送法で規定されているように、多様な論点の提示が求められます。政治的多数派の主張や国民多数の見解だけを紹介すればよいというわけにはいきません。

現在の定数削減論は大政党が主導し、少数政党を国会から排除する方向のものであり、国会活動のほとんどに責任を持つ大政党が身を切ることなく生き残り、少数政党が排除されることで政治に対する信頼性が回復されるとする論は成り立ちません。また、定数が削減されても新人議員の立候補者数を削減すればよいだけなので、国民に信頼されていないとされる現役議員の身を切ること、それによって政治に対する信頼を回復するなどということも、ほとんどあり得ません。

福島原発事故に関する番組でもまったく同様の問題があります。

2011年10月22日に「“食の安全”をどう取り戻すか」と題する市民討論会がNHKスペシャルとして実施されました。広瀬隆『第二のフクシマ、日本滅亡』(朝日選書、211ページ)によれば、「その後、私の知人たちが、ベクレル表示に要する費用は東京電力が負担するべきだ、という意見を視聴者として送っていたことも分かった。それをNHKは一切紹介しなかったのである。」

ちなみに、西日本新聞の社説なども、同様に不公平なものになっています。

衆院選挙制度 定数削減は国民の要請だ  西日本新聞2012年1月19日: 社説
http://www.nishinippon.co.jp/nnp/item/282775
「公明党や社民党が少数政党に議席配分が有利な比例代表の連用制や併用制を主張し、みんなの党や共産党が全議席比例代表選挙の導入を求めているのも、議席を失いたくないからだ。」

西日本新聞よ、貴紙は民主のメディア支部かね 1 バランスを欠く選挙制度(議席削減)の社説 | 児玉昌己 研究室
http://masami-kodama.jugem.jp/?eid=3053
「民主は比例制に換えれば、即座に100名以上の議席を失う。同様に、それが怖いからだ、とどうして社説氏は書かないのかね。」

もちろん、「定数削減は国民の要請だ」などと単純に断じることはできません。米軍基地の沖縄への押し付け、原発の地方への押し付けを多くの国民が要請したとしても認められないのと同様に、主権者の主権を不平等に切り崩すような選挙制度改定・定数削減は、単純な多数決で決定することができないからです。

現在、日本の原発は全基が停止しています。原発再稼働を考えるにあたっての最大の論点は(低線量)被ばくによる健康被害であると思いますが、原発の再稼働をめぐる攻防では電力の需給関係が重要な論点の1つになっています。

原発が停止した場合の電力需給がどうなるのかについて、メディアはもっぱら電力会社や政府が発表した見解をそのまま報道するだけです。この問題について貴局には、原発再稼働に反対する立場の方々の見解も交えて、独自の検証番組を制作・放映していただくようにお願いしたいと思います。

選挙制度・定数削減の問題であれ、原発事故・再稼働の問題であれ、貴局を含むメディアは民主的な決定に資するよう、公平・中立・多様な情報の提供に努めていただきたいと思います。

太田光征
http://otasa.net/

西岡武夫参院議長・民主党・みんなの党の参院・衆院選挙制度改定案の分析と大選挙区比例代表併用制のシミュレーション

1月 9th, 2011 Posted by MITSU_OHTA @ 14:25:43
under 選挙制度 No Comments 

西岡武夫参院議長・民主党・みんなの党の参院・衆院選挙制度改定案の分析と大選挙区比例代表併用制のシミュレーション

参議院の定数削減・選挙制度改定について、各党から具体的な案が出始めました。2010年12月1日には民主党の区割り3案の概要が報道され、同10日にはみんなの党が定数削減を含む選挙制度改定案を発表し、同22日には西岡武夫参院議長が私案を各会派で作る「選挙制度の改革に関する検討会」に提示しています。

2010参院選の結果に基づくシミュレーションなどで各案を分析しました。さらに、主権の保障と主権の平等を要件に組み立てた選挙制度として提案している中選挙区比例代表併用制の説明も兼ねて、西岡議長案を基本にした大選挙区比例代表併用制についてもシミュレーションを行いました。

表1がそのまとめで、民主党衆院比例区案のシミュレーション結果なども合わせて載せています。

印刷用ファイル(PDF)印刷用ファイル(Word)

【要旨】

  • 主権の保障と主権の平等が選挙制度の要件
  • 選挙制度論に政治論を持ち込まない
  • 選挙区間1票の格差を無くしても有権者は平等にならない
  • 死票の極小化、議員得票数の平準化は不可能ではない
  • みんなの党の参院比例代表制案は実質的に中選挙区制
  • 西岡参院議長の9ブロック比例代表制案(改選定数121、政党候補のみ当選、ブロック式議席配分)は政党間1票の格差が最大2.87倍
  • 議長案の政党間1票の格差は全国一括・再配分式で1.34倍以下に低減
  • スウェーデン(国政)とドイツの比例代表制は、政党と無所属候補の平等性に無頓着
  • 政党と無所属候補の平等性を追求した中選挙区比例代表併用制
  • 西岡議長修正8ブロック参院大選挙区比例代表併用制(改選定数242、無所属30人当選、全国一括・再配分式)は議長案より選挙区間1票の格差、政党間1票の格差を低減
  • 西岡議長修正8ブロック参院大選挙区比例代表併用制(改選定数121、無所属15人当選、全国一括・再配分式)は西岡議長修正8ブロック参院比例代表制(改選定数121、政党候補のみ当選、全国一括・再配分式)より選挙区間1票の格差が低減
  • 【目次】

    1. 選挙制度について〜主権の保障と主権の平等が選挙制度の要件〜
    2. 1票の格差について
    3. 手間暇かけた選挙が許されるなら
    4. 民主党の参院選挙制度改定案
    5. みんなの党の参院選挙制度改定案
    6. 西岡武夫参院議長参院比例代表制案
    7. スウェーデンとドイツの比例代表制
    8. 中選挙区比例代表併用制
    9. 大選挙区比例代表併用制のシミュレーション

    【関連投稿】

  • 小選挙区制の廃止へ向けて
    http://kaze.fm/wordpress/?p=215
  • 2010参院選――結果分析
    http://kaze.fm/wordpress/?p=309
  •  
     
     

