衆議院選挙の選挙協力についてのお願い

9月 24th, 2008 Posted by MITSU_OHTA @ 17:58:08
under 一般 [25] Comments 

 すでに7月28日、民主党、日本共産党、社会民主党、国民新党、日本新党および新党大地に「那覇市長選へ向けた『4党合意』を歓迎します」を郵送していますが、総選挙が近づいてきた9月22日、改めて野党間選挙協力を求める要望書を郵送しました。

2008年9月22日

 ●●様

衆議院選挙の選挙協力についてのお願い

 日頃、市民のための政治へのご奮闘・ご活躍に心より敬意を表します。
私たち「『平和への結集』をめざす市民の風」は平和を望む市民を結集し、選挙において「平和共同候補」の擁立を求めるなどの運動をする市民団体であります。

 昨年7月に実施されました第21回参議院選挙においては、与党が大敗し、民主党は参議院での第1党となり、参議院では与野党の逆転が実現しました。
これは、自公政権からの政権交代を国民が望んでいる現われであると思われます。

 9月1日に福田首相が辞意を表明しました。安倍首相に続いての政権の投げ出しであります。これらはもはや自民党の政権担当能力のなさを露呈していると思われます。

 福田首相は辞任にあたって「国民のため」と強調していましたが、自民党が今国民のためになすべきことは、自民党内の政権たらい回しではなく、野党第一党に政権を譲り選挙管理内閣によって衆院解散・総選挙で民意を問うべきことであると考えます。
 ところが今回もまた自民党は「憲政の常道」を無視し、9月24日に予定されている臨時国会で、自民党の新総裁を首相に指名し自民党・公明党による連立内閣を誕生させようとしております。

 現在私たち国民の大多数は、大幅な物価高、食料不安、年金問題、増税、地域医療の崩壊、後期高齢者医療制度の発足、低賃金労働、無責任なリストラ等々数え切れないほどの悪い環境の中で、苦しい生活を強いられているのが実態であります。

 これらを改善し国民生活を向上させるためには、野党連合による政権交代の実現が急務であると考えます。
 そして一番大事なことは、政権交代により国民の大多数が、自公政権の時代より「生活が良くなり安心して暮らせるようになった」という実態が伴わなくてはならないと思います。

 各政党におかれましてはそれなりのお考えがあろうかと存じますが「子供からお年寄りまで、だれもが安心して暮らせる平和な日本」の実現のため、一部においては野党間の選挙協力は実現しておりますが、各野党におかれましては更なる選挙協力について積極的に話し合いをされますようお願いをする次第であります。

 このことが今国民の願っている最大の関心事でありましょう。具体的には、野党候補が競合しない小選挙区で、お互いに推薦し合うなどが考えられます。
 難しいお願いを申し上げてまことに恐縮では有りますが、選挙協力の実現なくしては、万人が平和に暮らしていける日本国は実現できないと思い、あえてお願い申し上げます。皆様のご賢察を切にお願いいたします。

 本件に対するご連絡は下記までお願い申し上げます。

 連絡先:「市民の風」衆議院選挙選挙協力問題担当  太田光征 宛

「平和への結集」をめざす市民の風
事務局長 竹村英明
執行委員 小林正弥

大選挙区制(中選挙区制)の問題点 〜連記投票制の落とし穴〜

9月 18th, 2008 Posted by MITSU_OHTA @ 15:08:11
under 選挙制度 [5] Comments 

 複数の候補者を選ぶ大選挙区制(中選挙区制)では、複数の議席を選ぶのだから、定数分の票を投じる連記投票制(有権者1人複数票)が、一見合理的なように思われます。実は日本でも、1946年の1回だけ、連記投票制を組み合わせた大選挙区制で選挙が行われました。ところが、連記投票制の大選挙区制(中選挙区制)は、小選挙区制と同様に大量の死票を生み出すことがあります。

 では単記投票制(有権者1人1票)の大選挙区制(中選挙区制)はどうかというと、最も好まれた候補者を落選させるコンドルセのパラドックスを発生させます。

 以下、大選挙区制(中選挙区制)の問題点を解説しておきます。(印刷用ファイル

共同声明「国会議員の定数削減に抗議する」賛同募集中
 
 
【目次】

(1) 単記投票制の大選挙区制(中選挙区制)では最も好まれた候補者を落選させるコンドルセのパラドックスが発生する
(2) 
連記投票制の大選挙区制(中選挙区制)は小選挙区制のように大量の死票を生み出す
(3) 
連記投票制の大選挙区制(中選挙区制)は小政党に有利か

【関連投稿】

小選挙区制の廃止へ向けて
http://kaze.fm/wordpress/?p=215
中選挙区比例代表併用制を提案する
http://kaze.fm/wordpress/?p=164
小選挙区比例代表併用制の問題点
http://kaze.fm/wordpress/?p=220
比例区定数が100に削減された場合の衆院選比例区シミュレーション
http://kaze.fm/wordpress/?p=229

【参考文献】

西平重喜『比例代表制』(中公新書、1981年)
 
 

(1) 単記投票制の大選挙区制(中選挙区制)では最も好まれた候補者を落選させるコンドルセのパラドックスが発生する

 具体例で考えてみましょう。定数が2で、A、B、Cの3候補が立候補し、投票者数は約30万人、A、B、Cの得票率はほとんど変わらないとします。つまり、それぞれ約10万票を得たとします。ただ、少しだけ得票数に開きがあり、単記投票制の場合の得票順位がA、B、Cだったとします。したがって単記投票制の場合の当選者はAとBの2人です。

 投票の「中身」をもっと詳しく見ていきます。Aが一番好きだとする有権者の中では、BよりCが好きだという有権者が100%、Bが一番好きだとする有権者の中でも、AよりCが好きだという有権者が100%、Cが一番好きだとする有権者の中でも、AよりBが好きだという有権者が100%であったとします。

 すると、もしも連記投票制で2票を投じることができる場合、第1希望と第2希望でAに投じる有権者は約10万人、第1希望と第2希望でBに投じる有権者は約20万人、第1希望と第2希望でCに投じる有権者は約30万人いると考えられます。したがって連記投票制なら、C、Bの順に当選し、単記投票制でトップ当選したAは落選します。

 このように、大選挙区制(中選挙区制)の場合、単記投票制では民意を反映しない場合があります。小選挙区制で有名なコンドルセのパラドックスと同じ原理です。では、大選挙区制(中選挙区制)に連記投票制を採り入れればいいかというと、次のような問題点があります。
 
 

