定数配分の格差についての誤解――民主党の海江田万里氏は定数配分の格差がない小選挙区でも負ける(2014年衆院選)

12月 25th, 2014 Posted by MITSU_OHTA @ 23:56:36
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【目次】
(1) 民主党の海江田万里氏は定数配分の格差がない小選挙区でも負ける――海江田万里支持の有権者数と山田美樹支持の有権者数の比(投票価値の実体)は有権者数に関係なく決まる
(2) 衆議院比例区も投票価値の格差(ブロック間死票格差と政党間1票格差)をもたらすので違憲

(1) 民主党の海江田万里氏は定数配分の格差がない小選挙区でも負ける――海江田万里支持の有権者数と山田美樹支持の有権者数の比(投票価値の実体)は有権者数に関係なく決まる

弁護士ドットコムは12月15日付で、海江田氏が自民党の山田美樹氏に負けたことについて、次のように書いています。

<一票の格差>「選挙無効は解散より混乱が少ない」弁護士らが衆院選「無効」求め提訴(弁護士ドットコム)
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20141215-00002430-bengocom-soci

<伊藤真弁護士は、民主党の海江田万里代表が東京1区で落選したことに触れ、「一票の格差」が背景にあると指摘した。
「海江田代表は約8万9000票の得票で落選した。しかし、8万9000票以下で当選している選挙区は、全国で130選挙区ある。彼は、この『130のどこか』から出ていれば、問題なかった。国会議員を選ぶのに、その背後の主権者の数がバラバラなのは、どう考えてもフェアではない。民主主義とは言えない」>

一連の定数配分の格差是正訴訟に取り組まれている伊藤真弁護士には敬意を抱いていますが、上記見解は定数配分の格差についての誤解といわなければなりません。

海江田氏が約8万9000票もの票を獲得できたのは、東京1区の有権者数が多く、対立候補がそこそこだったという理由によるものです。「130のどこか」から出れば、8万9000票もの票は取れないかもしれないし、対立候補が弱小であれば、それ以上の得票をしたかもしれません。小選挙区では絶対得票数は意味を持たず、選挙区内の相対得票率のみで当落が決まります。

例えば、東京1区を2分割してできた新選挙区で海江田氏と山田氏が立候補すれば、両候補とも旧1区の時の2分の1の得票をして、やはり海江田氏が敗れることになるでしょう。小選挙区における当落は選挙区の有権者数の多寡にはまったく依存しません。第1得票率と第2得票率の比だけで当落が決まるからです。

ですから定数配分の格差それ自体は投票価値の格差ではありません。定数配分の格差が問題となるのは、地域代表性の格差があまりにも拡大してしまう場合や、自民党が強い中国地方に有権者数当たりの議員数が多い場合などに限られます。

2012衆院選――結果分析
http://kaze.fm/wordpress/?p=435#2012election17
(17) 選挙区間1票格差(地域代表性格差)が政党間1票格差に有利に働く例――自民は中国地方で支持率が高く、同地域は人口当たりの議員数が多いので、選挙区間1票格差は自民に有利

地域代表性の格差としての定数配分の格差があるとしても、地方から都市部に数議席を移せば解決する程度なので、現時点でもそれほど問題ではありません。

伊藤真弁護士は「国会議員を選ぶのに、その背後の主権者の数がバラバラなのは、どう考えてもフェアではない」とも語っていますが、これも間違いだと思います。

小選挙区制では、投票者のすべてが当選者を生み出すことはほとんどありません。生票を投じる有権者と死票を投じる有権者を同列視して、国会議員の背後に同数の有権者がいるべきといっても、意味がないのです。

小選挙区制ではA「1区50万人、2区150万人」でもB「1区100万人、2区100万人」でも、議員2人の背後には同数の有権者がいて問題なく、選挙区間での投票価値に格差はありません。Aを1つの2人区からの分区、Bを1つの2人区からの分区と考えれば分かりやすいかもしれません。選挙区間で投票価値の格差がなくとも、生票対死票という深刻な投票価値の格差は存在します。

海江田対山田は、50万人、100万人、150万人のいずれの選挙区で戦われても、有権者数が結果に影響を及ぼすことはありません。選挙結果は、各選挙区の海江田支持の有権者数と山田支持の有権者数の比だけで決まり、選挙区の有権者数の絶対値には関係がないのです。投票価値は第1得票率の候補に票を投じた有権者にのみ発生し、そのような有権者になって投票価値が発生するかどうかは、候補者の顔ぶれとそれらに対する有権者の態度だけで決まり、有権者数の絶対値には影響されません。

150万人の小選挙区の有権者の1票は、50万人の小選挙区の有権者の3分の1の影響力しかない、ということではありません。小選挙区における票の影響力は、海江田支持の有権者グループ全体の票数、山田支持の有権者グループ全体の票数の大小関係に他なりません。この大小関係という比は、50万人、100万人、150万人という有権者数とはまったく無関係に決まります。実体が大小関係=比である投票価値は、有権者数とは無関係なのです。

よく分かる「定数配分の格差」(「1票の格差」)
http://kaze.fm/wordpress/?p=531

(2) 衆議院比例区も投票価値の格差(ブロック間死票格差と政党間1票格差)をもたらすので違憲

同じ弁護士ドットコムの記事で、升永英俊弁護士は次のように語り、比例区は小選挙区と違って違憲ではないから、選挙を無効にする必要性はない、との考え方を示しています。

「295人の(小選挙区の)国会議員がいなくなるということは、解散と同じだ。むしろ(比例代表の180人が残っているから)解散よりも、社会的変更は少ない。そして、解散を社会的混乱と言う人はいない」

しかし、小選挙区制が違憲である理由として重大なのは、定数配分の格差よりも、投票価値の格差(生票と死票の対立)です。同じ理由で衆議院の比例区や参議院の選挙区は投票価値の格差をもたらすので違憲です。衆議院の比例区や参議院の選挙区は定数の異なる11ブロックや、改選定数1〜5の選挙区に分かれていて、ブロックや選挙区によって死票率に格差が生じているからです。死票率の格差は政党間1票格差につながります。

2012年衆院選の比例区(全国集計)における政党間1票格差(「1議席当たりの得票数」を各党ごとに求め、自民党の「1議席当たりの得票数」で割った値)は、社民党でいえば4.87倍にもなっています。「2倍」程度の定数配分の格差よりよほど重大です。

2012衆院選――結果分析
http://kaze.fm/wordpress/?p=435#2012election8
(8) 2012衆院選の最大1票格差――小選挙区が日本未来の党の13.83倍、比例区が社民党の4.87倍

2014年衆院選でも同様の政党間1票格差が生じているはずで、新たに提起する衆院選無効請求訴訟の争点の1つにします。

太田光征

2014年衆院選:注力した松戸市7区で、与党は比例区得票率の千葉県内順位を落とし、国民審査罷免率が向上

12月 23rd, 2014 Posted by MITSU_OHTA @ 23:54:30
under 選挙制度 , 2014年衆議院選挙 Comments Off 

【要旨】
- 与党は松戸市7区で比例区得票率の千葉県内順位を2012年と比べて下げた。特に公明党は14年と12年の比が全103選挙行政区中97位と低迷。
- 松戸市7区で国民審査罷免率の県内順位が2012年の8位から3位に向上。

2014年衆院選に合わせ、「民主主義創生の草の根街頭行動」ということで、11月24日から11月13日まで集中的に街頭で訴えました。公選法上は選挙運動ではなく、一般的な政治活動ないし落選運動、国民審査運動としての取り組みです。

特に力を入れたのが、選挙区でいえば松戸市7区(千葉県7区の松戸市部分)です。その北が流山市(千葉県7区)、南が松戸市6区となります。

選挙で民意を問うというが、わずか4割の得票率しかない自民党が8割もの議席を獲得できる小選挙区制の下では民意を偽装するしかできない、選挙で民意を問うというが、2012年衆院選で沖縄選出の自民党議員が沖縄・辺野古の海に新たな米軍基地は造らないと公約しておきながら選挙後に破ってしまった、選挙で民意を問うというが、11月の沖縄県知事選で改めて沖縄に新たな米軍基地は要らないという圧倒的な民意が示されながら主要政党の自民・公明・民主・維新は無視し続けている、ということを徹底的に訴え、そもそも選挙と民主主義の前提が崩れ去っていることを強調しました。

(1) 訴えの主な内容

その他、主に以下のようなことを訴えました。

1925年に男子ばかりの普通選挙法が成立したが、以来、世界一高い選挙供託金制度によっていまだに普通選挙は実現せず、制限選挙が続いている。選挙運動のための戸別訪問や自由なチラシ配布が禁止されている国は世界に例を見ない。女性議員比率は先進国中、最低であり、世界一高い政党交付金で政党を甘やかしている国も日本以外にない。日本の選挙関連法制、政党関連法制は世界の民主主義水準から大きく立ち遅れている。自民党の石破氏は韓国が民主主義の発展段階にあると語ったが、とてもよそ様の国を批判していられるほど、日本の民主主義は発展していない。

従軍慰安婦問題で歴史を偽造する発言を安倍首相と橋下大阪市長が繰り返しているにもかかわらず、その責任を問わないままで、本当に国民のための政治が実現するのか。

オランダの民間人女性を強制連行して従軍慰安婦にしたスマラン事件などがあり、裁判で日本軍将校が有罪判決を受けている。10月末にオランダのアレクサンダー国王が来日され、天皇皇后両陛下、安倍首相が参加しての宮中晩さん会で、まさにスマラン事件のことに間接的ながら言及したオランダ国王の話、また先の大戦でオランダと日本の友好関係が損なわれたという主旨の挨拶で同事件を間接的ながら認めた天皇の発言を、安倍首相はどういう気持ちで聞いていたのか、なぜ日本のメディアはこうした重要な発言を報道しないのか。