    表1 2010参院選の結果に基づく西岡武夫参院議長参院比例代表制案、みんなの党参院選挙制度改定案、民主党衆院比例区案、大選挙区比例代表併用制のシミュレーションまとめ
    ( ):ブロック式(各ブロックごとに議席を配分する)の場合の政党間1票の格差(2010参院選の場合は比例区と選挙区全体の政党間1票の格差)
    < >: 全国一括・再配分式(全国集計した得票数を基に各党に議席を配分し、各党ごとに各ブロックの得票数に応じて各ブロックに議席を再配分する)の場合の政党間1票の格差
    [ ]:全国一括・再配分式の場合の選挙区間1票の格差
    単なる「1票格差」は選挙区間1票の格差を表す














    2010参院選比例区得票率 31.6 24.1 13.1 6.1 3.8 13.6 1.7 2.1 2.0 -
    現行衆院議席占有率・定数180 37.8 27.8 14.4 3.9 2.2 13.9 0 0 0 -
    西岡議長参院案議席占有率・改選数121(表3) 38.0
    (1.0)
    29.8
    (1)
    13.2
    (1.2)
    3.3
    (2.3)
    1.7
    (2.9)
    <1.2>
    14.0
    (1.2)
    0 0 0 1.2
    [2.0]
    民主党衆院案議席占有率・定数100 41.0
    (1)
    29.0
    (1.1)
    14.0
    (1.2)
    2.0
    (4.0)
    1.0
    (5.0)
    13.0
    (1.4)
    0 0 0 -
    みんなの党参院案議席占有率・改選数50(表2) 42.0
    (1.1)
    34.0
    (1)
    12.0
    (1.5)
    2.0
    (4.3)
    0 10.0
    (1.9)
    0 0 0 1.43
    修正西岡議長参院案議席占有率・改選数121(表4) 37.2
    (1.0)
    29.0
    (1)
    13.2
    (1.2)
    4.1
    (1.8)
    1.7
    (2.8)
    <1.2>
    14.9
    (1.1)
    0 0 0 1.1
    [1.3]
    大選挙区比例代表併用制議席占有率・改選数121(表5) 38.7
    (1)
    28.3
    (1.0)
    14.2
    (1.1)
    3.8
    (2.0)
    <1.1>
    0.9
    (5.0)
    <1.1>
    14.2
    (1.2)
    0 0 0 1.1
    [1.3]
    大選挙区比例代表併用制議席占有率・改選数242(表6) 36.3
    (1)
    27.4
    (1.0)
    13.7
    (1.1)
    5.7
    (1.2)
    2.8
    (1.6)
    <1.1>
    13.7
    (1.1)
    0 0 0.5
    (4.9)
    <1.1>
    1.1
    [1.2]
    衆院全国一区議席数・定数180 58 44 24 11 7 25 3 3 3 -
    衆院全国一区議席数・定数100 33 25 13 6 4 14 1 2 2 -
    2010参院選議席占有率 36.4
    (1.4)
    42.2
    (1)
    7.4
    (1.7)
    2.5
    (4.0)
    1.7
    (2.2)
    8.3
    (2.1)
    0 0.8
    (2.4)
    0.8
    (2.7)
    -

     
     
     

    1. 選挙制度について〜主権の保障と主権の平等が選挙制度の要件〜

    まずは選挙制度のそもそも論について触れておきます。

    各有権者の意向を最大限に尊重するシステムが選挙制度です。選挙制度は選挙制度として独立させ、選挙制度論に政治論を持ち込んではいけません。

    政党と無所属候補の平等性を含め、主権の保障と主権の平等が選挙制度の要件です。

    2. 1票の格差について

    「1票の価値」は通常、どういうわけか、「異なる選挙区間における<当選議員>1人当たりの<有権者数>」で比較される1票の影響力のことを指します。せいぜい、異なる選挙区間で投票率、生票と死票の割合が同じ場合、当選議員1人当たりの平均的な生票数が同じであることしか意味しません。

    各議員を当選させるに要する生票数は選挙ごと、選挙区ごと、議員ごとに異なるのだから、実際の一人一人の「1票の価値」が同じであるはずがありません。上記の意味で「1票の価値」という言葉を独占することは問題です。

    有権者数と投票率が同じ2つの小選挙区(1人区)で、一方は生票率が90%、もう一方は死票率が90%だとしましょう。同じ90%でも死票を投じた有権者に1票の価値はまったくありません。生票と死票の間には明らかに1票の価値の格差が存在するのです。

    生票の間でも1票の価値は平等ではありません。2010参院選東京選挙区(定数5)で、民主党は得票率39.5%で議席占有率40.0%(2議席)、みんなの党は得票率10.8%で議席占有率20.0%(1議席)、公明党は得票率13.2%で議席占有率20.0%(1議席)、共産党は得票率9.1%で議席0などとなっており、みんなの党に投票した有権者の1票の価値はダントツ1位です。

    「異なる選挙区間における当選議員1人当たりの有権者数」をいくら同じにしても、有権者は平等になりません。選挙制度は、矮小化した1票の価値論を優先するのではなく、政党と無所属候補の平等性を含め、主権の保障と主権の平等を要件に組み立てる必要があります。

    3. 手間暇かけた選挙が許されるなら

    主権の保障と主権の平等を優先するなら

    ・死票を可能な限り減らし
    ・議員1人当たりの得票数を可能な限り同じにし
    ・候補者選択の自由を最大限に保障する

    必要があるでしょう。こうした観点からは、有権者を縛る選挙区の区割りという概念に役目はありません。

    投票を締め切ると、総得票数を総定数で割った値である基数、すなわち議員1人当たりの平均得票数が判明します。区割り選挙では必ず、基数を超えた得票数の候補者、基数未満の得票数の候補者が現れます。

    主権の保障と主権の平等を実現したい有権者は、ほかの有権者と相談し、超過した生票を基数未満の得票数の候補者に移譲したいと思うでしょう。超過した生票を基数未満の得票数の候補者に移譲するというプロセスは、比例代表制の本質にほかなりません。現行の比例代表制は、このプロセスを近似したものです。

    改ざんの可能性があるので望ましくはありませんが、電子投票システムならこうした希望は実現するでしょう。投票者に投票時刻順のシリアルナンバー証明書などを発行し、ある候補者について基数を達成した時刻以降に当該候補者に投票した有権者が、後日の投票で仮落選した候補者に再投票できるようにします。