(2) 連記投票制の大選挙区制(中選挙区制)は小選挙区制のように大量の死票を生み出す

 具体例で考えます。定数が10で有権者1人10票を投じ、与党Aから10候補が立ち、野党Bからも10候補が立ったとします。与党支持の有権者はすべて与党の10候補に投票し、野党支持の有権者もすべて野党の10候補に投票したとします。さて、野党支持の投票者数が、与党支持の投票者数より1だけ多いとします。すると連記投票制の場合、野党の10候補はすべて与党の10候補より1だけ得票数が多いことになります。結果は、10議席すべてを野党Bが独占します。

 もしも上記のケースで比例代表制が採用されていれば、与党Aと野党Bはほぼ5議席ずつを分け合うことになるでしょう。

 このように、大選挙区制(中選挙区制)に連記投票制を組み合わせると、著しく民意からかけ離れた選挙結果を生じることがあります。小選挙区制と同様、大量の死票を生み出します。

 英国で過去に実例があります。「イギリスのノルウィッチ選挙区は、一九四五年まで二議席で、二名連記投票制だった。…このような二議席の選挙区がイギリスには一九四五年まで一一区あったが、この最後の選挙では、一一区とも全部一党によって独占され、一議席ずつ分けあったところはない」(西平重喜『比例代表制』、中公新書、p24、1981年)。

 「フランスの小さな町村は、日本の大字ていどの規模のものが多いが、そこでの町村議会は、連記投票制に近い方式で、議会全体を一つのグループにゆだねようとしている」(同上書、p25)。

 単記投票制であれば比例代表制に近くなる大選挙区制(中選挙区制)が、連記投票制を組み合わせることで、大量の死票を生み出す小選挙区制のような制度に変質する。かといって単記投票制の大選挙区制(中選挙区制)では、原理的に民意を反映しない。大選挙区制(中選挙区制)の本質的矛盾です。
 
 

(3) 連記投票制の大選挙区制(中選挙区制)は小政党に有利か

 連記投票制であれば、1人の候補者に票を集中させることで、小政党の候補者でも当選させることができるのではないか、とも考えられます。簡単なシミュレーションを行ってみましょう。

 定数が3で有権者1人3票制とし、大政党Aが候補者2人を立て、支持率50%、大政党Bも候補者2人を立て、支持率40%、小政党Cが候補者1人を立て、支持率10%とする。大政党Aを支持する有権者はすべて大政党Aの候補者2人に投票し、大政党Bを支持する有権者はすべて大政党Bの候補者2人に投票し、小政党Cを支持する有権者はすべて小政党Cの候補者1人に投票したとする。

 上記のケースでは、大政党Aの候補者2人の平均得票率は75%(50% × 3 ÷ 2)、大政党Bの候補者2人の平均得票率は60%(40% × 3 ÷ 2)、小政党Cの候補者1人の得票率は30%(10% × 3)となる。したがって選挙結果は、大政党Aに2議席、大政党Bに1議席という公算が大きい。

 もしも上記のケースで、大政党Aの支持率は50%のまま、大政党Bの支持率を30%、小政党Cの支持率を20%に変えれば、大政党Bは議席を得られず、小政党Cが3議席目を獲得できる可能性が高くなる。確かに小政党に有利といえるが、民意を反映した選挙結果ではなくなります。

 さらに最初のケースで、大政党Aの候補者を3人に変えてみます。すると、大政党Aの候補者と大政党Bの候補者の平均得票率が逆転し、大政党Bに2議席、大政党Aに1議席という可能性が大きくなります。大政党Aによる「票割り」(候補者調整と票の割り当て)の失敗例です。

 以上のように、連記投票制の大選挙区制(中選挙区制)は、とても民意を反映した選挙結果をもたらすとはいえません。小政党に有利なケースが生まれたとしても、例えば定数3なら、比較第3党までしか議席は獲得できないでしょう。
 
 
太田光征
http://otasa.net/

小選挙区制を見直す集会へ参加のお願い(第3回、鳩山由紀夫氏あて)

9月 13th, 2008 Posted by MITSU_OHTA @ 16:24:29
under 一般 [31] Comments 

民主党幹事長 鳩山由紀夫様

 私どもは、小選挙区制の廃止などを目指して活動している平和への結集・市民の風と申します。度々、表題のお願いをさせていただいております。

 報道によりますと、鳩山幹事長は、次期衆院選のマニフェストに、衆院議員定数の2割削減を盛り込む方針とのことです。

 貴党の従来からの主張からすると、この2割削減は、比例区定数の削減を意味するものと察します。定数2割削減の理由として、鳩山幹事長は、「行政改革をやるために、まずは自分の身を切るところからスタートさせたい」という点を挙げられています。

 しかし、比例区定数の削減が総合的な見地から、行政改革につながるのかどうか、厳密な検討が必要であると考えます。特に、民意を反映する選挙制度であるか否かと、議会経費削減に留まらない総合的な行政改革を断行できる議会との関係は、議論すべき点が多いと思われます。

 私どもは、各党の議員をお招きして、小選挙区制を見直す集会を、9月以降に企画しております。つきましては、上記の問題などを議論するために、鳩山幹事長を始め、貴党の見解を伺える方の参加を検討していただきたく、お願い申し上げます。日程につきましては、各党との調整の上、決定させていただきます。

2008年8月19日

「平和への結集」をめざす市民の風

選挙制度問題担当 太田光征

(以上は2008年8月20日、民主党本部に郵送しました)

比例区定数が100に削減された場合の衆院選比例区シミュレーション

9月 3rd, 2008 Posted by MITSU_OHTA @ 18:34:12
under 選挙制度 [6237] Comments 

 

自民と民主は議席獲得率が増加し
小数野党は議席獲得率が減少する

 民主党は衆院選比例区の定数を80削減して100にしようとしています。比例区定数が100になった場合、各党の獲得議席はどうなるのか。2007参院選比例区のデータを使ってシミュレーションを行いました。

 議席比例配分の計算方法として現行のドント式を前提にすると、現行定数規模のブロック式が小政党に不利であることなども解説しておきます。(印刷用ファイル

共同声明「国会議員の定数削減に抗議する」賛同募集中
 
 

【関連投稿】
小選挙区制の廃止へ向けて
http://kaze.fm/wordpress/?p=215
中選挙区比例代表併用制を提案する
http://kaze.fm/wordpress/?p=164
小選挙区比例代表併用制の問題点
http://kaze.fm/wordpress/?p=220
大選挙区制(中選挙区制)の問題点 〜連記投票制の落とし穴〜
http://kaze.fm/wordpress/?p=232

【参考文献】
西平重喜『比例代表制』(中公新書、1981年)