強制連行で行動の自由のある遊園地に連れてこられるのと、丁重に騙されて行動の自由のない従軍慰安所に連れてこられるのと、どらちがマシか。安倍首相と橋下大阪市長などはこうしたトリックでいまだに従軍慰安婦の方を苦しめ続け、日本の名誉を汚し続けているのである。同じ従軍慰安婦の問題で誤報記事を報じたことが原因で一民間企業の朝日新聞の社長が辞任に追い込まれながら、二人がいまだにその職にあることは、あまりに不公平であり、理不尽なことである。

沖縄に米軍基地を押し付け、福島や新潟などの地方に原発を押し付け、他人事だと思ってきたが、ここ千葉の木更津に沖縄のオスプレイが来ようとしている、福島から放射性物質が飛んできた。他人事ではない。

犠牲を強いる政治から逃れることはできない。無責任の政治の矛先から逃れることはできない。

アベノミクスや消費税増税などの個別政策課題を云々する以前の大きな問題が素っ飛ばされているのが、今回の選挙である。

低所得者が低所得者の生活保護受給者を叩く構図は悲しく、叩く対象が間違っている。国民にしても勘違いをしている。日本の生活保護受給者は1.7%に過ぎず、ドイツでは9.7%が受給している。派遣労働を推進して格差・貧困を拡大し、過去最高の子どもの貧困率を招いた自民党政治、アベノミクスをこそ批判すべきである。

この間の政治で明らかになったのは、小泉首相、麻生首相の時代から、いくらGDPと企業業績が上向いても、庶民の給料が増えないということ。経済成長や企業競争力の向上という条件なしに、無条件で庶民の所得を増やす政策が必要である。米国のウォーレン・バフェット氏は自分のような金持ちに対する増税、富裕者税を主張し、それをオバマ大統領も自分の政策に取り入れている。法人税と所得税の税率を20年前に戻せば、あるいはわずかな税率の富裕者税を創設すれば、消費税は必要ない。レーガン大統領が法人税減税で米国を債務国にし、クリントン大統領が法人税増税で財政を黒字にした米国経済の歴史を学ぶべきである。

三菱重工業は米国のサンオノフレ原発に蒸気発生器を納入し、放射能漏れ事故を起こし、同原発を廃炉に追い込んだ。アベノミクス成長戦略の柱の1つが、放射能漏れ事故を起こすほどの日本の原発技術の海外輸出であり、こうした技術によって海外で大規模な原発事故でも起こせば、技術立国・日本に対する信頼は一瞬にして吹き飛んでしまう。成長戦略どころか、日本経済に大きな打撃を及ぼしてしまう。

三菱重工業は自民に対する献金額を増やした。自民の世耕議員などは派遣会社から献金を受けている。株高といってもその恩恵に与ったのは証券会社であり、その証券会社も自民に対する献金額を増やしている。原発の輸出、派遣労働の拡大など、偏った政策を推し進め、その恩恵を受けた企業から献金を受け取るというのが、自民党政治、アベノミクスのカラクリである。

成長戦略というなら、沖縄県が試算で明らかにしているように、沖縄の経済発展を阻害している米軍基地を減らすべきである。在日米軍には毎年、5000億円以上もの税金をくれてやっている。これを格差・貧困対策、震災の復旧・復興に充てるべきである。私たちの暮らしと経済に関係がある政策はアベノミクスだけではない。

在日米軍特権法というべき安保特別法が主なものだけで22本もある。基地を汚染しても現状復帰する義務がない、低空飛行訓練をしてもよいなど、至れり尽くせりである。

安倍首相は国民の命を守るために集団的自衛権が必要だというが、第一安倍政権の時に野党から原発の電源対策の不備を指摘されておきながら、それを無視した。十分な対策を行っていれば、福島原発事故は防げたかもしれない。現在の日本にとっての最大のリスクは外国からの軍事攻撃ではなく、自然災害であるが、自衛隊の全予算に占める自然災害対策費はわずか1%しかない。東日本大震災や今年2月の大雪被害などでも自衛隊の被災者救援が遅れた。安倍首相がいう「国民の命を守るため」は本心ではない。

集団的自衛権の行使容認に抗議して、これまで1人が自殺、1人が自殺未遂を図っている。6月末、新宿東口のアルタ前で訴えていたのとほぼ同じ時間帯、新宿駅南口で焼身自殺を図った男性がいた。全身燃え盛りながら歩道橋の上から落下する男性を収めたビデオがユーチューブにアップされているが、大変に痛ましいシーンである。この重い事実を受け止めていただきたい。

メディアは自民対野党という構図を提示しているが、野党といっても自民と変わらない政策を掲げている野党が多く、消費税増税という点で主要政党は同じである。野党内でも政策はバラバラである。最大の争点がアベノミクスの評価であるという争点設定と併せ、あまりにも矮小化している。国境なき記者団によれば、日本のメディアの自由度は世界第59位であり、信用できない。

責任ある避難計画があれば原発を再稼働してもよいとする民主党の方針はおかしい。日本の農業と国民皆保険制度などを破壊するTPP(環太平洋経済連携協定)の交渉に民主党は反対していない。集団的自衛権の行使一般は認めないというのが民主党の立場だが、部分的な行使なら認めてもよいとする結論を出しかねない。

自民党に漁夫の利を得させまいとして選挙協力をする民主党や維新の党などは、なぜ民意を歪め、自民党を利する小選挙区制に反対しないのか。野党は小選挙区制廃止の統一公約を掲げるべきである。

主要政党は消費税増税という国民負担を求める以上、自ら身を切らなければならない、だから国会議員定数を削減すべきであると主張しているが、暴論である。人口が8000万人弱と日本より少ないドイツでは、下院の基本定数は598議席もあり、日本の衆院の定数475議席より100議席以上も多く、日本の国会議員定数は現在でも世界的にみて少ない。

国会内の委員会のポストは議員定数よりも多く、大政党でも議員1人が複数の委員会を掛け持ちしている。特に議員定数の3割削減を主張している維新の党などは、それが実現すれば委員会に委員を配置させることすらできないだろう。民主主義を真面目に考えている政党ではない。現在でも法案のほとんどを官僚が書いている。定数を削減すれば、官僚優位の体制が強化される。

沖縄に押し付けている荷重な米軍基地の負担、子どもに押し付けている貧困という負担、福島県民を中心に押し付けている原発事故という負担は、負担ではないのか、これらの負担は消費税増税より軽いとでもいうのか。議員定数の削減がばかばかしいことを分かってもらいたい。国民が望む形で真の無駄を削減するには、国会に民意が反映されていなければならない。議員歳費はそれと比べ、微々たるものである。

韓国では事故を起こしていない原発の周囲で甲状腺がんがそうでない地域と比べ多発しているとの判決が下った。事故を起こした日本ではどうなのか。東葛地域の市民運動がリーダーシップを発揮して子ども被災者支援法を成立させた。福島原発事故によって健康被害は発生しないとの前提に立った放射能健康検査ではなく、十分な健康検査が必要である。

(2) 国民審査罷免率に対する影響(2012年との比較)

国民審査は国民投票なので、小選挙区制によって民意が歪められません。国民審査の1票は非常に効力のある1票です。新たな定数配分の格差是正訴訟で今度こそ選挙結果を無効とすることで、定数配分の格差是正だけでなく、小選挙区制の廃止を含めた選挙制度の抜本改正を迫る機運とすることができます。

だから私は、棄権をせず最高裁判所裁判官国民審査で選挙結果を無効としてこなかった裁判官に×を、と街頭でも徹底的に訴えました。

2014年衆院選で棄権したい方:最高裁判所裁判官国民審査で裁判官に×をつけ、小選挙区制の廃止につなげよう!
http://unitingforpeace.seesaa.net/article/410367410.html

千葉県選管が発表した結果を見てみます。

http://otasa.net/documents/2014senkyo/2014_Chiba_Kokuminshinsa.xls

私が注力した松戸市7区では、裁判官の罷免を可とする票の割合が2012年選挙の10.3%からわずかに増えて11.6%となりました。また、選挙行政区単位の順位も、松戸市7区は2012年の8位(柏市8区、白井市、習志野市、千葉市美浜区、浦安市、船橋市(2014年は船橋市が13区と4区に分かれていますが、12年と比較できるよう、船橋市13区を船橋市4区に統合)、千葉市花見川区に続く)から、今回は3位(柏市8区、習志野市に続く)へと上昇しています。

今回の選挙でやはり国民審査を重視していた内田ひろき柏市議を擁する柏市8区で、罷免率が2年連続で最高を記録しているのも、偶然ではないでしょう。

衆議院選挙がスタート | 内田ひろき 活動記録・ドブイタから政治闘争まで
http://uchidah.info/blog/?p=6346
「今回の選挙で私、内田ひろきがもう一つ重要だと考える戦いは、衆議院議員選挙と同時に執行する最高裁判所裁判官の国民審査である。」

1人で1ポイント伸ばしたといえば傲慢かもしれませんが、それくらいの力量が市民運動にあることを証明したいという思いで、今回は取り組みました。1人で1ポイント動かせるのなら、市民運動が総力を挙げたときの力は膨大です。

(3) 政党得票率に対する影響(2012年との比較)

各党の松戸市7区における比例区得票率と、選挙行政区単位での県内順位は、以下のようになっています。上段が2012年、下段が2014年です。(選挙行政区は市計、選挙区計などの重複を合わせて県内全103行政区。2014年は船橋市が13区と4区に分かれていますが、12年と比較できるよう、船橋市13区を船橋市4区に統合。)

http://otasa.net/documents/2014senkyo/2012_Chiba_Hireiku.xls
http://otasa.net/documents/2014senkyo/2014_Chiba_Hireiku.xls

自民党
81位で25.1%(2012年)
86位で32.0%(2014年)

