「民意と乖離しない政治・報道を求める要望書実行委員会準備会」として検討してきた要望書を以下の通り確定させます。会合参加者の皆さま、ありがとうございました。
各党の幹部、選挙制度担当者などに打診した結果、第1回目の要望行動として、生活の党副代表の森裕子参議院議員、共産党委員長の志位和夫衆議院議員、社民党幹事長の又市征治参議院議員(いすれも秘書対応)に応じていただきました。6月21日に各議員の国会事務所を訪ねて要望します。
この要望書で示した論点は2013年参院選で大きく問われるべきものであり、参院選前に全党の幹部らに対しての面談要望は実現しそうになく残念ですが、議員や有権者とのあらゆる接点で要望書を生かしていただければ幸いです。
今後、政党・議員に対しての第2回目以降、そしてメディアに対しての第1回目を追究していきます。
要望書ファイル(Word)はこちら:
http://kaze.fm/documents/Request%20to%20Parties%20and%20Media(20130620).doc
民意を生かす政治・公正な報道を求める要望書
〜国民主権の格差を拡大する96条改憲でなく、選挙制度と公職選挙法の改正で憲法の平等主義の実現を/「普天間県外」の旧政権を「迷走」、「原発再稼働」の安倍政権を「安全運転」は公正か〜
要旨:
[政党へ]
2012年12月の衆院選は、原発・憲法・消費税などの最重要政策に関して民意と結果がことごとく乖離した異常な選挙。小選挙区での死票率は56.0%で、投票者2人に1人以上の票の価値がゼロ、すなわち平等な国民主権が保障されていない。
「国民の厳粛な信託」(憲法前文)を越えた権限の行使が、一般法の立法プロセスから改憲プロセス(改憲発議)にまで拡大されようとしている。現選挙制度のまま改憲発議要件を緩和することは、改憲発議における国民主権と「国民の厳粛な信託を受けた議員権限」の乖離、従って国民主権の格差をさらに拡大してしまう(1.24倍から2.02倍へ)。
政党・国会議員は、真っ先に平等な国民主権の保障(選挙制度と公職選挙法の抜本的な改正)に取り掛かり、脱原発などの民意を反映した政治を行うべき。
[メディアへ]
民主党の前首相らに対しては「迷走」「嘘つき」、安倍現首相に対しては「アベノミクス」「安全運転」。安倍政権は既に脱原発という大民意からの「大迷走」であり「大噓つき」(公明党は脱原発の公約を選挙後に脱原発依存に変更)の「暴走」状態にある。メディアは不公正なレッテルやイメージ言語の提供ではなく、多様で公正な見解の提供に努めるべき。
「自民圧勝」の事前予測が選挙結果に与えた影響などについて、独自に検証を行うべき。
自民党改憲案が国防軍の新設や発議要件の緩和だけでなく、1)平和的生存権、2)国民主権、3)基本的人権、4)天皇制、5)立憲主義、6)地方自治など、広範な事項に及び、現憲法の基本的な考え方に根底的変更を加え、国民生活に広く影響を与えるものであることを、参院選の前から批評していくべき。
本文:
2012年の衆議院選挙は、異常な選挙でした。戦後最低の投票率(小選挙区)59.3%が強調されていますが、小選挙区での死票率が56.0%という異常な数値を示したことこそ、民主主義政治の基盤をゆるがすものとして、もっと強調されるべきであると考えます。
自民党の比例区得票率は27.6%で、民主党にぼろ負けした2009年衆院選のときの26.7%とほとんど変わっていません。これでは、自民党が有権者の支持を回復したなどとは言えないでしょう。にもかかわらず政権奪取を成し遂げることができたのは、民主党政権に対する国民の幻滅に加えて、小選挙区制の弊害が新党の増加といった外的事情で増幅され、民意をはるかに超える議席を獲得したからです。
選挙直後の世論調査でも「自民の政策を支持」はわずか7%しかなく(12月18日付朝日新聞)、最も重要な政策(原発推進、憲法9条の改変、集団的自衛権に関する政府解釈の変更、憲法改正要件の緩和、消費税増税、公共事業費の増額、米軍普天間飛行場の辺野古への移設、オスプレイの沖縄への配備など)に関しては民意と選挙結果がことごとく乖離しています。
直近の世論調査でも同様で、朝日新聞が2013年5月2日付で発表した憲法世論調査の結果によれば、96条改憲反対、9条改憲反対、非核3原則の見直し反対、武器輸出の拡大反対、武力行使を伴う国連軍への自衛隊の参加反対、自衛隊の国防軍化反対、集団的自衛権の行使反対、定数配分の格差(マスコミ用語では1票の格差)が是正されないままでの改憲発議反対が、民意なのです。
2012年衆院選は憲法前文が要請する「正当な選挙」や「国民の厳粛な信託」という議会制民主主義を保障する選挙の本質から完全に逸脱しています。