【目次】

1 比例区定数が100に削減された場合の衆院選比例区シミュレーション(2007参院選比例区データ使用、現ブロック構成で2005年国勢調査に基づき定数配分)
2 議席比例配分の計算方法と票数集計単位の比較〜ドント式と定数の少ない現行ブロック式の組み合わせは小党に不利〜
3 議席比例配分の計算方法
   ヘアー式と最大剰余法
   ドループ式とハーゲンバッハ・ビショフ式
   ドント式
   サント・ラゲ(サン・ラグ)式
   イタリア2段式
 
 

1 比例区定数が100に削減された場合の衆院選比例区シミュレーション(2007参院選比例区データ使用、現ブロック構成で2005年国勢調査に基づき定数配分)

 11ある各ブロックへの定数は、2005年国勢調査の県別人口に比例して配分し直しました。定数配分の方法は最大剰余法です。各ブロックにつき、その人口比率に総定数180を掛け、その積の整数部分をまず当該ブロックに配分します。積はほぼ例外なく小数なので、配分し切れない残余定数が発生します。これらの残余定数は、積の小数点以下が大きいブロックから順に1つずつ配分していきます。

 以上は2008年9月2日、総務省に電話で確認した方法ですが、本法の正式名称のようなものはあるかとの質問には、ない、とのことでした。ただ本法は、ヘアー式の最大剰余法と同一であるため、最大剰余法と呼んでおきます。ちなみに、こうした具体的な計算方法は、公職選挙法には記載されていません。

 議席配分の方法はドント式(第3節で説明)です。シミュレーション結果を表1Aに示します。
 
 

表1A 衆院選比例区シミュレーション

2007参院選比例区データ使用、2005年国勢調査に基づき定数配分




















北海道 1 3 0 0 0 0 0 0 0 0 0 4
東北 3 4 1 0 0 0 0 0 0 0 0 8
北関東 4 5 1 1 0 0 0 0 0 0 0 11
南関東 4 6 1 1 0 0 0 0 0 0 0 12
東京 3 5 1 1 0 0 0 0 0 0 0 10
北陸信越 3 3 0 0 0 0 0 0 0 0 0 6
東海 4 6 1 1 0 0 0 0 0 0 0 12
近畿 4 7 3 2 0 0 0 0 0 0 0 16
中国 2 3 1 0 0 0 0 0 0 0 0 6
四国 1 2 0 0 0 0 0 0 0 0 0 3
九州 4 5 2 0 1 0 0 0 0 0 0 12
33 49 11 6 1 0 0 0 0 0 0 100
全国一括式 29 41 13 7 4 2 3 0 0 0 1 100
得票率 28.1 39.5 13.2 7.5 4.5 2.2 3.0 0.3 0.5 0.3 1.1 -



















北海道 2 5 1 0 0 0 0 0 0 0 0 8
東北 5 7 1 0 0 0 0 0 0 0 0 13
北関東 6 9 3 1 1 0 0 0 0 0 0 20
南関東 7 10 3 1 1 0 0 0 0 0 0 22
東京 5 8 2 2 0 0 1 0 0 0 0 18
北陸信越 4 6 1 0 0 0 0 0 0 0 0 11
東海 6 11 3 1 0 0 0 0 0 0 0 21
近畿 7 12 5 3 1 0 1 0 0 0 0 29
中国 4 5 2 0 0 0 0 0 0 0 0 11
四国 2 3 1 0 0 0 0 0 0 0 0 6
九州 7 9 3 1 1 0 0 0 0 0 0 21
55 85 25 9 4 0 2 0 0 0 0 180
議席獲得率 30.6 47.2 13.9 5.0 2.2 0 1.1 0 0 0 0 -
全国一括式 52 73 24 13 8 3 5 0 0 0 2 180
得票率x定数 50.5 71.1 23.7 13.5 8.1 3.9 5.4 0.5 0.8 0.5 2.1 -

 
 
 まず、ドント式を前提にすると、現行定数規模のブロック式比例代表制は、少政党に不利である点が改めて明瞭に示されています。大政党が得票率を超える議席を獲得しているのに対して、小政党は得票率未満の議席しか獲得できていません。

 定数(比例配分する議席数)が少ないほど、大政党に有利であるのが比例代表制の特徴で、比例代表制本来の制度思想から逸脱してしまいます。

 具体的に見てみましょう。表1Aから各党の最終的な獲得議席数を抜き出しておきます。
 

衆院選比例区予測――定数100(現ブロック構成で2005年国勢調査に基づき定数配分)

ブロック定数: 北海道4 東北8 北関東11 南関東12 東京10 北陸信越6 東海12 近畿16 中国6 四国3 九州12
ブロック式: 自民33 民主49 公明11 共産6 社民1
全国一括式: 自民29 民主41 公明13 共産7 社民4 国民2 日本3 女性1

 
 定数100の場合、全国一括式であれば、民主党を除く野党の獲得議席数は全体で17議席です。ところが、ブロック式であれば、民主党を除く野党は、全体でも7議席しか獲得できず、一桁政党に勢力を落とします。全国一括式であれば議席を獲得できる国民新党と新党日本は、ブロック式の場合、議席数ゼロです。逆に自民と民主は両党合わせると、ブロック式では、全国一括式に比べ12議席も多い82議席を獲得します。

 民主党は2004年に、衆院選比例区定数を80削減し100とするとともに、中国・四国ブロックを統合する公職選挙法改正案を提出しました。そこで、両ブロックを統合した場合を予測してみました。統合ブロックの定数は両旧ブロックの合計9議席と同じになり、議席配分も、統合ブロックで自民が1議席増え、民主が1議席減るほかは、変わりません。

 次に、総定数は180のまま、2005年国勢調査に基づき新たに定数配分し直した場合も予測しました(表1A)。現在の定数配分と比べると、東京ブロックで1議席増え、東北ブロックで1議席減る、1増1減になっています。表1Aから最終結果を抜き出しておきます。
 

衆院選比例区予測――定数180(現ブロック構成で2005年国勢調査に基づき定数配分)

ブロック定数: 北海道8 東北13 北関東20 南関東22 東京18 北陸信越11 東海21近畿29 中国11 四国6 九州21
ブロック式: 自民55 民主85 公明25 共産9 社民4 国民0 日本2
全国一括式: 自民52 民主73 公明24 共産13 社民8 国民3 日本5 女性2

 
 定数180(新定数配分)の場合も、民主党を除く野党は全国一括式であれば全体で31議席獲得できるのに対して、ブロック式であれば、16議席も少ない15議席しか獲得できません。自民と民主はこのケースでも、ブロック式では、全国一括式より15議席も多い140議席を獲得できます。

 比例区定数が180から100に削減された場合、主要政党とその組み合わせの比例区における議席獲得率がブロック式でどのように変化するかを、表1Bにまとめました。個別政党の議席獲得率は表1Aに記載してあります。定数が100の場合、総議席獲得数(ブロック式の「計」)が議席獲得率になります。