    このプロセスを繰り返せば、死票を限りなくゼロにすると同時に、議員1人当たりの得票数を同じにすることが可能です。こうした観点からは、選挙区内の候補者にしか投票できない区割り制度は有権者にとって迷惑なものなります。

    こんなに手間暇かけてもいられないというのであれば、近似的な制度を考えるしかありません。優先順位付連記投票制で同じことができるのかどうか、ちょっと複雑で分かりかねます。

    4. 民主党の参院選挙制度改定案

    2010年12月1日付の毎日新聞によれば、民主党は参院選挙制度改定案として、現行定数242を200議席に減らした上で、(1)11ブロック(の大選挙区制)、(2)連記投票制(改選数2の選挙区で有権者1人が2票を投票するなど)、(3)全国47の1人区、を挙げていますが、2と3の詳細は不明です。

    (1)の案はマシな方ですが、(3)の小選挙区制は論外です。

    連記投票制の区割り選挙は、(1)同一候補に複数票を入れる、(2)複数票を同じ政党の別候補に入れる、(3)それらを組み合わせるなど、複数の投票パターンが考えられます。複数の議席があるのだから有権者は複数の票を持つべきだとする考え方は一見もっともらしいのですが、どの党の支持者も(2)のパターンのみの投票行動を取ると、単に複数の小選挙区選挙を同時に実施するだけの意味しか持ちません。

    連記投票制で小政党が議席を獲得するには、(1)のテクニックが必要になります。大政党にしても、議席数を最大化するには(2)を基本にしつつも、票の分散し過ぎを警戒する必要があります。連記投票制の区割り選挙では、同じ政党を支持する投票でも、有権者の投票の仕方で劇的に議席数が変化するのです。

    大選挙区制(中選挙区制)の問題点 〜連記投票制の落とし穴〜
    http://kaze.fm/wordpress/?p=232

    5. みんなの党の参院選挙制度改定案

    みんなの党の参院選挙制度改定案は、現行定数242を100に削減し、全国を衆院比例区と同じ11ブロックに分け、すべて「比例代表制」で選ぶというものです。半数、つまり50議席ずつ改選するので、「総定数50を11ブロックに分けた比例代表制」ということになります。定数はほとんどが5以下なので、形式的に比例代表制とはいえ、実質的には中選挙区制です。

    みんなの党の参院選挙制度改定案
    http://www.your-party.jp/news/office/000552/

    2010参院選の結果に基づく同案のシミュレーション結果を表2に示しています。みんなの党は、「議員定数削減を具現化するための選挙制度の改定における基本的な理念」として「一票の格差の是正」を掲げています。しかし共産・社民などの小政党に投票する有権者の1票の価値は、小選挙区制を含む現行制度より低下します。

    6. 西岡武夫参院議長参院比例代表制案

    西岡武夫参院議長の案は、現行定数を維持したまま、下記の9ブロックに分け、現在と同じ非拘束名簿方式(政党名でも個人名でも投票できる)の比例代表制で全議席を選出するというものです。無所属の立候補を認めるかどうかについては今後検討するとしています。

    北海道=12議席▽東北(青森、岩手、宮城、秋田、山形、福島)=18議席▽北関東信越(茨城、栃木、群馬、新潟、長野)=22議席▽南関東(埼玉、千葉、神奈川、山梨)=44議席▽東京=24議席▽中部(富山、石川、岐阜、静岡、愛知、三重)=32議席▽関西(福井、滋賀、京都、大阪、兵庫、奈良、和歌山)=40議席▽中国・四国(鳥取、島根、岡山、広島、山口、徳島、香川、愛媛、高知)=22議席▽九州・沖縄(福岡、佐賀、長崎、熊本、大分、宮崎、鹿児島、沖縄)=28議席

    議長案も「1票の格差」是正に力点を置いて選挙区間の1票の格差を1.16倍以下に抑えているものの、無所属候補の立候補をきっぱり認めておらず、「主権の保障」という観点が不十分です。主権を最大限尊重するのであれば、無所属候補を有権者が選ぶ権利を保障しなければなりません。

    さらにあらゆる面で「主権の平等」も保障する必要があります。「異なる選挙区間における当選議員1人当たりの有権者数」で比較される1票の価値だけでなく、「異なる政党に投票した有権者の間における1票の価値」、「政党候補に投票した有権者と無所属候補に投票した有権者の間における1票の価値」なども可能な限り平等にすべきです。

    表3が議長案のシミュレーション結果です。定数が少なくなるブロック制の議長案では死票が生じ、得票率と議席占有率に乖離が生じています。「当選議員1人当たりの得票数」で比較される政党間の1票の格差は、議長案の通り各ブロックごとに議席を配分するブロック式で最大2.87倍となっており、「異なる政党に投票した有権者の間における1票の価値」の平等が保障されていません。

    ブロック制の議長案でも、議席配分方式を全国一括・再配分式にすれば、政党間1票の格差は1.34倍以下に低減します。全国一括・再配分式とは、全国集計した得票数を基に各党に議席を配分し、各党ごとに各ブロックの得票数に応じて各ブロックに議席を再配分する方式です。

    ただし全国一括・再配分式の場合、北海道と東北の各ブロックの定数がそれぞれ6、9と少ないために、選挙区間1票の格差は議長案のブロック式より拡大し、北海道で最大1.95倍となります。

    そこで表4に示すように、北海道ブロックと東北ブロックを統合して全8ブロックとし、全国一括・再配分式で計算すると、政党間1票の格差、選挙区間1票の格差はともに1.34倍以下に低減します。改選定数を増やすことでも選挙区間1票の格差は低減します(表6)。

    7. スウェーデンとドイツの比例代表制

    全国一括・再配分式はドイツの小選挙区比例代表併用制でも採用されています。連邦州単位で投票するものの、全連邦州における獲得票数に基づき各党に議席を比例配分した後で、各党ごとに各州における獲得票数に応じて各州に再配分します。

    スウェーデン型比例代表制(国政)は総定数が349議席で、うち310議席を29の中選挙区で選出し、残る39議席を調整議席として、政党の全議席が全国得票数に基づき比例配分されるように各党に配分します。

    以上のように何らかの区割り選挙であっても、ある程度の定数を前提に、全国集計した獲得票数に基づいて議席を確定させる比例代表制を採用すれば、政党間1票の格差、得票率と議席占有率の乖離は生じません。こうして「異なる政党に投票した有権者の間における1票の価値」の平等は保障されます。