このように悲惨な結果を2012年衆院選がもたらした後であっても、なお、現行の選挙制度を改正して主権者に平等な国民主権を保障しようといった機運は、メディアが盛んに報道しているような政党からは、いっこうに出てきません。
選挙制度それ自体だけではありません。公職選挙法は、立候補の段階から選挙運動までがんじがらめに制限しています。インターネット選挙「解禁」でも有権者の権利は制限されたままになっています。国民主権が極度に毀損されているのです。
こうした状況で、投票者の2分の1の支持も得ていない政党が一般法を成立させることだけでも問題なのに、まして、投票者の3分の2の支持を得ていない政党が、改憲発議を行うための要件(衆参各院議員の3分の2以上の賛成を要するという要件)の緩和を狙うとはなにごとでしょう。
憲法とは、国家運営の要路にある権力者たちが民意に背かないように、国民が国家(の要路者)に与える命令です(立憲主義)。このように重要な法であるからこそ、それを変更しようとする改憲発議には各院議員の3分の2以上の賛成を要するという厳しいハードルを敢えて設けて(硬性憲法規定96条)、改憲プロセスには立法プロセスより厳格な国民主権原理の適用を求めているのです。
にもかかわらず、一部の政党・議員は、平等な国民主権の保障(選挙制度と公職選挙法の抜本的な改正)はほったらかしにしたまま、「国民の厳粛な信託」を越えた権限の行使を一般法の立法プロセスから改憲プロセス(改憲発議)にまで拡大しようとしています。
広島高裁岡山支部は2012年衆院選の「定数是正訴訟」で、「『国民の多数意見と国会の多数意見の一致』をもって国民主権が保障できる」と判断しました。
「国民の多数意見と国会の多数意見の一致」という条件は、憲法前文にある「国民の厳粛な信託」を客観化・定量化した1つの条件といえ、この条件を満たさない小選挙区制は国民主権を保障しない、ということになるでしょう。
小選挙区制のもとでは、国民主権と「国民の厳粛な信託を受けた議員権限」の乖離(客観的指標は各党の議席占有率を比例区得票率で割った値)が生じるのです。国民の間どうしから見れば、「国民主権の格差」が存在する、ということになります。
「国民の厳粛な信託」を越えた権限は、「違憲権限」というべきです。
このように平等な国民主権を保障しない法のもとで、はたして、民主主義政治が成り立つでしょうか。
特に、小選挙区制を中心とする現行選挙制度のまま改憲発議要件を緩和することの意味は、重層的に深刻です。違憲権限の行使の領域が立法プロセスから改憲プロセス(改憲発議)へと拡大するにとどまらず、改憲発議における国民主権と「国民の厳粛な信託を受けた議員権限」の乖離、従って国民主権の格差が拡大してしまうからです(理由は最後に詳述)。
このような改憲発議はまさに「壊憲」発議とも言うべきでものであり、国民主権をさらに切り縮めるという点で、首長の権限を著しく強化しようという動きと軌を一にするものではないでしょうか。
各党のみなさん、国会議員のみなさんにお願いします。なによりもまず、国民主権の平等性を保障してください。公職選挙法の全面改正に取り掛かってください。と同時に、脱原発などの民意を政治に反映させてください。
なお、議員定数の削減について申し上げるなら、国民の多様な意思を国会にできるだけ的確に反映させるためには、しかるべき議員定数が必要であり、日本の議員定数は国際比較すると大幅に少ないことから、定数削減の必要性はまったくありません。
現行制度のまま小選挙区の定数を削減するなら無所属候補(およびその支持者)に対する差別を拡大することに他ならず、比例区での削減なら少数政党(およびその支持者)に対する差別の拡大に他なりません。このように差別を押し付けるやりかたは、よしんば民意であるとしても、民意とは認められません。
国会議員自身が率先して「身を切らなければならない」などといった議論があります。政治家の「身切り論」は虚偽であり、身を切られるのは、代表を選ぶ権利を縮減されてしまう一般国民の方です。こうした「身切り論」が日本国以外の国々から、いったい、どのように見られているのか。このような点についてもご配慮をお願いしたいものです。
メディアも必要な情報をきちんと国民に伝えているとは言えないのではないでしょうか。なるほど、選挙区がどこかによって「1票の重み」に格差があるという問題点は指摘することがあっても(ちなみに、これは「地域」を代表する上での格差であって、「主権者」における1票の格差とは、厳密には言えないでしょう)、もっと本質的な問題すなわち政党間の1票格差(議員1人を当選させるために必要な票数の違いとして定義され、たとえば、2012年衆院選の比例区では、社民党が自民党の4.87倍)や、 生票と死票との間の1票格差などを強調することはありません。