 自民と民主は、定数が180から100に削減されるに伴い、両党合わせると、4.2ポイント議席獲得率が上昇します。その一方で、公明は2.9ポイント減少し、共産、社民、国民新党、新党日本も、合わせて1.3ポイント減少します。

 小選挙区の定数はそのままで、比例区定数だけ削減された場合、小政党の小選挙区と比例区合わせた議席獲得率が減少することは明らかです。ところが、比例区だけに限定してみても、比例区定数削減は、小政党に不利であることが分かります。
 
 

表1B  衆院選比例区(現行ブロック式)シミュレーション:議席獲得率(%)の変化

2007参院選比例区データ使用、2005年国勢調査に基づき定数配分

自民 民主 自民+民主 公明 共産+社民+国新+日本
得票率 28.1 39.5 67.6 13.2 17.1
議席獲得率
(定数180)
30.6 47.2 77.8 13.9 8.3
議席獲得率
(定数100)
33.0 49.0 82.0 11.0 7.0

 
 
 同じデータで現行制度のまま衆院選比例区を予測すると、「定数180(現ブロック構成で2005年国勢調査に基づき定数配分)」と比べ、ブロック式で、共産が東北で1増して10議席、新党日本が東京で1減して1議席のほかは、変わりません。
 

衆院選比例区予測――定数180(現行制度)

ブロック定数: 北海道8 東北14 北関東20 南関東22 東京17 北陸信越11 東海21近畿29 中国11 四国6 九州21
ブロック式: 自民55 民主85 公明25 共産10 社民4 国民0 日本1
全国一括式: 自民52 民主73 公明24 共産13 社民8 国民3 日本5 女性2

 
 このように、ドント式かつ定数の少ないブロック式の現行比例代表制は、小選挙区制と同じで、大政党の議席を偽装的に増幅します。その結果、与党の延命を手助けする、言い換えれば政権交代を阻害することがあります。野党が比例区で支持率・得票率で与党に勝っても、議席数で負ける場合もあるのです。

 小選挙区制をそのままにし、比例区定数を削減する、民主党の現在の選挙制度案は、政権交代を促すという観点からは矛盾しています。民意の縮図となる議会構成を実現する選挙制度なら、政権交代も無理なく実現可能です。
 
 

2 議席比例配分の計算方法と票数集計単位の比較〜ドント式と定数の少ない現行ブロック式の組み合わせは小党に不利〜

 「ドント式は小党に不利」とか、「ブロック式は小党に不利」という言い方をよく見かけますが、これらは正確ではありません。西平重喜『比例代表制』(中公新書、1981年)から、議席比例配分の計算方法と票数集計単位を比較した表を転載しておきます。
 
 

表2 議席比例配分の計算方法と票数集計単位の比較

出典:西平重喜『比例代表制』(中公新書、1981年)から表現を一部改変
























得票率、四捨五入 257 79 72 44 36 4 8 11 511
ヘアー、最大剰余式 257 80 72 44 36 4 7 11 511
ドント式 259 80 72 44 36 3 6 11 511
サント・ラゲ式 257 80 72 44 36 4 7 11 511
イタリア2段式 269 75 72 43 33 3 5 11 511


ドント式 305 73 63 33 24 1 1 15 511
サント・ラゲ式 258 81 77 40 36 2 6 11 511













得票率、四捨五入 248 100 47 51 36 16 4 11 511
ドント式 250 100 47 51 34 15 3 11 511
サント・ラゲ式 252 102 48 54 35 16 4 10 511
イタリア2段式 258 101 48 50 33 16 3 2 511


ドント式 280 104 38 44 26 13 2 4 511
サント・ラゲ式 243 99 49 47 37 17 3 16 511
中選挙区制(実際) 284 107 33 29 32 12 3 11 511

 
 
 この表2から分かるように、比例区定数が十分多い場合、議席比例配分の計算方法に関係なく、各党の獲得議席数はほとんど同じです。議席比例配分の計算方法としてドント式を前提にすると、県単位のように定数(比例配分する議席数)が少なくなる票数集計単位を採用した場合、小党に不利となります。

 サント・ラゲ(サン・ラグ)式のように、全国一括でも県単位でもあまり獲得議席数に変化がない議席比例配分の計算方法もあります。ただしサント・ラゲ式は、後述のように、理論的な方法ではありません。

 県単位を前提にすると、サント・ラゲ式はドント式より小党に有利ですが、県単位サント・ラゲ式が中小政党にとって全国一括式の得票率式やサント・ラゲ式より不利になる場合があることに注意しなければなりません。

 このように、比例代表制で議席配分数に影響を与える因子には、議席比例配分の計算方法と票数集計単位(定数=比例配分する議席数の規模)があるので、両者を同時に考慮する必要があります。同書は次のように定式化しています。
 

全国得票率式
   ‖
全国ドント式 ≠ イタリア2段式 ≠ 県単位ドント式 ≒ 中選挙区制
   ‖                   ↓異なる↑
全国サント・ラゲ式     ≒     県サント・ラゲ式

 

3 議席比例配分の計算方法

 比例代表制には欠かせないのが、得票数に基づいて議席を配分するための計算方式です。定数に小数の得票率を掛けただけではほぼ小数しか生じないので、何らかの確定的な手続きを定めておかなければなりません。以下、いくつかの方法を説明します。

ヘアー式と最大剰余法

 総投票数を議員定数で割った商は、議員1人を当選させるに要する平均得票数と見なすことができます。この平均得票数をヘアーの当選基数と呼びます(少数点以下は一応切り上げておく)。各党の議席数は、各党の総得票数をヘアーの基数で割った商――得票率に議員定数を掛けた積の整数部分ともいえる――とする方法が考えられ、これをヘアー式といいます。

 ヘアー式で定数全部を配分できるとは限りません。その際は、ヘアーの基数で得票数を割ったときの剰余の大きい順に、残った議席を1つずつ割り当てることにします。これを、最大剰余法といいます。

 ところがこの最大剰余法には、「アラバマのパラドックス」が存在します。1881年、アメリカでは、州議員の定数を人口に基づいてヘアー式の最大剰余法で各州に割り当てる作業が行われました。総議席を300前後に変更しようとしたのですが、アラバマ州の定数は、総議席を299にすると8議席なのに、総議席を300にすると、7議席になってしまったのです。

ドループ式とハーゲンバッハ・ビショフ式

 議員1人を当選させるための十分条件となる得票数を考えてみます。定数が1なら、投票数の2分の1を1票でも超えた得票数の候補は、1人しか存在しません。定数が2なら、投票数の3分の1を1票でも超えれば確実に当選できます。