    残る問題は、「政党候補に投票した有権者と無所属候補に投票した有権者の間における1票の価値」の平等をどう保障するかです。それにはまず、無所属候補の立候補そのものを保障する必要があります。

    スウェーデン型比例代表制の調整議席は政党独占枠なので、スウェーデン型比例代表制を無所属候補にも広げて適用すると、政党と無所属候補の間で不平等が生じます。

    ドイツの小選挙区比例代表併用制の総定数598議席はいわば準比例区定数で、うち半数の299議席が小選挙区に割り当てられます。小選挙区での当選は無条件に確定し、比例代表名簿からの獲得議席数が小選挙区での獲得議席数を上回れば、小選挙区での当選者に上乗せする形で、比例代表名簿の候補に議席が割り当てられます。

    通常、ドイツの大政党は小選挙区での獲得議席数が比例代表名簿からの獲得犠牲数より多く、いわゆる超過議席が発生するので、議席占有率は得票率を上回ります。従って、ドイツ型比例代表制も格差を生み出す制度です。

    小選挙区比例代表併用制の問題点
    http://kaze.fm/wordpress/?p=220

    ドイツで1人の比例代表名簿が認められているのかどうか確認していませんが、そもそも無所属候補に比例代表制を適用することには無理があります。

    無所属候補の場合、議席1人分だけの平均得票数(基数)を獲得することはなく、比例代表制を適用する政党以上の確率で余剰生票ないし死票が発生します。これは有権者の平等な主権を脅かす問題です。

    政党に比例代表制を適用する場合、複数の候補が“幅”のある得票パターンと余剰生票・死票の移譲を通じて、有権者の平等な主権を近似的に保障できますが、無所属候補に単純比例代表制を適用しても、これができません。

    単純比例代表制下では、政党候補に投票する有権者と無所属候補に投票する有権者の間に不平等が存在するのです。

    スウェーデン(国政)とドイツの比例代表制は、政党と無所属候補の平等性に無頓着で、主権の保障と主権の平等という考え方に立っていません。

    8. 中選挙区比例代表併用制

    主権の保障と主権の平等を尊重するのであれば、比例代表制と合わせ、何らかの区割り選挙で無所属候補を当選させるしかないと考えられます。

    大選挙区では大政党の票割り(候補者数調整と選挙区内地区への割り当て)が難しく、大規模な共倒れの可能性が伴ないます。これは松戸市議会選挙など直近の地方議会選挙で実際に起きていることです。その結果、無所属候補などに不平等に有利な状況が生まれます。

    2009東京都議会議員選挙の8人区でも、民主党は得票率40.5%に対して議席占有率31.3%と、得票数と議席占有率にかなりの乖離がみられます。従って区割り選挙の規模としては、中選挙区が適当ではないでしょうか。

    2009東京都議会議員選挙――結果分析
    http://kaze.fm/wordpress/?p=274

    政党と無所属候補の平等性を含め、主権の保障と主権の平等を要件に組み立てた選挙制度として提案しているのが、中選挙区比例代表併用制です。全国を中選挙区に区割りし、政党候補、無所属候補ともに中選挙区、比例区の両方で競い、主に中選挙区で無所属候補の当選を確定させ、総定数から無所属候補の当選者数を差し引き、残りの議席を得票数に応じて各党に配分するというものです。

    中選挙区比例代表併用制を提案する
    http://kaze.fm/wordpress/?p=164


    9. 大選挙区比例代表併用制のシミュレーション

    中選挙区比例代表併用制を説明し、それと西岡議長案を比較するためにも、中選挙区比例代表併用制の中選挙区を西岡議長案の修正8ブロックに置き換えた大選挙区比例代表併用制をシミュレーションしました(表5表6)。使用データは2010参院選の結果です。

    大選挙区比例代表併用制(改選定数121の場合)シミュレーション:
    政党候補と無所属候補が大選挙区の各ブロックで競い、無所属候補15人が当選したとする。無所属候補15人は各ブロックの有権者数に応じて各ブロックに配分した。政党候補は無所属候補とともに各ブロックを比例区とする比例代表制選挙も戦うが、無所属候補は獲得議席数をゼロとする。政党については、各ブロックごとに議席を比例配分するブロック式と、全国集計した得票数を基に各党に議席を配分し、各党ごとに各ブロックの得票数に応じて各ブロックに議席を再配分する全国一括・再配分式の2つでシミュレーションした。政党候補の全国レベルの当選枠は、改選定数121から無所属候補の当選議席数15を差し引いた106議席。北海道・東北ブロックなら、定数15から無所属の2議席を引いた13議席が政党の取り分。全国一括・再配分式の場合、各ブロックの定数は仮定数の意味しかない。

    西岡議長修正8ブロック参院比例代表制(改選定数121、表4)では、全国一括・再配分式による選挙区間1票の格差、政党間1票の格差はともに1.34倍以下です。

    西岡議長修正8ブロック参院大選挙区比例代表併用制(改選定数121、表5)では、選挙区間1票の格差が最大1.27倍(全国一括・再配分式)、政党間1票の格差が最大1.92倍(全国一括・再配分式、議席数1の国民新党)、議席数2以上の政党の1票の格差が1.18倍(全国一括・再配分式)以下となっています。

    政党間1票の格差を小さくする全国一括・再配分式の採用を前提に、無所属候補をまんべんなく当選させることで選挙区間1票の格差が低減していることは、注目に値します。

    西岡議長修正8ブロック参院大選挙区比例代表併用制(改選定数242、表6)では、選挙区間1票の格差が最大1.15倍(全国一括・再配分式)、政党間1票の格差が最大1.85倍(全国一括・再配分式、議席数1の女性党=表6では同じく議席数1の創新党の1.55倍と統合し1.70倍としている)、議席数3以上の政党の1票の格差が1.25倍(全国一括・再配分式)以下となっています。

    このように改選定数を242とする西岡議長修正8ブロック参院大選挙区比例代表併用制の全国一括・再配分式なら、西岡議長案より選挙区間1票の格差も、政党間1票の格差も低減させることが可能です。

    無所属候補の当選選挙区に偏りが生じた場合は、全国一括・再配分式を前提に選挙区間1票の格差は拡大します。それを防ぎたいのであれば、議席配分において「各ブロックの得票数」を比例区ではなく、選挙区の各党得票数にすればよいでしょう。