民主党
59位で16.4%
62位で15.6%

公明党
67位で11・1%
77位で12.9%

維新の党
56位で18.8%
7位で17.3%

共産党
10位で6.1%(千葉市花見川区、船橋市、流山市、市川市6区、勝浦市、習志野市、松戸市6区、大網白里町、柏市8区、松戸市7区)
2位で13.5%(千葉市花見川区、松戸市7区)

社民党
3位で2.4%(流山市、野田市、松戸市7区)
4位で2.8%(流山市、松戸市6区、野田市、松戸市7区)

生活の党(12年は日本未来の党)
26位で7.2%
48位で2.5%

与党の自民党と公明党は、いずれも比例区得票率を全選挙行政区で伸ばしているものの、松戸市7区の順位はいずれも下げています。特に公明党については、松戸市7区の得票率の12年との比が1.15倍で97位と低迷しています。

共産党は松戸市7区で得票率、順位ともに上げました。

両年とも7区だけに小選挙区候補を立てた社民党は、松戸市7区での順位が3位から4位に落ちるも、得票率は上げています。社民党の場合は、松戸市6区が2位で3.1%となり、12年の33位、1.8%から上がりました。

松戸市6区が、私が松戸で普段訴える場合の地域です。松戸市6区では、共産党も12年の20位、6.3%が14年には15位、13.4%に上がっています。

野党の民主党、生活の党(12年は日本未来の党)はいずれも得票率、順位ともに下がりました。

12年に千葉県7区でみんなの党から立候補した石塚貞通氏は、今回は同じ選挙区で維新の党から出ました。このため維新は松戸市7区の順位が上がっていますが、得票率は落としています。

(4) 市民個人の力量

私は2014年都知事選で宇都宮健児氏を応援しましたが、私が傾注した葛飾区と足立区は、2012年都知事選と比べて同氏が得票数を伸ばしたトップ3の区に入りました。

このことからしても、完全な実証はできませんが、国民審査に対する影響にしろ、政党得票率に対する影響にしろ、市民個人が及ぼす影響力には大きいものがあるのだと、私は確信しています。

(5) 市民運動のこれから

故菅原文太氏は沖縄県知事選候補・翁長雄志氏の応援で、「仲井真さん、弾はまだ一発残っとるがよ」と語りました。

菅原文太氏のスペシャルゲストあいさつ - YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=8PFTMiaHXAc

では、市民運動の弾はどれだけ打たれたのか、一発しか残っていないほどやり抜いたのか。この辺が問われているのではないでしょうか。

多くの有権者を味方につけるため、少人数多地点の街頭行動を改めて呼び掛けたいと思います。

太田光征

よく分かる「定数配分の格差」(「1票の格差」)

11月 28th, 2014 Posted by MITSU_OHTA @ 17:51:46
under 選挙制度 , 定数配分の格差(1票の格差) Comments Off 

2013年参議院選挙の定数配分の格差を「違憲状態」とする最高裁判決が下りました。私も春に2013年参議院選挙の無効請求訴訟(定数配分の格差とは異なる争点、下掲参照)で最高裁に上告しましたが、まったく音沙汰なし。どうするつもりでしょうか。

「定数配分の格差」(マスメディア用語で「1票の格差」)について、改めて具体例で説明したいと思います。期せずして長くなってしまいましたが、A4で1ページ分程度の(1)だけでもお読みください。

(1) 小選挙区制では(1区50万人、2区150万人)でも(1区100万人、2区100万人)でも、投票価値に格差はない

衆議院小選挙区の場合を考えます。各選挙区を有権者100万人となるように区割りすれば、「定数配分の格差」が生じないと仮定します。

東京1区が有権者50万人、東京2区が有権者150万人である場合、世間では「定数配分の格差」(「1票の格差」)があるといいます。区割りを変更して、2区の50万人を1区に編入するなどの措置が必要です。

簡単のため、両選挙区とも自民党支持率が90%で、両選挙区とも自民候補が勝つとします。

旧1区の自民支持有権者Aさんの票は死票ではなく生票になります。旧2区の50万人を旧1区に編入して生まれた新1区でも、Aさんの票は生票になります。

定数配分の格差のある旧区割りでも、定数配分の格差がない新区割りでも、生票を投じる自民支持有権者の数・構成と、死票を投じる非自民支持有権者の数・構成は、両区全体でまったく同じです。生票または死票を投じる選挙区が変わるだけで、誰の票が生票または死票になるかという票の効力は、区割りや定数配分の格差、すなわち選挙区の有権者数の多寡にまったく関係なく確定します。

小選挙区制というのは、選挙区内における候補者・有権者の相対的な力関係だけを測定するものです。小選挙区における1票の価値とは、この測定に参画して第1位得票率と第2位得票率の比を決定するという権利です。比を決定する権利は、<等しく候補者1人>の当選をめぐって同等の権利として行使され、有権者数の多寡によって当選者数に違いが生じるわけでもなく、格差は生じません。

(1区50万人、2区150万人)の組み合わせでも、(1区100万人、2区100万人)の組み合わせでも、正しく候補者2人の枠内で、比を決定する権利は<等しく候補者1人>の当選をめぐって同等に行使され、1票の価値は変わりません。50万人の選挙区の有権者は150万人の選挙区の有権者と比べて何らかの得をしているわけではなく、選挙区の違いによって生票を投ずるか死票を投ずるかに違いが生じても、それは確率的現象であって、有権者数の多寡が原因ではありません。

(2) 定数配分の格差は地域代表性の格差をもたらすが、最高裁は地域代表性の重要性を否定

小選挙区制で生じるとすれば、地域代表性の格差です。そして国政選挙における地域代表性の格差は、ある程度ひろい地域の間で比べなければ意味がありません。

区議会議員選挙ならともかく、国政選挙における地域代表性の違いを無視できる東京旧1区、旧2区の全体では、正しく2議席が配分されているので、東京の他の地域や都外の選挙区と比べての地域代表性の格差の問題もありません。

もっと分かりやすい例を挙げれば、あらゆる地域で東京旧1区や旧2区のように有権者50万人、有権者150万人の小選挙区が隣り合っていると仮定しましょう。有権者50万人の選挙区グループ全体と比べ、有権者150万人の選挙区グループ全体は、有権者数が3倍なのに同数の議席しか選出できずに不公平である、といえるでしょうか。答えは(1)で述べた通りです。

この例は、西日本と東日本の有権者数が同じとして、西日本で議席の3分の1、東日本で議席の3分の2を選出するというように、明らかに大きな地域代表性の格差がある例とは違い、1議席当たりの有権者数のばらつきが全国で平均化されていて、地域代表性の格差が存在するとはいえません。

東京旧1区と旧2区で違いがあるとすれば、立候補者にとって選挙運動の対象となる有権者数が違うという程度です。旧1区は選挙運動費用が旧2区と比べて掛からない、というメリットが立候補者にはあるかもしれません。これは候補者どうしの格差といえます。

同様に、例えば鳥取1区と東京1区の有権者数を比べても本質的な意味はありません。そうではなく、鳥取全体の2選挙区と東京全体の25選挙区を比べて有権者数当たりの議席数に違いがあるかどうかという、地域代表性の格差が問題となります。例えば鳥取1区が50万人で、鳥取2区が150万人ではなく200万人であれば、鳥取全体ではむしろ有権者数当たりの議席数が少なくなるのであって、鳥取1区だけを取り上げて東京1区などと比べて得をしていると評価することは間違っています。

しかしこの地域代表性にしても、鳥取(を含む中国地方)から東京(を含む関東)に1議席程度を移せば解決する程度の格差しかないので、現在でもさほど重要ではないのです。

そして地域代表性そのものについても、最高裁がその重要性を否定しています。

「しかし,この選挙制度によって選出される議員は,いずれの地域の選挙区から選出されたかを問わず,全国民を代表して国政に関与することが要請されているのであり,相対的に人口の少ない地域に対する配慮はそのような活動の中で全国的な視野から法律の制定等に当たって考慮されるべき事柄であって,地域性に係る問題のために,殊更にある地域(都道府県)の選挙人と他の地域(都道府県)の選挙人との間に投票価値の不平等を生じさせるだけの合理性があるとはいい難い。」(平成22年(行ツ)第129号選挙無効請求事件平成23年03月23日最高裁判所大法廷判決・集民第236号249頁)

(3) 定数配分の格差は、政党間1票格差という投票価値の格差を拡大する

定数配分の格差で問題となるのは、中国地方のように自民など特定政党の支持率が高いところに有権者数当たりの議席が多く配分されることで、政党間1票格差という投票価値の格差が拡大するという点です。つまり、自民が効率よく議席を獲得し、自民の生票率が高まり、非自民の死票率が高まるという問題です。

2012年衆院選の場合、政党間1票格差を「1議席当たりの得票数」を各党ごとに求め、自民党の「1議席当たりの得票数」で割った値と定義すれば、政党間1票格差の最大は未来の党の13.83倍となります。議席を得られない政党の政党間1票格差はこれより深刻だといえます。

2012衆院選――結果分析
http://kaze.fm/wordpress/?p=435#2012election_table1

世間で言われている何倍の格差とか、1人「0.x票」という表現は、都道府県などの1つの地域(小選挙区よりも大きい)と1つの地域を比べたものではなく、1つの小選挙区(地域代表性の単位としては狭いだろう)と1つの小選挙区の間で有権者数を比べたもので、地域代表性の格差や投票価値の格差を表すわけではありません。

1人「0.2票」の小選挙区だから定数を5倍にすべきだ、1人「2.0票」の小選挙区だから選挙区を2分割すべきだ、という結論は直ちには得られません。1人「1.8票」の小選挙区と1人「0.2票」の小選挙区が近くにあれば、地域代表性の格差の問題も発生しません。