 このように、総投票数を定数+1で割った商より1票でも大きい票数を獲得できれば当確です。この商(票数)をドループの当選基数と呼びます。商が小数であれば、小数点以下を切り上げ、割り切れれば、1を加える必要があります。

 各党の議席数は、それぞれの得票数をドループの基数で割ったときの商とします。このドループ式でも議席すべてを配分できるとは限りません。残余議席は次の方法で配分します。

 例えば、表3で示す事例のように、ドループ式で定数6のところ、自民に1議席、民主に2議席がまず配分できたとする。3議席が配分できずに残っています。そこで、自民が2議席以上獲得した場合の平均得票数を考えてみる。民主についても、3議席以上獲得した場合の平均得票数を算出する。その他の党についても、ドループ式で配分された議席数を超えて配分された場合の平均得票数を計算する。この平均得票数の大きい順に、残った議席を1つずつ配分していきます。同じ党が複数の残余議席を独占するパターンもあります。この方式は、1議席当たりの重み(票数)を重視するもので、ハーゲンバッハ・ビショフ式と呼びます。

 このハーゲンバッハ・ビショフ式の配分結果は、次に説明するドント式と常に同じになります。
 
 

表3  ドループ式とハーゲンバッハ・ビショフ式

2007参院選比例区四国のデータ使用、定数6の場合
1,932,065÷(5+1)=322,010.8 → ドループ基数D=322,011

得票数
v
ドループ式
q=v÷D
ハーゲンバッハ・ビショフ式 議席数
v÷(q+1) v÷(q+2)
自民 588,147 1+余り v÷2=294,073
[1]
v÷3=196,049 2
民主 728,465 2+余り v÷3=242,821
[3]
v÷4=182,116 3
公明 291,065 0+余り v÷1=291,065
[2]
- 1
共産 131,119 0+余り v÷1=131,119 - 0
社民 74,507 0+余り - - 0
国新 36,598 0+余り - - 0
日本 40,324 0+余り - - 0
新風 4,262 0+余り - - 0
9条 16,069 0+余り - - 0
共生 4,187 0+余り - - 0
女性 17,322 0+余り - - 0
1,932,065 3+余り - - 6

 
 


ドント式

 この方式は、1議席当たりの重み(票数)を重視するハーゲンバッハ・ビショフ式と同じ考え方に基づくもので、そのため最大平均法とも呼ばれます。ハーゲンバッハ・ビショフ式が、ドループ式で大方の議席を配分した後の、残余議席に対する処理手続きであるのに対して、ドント式は、全議席を最初から重み付けしながら配分していきます。

 具体的には、表4の事例のように、各党の得票数を整数(1、2、3…)で順次割っていき、その商をリストしておく。このドント商は、それぞれの整数の議席を配分された場合の平均得票数なので、1議席の重み付けという意味合いを持ちます。そうして、ドント商が1番目に大きい政党に1議席目を配分し、ドント商が2番目に大きい政党――1議席目を配分された政党と同じこともある――に2議席目を…というように、順次議席を配分していきます。
 
 

表4  ドント式

2007参院選比例区四国のデータ使用、定数6の場合

自民 民主 公明 共産 社民 国新 日本
v÷1 588,147
[2]
728,465
[1]
291,065
[5]
131,119 74,507 36,598 40,324
v÷2 294,073
[4]
361,332
[3]
145,532 - - - -
v÷3 196,049 262,821
[6]
- - - - -
議席数 2 3 1 0 0 0 0

 
 


サント・ラゲ(サン・ラグ)式

 表2でも示されるように、定数が少ない選挙区での比例代表制は小党に不利なので、救済策が考えられました。サント・ラゲは、ドント式で各党の得票数を整数で割っていったところを、整数ではなく、奇数(1、3、5…)で割る方法を提案したのです。そのためサント・ラゲ式は奇数式とも呼ばれます。

 ただサント・ラゲ式は、「ドント式のような理論的な意味はなく、ただドント式のイミテーションとして、奇数で割り、小党に議席がゆきやすいようにしたのである」(同書、p95)。偶数の隙間を作り、そこに小党が割り込みやすくするわけです。

 ところがこれでは小党に有利すぎるというので、1の代わりに1.5で最初に割る案が考えられました。しかしスカンジナビア(デンマーク、ノルウェー、スウェーデン)では、やはり小党に厳しすぎるからと、妥協案として、1.5ではなく、1.4で最初に割る変形サント・ラゲ式が採用されています。


イタリア2段式

 (選挙区定数が少ない場合に)小党に不利な比例代表制の特性を改善しようという考え方は、イタリアの2段式にも見られます。イタリアの選挙方法をすべて記述すると長くなるので、比例配分の手続きに関する部分だけ、解説しておきます。

 選挙区は中選挙区から大選挙区まであり、各党は選挙区ごとに候補者リストを提出します。

 第1段階として、有権者はこのリストに投票し、選挙区ごとに変形ドループ式――有効投票数を「選挙区定数+2」で割った値を当選基数とする――で各党に議席を配分します。この段階でほぼ例外なく配分し切れない残余議席と剰余票(死票、ドループ割り算の余りに相当)が発生します。

 そこで第2段階として、各選挙区の残余議席を全国で一括集計し、また各党ごとに各選挙区の剰余票を合算し、これらにヘアー式の最大剰余法を適用して、残余議席を配分します。
 
 

太田光征
http://otasa.net/

米軍基地縮小に関する野党間協議についての面会申し込み(民主党幹事長・鳩山由紀夫氏あて)

8月 30th, 2008 Posted by take @ 7:47:18
under 一般 [8416] Comments 

米軍基地縮小に関する野党間協議についての面会申し込み

民主党幹事長 鳩山由紀夫様

 私どもは平和への結集・市民の風と申す団体です。表題の件につき、今年の3月14日付けでFAXを送付し、その後、たびたび電話で検討状況を確認させていただいておりました。

 度重なる沖縄での事件に端を発して、民主党、社民党、国民新党の間で日米地位協定の改定案をまとめられたご努力に敬意を表します。

 そこで、もう一歩進んで、米軍基地縮小でも野党間で協議を開始していただけないでしょうか。鳩山幹事長の「早く米軍基地が、日本の領土の中に存在しないような環境ができるような準備を何年かけても行うべきでないか。もっと日本と米国とが対等な関係でなければならない」( 2月11日付け読売新聞)とのご発言に注目しております。

 来る那覇市長選へ向けた4党合意が実現したように、国政においても米軍基地縮小について同様の合意を得る協議をしていただきたいのです。できれば、市民を交えた協議が望ましいと考えます。

 つきましては、米軍基地縮小に関する野党間協議の件で直接お会いしてお話を伺えればと思いますので、改めてお願いを申し上げる次第です。

2008年8月19日

事務局長 竹村英明

(以上は民主党本部に8月20日、郵送しました。)

日弁連会長が「裁判員制度、予定通り開始を」と呼びかける緊急声明を発表するとはどういうことだ!!