     
     
     

    表2 みんなの党参院選挙制度改定案
    単なる「1票格差」は選挙区間1票の格差を表す
    議席配分表























    一ブ






















    北海道 1 1 0 0 0 0 0 0 0 0 1.38 2
    東北 2 2 0 0 0 0 0 0 0 0 1.16 4
    北関東 2 2 1 0 0 1 0 0 0 0 1.15 6
    南関東 2 2 1 0 0 1 0 0 0 0 1.31 6
    東京 2 1 1 0 0 1 0 0 0 0 1.28 5
    北陸信越 2 1 0 0 0 0 0 0 0 0 1.25 3
    東海 2 2 1 0 0 1 0 0 0 0 1.21 6
    近畿 3 2 1 1 0 1 0 0 0 0 1.27 8
    中国 2 1 0 0 0 0 0 0 0 0 1.24 3
    四国 1 1 0 0 0 0 0 0 0 0 1=基準 2
    九州 2 2 1 0 0 0 0 0 0 0 1.43 5
    21 17 6 1 0 5 0 0 0 0 - 50
    議席占有率 42.0 34.0 12.0 2.0 0 10.0 0 0 0 0 0 100
    政党間一票格差 1.06 1=基準 1.54 4.31 - 1.92 - - - - - -
    得票率 31.6 24.1 13.1 6.1 3.8 13.6 1.7 2.1 2.0 0.8 - -
    全国一括式 17 12 7 3 2 7 0 1 1 0 - 50

     
     

    表3 西岡武夫参院議長9ブロック参院比例代表制(改選定数121)
    各ブロックごとに議席を配分するブロック式と、全国集計した得票数を基に各党に議席を配分し、各党ごとに各ブロックの得票数に応じて各ブロックに議席を再配分する全国一括・再配分式の2つでシミュレーションした。カッコ内の数値は全国一括・再配分式の場合。カッコがない場合、両方式の値は同じ。単なる「1票格差」は選挙区間1票の格差を表す。
    議席配分表

















    西


























    北海道 3
    (2)
    2
    (1)
    1
    (0)
    0 0 0 0 0 0 0 1=基準
    (1.95)
    6
    (3)
    東北 4
    (3)
    3
    (2)
    1 0 0 1 0 0 0 0 1.12
    (1.40)
    9
    (7)
    北関東信越 4 4
    (3)
    1 0 0 2 0 0 0 0 1.12
    (1.19)
    11
    (10)
    南関東 8
    (7)
    5 3 1
    (2)
    1 4 0 0
    (1)
    0 0
    (1)
    1.12
    (1=基準)
    22
    (24)
    東京 5
    (4)
    3 1 1 0
    (1)
    2 0 0 0 0 1.16
    (1.13)
    12
    中部 6 5
    (4)
    2 0
    (1)
    0 3 0 0 0
    (1)
    0 1.14
    (1.04)
    16
    (17)
    関西 7 5 3 2 0
    (1)
    3 0 0 0
    (1)
    0 1.14
    (1.01)
    20
    (22)
    中国

    四国
    4
    (3)
    4
    (3)
    2 0 0 1 0
    (1)
    0
    (1)
    0 0 1.13
    (1.10)
    11
    九州 5
    (4)
    5
    (4)
    2
    (3)
    0
    (1)
    1 1 0
    (1)
    0 0 0 1.11
    (1.00)
    14
    (15)
    46
    (40)
    36
    (30)
    16 4
    (7)
    2
    (4)
    17 0
    (2)
    0
    (2)
    0
    (2)
    0
    (1)
    - 121
    議席占有率 38.0
    (33.1)
    29.8
    (24.8)
    13.2
    (13.2)
    3.3
    (5.8)
    1.7
    (3.3)
    14.0
    (14.0)
    0
    (1.7)
    0
    (1.7)
    0
    (1.7)
    0
    (0.8)
    - -
    政党間一票格差 1.03
    (1=基準)
    1=基準
    (1.02)
    1.22
    (1.04)
    2.28
    (1.10)
    2.87
    (1.22)
    1.20
    (1.01)
    -
    (1.08)
    -
    (1.34)
    -
    (1.27)
    -
    (1.07)
    - -
    得票率 31.6 24.1 13.1 6.1 3.8 13.6 1.7 2.1 2.0 0.8 - -
    全国一括・再配分式 40 30 16 7 4 17 2 2 2 1 - 121

     
     

    表4 西岡武夫参院議長修正8ブロック参院比例代表制(改選定数121)
    各ブロックごとに議席を配分するブロック式と、全国集計した得票数を基に各党に議席を配分し、各党ごとに各ブロックの得票数に応じて各ブロックに議席を再配分する全国一括・再配分式の2つでシミュレーションした。カッコ内の数値は全国一括・再配分式の場合。カッコがない場合、両方式の値は同じ。単なる「1票格差」は選挙区間1票の格差を表す。

    議席配分表

















    西




























    北海道

    東北
    6 4 2 1 0
    (1)
    2 0 0
    (1)
    0 0 1=基準
    (1=基準)
    15
    (17)
    北関東信越 4 4
    (3)
    1 0 0 2 0 0 0 0 1.04
    (1.30)
    11
    (10)
    南関東 8
    (7)
    5 3 1
    (2)
    1 4 0 0
    (1)
    0 0
    (1)
    1.05
    (1.09)
    22
    (24)
    東京 5
    (4)
    3 1 1 0 2 0 0 0 0 1.08
    (1.34)
    12
    (11)
    中部 6 5
    (4)
    2 0
    (1)
    0 3
    (2)
    0 0 0
    (1)
    0 1.06
    (1.20)
    16
    (16)
    関西 7
    (6)
    5
    (4)
    3 2 0
    (1)
    3 0 0 0
    (1)
    0 1.07
    (1.21)
    20
    (20)
    中国