ただ、実際には、小選挙区という狭い単位でも選挙区ごとに政党支持率などに違いがあったりするので(確率的なものだが)、特定政党に有利になるような恣意的な区割りを防止するためにも、議員1人当たりの有権者数を揃えなければならないことは当然です(区割り選挙を前提とするなら)。

(4) 定数是正裁判の意義

以上のように書くと、一連の定数是正裁判は意味がないのか、と思われるかもしれませんが、そうではありません。

平成23年(行ツ)第64号選挙無効請求事件平成24年10月17日最高裁判所大法廷判決・集民第241号91頁(7ページ)は「憲法は,選挙権の内容の平等,換言すれば,議員の選出における各選挙人の投票の有する影響力の平等,すなわち投票価値の平等を要求していると解される」とし、法の下の平等を「選挙権」「投票の有する影響力」「投票価値」という概念に適用することを通じて、投票価値の格差の一類型としての定数配分の格差について憲法判断しているのであって、投票価値の格差が定数配分の格差だけだとしていない点に意義があります。

以上のような意味を持つ「定数配分の格差」が違憲であるならば、「0.x票」よりも価値のない死票を出して投票価値の格差をもたらす小選挙区制は明らかに違憲です。

(5) 複数定数区における定数配分の格差

以上は小選挙区での説明ですが、複数定数区では事情が違ってきます。2013年参院選無効請求訴訟の訴状11ページから引用しておきます。

「最後に中選挙区制を含む大選挙区制では、議員1人当たりの有権者数が少なくなる、あるいは選挙区内の定数が増えれば、従来の議論の枠組みによる不適切な表現としての選挙区間での「1票の価値」が高まるだけでなく、より多くの投票者の票が生票となる確率が高まると同時に、より少ない票数で生票になる確率が高くなるので、本質的にも選挙区間での投票価値が高まる(議員1人当たりの投票者数が少なくなる)。」

(6) 参院選では、定数配分の格差の是正によって投票価値の格差(死票率の格差)がさらに拡大する

そして定数の異なる選挙区が混在する参院選において、定数配分の格差の是正によって投票価値の格差(死票率の格差)がさらに拡大することは、2013年参院選無効請求訴訟の上告理由書で説明しています。17ページから引用しておきます。

「[6] 参議院選挙区の場合は、地方ほど1選挙区当たりの定数が少なく死票率が高く、都市部ほど同定数が多く死票率が低いので(第6の「4 憲法要請「国民の厳粛な信託」から導かれる定量的な選挙制度条件を検討せずに憲法判断をする原判決」参照)、「定数配分の格差」を是正するために地方から都市部へ議席を移して、地方の1選挙区当たりの定数を減らし、都市部の1選挙区当たりの定数を増やすと、地域代表性はさほど変わらないが、両地域の間における死票率の格差という投票価値の格差はさらに拡大する。」

2013年参議院選挙の無効請求訴訟

[1] 訴状:投票価値論を展開。訴状ファイルには目次がありません。目次は下記ブログ記事本文で確認してください。
第23回参議院選挙無効請求訴訟を提起
http://kaze.fm/wordpress/?p=478 
http://otasa.net/documents/2013_Upper_House_Election_Complaint.pdf
[2] 準備書面:供託金制度についての国会論議を詳しく振り返っている。
第23回参議院選挙無効請求訴訟の準備書面(2013年11月6日付)――戦後直後から最近までの国会審議を振り返る
http://kaze.fm/wordpress/?p=512
http://otasa.net/documents/brief_20131106.pdf
[3] 上告理由書:準備書面とかなり重複しているが、投票価値論について新たな説明を加えている。供託金制度についての主張は、上告理由書のまとめで手っ取り早く理解できる。
2013年参院選無効請求訴訟で上告――定数配分の格差の是正で投票価値の格差(死票率の格差)はさらに拡大する
http://kaze.fm/wordpress/?p=527
http://otasa.net/documents/2013Election_Appeal_to_the_Supreme_Court.pdf

太田光征

大義なき安倍解散に当たっての声明

11月 28th, 2014 Posted by MITSU_OHTA @ 15:54:57
under 未分類 Comments Off 

(1) 第2次安倍政権の2年間

 沖縄の選挙結果に関係なく辺野古新基地を建設する方針を変えない安倍政権が、衆議院を解散して、消費税増税延期について選挙で民意を問うという。笑止千万である。

 安倍政権の立場としては、不景気には増税しないなどの措置を明記した消費税増税法をその通り執行すればよいのである。

「消費税率の引上げに当たっての措置」では、「経済状況等を総合的に勘案した上で、その施行の停止を含め所要の措置を講ずる。」(社会保障の安定財源の確保等を図る税制の抜本的な改革を行うための消費税法の一部を改正する等の法律附則第18条)

 この2年間に安倍政権が行ってきた政治を振り返れば、立憲主義を軽視した上で、憲法の規定する平和主義を覆し、基本的人権を蔑ろにしようとするものであり、目に余るものがある。しかも特定秘密保護法の制定、集団的自衛権に関する憲法解釈の変更、武器輸出の解禁などはいずれも、2012年の衆院選でも2013年の参院選でも、自民党マニフェストの中に見当たらないものである。つまり、国民はだまし討ちにあったといってよい。これほど国民を愚弄する政権はかつてない。

 福島の原発汚染水が「完全にコントロールされている」との安倍首相による虚言はもはや誰も信じていない。これまた虚言の「100%安全」な原発などこの世界には存在しない。なのに、なぜ原発再稼働なのか。安倍政権は、自分が見たいものしか見ず、見たくないものは見ない妄想の世界に浸り、反知性主義に凝り固まっているのである。

 国民を不幸にする戦後最悪の安倍内閣を継続させてはならない。安倍政治を終わらせるよう、主権者は新たな営みを開始しよう。

(2) 民意を問おうにも問えない選挙法制

 本来、衆議院は平等な国民主権を保障するための公職選挙法改正と選挙制度改正を直ちに行った上で、その正当性を担保するために直ちに解散されなければならない。これが衆議院解散の唯一の大義である。

 そもそも投票価値(定数配分の格差ではない)と民意を切り捨てる小選挙区制をそのままに、消費税増税延期について民意を問うことなど不可能であり、違憲である。安倍政権は民意を問いたいのではなく、小選挙区制によって偽装勝利したいだけである。民意を確認したいのであれば、700億円もの税金で選挙をする必要もなく、世論調査を実施すればよい。

 選挙運動に参加する権利などの国民主権を奪う公職選挙法をそのままに選挙を行うことも、正当な選挙を規定した憲法に違反して違憲である。国会議員は定数配分の格差の問題ですら、その是正を怠って違憲議員の烙印を最高裁から押されている。

 いわゆる「0増5減」は衆議院の小選挙区の議席のみを削減するものであり、比例区に立候補できず(当選しにくい)小選挙区にしか立候補できない無所属候補の立候補権に対する差別(立候補枠や当選しやすさの格差)を拡大するもので、定数配分の格差の是正に幾分かは貢献するとしても、別の重大な格差を拡大するから論外である。「0増5減」は衆議院議員選挙に何らの正当性も与えない。

(3) 主権者が国会議員の上に立つために

 大義なき安倍解散にどう対応するか。主権者はあくまでも国会議員の唯一の権能が平等な国民主権を保障するための公職選挙法改正と選挙制度改正だけであると主張し続け、特に野党にこれらの改正を統一政策にするよう迫るべきである。

 ただし、消費税増税という負担を強いる代わりの「身を切る改革」と称しての議員定数削減は民意を切り縮めるものだから、必要がない。国会議員は沖縄に荷重な基地負担を強いているから、子どもの貧困率が過去最高になったから、定数を削減するのか。負担を強いるたびに定数を削減していたならば、身がもたないではないか。それとも基地負担などは増税負担より軽いとでも思っているのか。主権者の代理たる国会議員が主権者の民意を切り縮める定数削減が進まないことを謝る民主主義国家など、日本をおいてほかにない。民主主義をわきまえてもらいたい。

 選挙後は公職選挙法と選挙制度を直ちに改正してから直ちに衆議院を解散し、正当な選挙を通じて衆議院議員を選び直さなければならない。

2014年11月28日

「平和への結集」をめざす市民の風
http://kaze.fm/

袋小路の「1票の格差」論――定数配分の格差は地域属性(地域代表性)の問題であって、個人の投票価値の問題ではない

9月 6th, 2014 Posted by MITSU_OHTA @ 18:33:54
under 選挙制度 , 定数配分の格差(1票の格差) Comments Off 

日本で使われている「1票の格差」概念をめぐる混迷について、象徴的な記事がありました。

(1)スイスの政治学者は正しく投票価値論を展開

一票の格差、スイスの政治学者に聞く - SWI swissinfo.ch
http://www.swissinfo.ch/jpn/%E4%B8%80%E7%A5%A8%E3%81%AE%E6%A0%BC%E5%B7%AE-%E3%82%B9%E3%82%A4%E3%82%B9%E3%81%AE%E6%94%BF%E6%B2%BB%E5%AD%A6%E8%80%85%E3%81%AB%E8%81%9E%E3%81%8F/36290172

以下はswissinfoからの抜粋です。

「ボクスラー : 「公平さ」で他に重要な基準は、自分がスイスのどこに住んでいようとも、他の人と同価値の選挙権を有しているということ。自分の一票が、他の人と同様に政党の議席配分に影響を与えるということだ。」

「ボクスラー : 例えば、比例代表制を採用しているチューリヒ州では、一つの自治体が一つの選挙区を形成しており、選挙区の人口の規模によって議員定数がかなり異なっている。そのため非常に小さな選挙区では、小さな政党は議席を得られなかった。

そこで連邦最高裁判所はチューリヒ州に対し、小さな政党にも議席獲得のチャンスを与えるよう命じた。また、選挙区の大きさにばらつきがありすぎることも批判した。そこでチューリヒ州は、選挙区を変えなくても最高裁の要求に応えられる「プーケルスハイム式(Doppelter Pukelsheim)」を採用することにした。」