8月 21st, 2008 Posted by higashimototakashi @ 11:30:35
under 一般 [3662] Comments 

昨日(8月20日)付朝日新聞が「『裁判員制度、予定通り開始を』 日弁連が緊急声明」という記事を掲載しています。
http://www.asahi.com/national/update/0820/TKY200808200282.html

日弁連会長が「裁判員制度、予定通り開始を」という緊急声明を発表??

少なくない各県単位弁護士会から来年度実施予定の「裁判員制度」への疑問が提出され、多くの弁護士の間からも同「裁判員制度」への疑問が噴出しているときに、これはどういうことでしょう?

私が知っている限りにおいても、以下の単位弁護士会から来年度「裁判員制度」実施への疑問が提出されています。

■裁判員制度の抜本的見直しと実施の延期を求める総会決議(栃木県弁護士会 2008年5月24日)
http://www.tochiben.com/topics/news26.html

■裁判員裁判実施までに解決すべき課題に関する決議(平成20年5月21日 大分県弁護士会総会決議)
http://cgi37.plala.or.jp/~oitakenb/syosai.cgi?2=121141690017191

■取調の全過程の録音・録画を求める決議(平成20年2月23日 大分県弁護士会総会決議)
http://cgi37.plala.or.jp/~oitakenb/syosai.cgi?2=120408814823165

注:同弁護士会は、「来年実施される裁判員裁判で、取調の(全面)可視化(録画化)が採用されない限り、スタッフ弁護士、大分県の弁護士会全部ボイコットする」とまで言っています(関東弁護士会連合会会報)。同弁護士会の上記ボイコットの決意は、私も、同弁護士会の裁判員制度問題の責任者を含む複数の弁護士から直接ナマの声で聞いて確認しています。

■裁判員裁判実施の延期に関する決議(新潟弁護士会 平成20年2月29日)
http://www.niigata-bengo.or.jp/info/resolution/resolution.shtml?416

※決議理由:http://www.niigata-bengo.or.jp/info/resolution/reason.shtml?416

■取調べ全過程の録音・録画の実現を求める総会決議(新潟弁護士会 平成20年2月29日)
http://www.niigata-bengo.or.jp/info/resolution/resolution.shtml?415

※決議理由:http://www.niigata-bengo.or.jp/info/resolution/reason.shtml?415

その他、「裁判員制度」への直接の言及はありませんが、同制度の実施と密接にリンクしている取調べの可視化の問題について、日弁連、自由法曹団が総会決議、また意見書として、現在の状況についての強い危惧の念を表明しています。

■取調可視化法案の今国会における成立を求め,調べ可視化に抵抗する警察庁の姿勢を批判する意見書(自由法曹団 2008年4月22日)
http://www.jlaf.jp/jlaf_file/080422kashika.pdf

■第58回定期総会・取調べの可視化(録画・録音)を求める決議(日弁連総会決議 2007年5月25日)
http://www.nichibenren.or.jp/ja/opinion/ga_res/2007_1.html

上記の日弁連会長の緊急声明は、これらの弁護士、弁護士会の多数の意志を無視し、そしてなによりも自らがその組織の長として拠って立つ日弁連総会決議さえほごにする独断、独走、横暴というほかないのではないでしょうか?

この日弁連会長の独断、独走を全国の弁護士たちはこのまま許してしまってよいのでしょうか?

日弁連会長に対して、その独断、独走をただちに抗議するべきではないでしょうか?

以下、上記のことを伝える報道と日弁連会長声明です。見られるとおり、日弁連会長声明は、各弁護士会からの来年度実施予定の「裁判員制度」に対する重要な疑問、問題提起を意図的に無視し、裁判所、検察の広報係りに成り下がっている感があります。

民主主義のためにも、真に市民のための裁判制度の確立のためにも許されることではない、と思います。

……………………………………………
■「裁判員制度、予定通り開始を」 日弁連が緊急声明(朝日新聞 2008年8月20日)
http://www.asahi.com/national/update/0820/TKY200808200282.html

 来年5月に始まる裁判員制度を前に、野党から「国民の理解が不十分だ」として施行の延期を求める意見が相次いだことを受けて、日本弁護士連合会の宮崎誠会長は20日、「新制度で戸惑いがあるのは事実だが、延期すれば、欠陥を抱えた現行の刑事裁判が続くだけだ」として予定通りの開始を求める緊急声明を発表した。

 声明は、「捜査も裁判も官のみが行う状況ではチェックが働かず、冤罪はなくならない」と指摘。「これを変えるためには、市民に裁判に関与してもらうことが不可欠」と国民に理解を求めている。

 裁判員法は04年に全会一致で成立したが、今月に入って共産、社民の両党が制度の延期を求める見解を発表。民主も幹部が見直しの必要性に言及している。

……………………………………………
……………………………………………
■裁判員制度施行時期に関する緊急声明(日弁連会長声明)
http://www.nichibenren.or.jp/ja/opinion/statement/080820.html

最近、一部から、来年5月21日から施行される裁判員制度の施行時期を延期すべきではないかという意見が表明されています。

しかし、当連合会は、刑事弁護を担ってきた立場から、また、国民の司法参加を願ってきた立場から、裁判員制度が予定通り実施されるよう強く求めます。当連合会は、裁判員制度実施に向けて、今後とも万全の体制で準備にあたります。

人質司法と言われるように密室の中での違法不当な取り調べが横行し、自白しないと保釈が許されない、いったん虚偽の自白をすると、撤回が許されず、捜査官が作成した膨大な調書のみが積み重ねられます。そして、99.9%が有罪判決であるという状況の下で、裁判官は有罪判決を下すことに慣れてしまい、有罪判決を書くための要素のみを無意識にピックアップしてしまうおそれがあります。捜査も裁判も官のみが行う状況ではチェックが働かず、一向に冤罪はなくならないのです。

今回の法改正で、公判前整理手続が導入され、弁護人の活動により、捜査側の手持ち証拠が広範囲に開示されることになりました。再審開始決定された「布川事件」のような冤罪事件で問題になった捜査側の証拠隠しの防止のためには大きい改善であり、裁判の充実にも良い結果をもたらしています。