仮に選挙区のあいだでの1票格差が解消したとしても、小選挙区制を中心とする現行選挙制度をこのまま放っておくなら、主権者の間に1票の格差のある状態も、国民主権と乖離した政治が行われていく問題も、決して解決されはしないのです。
日本新聞協会は1月15日の「軽減税率を求める声明」で「多様な意見・論評を広く国民に提供する」のが新聞の役割であるとしていますが、各紙は選挙制度や1票格差の報道に限っても、上記のように重要な論点を提示できていません。
軽減税率を求める声明||声明・見解|日本新聞協会
http://www.pressnet.or.jp/statement/130116_2234.html
http://www.pressnet.or.jp/statement/pdf/keigen_zeiritsu.pdf
さて、この「声明」は、新聞が「民主主義社会の健全な発展と国民生活の向上に大きく寄与」するとして、新聞などに対する「知識課税強化」に反対するものです。
しかしながら、たとえば消費税増税の必要性に関して説得力のある論評がどこにも見あたらないなかで、「知識課税強化」に対してだけ反対するというのでは、その姿勢はきわめてバランスを欠いていると言わざるをえないのではないでしょうか。
原発に関する報道でも、マスメディア各社は、電力の供給が需要に追いつかないという、政府や電力会社からリリースされた情報だけを、各社独自の検証を併記することなく、何度も何度も流して、電力不足を煽ったではありませんか。
米軍普天間飛行場の県外・国外移設も脱原発も、広範な民意の支持を得ていたにもかかわらず、これらを推進しようとした鳩山由紀夫首相(当時)と菅直人首相(当時)の辞任とともに道連れにされ、うやむやになってしまいました。この問題でもメディアが一定の役割を果たしたことは否定できません。
野田住彦前首相による国会解散すなわち実質的辞任についても同じことが言えるでしょうが、しかし、この場合には、逆に、民意の支持を受けていない消費税増税法の成立が許された後のことです。なんという対照でしょうか。
「民主主義を支える公共財として一定の要件を備えた新聞」(「声明」)と自認されるのなら、民主主義に反した政策の誘導に手を貸していないか、自ら検証してしかるべきでしょう。
世論調査に基づき事前に何回も「自民圧勝」と報道したことによって、非自民支持者の投票意欲をそいで史上最低の投票率を招き、また逆に勝ち馬に乗ろうという心理も引き出して、「自民圧勝」の誘因となったのではないでしょうか。メディア各社による選挙の世論調査報道が世論誘導につながっていないかどうかについても、検証が必要だと考えます。
メディアは、民主党の前首相らに対しては「迷走」「嘘つき」などといった常套語を繰り返し流し、ネガティブキャンペーンと言っていい状態を作り出していました。
脱原発という大きな世論を受けて前民主党政権が決定した「2039年までの脱原発」との方針を、安倍新政権はあっさりと捨て去りました。公明党は公約で「可能な限り速やかに原発ゼロを目指します」と謳っていたのに、自民党との連立協議の結果、「可能な限り原発依存度を減らす」と変えてしまいました。これでは単に依存度を減らすことにしかならず、明らかな公約違反です。
それなのに、メディアは、民主党政権時の前首相らに繰り返し投げつけていた「迷走」や「嘘つき」といったレッテル貼りはしません。それどころか、安倍政権は今夏の参院選までは「安全運転」を続けるだろうなどといった言い方をします。あたかも安倍政権が現在、国民にとって安全な状態にあるかのようなポジティブイメージを与え続けています。安倍政権が、実際には、脱原発などの大民意からの「大迷走」であり「大噓つき」の「暴走」状態にあるにもかかわらず、です。
メディアは、選挙制度や原発、消費税などの重要政治課題に関しては核心部を避けて報道し、自民党・公明党などに有利な方向へ世論を誘導する姿勢を取ってきたと言わざるを得ません。
参院選に向けては、この他にも、メディアは「アベノミクス」などといった言葉を繰り返し用いて安倍政権の経済政策に対してポジティブイメージを与えようとしています。そういったイメージ言語を提供するのではなく、安倍政権の政策の中身についての分析・批評を、また、自民党・公明党と他の党派の経済政策の異同を解説してくださるようお願いします(違わないのなら「アベノミクス」などとまるで特別な政策であるかのような呼称を使用しても意味がない)。
自民党改憲案の内容に関しても、メディアは、国防軍の新設や発議要件の緩和といった問題ばかりを伝えていますが、この改憲案は、実は1)平和的生存権、2)国民主権、3)基本的人権、4)天皇制、5)立憲主義、6)地方自治など広範な事項にわたって、現憲法の基本的な考え方に根底的変更を加え、国民生活に広く影響を与えるものです。メディアには、これらを参院選前から批評していく公共的な責任があるのではないでしょうか。