「ボクスラー : 比例代表制では、各政党は得票率に応じて議席が配分される。得票率に正確に沿って議席を配分するとなると、小数点以下の値が問題になる。例えば、定数4人の選挙区でA党が50%、B党が30%、C党が20%得票したとする。正確に議席配分した場合、A党は2議席、B党が1.2議席、C党が0.8議席となるが、1.2議席や0.8議席は配分できない。そこで、小数点以下の値を処理する必要が出てくる。これにはさまざまな計算方法があるが、これまでのやり方ではいつも同じ政党に有利に働き、同じ政党が不利になるという問題があった。

プーケルスハイム式では、選挙区全体の得票数に応じて各政党に議席数を割り当て、その後、各政党が得た議席数を各選挙区に配分する。もし一つの政党が小数点以下の問題で一つの選挙区で議席を得られなかったとしても、それが他の選挙区でボーナスになるように計算されるため、得票率に応じた議席配分が州全体でできるようになっている。」

「swissinfo.ch : つまりこの方法では、一票の価値がどの選挙区でも同じになり、死票も減るため、民意が議席配分に反映されやすいのですね。しかし、計算方法がかなり難しそうです。有権者の理解は得られるのでしょうか。」

(抜粋ここまで)

ボクスラー教授が正しくも問題にしているのは「政党間1票格差」であって、選挙区ごとに定数が異なる定数配分(1議席当たりの有権者数の違いの問題ではなく、日本の参議院選挙のように、1人区から5人区までなど、定数の異なる選挙区がある問題)、実際には日本の衆議院比例ブロックのように定数が少なすぎて得票率に応じた比例配分が実現しない問題を問題だとしているのは、政党間1票格差に影響を与えるためだと、これも正しく認識しています。

「「一票の格差」の問題解決に向けて、日本では政治家たちがようやく重い腰を上げ始めた」と書き出しているswissinfoは、おそらく「定数配分の格差」(1議席当たりの有権者数の違い)と「政党間1票格差」を混同して理解しています。日本の有権者のほとんどがそうでしょう。

「1票の格差」というのは自然に読めば「1票の価値の格差」を意味しますが、日本では「1票の格差」が単なる「定数配分の格差」の意味でも使われています。ようやく重い腰を上げ始めた政治家がもっぱら取り組んでいるのは「定数配分の格差」の問題であって、「政党間1票格差」などの「1票の価値の格差」「投票価値の格差」の問題ではないのです。ただし、最高裁が「定数配分の格差」の問題を「投票価値の格差」だと認定してしまったところに大きな意義があります。

swissinfoはプーケルスハイム式なら「一票の価値がどの選挙区でも同じになり、死票も減る」と書いていますが、プーケルスハイム式であろうとなかろうと、どの選挙区を比べても1議席当たりの有権者数が同じならば、日本でいう意味の「1票の格差」=「定数配分の格差」は存在しません。swissinfoはここで、「一票の価値」を文字通り、投票の価値の意味で使っています。正しい。

(2)定数配分の格差は地域属性(地域代表性)の問題であって、個人の投票価値の問題ではない

定数配分の格差と投票価値の格差は、本質的には関係がありません。

例えば、衆議院選挙で東京の選挙区が25から26に増えても、1票が当選に及ぼす影響力は増えません。1票が当選に及ぼす影響力は、選挙区内の候補者の力関係で決まるからです。中国・四国地方の某選挙区と比べて1議席当たりの有権者数が多いから投票価値が低い、と嘆いている東京の某選挙区の民主党支持有権者が、定数配分の格差是正、つまり区割り変更で有権者数が2分の1の新選挙区の有権者になったとしても、旧選挙区の自民支持率が90%、新選挙区の自民支持率が90%なら、相変わらず自分の票は死票のままで、投票価値に変化は起きません。自民支持有権者にしても同様です。民主党支持有権者の数が2分の1に減るのと同様に自民支持有権者の数も同率で減るので、両有権者グループの力関係は変わらないのです。定数配分の格差是正、つまり区割り変更で政党支持率や有権者グループの力関係が変わるとすれば、それは地域の属性の違いが原因であって、1議席当たりの有権者数とは何の関係もありません。

小選挙区制を前提にする限り、定数配分の格差是正で変化するのは、東京という地域全体で選出する議員の数という地域属性、つまり地域代表性だけです。定数是正は個人の投票価値の領域に属する問題ではないのです。

下掲の[3]から抜粋しておきます。

「定数配分の格差では、都市部が地方より議員1人当たりの有権者数が多いことが問題とされる。しかし実際には、例えば2012年衆議院選挙の場合、鳥取第1区の当選者の得票数は124,746票で、生票率は 85%、神奈川1区の当選者の得票数は101,238票で、生票率は41%、東京1区の当選者の得票数は82,013票で、生票率は29%となっている。つまり、これら選挙区に限れば、生票を投じることで実質的に投票に参加している有権者数はむしろ地方より都市部の方が少なく(都市部では立候補者数が多く、死票率が高いことなどが原因と考えられる)、生票を投じる有権者に限れば、都市部が地方より投票価値が低いとはいえないのが実態である。ただし、都市部ほど死票を投じる有権者が多いという点で、都市部の方が投票価値は低いといえる。」

ただ実際は、自民が強い中国・四国地方に議席が多く配分されているなど、政党支持率の違いと定数配分の格差の組み合わせがランダムでないことによる相乗効果で、定数配分の格差が政党間1票格差に影響を与える場合があります。これこそが問題です。そうでない場合、定数配分の格差は純粋に地域代表性の格差に他なりません。しかし、定数配分の是正が地域代表性に与える影響についても、東京の場合、25から26ではほとんど意味がありません。

東西で有権者数が同じとして、西日本で議席の3分の1、東日本で議席の3分の2を選出するとしても、投票価値の平等が保障されるならば、全国レベルで民意を反映できるのです。そうではなく、東西で半々の議席を選出するとしても、例えば西日本で比例代表制、東日本で小選挙区制を採用するなどして、投票価値の平等が保障されないならば、民意を反映せず偽装的に平等な地域代表性が演出されるのみとなります。

後者の例で、仮に東日本が農業県なら、TPP推進の自民が議席を独占して民意に反し、平等な地域代表性が保障されるなどとはいえません。どの選挙区でもTPP反対の政党・候補を最小の死票で選出できれば、有権者数当たりの議席数に関係なく、全国レベルでTPP反対の民意を議席に反映できます。地域代表性といっても、辺野古基地反対の自民候補者が当選後に辺野古推進になるのが現状なのです。投票意思が反映されない地域代表性などあり得ません。

(3)2013年参議院選挙の無効請求訴訟

選挙区によって定数配分が異なることで投票価値に格差がもたらされる問題(「定数配分の格差」=「1議席当たりの有権者数の違い」の問題ではない)は、日本の訴訟でも争点にしています。

2013年参議院選挙の無効請求訴訟

[1] 訴状:投票価値論を展開。訴状ファイルには目次がありません。目次は下記ブログ記事本文で確認してください。
第23回参議院選挙無効請求訴訟を提起
http://kaze.fm/wordpress/?p=478
[2] 準備書面:供託金制度についての国会論議を詳しく振り返っている。
第23回参議院選挙無効請求訴訟の準備書面(2013年11月6日付)――戦後直後から最近までの国会審議を振り返る
http://kaze.fm/wordpress/?p=512
[3] 上告理由書:準備書面とかなり重複しているが、投票価値論について新たな説明を加えている。供託金制度についての主張は、上告理由書のまとめで手っ取り早く理解できる。
2013年参院選無効請求訴訟で上告――定数配分の格差の是正で投票価値の格差(死票率の格差)はさらに拡大する
http://kaze.fm/wordpress/?p=527

太田光征

袋小路の「1票の格差」論――定数配分の格差は地域属性(地域代表性)の問題であって、個人の投票価値の問題ではない

9月 6th, 2014 Posted by MITSU_OHTA @ 18:32:44
under 選挙制度 , 定数配分の格差(1票の格差) Comments Off 

日本で使われている「1票の格差」概念をめぐる混迷について、象徴的な記事がありました。

(1)スイスの政治学者は正しく投票価値論を展開

一票の格差、スイスの政治学者に聞く - SWI swissinfo.ch
http://www.swissinfo.ch/jpn/%E4%B8%80%E7%A5%A8%E3%81%AE%E6%A0%BC%E5%B7%AE-%E3%82%B9%E3%82%A4%E3%82%B9%E3%81%AE%E6%94%BF%E6%B2%BB%E5%AD%A6%E8%80%85%E3%81%AB%E8%81%9E%E3%81%8F/36290172

以下はswissinfoからの抜粋です。

「ボクスラー : 「公平さ」で他に重要な基準は、自分がスイスのどこに住んでいようとも、他の人と同価値の選挙権を有しているということ。自分の一票が、他の人と同様に政党の議席配分に影響を与えるということだ。」

「ボクスラー : 例えば、比例代表制を採用しているチューリヒ州では、一つの自治体が一つの選挙区を形成しており、選挙区の人口の規模によって議員定数がかなり異なっている。そのため非常に小さな選挙区では、小さな政党は議席を得られなかった。

そこで連邦最高裁判所はチューリヒ州に対し、小さな政党にも議席獲得のチャンスを与えるよう命じた。また、選挙区の大きさにばらつきがありすぎることも批判した。そこでチューリヒ州は、選挙区を変えなくても最高裁の要求に応えられる「プーケルスハイム式(Doppelter Pukelsheim)」を採用することにした。」