しかし、人質司法や調書裁判という刑事裁判の根本的な欠陥はそのままです。

これを変えるためには、市民のみなさまに裁判に関与していただき、無罪推定の大原則の下、「見て聞いて分かる」法廷で判断していただくことが不可欠です。

「見て聞いて分かる」法廷では膨大な調書は存在できませんし、捜査も自白よりも物的証拠や科学的な捜査を重視する方向に向かわざるを得ません。

市民のみなさまにはご負担をおかけしますが、是非とも裁判員裁判に参加していただき、みなさまの健全な社会常識を司法の場に生かしていただきたいのです。

事前のアンケートでは不安を覚える市民の方が多いという報道がなされています。

この点、同じ市民が司法に直接参加し、検察官の不起訴の判断の妥当性を判断する検察審査会では、守秘義務を負いつつも、多くの市民が日常生活を中断して参加されていますが、参加前のアンケートではやはり多くの市民の方が参加に消極的です。しかし、一度審査員を経験された後では、実に96%の市民の方が「参加して良かった」と言う御意見に変わっています。諸外国でもこのような傾向は同じです。裁判員制度は誰もやったことがなく情報も少ないためご不安を覚える方も多いと思いますが、問題のある刑事裁判を良くするために是非ともご参加をいただきたいと考えています。

もちろん、今の裁判員裁判制度に改善すべき点がないというわけではありません。また取調べの可視化(取調べの全課程の録画)なども極めて不十分です。しかし、裁判員制度を実施することによって、改善すべき点は改善し、また、取調べの可視化(取調べの全課程の録画)をさらに広げたり、調書裁判の弊害や人質司法の弊害を改善する動きを進めていくことが大切です。裁判員裁判を延期したのでは何よりも根本的な欠陥を抱えた現行の刑事裁判が続く結果となるだけです。

多くの冤罪弁護事件を支援し、刑事弁護を担ってきた当連合会は、裁判員制度を延期して今の刑事裁判を継続するのではなく、この制度を実施の上、欠点があれば、実施状況を見ながら改善していくという方法で進めるべきであると考えます。

世界に誇れる刑事裁判の実現に向けて予定通り実施されるよう、ここに改めて強く求めるものです。

2008年(平成20年)8月20日

日本弁護士連合会
会長 宮 誠
……………………………………………

東本高志

ヨーロッパの地方自治と選挙――前犬山市長・石田芳弘さん講演会の報告

8月 7th, 2008 Posted by MITSU_OHTA @ 10:02:08
under 選挙制度 , 地方自治 [19] Comments 

 みどり千葉が8月3日に開催した表記講演会に参加してきました。スウェーデンでは地方議会選挙も比例代表制で行われ、行政ポストは議員が務め、獲得票に基づき各党に比例配分される…。民意を反映した議会が行政を動かす仕組みができあがっています。強大な権限を持つ首長に振り回される日本とは大違い。以下は、石田氏の発言を中心とした要旨です。

太田光征
小選挙区制の廃止へ向けて
 
 
part1/4 ヨーロッパの地方自治と選挙――前犬山市長・石田芳弘さん講演会
http://video.google.com/videoplay?docid=4210186355297366978

part2/4 ヨーロッパの地方自治と選挙――前犬山市長・石田芳弘さん講演会
http://video.google.com/videoplay?docid=-2726490905803344266
part3/4 ヨーロッパの地方自治と選挙――前犬山市長・石田芳弘さん講演会
http://video.google.com/videoplay?docid=-8138714283202332396
part4/4 ヨーロッパの地方自治と選挙――前犬山市長・石田芳弘さん講演会
http://video.google.com/videoplay?docid=1663332788789973269
 
 
 市町村議会議員は主食・ご飯、国会議員はおかず、県議会議員は香辛料。県政=香辛料はいくら食べても太らないが、国政を近づけ、市政にリアリティを持たせる上で重要だ。

 1995年に衆参で地方分権に関する決議が行われ、5年後の2000年に地方分権一括法が成立した。自分も地方分権の推進に努めてきたつもりだ。

 犬山市政時代、全国共通テストを実施しないなど、教育行政に力を入れてきた。教育は結果ではなく、プロセスが大事。結果の出ないことについて議論していくプロセスが知性を鍛える。

 民主主義は、烏合の衆としての社会を権力を行使して方向付ける、コンセンサスを得るプロセスだが、このプロセスが大事。

 真にデモクラシーに近い選挙制度に改正すべき。地方議会改革なくして民主主義の深化(進化)はない。地方分権といいながら、地方議員は国政選挙の時の集票マシンになっている。

 なぜ議員がそうなっているかといえば、議員が行政に関わっていないから。憲法は、議員を有権者の代表と規定している。行政の執行に関与しなければ、民主主義とはいえない。

 憲法は、首長と議員を有権者が選ぶとする二元代表制を規定しているが、議員が行政を執行できないとは明示していない。

 東京財団の研究員として、今年の2月にスウェーデンに行き、地方議会を詳しく視察してきたが、目からウロコだった。議会選挙は比例代表制で行われる。行政ポストも、獲得票に基づき、各党に比例配分される。部長職は議員である。住民代表が直接、行政を動かせる。

 男女共同参画にも関心がある。比例代表制で名簿を男女交互にすれば、自動的に実現する。議会は世の中の縮図になるべきだ。個人でお金を使って選挙するのは難しい。あるスウェーデンの議員は、個人で選挙をしてみたいと語ったという。

 日本では、議員と行政の兼職が法律で禁止されているが、地方議員が声を上げれば、改正は難しいことではないだろう。

 地方自律の標準装備として、徹底した情報公開条例、NPO支援条例を作った。

 ほとんどボランティアで成果を上げるNPOが育ってきたことで、高額な歳費をもらいながらほとんど成果を上げない議会に対する批判が明確になりつつある。2年前くらいから、地方議員の中に、改革の必要性に気付きはじめる者が出てきた。国政よりも地方改革のほうが大事だし、早いし、リアリティーがある。改革モデルをここ千葉に期待したいし、愛知でも作るつもりだ。

 国政は一元制(議院内閣制)だが、この一元制には、議会選挙の時に各党が首相と政策を提示し、首相を有権者が選べる機能が内蔵されているはず。地方も一元制にすべき。二元代表制の弊害は、田中康夫・長野県政時代に現れていた。首長と議会が住民代表性を巡って争っていたが、どちらにも理があった。

 スウェーデンでは15歳の子供が政党活動をやっていた。日本で18歳に選挙権を与えるのは当然だ。政治教育は偏向的であると考える教育者の認識はおかしい。

 スウェーデンで議会選挙をやると、まず議長を決める。この議長が、市長や部長を決める。行政ポストは、各党にその票数に応じて比例配分する。

[報告者注:「執行委員会(市長職)は、市議会議員の中から選任される。各党の市議会議員の数に比例して、分配される。すなわち与党のみで市長職を独占することはない。」(伊藤和良『スウェーデンの分権社会』)]