    四国
    4
    (3)
    4
    (3)
    2 0 0 1 0
    (1)
    0 0 0 1.05
    (1.31)
    11
    (10)
    九州 5
    (4)
    5
    (4)
    2 0 1 1 0
    (1)
    0 0 0 1.03
    (1.26)
    14
    (13)
    45
    (40)
    35
    (30)
    16 5
    (7)
    2
    (4)
    18
    (17)
    0
    (2)
    0
    (2)
    0
    (2)
    0
    (1)
    - 121
    議席占有率 37.2
    (33.1)
    29.0
    (24.8)
    13.2 4.1
    (5.8)
    1.7
    (3.3)
    14.9
    (14.0)
    0
    (1.7)
    0
    (1.7)
    0
    (1.7)
    0
    (0.8)
    - -
    政党間一票格差 1.02
    (1=基準)
    1=基準
    (1.02)
    1.19
    (1.04)
    1.77
    (1.10)
    2.79
    (1.22)
    1.10
    (1.01)
    -
    (1.08)
    -
    (1.34)
    -
    (1.27)
    -
    (1.07)
    - -
    得票率 31.6 24.1 13.1 6.1 3.8 13.6 1.7 2.1 2.0 0.8 - -
    全国一括・再配分式 40 30 16 7 4 17 2 2 2 1 - 121

     
     

    表5 西岡武夫参院議長修正8ブロック参院大選挙区比例代表併用制(改選定数121)
    政党候補と無所属候補が大選挙区の各ブロックで競い、無所属候補15人が当選したとする。無所属候補15人は各ブロックの有権者数に応じて各ブロックに配分した。政党候補は無所属候補とともに各ブロックを比例区とする比例代表制選挙も戦うが、無所属候補は獲得議席数をゼロとする。政党については、各ブロックごとに議席を比例配分するブロック式と、全国集計した得票数を基に各党に議席を配分し、各党ごとに各ブロックの得票数に応じて各ブロックに議席を再配分する全国一括・再配分式の2つでシミュレーションした。政党候補の全国レベルの当選枠は、改選定数121から無所属候補の当選議席数15を差し引いた106議席。北海道・東北ブロックなら、定数15から無所属の2議席を引いた13議席が政党の取り分。全国一括・再配分式の場合、各ブロックの定数は仮定数の意味しかない。単なる「1票格差」は選挙区間1票の格差を表す。

    議席配分表

















    西


































    北海道

    東北
    6
    (5)
    4
    (3)
    1 1 0
    (1)
    1 0 0
    (1)
    0 2 1=基準
    (1.08)
    15
    (17)
    北関東信越 4
    (3)
    3 1 0 0 2 0 0 0 1 1.04
    (1.24)
    11
    (10)
    南関東 7
    (6)
    5
    (4)
    3 1 0
    (1)
    3 0 0
    (1)
    0 3 1.05
    (1.13)
    22
    (24)
    東京 4
    (4)
    3
    (2)
    1 1 0 2 0 0 0 1 1.08
    (1.27)
    12(11)
    中部 6
    (5)
    4 2 0
    (1)
    0 2 0 0 0
    (1)
    2 1.06
    (1.08)
    16
    (16)
    関西 6 4 3 1
    (2)
    0
    (1)
    3 0 0 0
    (1)
    3 1.07
    (1=基準)
    20
    (20)
    中国

    四国
    4
    (3)
    3 2
    (1)
    0 0 1 0
    (1)
    0 0 1 1.05
    (1.25)
    11
    (10)
    九州 4
    (3)
    4 2 0 1 1 0 0 0 2 1.03
    (1.20)
    14
    (13)
    41
    (35)
    30
    (27)
    15
    (14)
    4
    (6)
    1
    (4)
    15 0
    (1)
    0
    (2)
    0
    (2)
    15
    (-)
    - 121
    政党間議席占有率 38.7
    (33.0)
    28.3
    (25.5)
    14.2
    (13.2)
    3.8
    (5.7)
    0.9
    (3.8)
    14.2 0
    (0.9)
    0
    (1.9)
    0
    (1.9)
    - - -
    政党間一票格差 1=基準
    (1.01)
    1.04
    (1=基準)
    1.13
    (1.05)
    1.98
    (1.14)
    4.98
    (1.08)
    1.18
    (1.02)
    -
    (1.92)
    -
    (1.18)
    -
    (1.12)
    -
    (-)
    - -
    政党間得票率 31.6 24.1 13.1 6.1 3.8 13.6 1.7 2.1 2.0 - - -
    全国一括・再配分式 35 27 14 6 4 15 1 2 2 - - 106

     
     

    表6 西岡武夫参院議長修正8ブロック参院大選挙区比例代表併用制(改選定数242)
    政党候補と無所属候補が大選挙区の各ブロックで競い、無所属候補15人が当選したとする。無所属候補15人は各ブロックの有権者数に応じて各ブロックに配分した。政党候補は無所属候補とともに各ブロックを比例区とする比例代表制選挙も戦うが、無所属候補は獲得議席数をゼロとする。政党については、各ブロックごとに議席を比例配分するブロック式と、全国集計した得票数を基に各党に議席を配分し、各党ごとに各ブロックの得票数に応じて各ブロックに議席を再配分する全国一括・再配分式の2つでシミュレーションした。政党候補の全国レベルの当選枠は、改選定数242から無所属候補の当選議席数30を差し引いた212議席。北海道・東北ブロックなら、定数30から無所属の3議席を引いた27議席が政党の取り分。全国一括・再配分式の場合、各ブロックの定数は仮定数の意味しかない。単なる「1票格差」は選挙区間1票の格差を表す。
    議席配分表


















    西


































    北海道

    東北
    11
    (10)
    8
    (7)
    3 1 1 3 0 0
    (1)
    0 0 3 1=基準
    (1.06)
    30
    (29)
    北関東信越 7
    (6)
    6
    (5)
    2 1 0
    (1)
    3 0 0 0 0 3 1.04
    (1.11)
    22
    (21)
    南関東 13
    (12)
    9
    (8)
    5 2
    (3)
    1
    (2)
    7 0 0
    (1)
    1 0
    (2)
    6 1.05
    (1=基準)
    44
    (47)
    東京 8
    (7)
    5
    (4)
    2 2 1 3 0 0 0
    (1)
    0 3 1.08
    (1.15)
    24
    (23)
    中部 11
    (10)
    8
    (7)
    3 1 1 4 0 0 0
    (1)
    0 4 1.06
    (1.12)
    32
    (31)
    関西 12
    (11)
    8
    (8)
    6 3 1 5 0
    (1)
    0
    (1)
    0
    (1)
    0 5 1.07
    (1.04)
    40
    (42)
    中国