「ボクスラー : 比例代表制では、各政党は得票率に応じて議席が配分される。得票率に正確に沿って議席を配分するとなると、小数点以下の値が問題になる。例えば、定数4人の選挙区でA党が50%、B党が30%、C党が20%得票したとする。正確に議席配分した場合、A党は2議席、B党が1.2議席、C党が0.8議席となるが、1.2議席や0.8議席は配分できない。そこで、小数点以下の値を処理する必要が出てくる。これにはさまざまな計算方法があるが、これまでのやり方ではいつも同じ政党に有利に働き、同じ政党が不利になるという問題があった。

プーケルスハイム式では、選挙区全体の得票数に応じて各政党に議席数を割り当て、その後、各政党が得た議席数を各選挙区に配分する。もし一つの政党が小数点以下の問題で一つの選挙区で議席を得られなかったとしても、それが他の選挙区でボーナスになるように計算されるため、得票率に応じた議席配分が州全体でできるようになっている。」

「swissinfo.ch : つまりこの方法では、一票の価値がどの選挙区でも同じになり、死票も減るため、民意が議席配分に反映されやすいのですね。しかし、計算方法がかなり難しそうです。有権者の理解は得られるのでしょうか。」

(抜粋ここまで)

ボクスラー教授が正しくも問題にしているのは「政党間1票格差」であって、選挙区ごとに定数が異なる定数配分(1議席当たりの有権者数の違いの問題ではなく、日本の参議院選挙のように、1人区から5人区までなど、定数の異なる選挙区がある問題)、実際には日本の衆議院比例ブロックのように定数が少なすぎて得票率に応じた比例配分が実現しない問題を問題だとしているのは、政党間1票格差に影響を与えるためだと、これも正しく認識しています。

「「一票の格差」の問題解決に向けて、日本では政治家たちがようやく重い腰を上げ始めた」と書き出しているswissinfoは、おそらく「定数配分の格差」(1議席当たりの有権者数の違い)と「政党間1票格差」を混同して理解しています。日本の有権者のほとんどがそうでしょう。

「1票の格差」というのは自然に読めば「1票の価値の格差」を意味しますが、日本では「1票の格差」が単なる「定数配分の格差」の意味でも使われています。ようやく重い腰を上げ始めた政治家がもっぱら取り組んでいるのは「定数配分の格差」の問題であって、「政党間1票格差」などの「1票の価値の格差」「投票価値の格差」の問題ではないのです。ただし、最高裁が「定数配分の格差」の問題を「投票価値の格差」だと認定してしまったところに大きな意義があります。

swissinfoはプーケルスハイム式なら「一票の価値がどの選挙区でも同じになり、死票も減る」と書いていますが、プーケルスハイム式であろうとなかろうと、どの選挙区を比べても1議席当たりの有権者数が同じならば、日本でいう意味の「1票の格差」=「定数配分の格差」は存在しません。swissinfoはここで、「一票の価値」を文字通り、投票の価値の意味で使っています。正しい。

(2)定数配分の格差は地域属性(地域代表性)の問題であって、個人の投票価値の問題ではない

定数配分の格差と投票価値の格差は、本質的には関係がありません。

例えば、衆議院選挙で東京の選挙区が25から26に増えても、1票が当選に及ぼす影響力は増えません。1票が当選に及ぼす影響力は、選挙区内の候補者の力関係で決まるからです。中国・四国地方の某選挙区と比べて1議席当たりの有権者数が多いから投票価値が低い、と嘆いている東京の某選挙区の民主党支持有権者が、定数配分の格差是正、つまり区割り変更で有権者数が2分の1の新選挙区の有権者になったとしても、旧選挙区の自民支持率が90%、新選挙区の自民支持率が90%なら、相変わらず自分の票は死票のままで、投票価値に変化は起きません。自民支持有権者にしても同様です。民主党支持有権者の数が2分の1に減るのと同様に自民支持有権者の数も同率で減るので、両有権者グループの力関係は変わらないのです。定数配分の格差是正、つまり区割り変更で政党支持率や有権者グループの力関係が変わるとすれば、それは地域の属性の違いが原因であって、1議席当たりの有権者数とは何の関係もありません。

小選挙区制を前提にする限り、定数配分の格差是正で変化するのは、東京という地域全体で選出する議員の数という地域属性、つまり地域代表性だけです。定数是正は個人の投票価値の領域に属する問題ではないのです。

下掲の[3]から抜粋しておきます。

「定数配分の格差では、都市部が地方より議員1人当たりの有権者数が多いことが問題とされる。しかし実際には、例えば2012年衆議院選挙の場合、鳥取第1区の当選者の得票数は124,746票で、生票率は 85%、神奈川1区の当選者の得票数は101,238票で、生票率は41%、東京1区の当選者の得票数は82,013票で、生票率は29%となっている。つまり、これら選挙区に限れば、生票を投じることで実質的に投票に参加している有権者数はむしろ地方より都市部の方が少なく(都市部では立候補者数が多く、死票率が高いことなどが原因と考えられる)、生票を投じる有権者に限れば、都市部が地方より投票価値が低いとはいえないのが実態である。ただし、都市部ほど死票を投じる有権者が多いという点で、都市部の方が投票価値は低いといえる。」

ただ実際は、自民が強い中国・四国地方に議席が多く配分されているなど、政党支持率の違いと定数配分の格差の組み合わせがランダムでないことによる相乗効果で、定数配分の格差が政党間1票格差に影響を与える場合があります。これこそが問題です。そうでない場合、定数配分の格差は純粋に地域代表性の格差に他なりません。しかし、定数配分の是正が地域代表性に与える影響についても、東京の場合、25から26ではほとんど意味がありません。

東西で有権者数が同じとして、西日本で議席の3分の1、東日本で議席の3分の2を選出するとしても、投票価値の平等が保障されるならば、全国レベルで民意を反映できるのです。そうではなく、東西で半々の議席を選出するとしても、例えば西日本で比例代表制、東日本で小選挙区制を採用するなどして、投票価値の平等が保障されないならば、民意を反映せず偽装的に平等な地域代表性が演出されるのみとなります。

後者の例で、仮に東日本が農業県なら、TPP推進の自民が議席を独占して民意に反し、平等な地域代表性が保障されるなどとはいえません。どの選挙区でもTPP反対の政党・候補を最小の死票で選出できれば、有権者数当たりの議席数に関係なく、全国レベルでTPP反対の民意を議席に反映できます。地域代表性といっても、辺野古基地反対の自民候補者が当選後に辺野古推進になるのが現状なのです。投票意思が反映されない地域代表性などあり得ません。

(3)2013年参議院選挙の無効請求訴訟

選挙区によって定数配分が異なることで投票価値に格差がもたらされる問題(「定数配分の格差」=「1議席当たりの有権者数の違い」の問題ではない)は、日本の訴訟でも争点にしています。

2013年参議院選挙の無効請求訴訟

[1] 訴状:投票価値論を展開。訴状ファイルには目次がありません。目次は下記ブログ記事本文で確認してください。
第23回参議院選挙無効請求訴訟を提起
http://kaze.fm/wordpress/?p=478
[2] 準備書面:供託金制度についての国会論議を詳しく振り返っている。
第23回参議院選挙無効請求訴訟の準備書面(2013年11月6日付)――戦後直後から最近までの国会審議を振り返る
http://kaze.fm/wordpress/?p=512
[3] 上告理由書:準備書面とかなり重複しているが、投票価値論について新たな説明を加えている。供託金制度についての主張は、上告理由書のまとめで手っ取り早く理解できる。
2013年参院選無効請求訴訟で上告――定数配分の格差の是正で投票価値の格差(死票率の格差)はさらに拡大する
http://kaze.fm/wordpress/?p=527

太田光征

2013年参院選無効請求訴訟で上告――定数配分の格差の是正で投票価値の格差(死票率の格差)はさらに拡大する

4月 14th, 2014 Posted by MITSU_OHTA @ 0:33:56
under 選挙制度 , 2013年参議院選挙 , 裁判 Comments Off 

2013年参院選無効請求訴訟の訴えが東京高裁で2014年1月30日に却下・棄却されたので、4月11日に上告理由書と上告受理申立て書を提出しました。

第23回参議院選挙無効請求訴訟を提起
http://kaze.fm/wordpress/?p=478
第23回参議院選挙無効請求訴訟の準備書面(2013年11月6日付)――戦後直後から最近までの国会審議を振り返る
http://kaze.fm/wordpress/?p=512

上告受理申立て書はほぼ上告理由書からの抜粋の形をとるので、上告理由書だけを紹介しておきます。

上告理由書
http://otasa.net/documents/2013Election_Appeal_to_the_Supreme_Court.pdf

上告理由書は54ページありますので、一部だけを抜粋します。残りはファイルでご確認ください。

目次
第1 理由要旨
第6 選挙区によって異なる選挙制度を適用することは投票価値の格差をもたらす/千葉県選挙区の選挙の違憲性とその他の選挙区の選挙の違憲性
 1 従来の定数是正訴訟の争点「定数配分の格差」(上掲平成24年大法廷判決にいう「投票価値」の格差の一類型)と同型でありながらより重要な本件訴訟の争点「死票率の格差」(同判決にいう「投票価値」の格差の一類型)について憲法判断しない原判決――投票価値の格差の本質は生票と死票の対立にこそある
  (1) 従来の定数是正訴訟と同型でありながらより重要な本件訴訟の争点「死票率の格差」の構造(従来の定数是正訴訟との比較)

表 従来の定数是正訴訟と同型でありながらより重要な本件訴訟の争点「死票率の格差」の構造(従来の定数是正訴訟との比較)

  (2) 定数配分の格差より死票率の格差の方が重大――定数配分の格差の是正で投票価値の格差はさらに拡大する

上 告 理 由 書
従来の定数是正訴訟と同型でありながら
より重要な本件訴状争点について判断しない原判決
〜定数配分の格差の是正で投票価値の格差はさらに拡大する〜