質問者:自分はサラリーマン兼職議員だが、これを促進するための制度的保障を。
吉川議員:サラリーマン議員は、現在でも公民権の行使としてできるはず。

吉川議員:地方政党・議員は、国政政党に比べ規制を受けている。コスタリカのサンホセ市議会では、50人の署名で地方政党が認められる。無所属候補であっても、一定数の署名などで政治団体を認め、それへの投票などを認めるべき。そのように地方自治法を変えるべきだ。

 北欧4国で、地方議員は原則ボランティア。議会のある日だけ費用弁償、日当制。行政側に回った議員にはきっちっとした給料を払っている。アメリカも自治体によってばらつきがあるが、原則、地方議員はボランティア。

 市長時代、市長の任期や議員定数、歳費などを規定する自治基本条例の制定――法律に縛られず可能――を目指したが、議員が乗ってこなかった。

 一般に、条例制定では法廷で争う覚悟も必要。日本では、政府と与党が一体なので、行政側の内閣法制局の見解に沿った法案しか上程されない。先に成立した法律と矛盾する新法案はほとんど上程されない。欧米では、新しい法律が古い法律より優先されるという原則がある。問題が起これば、法廷で決着をつけるのが当たり前になっている。

 全国共通テストは、政令でも省令でもなく、霞ヶ関の行政指導である。だから犬山市は拒否した。法律以外の閣議決定、政省令には従わず、条例を優先させる実績を作っていくべきだ。

吉川議員:議員定数や歳費の問題は、まず議員の仕事を明確に定めてから決着をつけるべきだろう。日本の地方議員はいわば何でも屋であり、夜まで葬式回りなどをしている。欧米などでは議会に市民参画の機会を保障し、議員の仕事は議決に特化している感がある。夜間議会もある。

 教育委員会や選挙管理委員会などは行政委員会である。住民が直接行政に関与できる制度。戦前にはないので、政治思想上の「戦前戦後断絶論」の根拠とされる。ところが、教育委員は名誉職で、事務局に丸投げ。事務局の1人のポストに権限が集中しているので、大分のような汚職が起こる。

 市町村の学校の開設者は市町村長だが、教員の任命権は県の教育委員会が握っている。ところが、教員の任命(権)に先立って、市町村の教育委員会には県教育委員会に対する「内申権」があり、人事の要望をすることができる。この制度を利用して、犬山市は縦横無尽に市の望む人事を実現した。

 ふじさき議員(海外における地方公務員の採用について):オーストリアのメルボルンでは、職種ごとに公募している。その後、自動的に昇給や昇格は行われない。年齢や性別による差別はない。選考基準がはっきりしており、選考委員会も市民から信頼されているという。ドイツでは、公務員が地方議員になれる。

 合併して困っている町は多い。道州制が中央集権化に利用されないよう、注意が必要だ。

質問者:選挙制度改革を実際にどう進めるか。民主党は自治体でシティーマネージャー制を主張しているが、議会選挙制度改革は言っていない。まず議会を民意を反映するものにしないと、シティーマネージャー制は意味がないと思う。(国政では)やはり小選挙区制支持なのだと思う。(地方議会で比例代表制を導入するなら)小選挙区制の支持という考え方を撤回してもらうようにならなければならないのでは?

 若い時に江崎真澄氏の秘書をしていた。ライバルは同じ自民の海部俊樹氏だった。中選挙区制では、同じ党の相手だから、人物攻撃になった。だから中選挙区制には反対だ。小選挙区制になって政権交代可能な基盤ができたと思う。今度の衆院選は、政権交代という形でガバナンスを見直すことになるだろう。

 市長になって、補助金行政を通じた一党独裁の弊害を思い知った。各省ごとに補助金メニューが懇切丁寧に用意されている。国からは補助金として半分が来る。県はその4分の1を分担する。事業主体の市町村は4分の1の自己負担で済む。補助金事業をやれば大きな仕事ができるので積極的に探してくるが、夕張はじめこの罠に嵌ってきた。その結果、1,000兆円の借金大国、思考停止の自治体。これが政官の癒着で、絶たなければならない。その手っ取り早い手段が政権交代。現在のガバナンスは政務次官が決めたことを閣議決定する官僚内閣だ。
 
 
【選挙制度・議会のあり方に関するその他のビデオ】

◇ 2008年5月17日

開かれた議会をめざす会公開シンポジウム第1部
講演 小林弘和氏(専修大学法学部教授)
「議員報酬と地方議員・地方議会のあり方」

http://video.google.com/videoplay?docid=388972551692741535

開かれた議会をめざす会公開シンポジウム第2部
パネルディスカッション
≪地方議員はプロか?ボランティアか?≫
矢祭町・日当制を通して考える!「地方議員・議会のあり方」

パネリスト:
 大沢 ゆたか(東京都・立川市議)
      ・・TBSテレビに出演し「日当制反対」の論戦を展開。
 菊池 清文 (福島県・矢祭町議)
      ・・全国初の「議員報酬日当制」の条例提案者。
 福嶋 浩彦 (前・我孫子市長)
      ・・・地方自治の改革派。市長経験者の立場で参加。
 吉川 ひろし(千葉県議・当会代表)
      ・・広域的な県議として欧米の議会も踏まえ論戦に参加。

part1/4
http://video.google.com/videoplay?docid=-6312324366559455592
part2/4
http://video.google.com/videoplay?docid=4587645763372787749
part3/4
http://video.google.com/videoplay?docid=-2623018604748038656
part4/4
http://video.google.com/videoplay?docid=9108890217813194700
 
 
◇ 2008年4月20日

小選挙区制廃止をめざす集会
主催:同実行委員会

part1/3 基調講演 阪上順夫氏(日本選挙学会初代理事、元東京学芸大学教授、著書『小選挙区制が日本をもっと悪くする』(ごま書房、1994年))
http://video.google.com/videoplay?docid=5750227827910007890

「二大政党制を前提にして、小選挙区制では政権交代が行われやすい」という主旨の発言(41:20頃)には要注意。小選挙区制の下では、与野党の間で支持率、得票率の逆転が起こったとしても、完全な二党制でない多党制の場合、多数派偽装の効果によって政権交代は阻害されることがある。小選挙区制の問題点については、下記を参照してください。

小選挙区制の廃止へ向けて
http://kaze.fm/wordpress/?p=215

part2/3 来賓挨拶
http://video.google.com/videoplay?docid=6292643480026831193
part3/3 質疑・討議
http://video.google.com/videoplay?docid=4614468848928177610
 
 
◇ 2007年11月23日

日本と諸外国ではこんなにも選挙制度・行政システムが違うのか!「目からウロコ」のお話
田口房雄氏(http://fusao.jp/
主催:開かれた議会をめざす会

http://video.google.com/videoplay?docid=1264963566758987935