メディア各社には、「声明」にあるように、「多様な意見・論評を広く国民に提供することによって、民主主義社会の健全な発展と国民生活の向上に大きく寄与」されることを願っています。
御党、御社より本要望書に対してご見解をいただければ幸いです。
<小選挙区制の下で改憲発議要件を緩和すると改憲発議における国民主権と「国民の厳粛な信託を受けた議員権限」の乖離、従って国民主権の格差が拡大する理由>
自民党・日本維新の会・みんなの党は2012年衆院選で総定数の76.25%となる366議席を獲得しましたが、比例区得票率の合計は57.72%に過ぎません。自民党単独では比例区得票率27.62%で総定数の61.25%となる294議席を獲得しています。
およそ想像がつきますが、3党が衆院で3分の2(66%)の320議席を獲得するには、どのくらいの比例区得票率(投票での支持率)が必要でしょうか。
2012年衆院選の結果をもとに、3党が同じ割合で比例区得票率と小選挙区得票率を落として、3党が計320議席を獲得できるような場合の自民党の比例区の得票率Zを推計してみましょう。
小選挙区での得票率Xと議席占有率Y(X、Y、Zはいずれも%)の関係を自民党と民主党のデータを使って直線で近似すると、次のようになります。
Y=3.4653X - 70.045
3党の比例区議席数は比例区得票率に応じて減り、自民党の小選挙区議席数は上記の式に従い、維新とみんなの小選挙区での獲得議席数は昨年と変わらず18議席と仮定します。
昨年、自民党は小選挙区得票率が43.01%、比例区得票率が27.62%で、3党の比例区における獲得議席数は計111議席でした。小選挙区の定数は300です。
(Z/27.62) x 111 + [(Z/27.62) x 3.4653 x 43.01 - 70.045] / 100 x 300 + 18 = 320
この式を解くと、Zは25.34%となり、対応する3党全体の比例区得票率は52.96%となります。
つまり、3党が衆院の議席の3分の2を獲得するには、比例区選挙でほぼ2分の1の支持を得るだけよいのです。発議要件「3分の2以上」を「2分の1以上」に緩和したいといっても、小選挙区制を中心とする現行選挙制度のもとでは、有権者の支持という点で、既に「2分の1以上」が実現しているのです。
議席占有率66%を比例区得票率52.96%で割ると1.24倍となり、これが多くの政党・議員の賛成を求める硬性憲法規定96条の下での改憲発議における国民主権と「国民の厳粛な信託を受けた議員権限」の乖離、従って国民主権の格差の目安となります。
次に見るように、小選挙区制のもとで発議要件を「2分の1以上」に緩和すると、有権者の4分の1にも満たない支持でも発議できるようになり、国民主権の格差はさらに拡大します。
自民党は比例区得票率27.62%で比例区・小選挙区全体の61.25%の議席を獲得しました。
上記と同様に、自民党が衆院の議席の2分の1となる240議席を獲得する場合の自民党の比例区の得票率を推計すると、24.66%となります。
議席占有率50%を比例区得票率24.66%で割ると2.02倍となり、これがたった1つの政党による発議を許してしまう発議要件「2分の1以上」の下での「国民主権の格差」の目安です。「1票の格差」訴訟(定数是正訴訟)で違憲の目安とされる2倍を超えています。
自民党などが単独で投票者の4分の1未満の支持でも発議できるようになる一方で、投票者の4分の1超の支持を得ている政党連合(2012衆院選でいえば公明党、共産党、社民党、旧未来など)でも改憲発議できなくなります。これは明白な「改憲発議権の格差」「国民主権の格差」です。
安倍首相は96条改憲の理屈として、「2分の1に変えるべきだ。国民の5割以上が憲法を変えたいと思っても、国会議員の3分の1超で阻止できるのはおかしい」(4月16日付読売新聞)と述べ、いかにも国民の権利を思ってのように語ります。
安倍首相は「国民の多数意見と国会の多数意見の一致」が見られないことを問題にしているわけですが、小選挙区制を中心とする現行選挙制度によって既にそのような事態が生じていることを、まず問題視しなければりません。
国民の7割以上が脱原発を望んでも、比例区でたった28%の支持しか得ていない自民党が民意の実現を阻止しているのです。現在、国民の5割以上と国民の5割以上の支持を得た国会議員が共に支持している改憲条項はないでしょう。
国民主権を尊重するなら、国民主権の格差を拡大する96条改憲ではなく、小選挙区制を中心とする現行選挙制度を真っ先に改正しなければなりません。
民意を生かす政治・公正な報道を求める要望書実行委員会
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