2014年(平成26年)4月11日
平成25年(行ケ)第92号 選挙無効請求事件
上告提起事件番号 平成26年(行サ)第26号

最高裁判所民事部 御中

上告人   太田光征
〒271-0076 千葉県松戸市岩瀬46番地の2 さつき荘201号
送達先 同上(電話・ファクス:047-360-1470)

被上告人1    千葉県選挙管理委員会
被上告人2   中央選挙管理会

目次

第1 理由要旨 - 5 -
第2 用語と出典の説明と訂正について - 7 -
第3 本件訴訟は従来の「定数是正訴訟」(「1票の格差訴訟」)と同型であるから適法であるが、原判決は「定数是正訴訟」と同型の本件訴訟争点について理油不備・理由齟齬の違法を犯している - 7 -
第4  原判決は、本件訴訟の原告適格性と被告適格性について、憲法レベルで理由不備・理由齟齬の違法を犯している - 8 -
第5 比例区の定数枠から無所属候補を締め出す現行選挙制度は制限選挙を禁止する憲法に違反 - 8 -
 1 訴状争点を名簿式比例代表制にすり替え、自身の立論根拠「国会の広い裁量」「政党の重要性」について理由を示さない原判決 - 8 -
 2 「国会の広い裁量」について憲法の解釈と適用を誤った原判決 - 9 -
 3 「国会裁量権の合理性検討」を怠った原判決 - 10 -
 4 本件訴状の争点を名簿式比例代表制にすり替え、しかも非拘束名簿式比例代表制(名簿式比例代表制一般とは異なる)の合理性を「政党の重要性」で説明した上掲平成16年大法廷判決を援用し、「政党の重要性」を理由にすることで理由齟齬の違法を犯している原判決 - 11 -
 5 政党を最も重要な媒体と認める原判決は、無党派層が最大の政治勢力である今日の現実を無視して、重層的な理由齟齬の違法を犯している - 12 -
 6 まとめ - 12 -
第6 選挙区によって異なる選挙制度を適用することは投票価値の格差をもたらす/千葉県選挙区の選挙の違憲性とその他の選挙区の選挙の違憲性 - 13 -
 1 従来の定数是正訴訟の争点「定数配分の格差」(上掲平成24年大法廷判決にいう「投票価値」の格差の一類型)と同型でありながらより重要な本件訴訟の争点「死票率の格差」(同判決にいう「投票価値」の格差の一類型)について憲法判断しない原判決――投票価値の格差の本質は生票と死票の対立にこそある - 13 -
 (1) 従来の定数是正訴訟と同型でありながらより重要な本件訴訟の争点「死票率の格差」の構造(従来の定数是正訴訟との比較) - 13 -
 (2) 定数配分の格差より死票率の格差の方が重大――定数配分の格差の是正で投票価値の格差はさらに拡大する - 16 -
 2 訴状の争点とは異なる争点にすり替えて判断し、過去大法廷判決で要求された「国会裁量権の合理性検討」を行っていない原判決 - 17 -
 3 過去大法廷判決の成果(国会議員の地域代表性の重要性を否定し、都道府県単位の選挙区制の見直しを主張)から後退する原判決 - 18 -
 4 憲法要請「国民の厳粛な信託」から導かれる定量的な選挙制度条件を検討せずに憲法判断をする原判決 - 18 -
 5 憲法より普遍的といえる数科学的知見を検討せずに憲法判断をする原判決 - 19 -
 6 まとめ - 19 -
第7 公職選挙法の供託金・立候補者数規定は「正当な選挙」どころか「不当な選挙」を規定するもので、憲法第14条に違反する - 20 -
 1 比例区選挙の立候補要件――政党本位といいつつ既成政党のみを優遇して何らの民主主義的意義もなく、原判決は理由不備・理由齟齬の違法、憲法の解釈と適用を誤った違法を犯している - 20 -
 (1) 無党派層が最大の政治勢力であり、政党よりも支持される政治団体が選挙で存在する今日、政党本位の立候補要件に合理的理由はない - 20 -
 (2) 国会裁量権の合理性検討に値しない国会審議――強行採決で立候補要件を決定し、政党本位と矛盾しない「名簿届け出政党等の要件緩和」など合理的な代案を無視 - 21 -
 (3) まとめ - 23 -
 2 供託金――「泡沫候補排除」「選挙公営費の一部負担」などの実際の立法目的を無視し、架空の立法目的を設定する原判決は、理由不備・理由齟齬の違法を犯し、同負担を不当と認めた過去最高裁判決に違背 - 23 -
 (1) 理由不備の過去最高裁判決を支持する原判決 - 23 -
 (2) 供託金制度の立法目的・手段・効果に合理性はない――過去の供託金争点裁判(大阪高裁判決)を振り返る - 24 -
 (3) 供託金制度の立法目的・手段・効果に合理性はない――過去の国会審議を振り返る - 29 -
 (4) まとめ - 48 -
第8 野宿者の方などの選挙権が剥奪されている――住所非保有者も適正に生活保護を受給できるように、住所非保有者の選挙人名簿を調製して選挙の公正を確保できる - 49 -
 1 公正な選挙に必要なのは本人確認であり、住所ではない - 49 -
 2 行政は居所・仮住所を住所と見なさず、民法、住民基本台帳事務処理要領、過去の住民登録事例に違背する - 51 -
 3 行政は住所非保有者に住所を確保すべき住民基本台帳法の義務を怠っている - 51 -
 4 在外選挙人を優遇して国内住所非保有選挙人を差別するのは不当 - 53 -
 5 本件原判決が支持する上掲大阪高裁判決は、その論理構造で国内住所非保有者の選挙権の行使制限を是としない - 53 -
 6 まとめ - 53 -


第1 理由要旨

 原判決は、訴状の争点とは異なる争点にすり替えて判断したもので、昭和59年(行ツ)第339号選挙無効請求事件昭和60年7月17日最高裁判所大法廷判決で要求された「国会裁量権の合理性検討」を怠り、また憲法判断を誤っているから、民事訴訟法第312条1項「判決に憲法の解釈の誤りがあることその他憲法の違反があること」および同法第312条2項6号「判決に理由を付せず、又は理由に食違いがあること」に該当し、破棄を免れない。

 原判決は訴状争点「比例区の定数枠から無所属候補を締め出す現行選挙制度は制限選挙を禁止する憲法に違反」を名簿式比例代表制の合理性にすり替え、「国会裁量権の合理性検討」を怠って、自身の立論根拠「国会の広い裁量」「政党の重要性」について理由不備の違法を犯した上に、訴状争点を否定するために非拘束名簿式比例代表制の合理性を「政党の重要性」で説明した後掲平成16年大法廷判決を援用して理由齟齬の違法を犯し、さらに「政党の重要性」についても無党派層が最大の政治勢力である今日の現実を無視して、重層的な理由齟齬の違法を犯している(第7の1の(1)、第7の2の(3)第47段落参照)。
 国会の裁量は優先的憲法要請を選挙制度の細部に落とし込む立法作業の限りにおいて認められるところ、原判決は「国会の広い裁量」について、憲法の「国民の厳粛な信託」「正当な選挙」(前文)、第14条1項、15条1項、43条1項、44条などの解釈と適用を誤った違法を犯している。

 「選挙区によって異なる選挙制度を適用することは投票価値の格差をもたらす」「千葉県選挙区の選挙の違憲性とその他の選挙区の選挙の違憲性」という争点につき、原判決は、従来の定数是正訴訟の争点「定数配分の格差」(上掲平成24年大法廷判決にいう「投票価値」の格差の一類型)と同型でありながらより重要な本件訴訟の争点「死票率の格差」(同判決にいう「投票価値」の格差の一類型)に対する判断になっておらず、「国会裁量権の合理性検討」を怠っているから、重大な審理不尽、理由不備・理由齟齬の違法を犯している。
 過去大法廷判決が憲法要請でない国会議員の地域代表性の重要性を否定し、都道府県単位の選挙区制の見直しを主張しており、憲法要請である死票率の最小化(投票価値の平等化)を優先して制度化すべきところ、選挙区を中選挙区ないし大選挙区で統一できるにもかかわらず、数科学的知見から小選挙区が最悪であると承知しながら、選挙区によって小選挙区制および中選挙区制というまったく異なる選挙制度を適用することは、死票率の格差という投票価値の格差をもたらすから、憲法第14条1項に反するのに、原判決は憲法の解釈と適用を誤った違法を犯している。

 比例区選挙の立候補要件は政党本位といいつつ、選挙供託金制度や既成政党のみを優遇する政党助成金制度と相まって、既成政党のみを優遇するもので、何らの民主主義的意義もないから、憲法第14条1項に反するのに、現行要件を認める原判決は憲法の解釈と適用を誤った違法を犯している。
 無党派層が最大の政治勢力であり、政党よりも支持される政治団体が選挙で存在する今日、政党でない政治団体にのみ候補者10人を課す政党本位の立候補要件に合理的理由はないから、原判決は理由不備・理由齟齬の違法を犯している。

 選挙供託金制度は、泡沫候補の立候補抑止、選挙公営費の一部負担などが実際の立法目的であるが、同制度の必要性と効果を根拠付ける立法事実がないことが国会で論破され、合理的な代替手段も提案されている。
 後掲大阪高裁判決も同負担を根拠に同制度を正当化できないと判示し、同判決を支持する最高裁判決(原審被告乙第2号証)も同じ理を是認しているところ、原判決は同最高裁判決に違背する。
 同制度は無反省に戦前の政治弾圧目的を引きずり、既存政党、特に二大政党を優遇することが実態であり、立候補権と選挙権に財産上の差別をもたらすだけなのであるから、憲法第14条1項、15条1項、44条に反して違憲である。
 架空の立法目的「真に国民の政治意思の形成に関与しようとする意思のない候補者又は政党等が届出をすることを防止し,公正かつ適正な選挙を確保」を持ち出して実際の立法目的を検討しない原判決は、「国会裁量権の合理性検討」を怠り、致命的な理由不備・理由齟齬の違法、憲法の解釈と適用を誤った違法を犯している。