    四国
    7
    (6)
    6 3 1 0 2 0
    (1)
    0
    (1)
    0 0 3 1.05
    (1.03)
    22
    (23)
    九州 8
    (7)
    8
    (7)
    5
    (4)
    1 1 2 0
    (1)
    0 0 0 3 1.03
    (1.13)
    28
    (26)
    77
    (69)
    58
    (52)
    29
    (28)
    12
    (13)
    6
    (8)
    29 0
    (3)
    0
    (4)
    1
    (4)
    0
    (2)
    30
    (-)
    - 242
    政党間議席占有率 36.3
    (32.5)
    27.4
    (24.5)
    13.7
    (13.2)
    5.7
    (6.1)
    2.8
    (3.8)
    13.7 0
    (1.4)
    0
    (1.9)
    0.5
    (1.9)
    0
    (0.9)
    - - -
    政党間一票格差 1=基準
    (1=基準)
    1.01
    (1.01)
    1.10
    (1.02)
    1.24
    (1.03)
    1.56
    (1.05)
    1.14
    (1.02)
    -
    (1.25)
    -
    (1.15)
    4.89
    (1.10)
    -
    (1.70)
    -
    (-)
    - -
    政党間得票率 31.6 24.1 13.1 6.1 3.8 13.6 1.7 2.1 2.0 1.6 - - -
    全国一括・再配分式 69 52 28 13 8 29 3 4 4 2 - - 212

     
     

    太田光征
    http://otasa.net/

    選挙制度改正運動としての選挙区すみ分け投票の勧め

    5月 8th, 2009 Posted by MITSU_OHTA @ 23:23:55
    under 選挙制度 , 選挙制度修正投票 [5] Comments 

     

    政権交代の需要に依拠した選挙区すみ分け投票が野党連合を促し、
    小選挙区制の廃止と平和共同候補の擁立、
    第3極の形成に道筋をつける
    (印刷用ファイル)

     1人区でどう平和共同候補を実現したらよいのか。平和共同候補と民主党候補が対立してよいのか。平和共同候補が、野党の分裂選挙と敗北を助長することがあってはいけません。平和共同候補は必ず勝てる候補でなければならず、全野党統一候補が理想です。

     第3極候補ないし平和共同候補を民主党候補と対立させてでも、第3極の形成や、9条派3分の1突破を図ろうとするアプローチは、将来見通しが立ちません[参考1]。何十年かかるのか、何世紀かかるのか分からない。

     小選挙区選挙を利用して第3極議員を増やすには、時間がかかります。したがってその前に、民主党の単独主義を牽制する全野党連合を早急に確立しなければなりません。全野党連合が形成されれば、全野党統一候補の擁立も可能になります。

     小選挙区制の米英などで第3極が台頭する兆しは見られません。小選挙区制の廃止が第3極形成の現実的な条件ではないのか。小選挙区制の廃止も、野党連合の枠組みが作られることで道筋がつけられます。少数政党を抹殺する仕掛けであり、かつ政権交代を阻害することがある小選挙区制――2005郵政選挙の小選挙区で、与党は49%の得票率で76%もの議席を獲得――は、野党連合の理念に反するからです。

     最も好まれた候補の選出すら保障しない小選挙区制は、選挙制度ではありません[参考2]。 主権を侵害する小選挙区制の廃止は、主権者にとっても最重要の政治課題です。小選挙区制の土俵に素直に乗ってはいけません。個別選挙における投票に矮小化しない、選挙制度改正などを目指す運動としての投票戦略を組み立て、実践する必要があります。民主党単独政権を回避する野党連合と、そこを足がかりとした小選挙区制の廃止、平和共同候補=全野党統一候補の擁立を目指す運動として、小選挙区選挙を利用するべきです。

     「選挙区すみ分け投票」※は、主権者が主導してこの野党連合を促すものです。共産・社民など小数政党を支持する主権者が、小選挙区で民主党候補に投票する見返り、バーターとして、民主党支持者に比例区では小数政党に投票してもらうことを狙っています。自民・民主・公明の議席を減らして、小数政党の議席を増やし、その結果各党がそれぞれの得票率にほぼ見合った議席数を獲得できるようにする投票パターン(選挙制度修正投票)に他なりません。まだ比例区が残っている点が米英とは異なり、ここに突破口があります。

     選挙区すみ分け投票は、政策か政権交代かの二者択一を迫るものではなく、政権交代の需要に依拠して、共産・社民など第3極の議席を増やし、小選挙区制廃止などの政策実現を図る運動なのです。

     沖縄でなぜ糸数慶子氏のような全野党平和共同候補が実現しているのか。平和世論の強度や、社会大衆党という地域政党が野党の接着剤として機能していること、市民による政党への働きかけだけでなく、当地でどの党もひとり抜きん出ていないことが、大きな要因として考えられます。

     「本土」においても、野党勢力バランスの「沖縄化」が必要でしょう。選挙区すみ分け投票は、この「沖縄化」に近づけるアクションともいえます。主権者が野党の勢力バランスを民意に即したものに変え、全野党の共依存関係をつくることで、全野党に選挙共同路線を取ってもらうのです。

     こうして全野党選挙共同の枠組みが作られることで初めて、1人区での勝てる平和共同候補の擁立にも道筋がつきます。政権交代のための全野党選挙共同の意義が認識されることで、少数政党抹殺政策であり、政権交代を阻害することがある小選挙区制の廃止機運も高まるというものです。小選挙区制をなくしたい小数政党からすれば、逆の関係も成り立ちます。

     共産・社民など小数政党の支持者としては、選挙にならない小選挙区選挙で死票を投じるのか、それとも野党連合を足がかりに小選挙区制の廃止などを目指す運動としての投票を行うのかが問われます。次期総選挙で野党連合が勝利すれば、小選挙区制の廃止を可能にする土台が作られます。共産・社民と両党支持者には、まずはたった1回の選挙を我慢し、選挙区すみ分け投票を推し進めていただきたいものです。

     一方、民主党支持者など政権交代を望む主権者は、小選挙区で勝利の見込みのある野党候補に票を集中させるには、どのような投票パターンが有効なのかを問う必要があるでしょう。