 公職選挙法は、住所非保有者でも生活保護を受給できるのに、住所によらない本人確認の手段があっても、住所非保有者の選挙人名簿の調製規定を設けず、行政も民法の住所割り当て義務と住民基本台帳法の住所確保義務を怠り、住民登録消除の不法行為を働き、過去の住所非保有者の住民登録実績から後退しており、住所非保有者の選挙人名簿を調製できるのに調製しない立法不作為と法の不履行がある。
 住所非保有者の選挙人名簿を調製せずに選挙権の行使を制限することは、「制限をすることなしには選挙の公正を確保しつつ選挙権の行使を認めることが事実上不能ないし著しく困難であると認められる場合」(後掲平成17年大法廷判決)に該当しないから、憲法第14条1項、15条1項に反して違憲なのに、住所非保有者の選挙権行使は選挙の公正を確保できないとし、立法不作為を是認する原判決は、理由不備・理由齟齬の違法、憲法・民法・住民基本台帳法の解釈と適用を誤った違法を犯している。

第6 選挙区によって異なる選挙制度を適用することは投票価値の格差をもたらす/千葉県選挙区の選挙の違憲性とその他の選挙区の選挙の違憲性

 1 従来の定数是正訴訟の争点「定数配分の格差」(上掲平成24年大法廷判決にいう「投票価値」の格差の一類型)と同型でありながらより重要な本件訴訟の争点「死票率の格差」(同判決にいう「投票価値」の格差の一類型)について憲法判断しない原判決――投票価値の格差の本質は生票と死票の対立にこそある

  (1) 従来の定数是正訴訟と同型でありながらより重要な本件訴訟の争点「死票率の格差」の構造(従来の定数是正訴訟との比較)

 上告人は、訴状の第2の3の(0)緒論(3ページ)で、「本件訴訟では、議員1人当たりの有権者数を選挙区間で揃えただけでは解消されない選挙権の格差を論点とする」と、選挙権の格差(投票価値の格差)の一類型たる「定数配分の格差」を争点とした選挙無効請求訴訟(「定数是正訴訟」)で憲法判断した上掲平成24年大法廷判決との同型性を明確に規定し、訴状の第3結論(22ページ)で下記(2)〜(4)の具体的争点を明示した。これらの争点は、訴状の第2の3の(0)〜(4)(ただし(1)は、別の立候補権の差別が争点)と原審準備書面の第3で解説している。

 (2)「定数配分の格差」に起因する投票価値の格差以外にも「選挙権」「投票の有する影響力」「投票価値」の格差があり、投票価値の格差の本質は生票と死票の対立にあることを認める。
 (3)憲法前文「国民の厳粛な信託」、憲法第14条法の下の平等、憲法第43条「全国民を代表する選挙」は、死票を最小化しつつ国民の意見と国会の意見の乖離を限りなく縮小して平等な国民主権を保障する選挙制度を要請していることを認め、従って憲法は選挙区間での定数分布の人口比例だけでなく投票先政党間などでの当選議員分布の投票者数比例も要請していることを認め、小選挙区制および大選挙区制(理論的に中選挙区制を含む)はそのような要請を是とする思想に基づいて真摯な議論によって制定された法律ではなく、同思想に通じる科学的知見を無視しているから、憲法違反であると認める。
 (4)選挙区によって異なる選挙制度を適用することは投票価値の格差をもたらし憲法違反であると認める。

表 従来の定数是正訴訟と同型でありながらより重要な本件訴訟の争点「死票率の格差」の構造(従来の定数是正訴訟との比較)
論点 本件訴訟 従来の定数是正訴訟
投票価値を持つ主体 生票を投じる者(生票を投じて初めて投票価値が生まれ、死票を投じる者にとっての投票価値はゼロ) 死票を投じる者を含めた仮想的な「有権者一般」を想定
投票価値の比較基準(有権者グループの区分け基準) 選挙区間だけでなく政党間にも拡張 選挙区間だけ
何を比べるか 議員1人当たりの投票者数 議員1人当たりの有権者数
「定数配分の格差」についての理解 「有権者個人」の「投票価値の格差」ではなく、「地域代表性の格差」に帰着すると主張(上掲平成23年大法廷判決は地域代表性の重要性を否定(第6の3を参照)) 裁判所は「投票価値の格差」と理解
「投票価値の格差の本質」についての理解 生票と死票の対立 あいまい
参議院選挙区における「定数配分の格差」の是正の結果どうなるか 地方と都市部の間における「死票率の格差」=「投票価値の格差」はさらに拡大すると主張 「投票価値の格差」が縮小すると理解
投票価値の格差の類型化 (1)「選挙区間」で比べる「定数配分の格差」(1議席当たりの有権者数の格差=定数分布の人口比例からの破れ)
(2)有権者グループの区分け基準として投票選挙区を採用して「選挙区間」で比べる「定数配分の格差」(1議席当たりの有権者数の格差=定数分布の人口比例からの破れ)
(3)有権者グループの区分け基準として投票先政党を採用して「政党間」で比べる「投票価値の格差」(政党間1票格差=1議席当たりの得票数の格差=当選議員分布の投票者数比例からの破れ=「1議席当たりの得票数(死票を含む)を各党ごとに求め、最小の党のそれで割った値)
(4)「選挙区間」で比べる生票率および死票率の格差
なし
投票価値に影響を与える要因(法の下の平等に照らして憲法判断する対象)の捉え方 上位規定たる選挙制度本体(定数を決める方式) 上位規定たる選挙制度を所与のものとした場合の下位規定たる区割り方法(1人別枠方式=都道府県にどれだけの数の選挙区を設けるかの方式であり、1選挙区の定数を決める方式ではない)

 しかるに、原判決は、従来の定数是正訴訟の争点「定数配分の格差」(上掲平成24年大法廷判決にいう「投票価値」の格差の一類型)と同型でありながらより重要な本件訴訟のこれら「死票率の格差」(同判決にいう「投票価値」の格差の一類型)関連の争点について憲法判断をしていないから、重大な審理不尽、理由不備・理由齟齬の違法を犯している。以下、詳述する。

  (2) 定数配分の格差より死票率の格差の方が重大――定数配分の格差の是正で投票価値の格差はさらに拡大する

[1] 定数配分の格差では、都市部が地方より議員1人当たりの有権者数が多いことが問題とされる。しかし実際には、例えば2012年衆議院選挙の場合、鳥取第1区の当選者の得票数は124,746票で、生票率は 85%、神奈川1区の当選者の得票数は101,238票で、生票率は41%、東京1区の当選者の得票数は82,013票で、生票率は29%となっている。つまり、これら選挙区に限れば、生票を投じることで実質的に投票に参加している有権者数はむしろ地方より都市部の方が少なく(都市部では立候補者数が多く、死票率が高いことなどが原因と考えられる)、生票を投じる有権者に限れば、都市部が地方より投票価値が低いとはいえないのが実態である。ただし、都市部ほど死票を投じる有権者が多いという点で、都市部の方が投票価値は低いといえる。
[2] 衆議院選挙の選挙区選挙において25選挙区もある東京都の有権者が、議員1人当たりの有権者数が2選挙区の鳥取より多いからといって、鳥取から1議席を東京に移して東京の議席が26議席になったところで、東京の地域代表性が高まることに意義を見いだす有権者はあまりいないであろう。現在ほどの定数配分の格差は、地域代表性の格差としては、ほとんど意味がないほどに小さい。
[3] しかも、1選挙区当たりの定数を変えずに議員1人当たりの有権者数を減らしても「有権者個人」の投票価値が高まらないことは、訴状第2の3の(2)「投票価値の格差の本質は生票と死票の対立にこそある」(6ページ以降、特に(2-ア)「投票価値の本質」8ページ)で実証した。
[4] 新たな例で説明すれば、ある1人区の有権者すべてが、1人2票を持つようになったとしても、投票価値が2倍になることはない。例えば、自由民主党候補の集票力が2倍になるが、民主党候補の集票力も2倍になり、両党候補の力関係は1人1票の場合と何ら変わらないからである。
[5] 衆議院選挙区のように1選挙区当たりの定数が同じ選挙区どうしを比べれば、都市部は一面で投票価値が地方より高く(生票率が低い)、他面で低いが(死票率が高い)、地域代表性は地方とさほど変わらない。しかも、1選挙区当たりの定数を変えずに議員1人当たりの有権者数を減らしても死票率は低減せず、全体的な投票価値が高まることはない。
[6] 参議院選挙区の場合は、地方ほど1選挙区当たりの定数が少なく死票率が高く、都市部ほど同定数が多く死票率が低いので(第6の「4 憲法要請「国民の厳粛な信託」から導かれる定量的な選挙制度条件を検討せずに憲法判断をする原判決」参照)、「定数配分の格差」を是正するために地方から都市部へ議席を移して、地方の1選挙区当たりの定数を減らし、都市部の1選挙区当たりの定数を増やすと、地域代表性はさほど変わらないが、両地域の間における死票率の格差という投票価値の格差はさらに拡大する。
[7] 従って、「有権者一般」で議員1人当たりの有権者数の多寡を比べても、さほど意味がないどころか、参議院選挙区における「定数配分の格差」の是正によって、地方と都市部の間における投票価値の格差はさらに拡大してしまう。定数配分の格差より、1選挙区当たりの定数などで規定される死票率の格差の方が、重大である。
[8] しかるに、原判決は、従来の定数是正訴訟の争点「定数配分の格差」(上掲平成24年大法廷判決にいう「投票価値」の格差の一類型)と同型でありながらより重要な本件訴訟の争点「死票率の格差」(同判決にいう「投票価値」の格差の一類型)について憲法判断をしていないから、重大な審理不尽、理由不備・理由齟齬の違法を犯している。

太田光征