     共産党は小選挙区で候補者を降ろすべきだ、という意見は選挙の度ごとに聞かれますが、これが落とし穴です。それは一部の主権者の民意には違いありませんが、得票率で測った民意は、共産・社民の議席を増やせ、民主の議席を減らせ、というものです。この正当な民意を重視し、公平を期した要求を政党に突きつけるとすれば、共産・社民はほとんどの小選挙区で候補者擁立を見送ってくれ、その代わり民主は比例区で候補者の擁立数を大幅に減らし、議席を共産・社民に譲るべきだ、ということになるでしょう。

    ※ 選挙制度改正運動としての選挙区すみ分け投票:

     比例区・複数定数区では少数野党などに投票する代わりに、1人区(地方自治体の首長選挙を含む)では「勝てる野党候補」に票を集中させること。死票を投じることが常の少数野党の支持者と、1人区で死票を生票として欲しい民主党などの支持者双方にメリットを与える投票パターン。

     全体の議席異動からみると、1人区の議席を自公から民主などに移転させる代わりに、民主が比例区・複数定数区で獲得していた議席を少数政党に移譲し、各党の議席獲得率を得票率に近づける「選挙制度修正投票」といえます。

     異なる野党の支持者どうしで実際に「バーター契約」(選挙区すみ分けバーター投票)を結び、それを世間に公表するのがよい。こうした選挙区すみ分け投票の意思表示アクションは、選挙前から行います。

     本来であれば、各党が主体的に選挙区すみ分け投票の協定を結ぶのが理想です。次期総選挙に向けては、青森選挙区の一部で、民主党と社民党がこの投票で合意しています。

    2009年5月8日

    太田光征
    http://otasa.net/

    [参考1] 自民と民主が改憲発議要件を緩和する改憲に成功すれば、国会議員3分の1で9条改憲発議を阻止することはできない。
    [参考2] 「小選挙区制の廃止へ向けて」
          http://kaze.fm/wordpress/?p=215

    衆院比例区定数の削減方針を撤回されるよう求めます

    2月 8th, 2009 Posted by MITSU_OHTA @ 19:48:47
    under 選挙制度 [4] Comments 

    民主党政治改革推進本部本部長 岡田克也様
    参院改革協議会座長・民主党参議院幹事長 平田健二様

    衆院比例区定数の削減方針を撤回されるよう求めます

     国会活動、いつもありがとうございます。鳩山由紀夫幹事長が定額給付金を(一部有権者を意識した)選挙買収だと評しましたが、同感です。ここ数年間、衣類といえば、下着類と仕事着しか購入できない経済状況にある私ですが、定額給付金は受け取りを拒否します。あるいは受け取って、日本による間接的な被害者といえるパレスチナ被占領民などのために、寄付したいと思います。貴党には、主権者を愚弄しない政策提案を期待しています。

     さて、貴党政治改革推進本部は6日、次期衆院選の公約で衆院比例区定数を80削減する方針を決定されました。この点につき、要望いたします。

     国会議員の定数削減は、与党と貴党から同時に主張されています。歳出削減という意味での行政改革の一貫のようです。鳩山幹事長も昨年、次期衆院選の公約で衆院議員定数の2割削減を盛り込む方針を明らかにした際、「行政改革をやるために、まずは自分の身を切るところからスタートさせたい」と語られています。

     しかし、身を切られるのは主権者の方ではないでしょうか。小選挙区制ゆえ、主権者の票の多くが死票となり、憲法で規定された全国民の代表たる国会議員を選出できない事態にあります。小選挙区選挙に比べ民意を反映しやすい比例区選挙の定数が削減されてしまえば、主権者の主権は一層侵害されます。そもそも小選挙区制は、コンドルセのパラドックスを発生させるなど、選挙制度とはいえません。

      コンドルセのパラドックス
      http://kaze.fm/wordpress/?p=215

     歳出削減をされたいのであれば、政党助成金を拒否されてはいかがでしょうか。主権者の主権を切崩す必要のない方法です。是非ともまずはこちらをご検討ください。

     比例区定数が80削減された場合のシミュレーションによれば、当然ながら、貴党の議席獲得率は増加します。決して貴党が「身を切る」ことにはなりません。

      比例区定数が100に削減された場合の衆院選比例区シミュレーション
      http://kaze.fm/wordpress/?p=229

     日本の国会議員数は、ヨーロッパ諸国と比べはるかに少ないのが実際です。アメリカ連邦議会の議員数が日本の国会と比べ多いことがしばしば指摘されますが、アメリカ連邦議会は州の権限が強く、政治構造が異なるため、比較になりません。現在でさえ日本の国会議員は、読みこなすことができないほどの法案件数を抱えています。これ以上議員数を削減して主権者の代表が務まるのでしょうか。

     比較大政党すべてが労働者派遣の原則自由化を認めたことで、労働者の生存権が切崩されてきました。現在の貧困は、小選挙区制による強制的な二大政党制潮流の下で、その出現が可能になったのだと私は考えます。アメリカがいい先行例です。

     正規雇用者の立場を安泰にするつもりで非正規雇用者の労働条件を切り下げると、正規雇用者の足元を自ら切崩すことになる。非正規雇用者も、正規雇用者の労働条件切り下げ圧力をかけることで、自ら墓穴を掘ってしまう。一見対立するように見える正規雇用者と非正規雇用者は、労働条件に関し運命をともにしている――このことを最近、労働者は学び始めました。

     本公開要請文をご覧の主権者の皆様。国会議員は主権者にとって生存上の敵ではありません。比例区定数を削減しようという主張に主権者が同調することは、主権者の主権と生存権を自ら一層切崩すことになるでしょう。

     民主党の皆様。比例区定数削減の方針は撤回されるよう、また、選挙制度改革について主権者と政党が協議できる場を設けていただくよう、お願いいたします。

    2009年2月8日

    太田光征
     
     
    FAX番号

    民主党政治改革推進本部本部長 岡田克也 03-3502-5047
    参院改革協議会座長・民主党参議院幹事長 平田健二 03-5512-2332
     
     
    【関連投稿】

    小選挙区制の廃止へ向けて
    http://kaze.fm/wordpress/?p=215
    中選挙区比例代表併用制を提案する
    http://kaze.fm/wordpress/?p=164
    小選挙区比例代表併用制の問題点
    http://kaze.fm/wordpress/?p=220
    大選挙区制(中選挙区制)の問題点 〜連記投票制の落とし穴〜
    http://kaze.fm/wordpress/?p=232
    比例区定数が100に削減された場合の衆院選比例区シミュレーション
    http://kaze.fm/wordpress/?p=229